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第02章 旅立ちと出会い
06 孤児院
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冒険者ギルドで偶然出会った両親の冒険者時代の仲間、シエリルから両親の冒険者時代の話を聞かせてもらった。
それによると、俺の両親はお互いに一目ぼれをしており、この街でかなり頑張って活動をして、その実力は結構上位にいたそうだ。
「それでスニル、これからどうするか決めているのか?」
シエリルから解放されたところで、ワイエノが今後の予定を尋ねてきた。
「父さんが……」
「ただいまぁ、母ちゃんめしー、はらへったぁ」
俺が予定を話そうとしたところで、そんな少年と思われる声が響き続いてドタドタと大きな足音がしてきた。
「どうやら、バカが帰って来たみたいだな」
「はぁ、そうみたいね」
ワイエノとシエリルが少しため息交じりでそういった。
おそらく、というか間違いなく2人の息子なんだろう。
そうこうしていると、ドタドタ音が近づいてきて、部屋の扉がバーンと勢いよく開けられた。
「なんだ、母ちゃん、こんなとこに、うわぁ!」
「ちょっとウィルク、ちゃんとノックしなきゃ、って、どうしたの、きゃぁ!」
入って来たのは、元気そうな少年とその背後から同じ年頃の少女だった。
そうして入るなり、2人の視界に目立つダンクスが入ったんだろう、悲鳴を上げた。
「はぁ、ウィルク、お客さんに失礼でしょ」
シエリルはあまり失礼な息子をしかりつけた。
まぁ、俺たちがいるからこんな言い方だけど、後でこってりしぼられるだろうな、ウィルクは若干青ざめてるし。
「ご、ごめんなさい、えっと、は、はじめまして、私は、隣のルモアと言います。えっと、さっきはその、悲鳴を上げてごめんなさい」
少女はルモアといい、どうやらこの家の子ではなくとなりの子だそうだ。
そんで、そのルモアは自己紹介の後、ダンクス相手にいきなり悲鳴を上げたことを詫びたのだった。
「気にしなくてもいいわよ。こんな怖い顔したダンクスが悪いんだからね。ああ、あたしはシュンナよ、よろしくね」
そんなルモアにダンクスではなくシュンナが返事をした。
「悪かったな。まぁ、なんだ、シュンナも言ったが、気にする必要はないぜ。っで、俺はダンクスだ。っで、こいつはスニルな」
「スニル君、よろしく」
ルモアは俺を見て年下と思ったのか笑顔でそういったが、まぁ、鑑定したら確かに俺より1つ上だった。
「ほら、ウィルク、あんたも自己紹介しなさい」
「わ、わかったよ。俺はウィルクだ。世界一の冒険者になる予定だ」
いかにも子供らしい、目標の高いことで何よりだな。俺はなんだか聞いていてほほえましくなった。
今の俺にはないよな、こういうの、まぁ、見た目は子供で中身は大人だから仕方ないが。
「ふふっ、いい目標ね」
それを聞いたシュンナが微笑みながらそういうと、言われたウィルクは顔を真っ赤にしてフリーズした。
気持ちはわかる。絶世の美少女たるシュンナから、あんな風に言われたら俺だってフリーズしそうだ。
「ふごっ」
シュンナに見とれているウィルクをみたルミアが、ウィルクをグーで殴り飛ばした。
って、グーで行くのか。見た目はおとなしそうで礼儀正しい少女なんだけど、怒るとこえぇな。
「え、えっと、騒がしくて、ごめんね」
殴り飛ばされて気を失った息子を見てため息をつきつつも、シエリルはそういって謝ってきた。
ウィルクはあれでいんだろうか、そう思ったが、ここはあえて黙っておこう、こういう時無口キャラは特だな。
生まれて初めて、この根暗な無口キャラが役に立った瞬間であった。
「あ、ああ、そうだ。スニル、お前たちの今後だったな」
「あ、ああ、うん、えっと、そうだな」
ワイエノが気を失っている息子を横目に、思い出したようにさっきの話の続きを始めたので、俺も乗ってみることにした。
「えっと、一応父さんが育ったっていう孤児院に行きたいと思ってるんだ」
「孤児院、なるほどなぁ。ああ、でも、孤児院は今ヒュリックがいたころとは別のところに移動してるぞ。まぁ、院長は同じだったはずだがな」
「えっ、移動?」
「ああ、五年ぐらい前か」
「確か、そのぐらいだったわね」
それから、昼食を作るからとシエリルが出て行き、その後をルミアも追いかけていった。
ちなみに、俺たちにも食って行けということで、遠慮できずごちそうになるととなったのは言うまでもないだろう。
んで、その間にワイエノが俺たちに孤児院について話してくれた。
それによると、なんでも今から5年前、この街に王都(ここは王国みたいだ)で新進気鋭の商会が支店を出そうとやって来た。
というのも、ここカリブリンは王国の南部に位置しており、南にあるブリザリア王国(そういえば、この国って何て名前だ。自分の国より先に隣国の名前を知ってしまった)との交易の通り道になる。
確かに、街はでかいし、よく栄えているなぁとは思っていたけどな。
そんな街だから、新しい商会はぜひとも店を出したいと考えるわけだ。だが、いい場所はすでにほかの商会がとっており、新しい店を出すスペースなどはなかった。
そりゃぁ、当然だ。
だが、その商会はあきらめなかった、なにせよく見たら、1つだけ好立地があるじゃないかと思い至った。
それこそが、孤児院だった。
どういうことかというと、なんでもこの街の孤児院は中央通りに面した場所にあったらしい。
おっと、その前にダンクスから聞いたことを説明しておくと、実はこの国の街はどこに行っても必ず1つは孤児院があるそうで、その理由は、数代前の国王だった。
国王はかなりの子供好きだったそうで、子供が浮浪となったり孤児の環境が酷いことを知り、嘆き法律として街に1つ孤児院を作るようにと命じた。また、その際、子供は明るい場所で育つべきだとして、中央通りにほど近い場所であるべきだと、まぁ、これは法律ではなく指示だったらしいが。
それに貴族たちは従うしかなく、多くの街では中央通りから少し路地に入ったところに作られたそうだが、この街の当時の領主は何を思ったのか、国王の指示を曲解し、中央通りそのものに孤児院を作ってしまった。
なぜ、これが悪いのか、それは簡単で例えば子供が外で遊ぼうと孤児院を飛び出すと、そこには多くの人や馬車などが通る。そんなところでは危なく、結局院内でしか遊べなかったそうだ。
なら、裏や脇はと思うかもしれないが、孤児院の場所はブロックの中頃であり建物が密集しているために、出られず出るには中央通りしかなかったらしい。
とまぁ、そんな孤児院の場所は、商会にとっては好立地、ということで商会は土地の持ち主たる領主に直接商談を持ち掛けた。
そして、現在のこの街の領主は子供嫌い、つまり中央通りに孤児院があることが嫌で仕方なかったらしく、これをすぐに了承したために、孤児院は追い出されるように場所を移すこととなった。
んで、その場所だけど……。
「あそこは、貧民街だからな。昼めし食ったらあとで、案内してやるよ」
「父ちゃん、俺が行って来てやろうか」
話が終わったところで、ウィルクが目を覚ましてそんなことを言ってきた。
「だから、あそこは子供が行くところじゃねぇって、いつも言ってるだろ」
孤児院なのに、子供が行くところじゃないって、なんだろうか一体。
そんなことを思っていると、昼食が運ばれてきて俺たちはごちそうになるのだった。
ガツガツガツガツゴクンガツガツガツゴクンガツガツガツガツガツガツゴクンフゥ
はぁ、食ったぁ、うまかったな。
「そんじゃ、さっそく行くか」
「ああ、頼む」
「お願いします」
「……」
ワイエノにダンクス、シュンナが答えて、俺はうなずいたことでさっそく孤児院に行くこととなった。
「こっちだ」
ワイエノが向かったのは、店から中央通りとは反対だった。
そうして、連れていかれた場所は、明らかにぼろい建物が並んでおり、まさに貧民街、スラムみたいだな。
「スニル、あまり離れるなよ。ここは治安が悪い」
「わ、わかった」
ワイエノが言うように確かに治安が悪そうで、周囲から妙な気配を感じる。
俺にはこんな能力はなかったはずだが、そんな俺でもわかるほどの気配ってことか。
そんな、場所で俺が単独で行動したら、間違いなく絡まれるよなぁ。
そんなわけで、3人から離れないように歩いていく、まぁ、すでに3人から囲まれて歩いているから離れようがないけどな。
そうこうしているうちにワイエノが止まった。
「あそこだ」
そういって、指を指した建物を見てみると、ぼろいな、しかも、静かだ。あっ、いや、わずかに泣き声が聞こえたな。
「あんなところかよ」
「ひどいわね」
「まったくだ」
「いい環境は言えないな」
俺たち4人はそれぞれに感想を述べたが、まさにその通りだ。
「じゃっ、俺は店もあるし、ここらで帰るぜ。あとはお前らでも大丈夫だろ」
「ああ、大丈夫だ」
「ありがと」
「おう、またあとでな」
そういって、ワイエノは来た道を戻っていった。
ちなみに、ワイエノが言ったまたあとで、というのは今日の夜のことで、実は先ほどの昼食時に俺たちの宿を聞かれ、まだと答えたら泊って行けと言われたわけだ、もちろん遠慮したが、ワイエノやシエリルにとって俺の両親は弟妹みたいなもので、その子供である俺は甥っ子も同然だという、だから、遠慮なんてするなと言われたわけだ。
っで、まぁそういうことならと泊めてもらうことにしたというわけだ。
まぁ、それはともかくさっさと孤児院の中に入ろう。
というわけで、しっかりと閉められた孤児院の門から声をかける。
「おーい、だれかいるかぁ」
ダンクスが声をかける。
「はーい、きゃぁ!」
ダンクスの声に若い女性が返事をしながら出てきたが、ダンクスを見て悲鳴を上げた。
「ああ、ごめんなさい、あたしたち、というかこの子のお父さんが孤児院の出身でお話を聞きたいと思って来たんです」
「へっ、ああ、ごめんなさい、えっと、その子、ですか?」
「……」
俺はうなずいた。
「えっと、お父さんのお名前わかるかな?」
またも、子ども扱いだが、こればかりは仕方ない。
「ヒュリック」
「えっ!! えっと、ごめんお母さんはわかるかな?」
父さんの名前を言った途端女性の表情が変わって、今度は母さんの名前を聞いてきた。
「ミリア、だけど……」
「そんな、間違いない、ああ、そうね。ヒュリック兄さん」
何かを納得したように言った後、父さんの名に兄さんと付けた。どういうことだ。父さんに妹はいないはずだけど。
「えっと……」
「ああ、ごめんなさい。どうぞ、中に入ってください」
これまでのやり取りの間、門は閉まったままだった。まぁ、ここ辺りは貧民街で治安も悪いらしいから、当然の処置だ。でも、こんなにあっさりと開けてくれたけどいいんだろうか。
「いいのか?」
ダンクスもそう思ったのか尋ねている。
「えっ、あっ、はい、えっと、本当はだめなんですけど、その子はヒュリック兄さんの子なので」
「信じてくれるの?」
ただ両親の名を言っただけで、子供だからと信じていいのか、ちょっと心配になるんだが……
「はい、えっと、それは大丈夫です。なんていうかこの子、ミリアさんにそっくりですし、雰囲気って言うか、それがヒュリック兄さんにも似てるので、間違いなく2人の子供だってわかるんです」
なんだか根拠の薄い理由だったが、説得力があったのが不思議だ。
まぁ、とにかく中に入れたことはよかった。
「院長先生、お客さん」
女性、名前はソニアというそうだが、ソニアは孤児院の建物に俺たちを導いた後、奥の部屋の前に立ちノックした後部屋に入りそういった。
「あら、珍しい、どなたかしら」
中から優しそうなしゃがれ声がした。
声からして結構な年なんだろうか、そう思って部屋の中を覗いてみると、確かにそこには白髪の老婆がいた。
「ヒュリック兄さんのお子さんよ」
「えっ、ヒュリック? ほんとに」
父さんの名前を聞いた老婆は驚いていた。
「うん、ミリアさんにそっくりでかわいい子よ。入ってきて」
妙に入りずらくなったんだが……まぁ、だからといって入らないわけにはいかないからな。
そんなわけで、部屋に入っていく。
「まぁ、まぁ、まぁ、ほんとね。ミリアちゃんにそっくりね。それに、ヒュリックにも目元が似ているんじゃないかしら」
「ああ、そうかも」
俺が中に入ると、まるで孫でも迎えるような優し気な笑顔で院長がそういった。
「お邪魔します」
「あら、あなたたちは?」
「あたしたちは、この街に来る途中で知り合って、スニルの保護者みたいなものです」
「ああ、そんなところだな。俺はダンクスで、こっちはシュンナだ。よろしくな院長先生」
「ええ、よろしく、えっと、もしかしてダンクスさんは孤児院の出ですか?」
「ああ、そうだけど、よくわかったな」
「長年、孤児院の院長をしていますから、ここを出た子たちと雰囲気が似ているですよ」
なるほど、確かにそうなのかもしれないな。
俺は、何となく院長の言いたいことが分かった気がした。
「まぁ、立っているのもなんだし、どうぞ座って」
と言われたので、俺たちは勧められたつぎはぎだらけのソファに座った。
座り心地もやはり硬いな、まぁ、仕方いだろう。
「えっと、ここに来た理由を聞いてもいいかしら」
「父さんが、ここで育ったって聞いて、父さんがどんな人だったのか知りたくて」
俺はそういった、人と話慣れていないために、こんな変な言いかたしかできない。
「ヒュリックが、どういうことかしら」
「父さんは、10年前に死んで、覚えてないから」
「えっ!!」
「そ、うそっ!!」
俺が父さんが死んだと告げると2人とも固まった。
「そ、そんな、あの子が……どうして」
「ああ、えっと、この話は、ダンクス頼める。あたし、スニルとちょっと離れてる」
「お、おう、任せろ」
そういって、俺とシュンナはその場を後にすることした。
ちなみに、どうしてダンクスが話、シュンナが俺となのかというと、ここが孤児院、つまり子供たちが普通にいる場所、そこにダンクスがウロチョロしていたら、子供たちが泣き出すのは必定だからだ。まぁ、それに孤児院の院長相手だし、出身者であるダンクスの方がいいだろうというのもあるしな。
そんなわけで、孤児院内をウロチョロしているわけだが、子供がいないな、どこ行ったんだ。まぁ、子供は苦手だからいないに越したことはないけどな。
「この時間なら、子供はお昼の後お昼寝かしらね」
「ああ、そっか、その可能性があったか」
「スニルもする?」
「しねぇよ」
昼寝が必要な年じゃない、まぁ、昼寝は年は関係なく20分程度ならした方がいいらしいけどな。
俺は前世から昼寝はほぼしたことがないんだよな。
そうして、静かな孤児院を歩くことしばし、ソニアが迎えに来たことで、再び院長の部屋へと向かった。
「お話は聞いたわ。スニル君、大変だったのね。それに、ごめんなさい、まさか、12歳だって思わなかったから」
部屋に入るなり院長が悲痛な表情でそういいつつ俺を子ども扱いしたことを謝ってきた。
「ほんとにごめんなさいね」
ついでとばかりにソニアも謝ってきた。
「いや、別に、気にしてないから、それに俺を見れば誰だって12歳とは思わないし」
どう見たって、俺は10歳以下にしか見えないからな。
「そう、ありがとう、そうね、ヒュリックの子供のころのお話でいいかしらね」
「……」
院長が話を始めようとしたので、俺は黙ってうなずく。
「私も少しだけ、お話しできるわ」
そういって、ソニアもまた父さんのことを話してくれた。
それによると、父さんは子供頃からちょっと体が大きく、孤児院でもリーダー的な存在だったようだ。
小さい子の面倒をよく見たりして、頼られたりしていたらしい。
それを聞いてなんだかちょっと誇らしかった。
まぁ、その分ちょっとやんちゃなところもあって、よく院長たちに怒られていたと、院長は微笑みながら話してくれた。
それから、孤児院を出て冒険者になった後もよく孤児院に冒険の話をしたり、いろいろ差し入れを持ってきていたという、また、ある時から母さんを連れてきて院長に紹介したりしていて、院長からは明らかに将来を考えているなと思ったそうだ。
息子としてはめっちゃ、恥ずかしいんだけど……
とまぁ、そんな話を聞きつつ、その日の午後は過ごしたのだった。
そうして、孤児院を辞した後、言われていた通りシエリルとワイエノの店に行き、今日はそこに泊まったのだった。
それによると、俺の両親はお互いに一目ぼれをしており、この街でかなり頑張って活動をして、その実力は結構上位にいたそうだ。
「それでスニル、これからどうするか決めているのか?」
シエリルから解放されたところで、ワイエノが今後の予定を尋ねてきた。
「父さんが……」
「ただいまぁ、母ちゃんめしー、はらへったぁ」
俺が予定を話そうとしたところで、そんな少年と思われる声が響き続いてドタドタと大きな足音がしてきた。
「どうやら、バカが帰って来たみたいだな」
「はぁ、そうみたいね」
ワイエノとシエリルが少しため息交じりでそういった。
おそらく、というか間違いなく2人の息子なんだろう。
そうこうしていると、ドタドタ音が近づいてきて、部屋の扉がバーンと勢いよく開けられた。
「なんだ、母ちゃん、こんなとこに、うわぁ!」
「ちょっとウィルク、ちゃんとノックしなきゃ、って、どうしたの、きゃぁ!」
入って来たのは、元気そうな少年とその背後から同じ年頃の少女だった。
そうして入るなり、2人の視界に目立つダンクスが入ったんだろう、悲鳴を上げた。
「はぁ、ウィルク、お客さんに失礼でしょ」
シエリルはあまり失礼な息子をしかりつけた。
まぁ、俺たちがいるからこんな言い方だけど、後でこってりしぼられるだろうな、ウィルクは若干青ざめてるし。
「ご、ごめんなさい、えっと、は、はじめまして、私は、隣のルモアと言います。えっと、さっきはその、悲鳴を上げてごめんなさい」
少女はルモアといい、どうやらこの家の子ではなくとなりの子だそうだ。
そんで、そのルモアは自己紹介の後、ダンクス相手にいきなり悲鳴を上げたことを詫びたのだった。
「気にしなくてもいいわよ。こんな怖い顔したダンクスが悪いんだからね。ああ、あたしはシュンナよ、よろしくね」
そんなルモアにダンクスではなくシュンナが返事をした。
「悪かったな。まぁ、なんだ、シュンナも言ったが、気にする必要はないぜ。っで、俺はダンクスだ。っで、こいつはスニルな」
「スニル君、よろしく」
ルモアは俺を見て年下と思ったのか笑顔でそういったが、まぁ、鑑定したら確かに俺より1つ上だった。
「ほら、ウィルク、あんたも自己紹介しなさい」
「わ、わかったよ。俺はウィルクだ。世界一の冒険者になる予定だ」
いかにも子供らしい、目標の高いことで何よりだな。俺はなんだか聞いていてほほえましくなった。
今の俺にはないよな、こういうの、まぁ、見た目は子供で中身は大人だから仕方ないが。
「ふふっ、いい目標ね」
それを聞いたシュンナが微笑みながらそういうと、言われたウィルクは顔を真っ赤にしてフリーズした。
気持ちはわかる。絶世の美少女たるシュンナから、あんな風に言われたら俺だってフリーズしそうだ。
「ふごっ」
シュンナに見とれているウィルクをみたルミアが、ウィルクをグーで殴り飛ばした。
って、グーで行くのか。見た目はおとなしそうで礼儀正しい少女なんだけど、怒るとこえぇな。
「え、えっと、騒がしくて、ごめんね」
殴り飛ばされて気を失った息子を見てため息をつきつつも、シエリルはそういって謝ってきた。
ウィルクはあれでいんだろうか、そう思ったが、ここはあえて黙っておこう、こういう時無口キャラは特だな。
生まれて初めて、この根暗な無口キャラが役に立った瞬間であった。
「あ、ああ、そうだ。スニル、お前たちの今後だったな」
「あ、ああ、うん、えっと、そうだな」
ワイエノが気を失っている息子を横目に、思い出したようにさっきの話の続きを始めたので、俺も乗ってみることにした。
「えっと、一応父さんが育ったっていう孤児院に行きたいと思ってるんだ」
「孤児院、なるほどなぁ。ああ、でも、孤児院は今ヒュリックがいたころとは別のところに移動してるぞ。まぁ、院長は同じだったはずだがな」
「えっ、移動?」
「ああ、五年ぐらい前か」
「確か、そのぐらいだったわね」
それから、昼食を作るからとシエリルが出て行き、その後をルミアも追いかけていった。
ちなみに、俺たちにも食って行けということで、遠慮できずごちそうになるととなったのは言うまでもないだろう。
んで、その間にワイエノが俺たちに孤児院について話してくれた。
それによると、なんでも今から5年前、この街に王都(ここは王国みたいだ)で新進気鋭の商会が支店を出そうとやって来た。
というのも、ここカリブリンは王国の南部に位置しており、南にあるブリザリア王国(そういえば、この国って何て名前だ。自分の国より先に隣国の名前を知ってしまった)との交易の通り道になる。
確かに、街はでかいし、よく栄えているなぁとは思っていたけどな。
そんな街だから、新しい商会はぜひとも店を出したいと考えるわけだ。だが、いい場所はすでにほかの商会がとっており、新しい店を出すスペースなどはなかった。
そりゃぁ、当然だ。
だが、その商会はあきらめなかった、なにせよく見たら、1つだけ好立地があるじゃないかと思い至った。
それこそが、孤児院だった。
どういうことかというと、なんでもこの街の孤児院は中央通りに面した場所にあったらしい。
おっと、その前にダンクスから聞いたことを説明しておくと、実はこの国の街はどこに行っても必ず1つは孤児院があるそうで、その理由は、数代前の国王だった。
国王はかなりの子供好きだったそうで、子供が浮浪となったり孤児の環境が酷いことを知り、嘆き法律として街に1つ孤児院を作るようにと命じた。また、その際、子供は明るい場所で育つべきだとして、中央通りにほど近い場所であるべきだと、まぁ、これは法律ではなく指示だったらしいが。
それに貴族たちは従うしかなく、多くの街では中央通りから少し路地に入ったところに作られたそうだが、この街の当時の領主は何を思ったのか、国王の指示を曲解し、中央通りそのものに孤児院を作ってしまった。
なぜ、これが悪いのか、それは簡単で例えば子供が外で遊ぼうと孤児院を飛び出すと、そこには多くの人や馬車などが通る。そんなところでは危なく、結局院内でしか遊べなかったそうだ。
なら、裏や脇はと思うかもしれないが、孤児院の場所はブロックの中頃であり建物が密集しているために、出られず出るには中央通りしかなかったらしい。
とまぁ、そんな孤児院の場所は、商会にとっては好立地、ということで商会は土地の持ち主たる領主に直接商談を持ち掛けた。
そして、現在のこの街の領主は子供嫌い、つまり中央通りに孤児院があることが嫌で仕方なかったらしく、これをすぐに了承したために、孤児院は追い出されるように場所を移すこととなった。
んで、その場所だけど……。
「あそこは、貧民街だからな。昼めし食ったらあとで、案内してやるよ」
「父ちゃん、俺が行って来てやろうか」
話が終わったところで、ウィルクが目を覚ましてそんなことを言ってきた。
「だから、あそこは子供が行くところじゃねぇって、いつも言ってるだろ」
孤児院なのに、子供が行くところじゃないって、なんだろうか一体。
そんなことを思っていると、昼食が運ばれてきて俺たちはごちそうになるのだった。
ガツガツガツガツゴクンガツガツガツゴクンガツガツガツガツガツガツゴクンフゥ
はぁ、食ったぁ、うまかったな。
「そんじゃ、さっそく行くか」
「ああ、頼む」
「お願いします」
「……」
ワイエノにダンクス、シュンナが答えて、俺はうなずいたことでさっそく孤児院に行くこととなった。
「こっちだ」
ワイエノが向かったのは、店から中央通りとは反対だった。
そうして、連れていかれた場所は、明らかにぼろい建物が並んでおり、まさに貧民街、スラムみたいだな。
「スニル、あまり離れるなよ。ここは治安が悪い」
「わ、わかった」
ワイエノが言うように確かに治安が悪そうで、周囲から妙な気配を感じる。
俺にはこんな能力はなかったはずだが、そんな俺でもわかるほどの気配ってことか。
そんな、場所で俺が単独で行動したら、間違いなく絡まれるよなぁ。
そんなわけで、3人から離れないように歩いていく、まぁ、すでに3人から囲まれて歩いているから離れようがないけどな。
そうこうしているうちにワイエノが止まった。
「あそこだ」
そういって、指を指した建物を見てみると、ぼろいな、しかも、静かだ。あっ、いや、わずかに泣き声が聞こえたな。
「あんなところかよ」
「ひどいわね」
「まったくだ」
「いい環境は言えないな」
俺たち4人はそれぞれに感想を述べたが、まさにその通りだ。
「じゃっ、俺は店もあるし、ここらで帰るぜ。あとはお前らでも大丈夫だろ」
「ああ、大丈夫だ」
「ありがと」
「おう、またあとでな」
そういって、ワイエノは来た道を戻っていった。
ちなみに、ワイエノが言ったまたあとで、というのは今日の夜のことで、実は先ほどの昼食時に俺たちの宿を聞かれ、まだと答えたら泊って行けと言われたわけだ、もちろん遠慮したが、ワイエノやシエリルにとって俺の両親は弟妹みたいなもので、その子供である俺は甥っ子も同然だという、だから、遠慮なんてするなと言われたわけだ。
っで、まぁそういうことならと泊めてもらうことにしたというわけだ。
まぁ、それはともかくさっさと孤児院の中に入ろう。
というわけで、しっかりと閉められた孤児院の門から声をかける。
「おーい、だれかいるかぁ」
ダンクスが声をかける。
「はーい、きゃぁ!」
ダンクスの声に若い女性が返事をしながら出てきたが、ダンクスを見て悲鳴を上げた。
「ああ、ごめんなさい、あたしたち、というかこの子のお父さんが孤児院の出身でお話を聞きたいと思って来たんです」
「へっ、ああ、ごめんなさい、えっと、その子、ですか?」
「……」
俺はうなずいた。
「えっと、お父さんのお名前わかるかな?」
またも、子ども扱いだが、こればかりは仕方ない。
「ヒュリック」
「えっ!! えっと、ごめんお母さんはわかるかな?」
父さんの名前を言った途端女性の表情が変わって、今度は母さんの名前を聞いてきた。
「ミリア、だけど……」
「そんな、間違いない、ああ、そうね。ヒュリック兄さん」
何かを納得したように言った後、父さんの名に兄さんと付けた。どういうことだ。父さんに妹はいないはずだけど。
「えっと……」
「ああ、ごめんなさい。どうぞ、中に入ってください」
これまでのやり取りの間、門は閉まったままだった。まぁ、ここ辺りは貧民街で治安も悪いらしいから、当然の処置だ。でも、こんなにあっさりと開けてくれたけどいいんだろうか。
「いいのか?」
ダンクスもそう思ったのか尋ねている。
「えっ、あっ、はい、えっと、本当はだめなんですけど、その子はヒュリック兄さんの子なので」
「信じてくれるの?」
ただ両親の名を言っただけで、子供だからと信じていいのか、ちょっと心配になるんだが……
「はい、えっと、それは大丈夫です。なんていうかこの子、ミリアさんにそっくりですし、雰囲気って言うか、それがヒュリック兄さんにも似てるので、間違いなく2人の子供だってわかるんです」
なんだか根拠の薄い理由だったが、説得力があったのが不思議だ。
まぁ、とにかく中に入れたことはよかった。
「院長先生、お客さん」
女性、名前はソニアというそうだが、ソニアは孤児院の建物に俺たちを導いた後、奥の部屋の前に立ちノックした後部屋に入りそういった。
「あら、珍しい、どなたかしら」
中から優しそうなしゃがれ声がした。
声からして結構な年なんだろうか、そう思って部屋の中を覗いてみると、確かにそこには白髪の老婆がいた。
「ヒュリック兄さんのお子さんよ」
「えっ、ヒュリック? ほんとに」
父さんの名前を聞いた老婆は驚いていた。
「うん、ミリアさんにそっくりでかわいい子よ。入ってきて」
妙に入りずらくなったんだが……まぁ、だからといって入らないわけにはいかないからな。
そんなわけで、部屋に入っていく。
「まぁ、まぁ、まぁ、ほんとね。ミリアちゃんにそっくりね。それに、ヒュリックにも目元が似ているんじゃないかしら」
「ああ、そうかも」
俺が中に入ると、まるで孫でも迎えるような優し気な笑顔で院長がそういった。
「お邪魔します」
「あら、あなたたちは?」
「あたしたちは、この街に来る途中で知り合って、スニルの保護者みたいなものです」
「ああ、そんなところだな。俺はダンクスで、こっちはシュンナだ。よろしくな院長先生」
「ええ、よろしく、えっと、もしかしてダンクスさんは孤児院の出ですか?」
「ああ、そうだけど、よくわかったな」
「長年、孤児院の院長をしていますから、ここを出た子たちと雰囲気が似ているですよ」
なるほど、確かにそうなのかもしれないな。
俺は、何となく院長の言いたいことが分かった気がした。
「まぁ、立っているのもなんだし、どうぞ座って」
と言われたので、俺たちは勧められたつぎはぎだらけのソファに座った。
座り心地もやはり硬いな、まぁ、仕方いだろう。
「えっと、ここに来た理由を聞いてもいいかしら」
「父さんが、ここで育ったって聞いて、父さんがどんな人だったのか知りたくて」
俺はそういった、人と話慣れていないために、こんな変な言いかたしかできない。
「ヒュリックが、どういうことかしら」
「父さんは、10年前に死んで、覚えてないから」
「えっ!!」
「そ、うそっ!!」
俺が父さんが死んだと告げると2人とも固まった。
「そ、そんな、あの子が……どうして」
「ああ、えっと、この話は、ダンクス頼める。あたし、スニルとちょっと離れてる」
「お、おう、任せろ」
そういって、俺とシュンナはその場を後にすることした。
ちなみに、どうしてダンクスが話、シュンナが俺となのかというと、ここが孤児院、つまり子供たちが普通にいる場所、そこにダンクスがウロチョロしていたら、子供たちが泣き出すのは必定だからだ。まぁ、それに孤児院の院長相手だし、出身者であるダンクスの方がいいだろうというのもあるしな。
そんなわけで、孤児院内をウロチョロしているわけだが、子供がいないな、どこ行ったんだ。まぁ、子供は苦手だからいないに越したことはないけどな。
「この時間なら、子供はお昼の後お昼寝かしらね」
「ああ、そっか、その可能性があったか」
「スニルもする?」
「しねぇよ」
昼寝が必要な年じゃない、まぁ、昼寝は年は関係なく20分程度ならした方がいいらしいけどな。
俺は前世から昼寝はほぼしたことがないんだよな。
そうして、静かな孤児院を歩くことしばし、ソニアが迎えに来たことで、再び院長の部屋へと向かった。
「お話は聞いたわ。スニル君、大変だったのね。それに、ごめんなさい、まさか、12歳だって思わなかったから」
部屋に入るなり院長が悲痛な表情でそういいつつ俺を子ども扱いしたことを謝ってきた。
「ほんとにごめんなさいね」
ついでとばかりにソニアも謝ってきた。
「いや、別に、気にしてないから、それに俺を見れば誰だって12歳とは思わないし」
どう見たって、俺は10歳以下にしか見えないからな。
「そう、ありがとう、そうね、ヒュリックの子供のころのお話でいいかしらね」
「……」
院長が話を始めようとしたので、俺は黙ってうなずく。
「私も少しだけ、お話しできるわ」
そういって、ソニアもまた父さんのことを話してくれた。
それによると、父さんは子供頃からちょっと体が大きく、孤児院でもリーダー的な存在だったようだ。
小さい子の面倒をよく見たりして、頼られたりしていたらしい。
それを聞いてなんだかちょっと誇らしかった。
まぁ、その分ちょっとやんちゃなところもあって、よく院長たちに怒られていたと、院長は微笑みながら話してくれた。
それから、孤児院を出て冒険者になった後もよく孤児院に冒険の話をしたり、いろいろ差し入れを持ってきていたという、また、ある時から母さんを連れてきて院長に紹介したりしていて、院長からは明らかに将来を考えているなと思ったそうだ。
息子としてはめっちゃ、恥ずかしいんだけど……
とまぁ、そんな話を聞きつつ、その日の午後は過ごしたのだった。
そうして、孤児院を辞した後、言われていた通りシエリルとワイエノの店に行き、今日はそこに泊まったのだった。
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