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第04章 奴隷狩り
01 ウルベキナ王国
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ワイバーンの巣となっているロッカールド山脈を越えた俺たちは、一晩テントで休んでから翌日街道に出たのだった。
「どうする?」
「南か北か?」
「北に行くと、国境の街になるんじゃないかな」
「たぶんな」
俺たちはコルマベイント王国側でトルク洞窟より南に移動してから山越えをした。
もちろん俺たちだってまっすぐ西に向かって山を登ったわけではないし、トルク洞窟もまっすぐの洞窟ではないだろう、でも”マップ”で確認する限りではあるが、おそらく北に少し行けばトルク洞窟の出口があるんじゃないかと思う。
「大丈夫だとは思うけど、一応国境の街はやめておくか」
「そうね」
俺たちの手配書はコルマベイント王国内のみとなり、国外へは出ていないはずとダンクスとシュンナが言った。
というのも、この世界はまだ国際的なつながりが薄く、国の恥をさらすような手配は出ないだろうとのことだった。
「多分、奴らとしても俺たちを国境で食い止めるつもりだろうからな。こっちに来ちまえば大丈夫だろ」
まさか、山越えしたとは思っていないだろうしな。
そんなわけで、ここからは元ののんびりとした旅ができそうだ。
「じゃぁ、一応北には向かうけど、国境の街はよらずに、避けるってことで」
「だな」
「ええ」
そうと決まれば俺たちは北へ向かって歩き出した。
そうして、しばらく歩いていると予想通り街が見えてきた。
「あれが、こちら側の国境の街かな」
「そうみたいだな」
「じゃぁ、ここは西に向かうか」
「了解」
国境の街を横目に西への街道へ入っていく。
▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽
街道を歩くこと2日、俺たちの目の前には次の街が見えてきた。
「こう見てると、国が変わっても一緒だよな」
街に防壁があるという光景は国が変わっても同じ光景に見えた。
それはそうだろう、何度も言うがこの世界は魔物が闊歩しているわけだから、防壁を作らないわけにはいかないからな。
「代り映えはないよね」
「ま、仕方ねぇって、それよりさっさと街に入ろうぜ」
ということで、さっそく門への列へと並んだ。
そうして、少し待っていると俺たちの番となり俺たちは少し緊張気味に門番と対峙する。
大丈夫とは思うが、手配書が出回っていませんように。
そう祈っていると門番が声をかけてきた。
「身分証は?」
「いや、あたしたち旅人なので身分証はないです」
「そうか、それでどこから来たんだ」
「コルマベイント王国です」
「まぁ、そうだろうな。目的は?」
「あたしたち旅人なので、いろいろと見てわまりたくて」
「そうか、まぁいいだろう、通行料は大人が1人2400ドリアスで子供が1200ドリアスだ」
コルマベイント王国では子供も大人と同じ料金だったが、ここウルベキナ王国では子供は半額のようだ。
それにしても、ドリアスって、あっ、しまった!
ここにきて気が付いたが、考えてみれば俺たちはコルマベイント王国のトラムしかない、普通なら国境の街とかで両替するべきなんだろうが、手配のことを考えてついうっかり忘れていた。
どうするかと、俺たちが見合っていると門番が何かを察した。
「ああ、お前たちもしかしてトラムしかないのか?」
「え、えっと、はいそうです。両替を忘れてて」
「なるほどな、まぁよくある話だ。トラムとなると、2000トラムと1000トラムだな」
よかったどうやらトラムでも払えるようだ。
あと、トラムとドリアスの変換レートはドリアスが1.2倍のようだ。
「この街にも両替商がいるから、行っておいたほうがいいぞ」
「はい、ありがとう、それじゃ、これ5000トラム」
「確かに、もういいぞ。はい、次」
何とか無事に通行料を払い門を抜け街に入ることができた。
「あれ? そういえばあれがなかったな」
少し歩いたところでふと思ったことを口にした。
「そういえばそうだな」
「いわれてみれば」
あれというのは、俺たちが街に入るときの恒例行事みたいなもので、俺が12歳未満だとか以上だとかのやり取りだ。
コルマベイント王国では毎回行われたこれが今回起きなかったのだった。
「そもそも、おかしな話だったからな。ウルベキナではないんじゃないか」
「そうかもね」
そうなんだよな、街に入るのに12歳未満は実の親同伴でなければならないなんて決まり自体が意味が分からないからな。
まっ、なければないほうがいいに決まっているからそういうことにしておこう。
というわけで、俺たちはそれ以上そのことを考えるのをやめてこの街を堪能することにした。
「まずは、両替商にいきましょ」
「そうだな。それがよさそうだな」
「だな。んで、どのくらい替える」
「今後、コルマベイントに戻ることがあるかもしれないし、その時に使えないのはまずいからある程度残したほうがいいよね」
普通ならその都度国境付近の街で両替すればいいが、俺たちの場合”転移”でいつでもコルマベイントへ帰ることが可能なため、そういうときのためにトラムも残しておく必要がある。
「そうだな。幸い俺たちの資金は潤沢だし、一応1/4程度は残しておいたほうがいいんじゃないか」
「そうすっか」
「そうね」
話がまとまったところで両替商を探すわけだが、探すまでもなくすぐに見つけることができた。
まぁ、両替商なんて立地的に門の側のほうがいいからな。
そんなわけで、俺たちは近場の両替商の店へと入っていった。
「いらっしゃいませ」
「トラムからドリアスに替えたいんだけど、いいかしら?」
「はい、もちろんでございます。いかほどでしょうか?」
「ちょっとまってね……一応このぐらいなんだけど、できる?」
シュンナが財布から大量の金貨や銀貨を取り出したことに両替商が驚愕の表情をしたが、すぐに繕い両替手続きに入った。
「こちらとなります。どうぞご確認ください」
トラムとドリアスの変換レートはドリアスがトラムの1.2倍、つまり逆にトラムからドリアスに変換するには1.2で割ってやればいい、ということでざっと計算した結果……問題ないようだ。
ということをシュンナに告げた。
実はこういった計算となるとシュンナやダンクスより俺のほうが断然早く正確となる。こればかりは日本の教育の賜物だろうな。
といっても、俺の場合メティスルが補助してくれるからより速いんだけどな。でも、メティスルで計算するにも俺自身がその計算式を浮かべ、計算方法を知らなければできないんだけどな。
「うん、問題ないわ」
「では、こちらから手数料を引かせていただきます」
もちろんこの手数料は事前に説明を受けていたし、何より看板に書かれていたので問題ない。
というわけで、問題なくドリアスを手に入れた俺たちはさっそく街に繰り出し、この街のグルメや小物屋などをめぐって過ごしその日はこの街に泊まることにしたのだった。
▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽
翌日である。
「ふわぁ」
「おう、スニル起きたか」
「ああ、考えてみれば宿に泊まったのは久しぶりだな」
「そういえばそうだな。やっぱりテントのほうが快適ではあるよなぁ」
「確かに」
考えてみれば俺たちが宿に泊まったのは、コルマベイント王国の王都以来となる。
俺たちはお尋ね者だったから、宿どころか街にも入れなかったためにずっと俺のテントを使っていた。
といっても、俺のテントのほうが宿よりも快適に過ごせるんだけどな。
さて、そんなどうでもいいような話をしていると、ごそごそとシュンナも起きてきたということで身支度を整えたのち再び街へと繰り出した。
いまさらながら、この街の名はクジャラといコルマベイント王国との貿易の要衝として発展している街だ。
だからか、カリブリンに似た雰囲気を持っている気がする。
尤も、国が違うのでなんとなくレベルでしかないが。
それから2日、俺たちはクジャラの街を堪能したのち街を出ることにした。
クジャラの街を出て数時間のんびりと歩いていると、遠く方から何やら聞きなれた音がした。
「ん? ダンクス」
俺は音のした方角を見たのち、ダンクスの名を呼んだ。
「んっ、おう」
ダンクスもまた俺が見た方角を見たのち、右手を水平に上げた。
すると、その腕に大きな鳥型の魔物が降り立ったのだった。
「よう、リーフ」
「キュイー」
リーフというのはサンダーバードという魔物で、故郷であるゾーリン村に住む村長の孫ポリーが召喚した魔物である。
「よしっと、ありがとなリーフ、ポリーによろしくな」
「キューイ」
リーフの足には筒が付けられておりそこにはポリーからの手紙、それを抜き取った俺が礼が言うと、リーフは1鳴きしてからダンクスの腕からゾーリン村へ向けて旅立っていった。
「ポリーちゃん? なんて書いてあるの?」
シュンナが興味津々といった風に聞いてきたので、俺は待て待てと言いつつ手紙を開いて読んでみる。
そこに書かれていたのは、まずは近況報告だった。
それによると、ポリーをはじめ村長一家もゾーリン村の面々も元気に過ごしているとのこと、また先ごろ冬の収穫を終えたそうだ。
冬の収穫といわれると妙な気がするが、ゾーリン村には俺が温室を作っているために、たとえ外が寒くとも作物を植えることが可能だ。
その収穫を終えたとのことだった。
また、手紙にはカリブリンの孤児院のことも書かれていた。
というのも、ゾーリン村と孤児院では転移門でつなげており、村長の許しがあればだれでも行き来が可能となっている。
それを使いポリーはよく孤児院へ行っているようだ。
まっ、村には子供が少なくいたとしても幼いかポリーより年上ばかりで、同等の友人というものがポリーにはいなかった。
しかし、孤児院には当然ながら子供が多く、中にはポリーと同い年の子も幾人かいて、遊んだり話をしたりししているという。
そんな孤児院はというと院長も子供たちも元気で、子供たちは毎日広くなった庭で遊びまわり畑仕事を楽しみ健やかにすごしているそうだ。
さらに、手紙にはワイエノとシエリルのことも書かれていた。
この2人は俺の両親が冒険者時代の仲間で、今は冒険者向けの雑貨屋を営んでいる。
そして何より俺が作ったフリーズドライ工場の主でもある。
その2人とその息子であるウィルクも元気ということだ。
ただし、フリーズドライ関係で仕事が忙しいらしく、最近はあまり会っていないという。
とはいえ、ウィルクとルモアがたまに孤児院へやってくるらしく、そこでルモアからいろいろ聞いているようだ。
「みんな元気なのね」
「みたいだな」
「それは何よりだ」
「ああ、でも侵入者は相変わらずらしい」
俺が作った工場は相も変わらず侵入者がやってくるようだが、すべて俺が貼った結界が働き防げているという。
また、最近では孤児院への侵入を試みるものもいるそうだが、これの狙いは温室だろうな。
尤も、それらも俺が貼った結界ですべて防げているということだ。
「懲りない連中だな」
「多分別口かもな」
「それにしても、無理だって情報は伝わると思うけどなぁ」
ああいう連中は事前に情報を得るために自然と無理だとわかるはずだ。
まぁ、俺としてはいくら侵入を試みたところで誰かが被害を受けるわけではないので、特にどうでもいいけどな。
とまぁ、そんなことが書かれていたが、これらはこれまでの手紙にもよく書かれていたので目新しい情報ではない。
しかし、最後に新しい情報があった。
「ああ、やっぱり、カリブリンにも手配書が来たらしいぞ」
「だろうな」
「それで、どうなった?」
実はポリーへ王都でのことの詳細を事前に手紙で知らせていた。
本当はどうしようかと思ったが、手配書が出回っている以上いつかはカリブリンへ届き、ポリーの耳にも入ると思われたからだ。そうなると下手な心配をかけてしまうだろうと考えられたため、事前にすべて伝えておこうとなった。
そんで、ポリーの手紙によると、手配書を受け取った領主はなんとしても俺たちを捕らえようと躍起になっているようだ。
なんでも俺たちを捕らえることで国王の覚えをめでたくしたいらしい。
しかし、そんな領主の思いとは裏腹に騎士や兵士たちは全くやる気がない。というか、すでに彼らは俺たちであることは分かっている。
それでも動かないのは、彼らの多くが独り者の男であること、そのためフリーズドライに多く助けられているといっていたからな。それだけじゃない、フリーズドライは主婦にも人気があった。
なんでもあれがあると時短ができるからだそうだ。
確かに、忙しい主婦にとっては強い見方だろうな。日本でもそういう話を聞いたことがあったしな。
そして、そのフリーズドライを作ったのが俺であることを知っているからだろう。
というのも、工場に侵入者騒ぎが起きるたびに、俺たちはその騎士たちと顔を合わせていたから顔見知りだしな。
「ということらしいぞ。だからいつでも帰って来いってさ」
最後の締めにそういうことが書かれていた。
「ちゃんと返事書かないとね」
「だな」
「そうするよ」
シュンナがまさに姉のように俺へ、ポリーにちゃんと手紙を書くように言ってきた。
そして、その日の夜頭を悩ませながらポリーに手紙を書いたのだった。
その内容は、主に山越えのことやウルベキナ王国の話である。
「どうする?」
「南か北か?」
「北に行くと、国境の街になるんじゃないかな」
「たぶんな」
俺たちはコルマベイント王国側でトルク洞窟より南に移動してから山越えをした。
もちろん俺たちだってまっすぐ西に向かって山を登ったわけではないし、トルク洞窟もまっすぐの洞窟ではないだろう、でも”マップ”で確認する限りではあるが、おそらく北に少し行けばトルク洞窟の出口があるんじゃないかと思う。
「大丈夫だとは思うけど、一応国境の街はやめておくか」
「そうね」
俺たちの手配書はコルマベイント王国内のみとなり、国外へは出ていないはずとダンクスとシュンナが言った。
というのも、この世界はまだ国際的なつながりが薄く、国の恥をさらすような手配は出ないだろうとのことだった。
「多分、奴らとしても俺たちを国境で食い止めるつもりだろうからな。こっちに来ちまえば大丈夫だろ」
まさか、山越えしたとは思っていないだろうしな。
そんなわけで、ここからは元ののんびりとした旅ができそうだ。
「じゃぁ、一応北には向かうけど、国境の街はよらずに、避けるってことで」
「だな」
「ええ」
そうと決まれば俺たちは北へ向かって歩き出した。
そうして、しばらく歩いていると予想通り街が見えてきた。
「あれが、こちら側の国境の街かな」
「そうみたいだな」
「じゃぁ、ここは西に向かうか」
「了解」
国境の街を横目に西への街道へ入っていく。
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街道を歩くこと2日、俺たちの目の前には次の街が見えてきた。
「こう見てると、国が変わっても一緒だよな」
街に防壁があるという光景は国が変わっても同じ光景に見えた。
それはそうだろう、何度も言うがこの世界は魔物が闊歩しているわけだから、防壁を作らないわけにはいかないからな。
「代り映えはないよね」
「ま、仕方ねぇって、それよりさっさと街に入ろうぜ」
ということで、さっそく門への列へと並んだ。
そうして、少し待っていると俺たちの番となり俺たちは少し緊張気味に門番と対峙する。
大丈夫とは思うが、手配書が出回っていませんように。
そう祈っていると門番が声をかけてきた。
「身分証は?」
「いや、あたしたち旅人なので身分証はないです」
「そうか、それでどこから来たんだ」
「コルマベイント王国です」
「まぁ、そうだろうな。目的は?」
「あたしたち旅人なので、いろいろと見てわまりたくて」
「そうか、まぁいいだろう、通行料は大人が1人2400ドリアスで子供が1200ドリアスだ」
コルマベイント王国では子供も大人と同じ料金だったが、ここウルベキナ王国では子供は半額のようだ。
それにしても、ドリアスって、あっ、しまった!
ここにきて気が付いたが、考えてみれば俺たちはコルマベイント王国のトラムしかない、普通なら国境の街とかで両替するべきなんだろうが、手配のことを考えてついうっかり忘れていた。
どうするかと、俺たちが見合っていると門番が何かを察した。
「ああ、お前たちもしかしてトラムしかないのか?」
「え、えっと、はいそうです。両替を忘れてて」
「なるほどな、まぁよくある話だ。トラムとなると、2000トラムと1000トラムだな」
よかったどうやらトラムでも払えるようだ。
あと、トラムとドリアスの変換レートはドリアスが1.2倍のようだ。
「この街にも両替商がいるから、行っておいたほうがいいぞ」
「はい、ありがとう、それじゃ、これ5000トラム」
「確かに、もういいぞ。はい、次」
何とか無事に通行料を払い門を抜け街に入ることができた。
「あれ? そういえばあれがなかったな」
少し歩いたところでふと思ったことを口にした。
「そういえばそうだな」
「いわれてみれば」
あれというのは、俺たちが街に入るときの恒例行事みたいなもので、俺が12歳未満だとか以上だとかのやり取りだ。
コルマベイント王国では毎回行われたこれが今回起きなかったのだった。
「そもそも、おかしな話だったからな。ウルベキナではないんじゃないか」
「そうかもね」
そうなんだよな、街に入るのに12歳未満は実の親同伴でなければならないなんて決まり自体が意味が分からないからな。
まっ、なければないほうがいいに決まっているからそういうことにしておこう。
というわけで、俺たちはそれ以上そのことを考えるのをやめてこの街を堪能することにした。
「まずは、両替商にいきましょ」
「そうだな。それがよさそうだな」
「だな。んで、どのくらい替える」
「今後、コルマベイントに戻ることがあるかもしれないし、その時に使えないのはまずいからある程度残したほうがいいよね」
普通ならその都度国境付近の街で両替すればいいが、俺たちの場合”転移”でいつでもコルマベイントへ帰ることが可能なため、そういうときのためにトラムも残しておく必要がある。
「そうだな。幸い俺たちの資金は潤沢だし、一応1/4程度は残しておいたほうがいいんじゃないか」
「そうすっか」
「そうね」
話がまとまったところで両替商を探すわけだが、探すまでもなくすぐに見つけることができた。
まぁ、両替商なんて立地的に門の側のほうがいいからな。
そんなわけで、俺たちは近場の両替商の店へと入っていった。
「いらっしゃいませ」
「トラムからドリアスに替えたいんだけど、いいかしら?」
「はい、もちろんでございます。いかほどでしょうか?」
「ちょっとまってね……一応このぐらいなんだけど、できる?」
シュンナが財布から大量の金貨や銀貨を取り出したことに両替商が驚愕の表情をしたが、すぐに繕い両替手続きに入った。
「こちらとなります。どうぞご確認ください」
トラムとドリアスの変換レートはドリアスがトラムの1.2倍、つまり逆にトラムからドリアスに変換するには1.2で割ってやればいい、ということでざっと計算した結果……問題ないようだ。
ということをシュンナに告げた。
実はこういった計算となるとシュンナやダンクスより俺のほうが断然早く正確となる。こればかりは日本の教育の賜物だろうな。
といっても、俺の場合メティスルが補助してくれるからより速いんだけどな。でも、メティスルで計算するにも俺自身がその計算式を浮かべ、計算方法を知らなければできないんだけどな。
「うん、問題ないわ」
「では、こちらから手数料を引かせていただきます」
もちろんこの手数料は事前に説明を受けていたし、何より看板に書かれていたので問題ない。
というわけで、問題なくドリアスを手に入れた俺たちはさっそく街に繰り出し、この街のグルメや小物屋などをめぐって過ごしその日はこの街に泊まることにしたのだった。
▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽
翌日である。
「ふわぁ」
「おう、スニル起きたか」
「ああ、考えてみれば宿に泊まったのは久しぶりだな」
「そういえばそうだな。やっぱりテントのほうが快適ではあるよなぁ」
「確かに」
考えてみれば俺たちが宿に泊まったのは、コルマベイント王国の王都以来となる。
俺たちはお尋ね者だったから、宿どころか街にも入れなかったためにずっと俺のテントを使っていた。
といっても、俺のテントのほうが宿よりも快適に過ごせるんだけどな。
さて、そんなどうでもいいような話をしていると、ごそごそとシュンナも起きてきたということで身支度を整えたのち再び街へと繰り出した。
いまさらながら、この街の名はクジャラといコルマベイント王国との貿易の要衝として発展している街だ。
だからか、カリブリンに似た雰囲気を持っている気がする。
尤も、国が違うのでなんとなくレベルでしかないが。
それから2日、俺たちはクジャラの街を堪能したのち街を出ることにした。
クジャラの街を出て数時間のんびりと歩いていると、遠く方から何やら聞きなれた音がした。
「ん? ダンクス」
俺は音のした方角を見たのち、ダンクスの名を呼んだ。
「んっ、おう」
ダンクスもまた俺が見た方角を見たのち、右手を水平に上げた。
すると、その腕に大きな鳥型の魔物が降り立ったのだった。
「よう、リーフ」
「キュイー」
リーフというのはサンダーバードという魔物で、故郷であるゾーリン村に住む村長の孫ポリーが召喚した魔物である。
「よしっと、ありがとなリーフ、ポリーによろしくな」
「キューイ」
リーフの足には筒が付けられておりそこにはポリーからの手紙、それを抜き取った俺が礼が言うと、リーフは1鳴きしてからダンクスの腕からゾーリン村へ向けて旅立っていった。
「ポリーちゃん? なんて書いてあるの?」
シュンナが興味津々といった風に聞いてきたので、俺は待て待てと言いつつ手紙を開いて読んでみる。
そこに書かれていたのは、まずは近況報告だった。
それによると、ポリーをはじめ村長一家もゾーリン村の面々も元気に過ごしているとのこと、また先ごろ冬の収穫を終えたそうだ。
冬の収穫といわれると妙な気がするが、ゾーリン村には俺が温室を作っているために、たとえ外が寒くとも作物を植えることが可能だ。
その収穫を終えたとのことだった。
また、手紙にはカリブリンの孤児院のことも書かれていた。
というのも、ゾーリン村と孤児院では転移門でつなげており、村長の許しがあればだれでも行き来が可能となっている。
それを使いポリーはよく孤児院へ行っているようだ。
まっ、村には子供が少なくいたとしても幼いかポリーより年上ばかりで、同等の友人というものがポリーにはいなかった。
しかし、孤児院には当然ながら子供が多く、中にはポリーと同い年の子も幾人かいて、遊んだり話をしたりししているという。
そんな孤児院はというと院長も子供たちも元気で、子供たちは毎日広くなった庭で遊びまわり畑仕事を楽しみ健やかにすごしているそうだ。
さらに、手紙にはワイエノとシエリルのことも書かれていた。
この2人は俺の両親が冒険者時代の仲間で、今は冒険者向けの雑貨屋を営んでいる。
そして何より俺が作ったフリーズドライ工場の主でもある。
その2人とその息子であるウィルクも元気ということだ。
ただし、フリーズドライ関係で仕事が忙しいらしく、最近はあまり会っていないという。
とはいえ、ウィルクとルモアがたまに孤児院へやってくるらしく、そこでルモアからいろいろ聞いているようだ。
「みんな元気なのね」
「みたいだな」
「それは何よりだ」
「ああ、でも侵入者は相変わらずらしい」
俺が作った工場は相も変わらず侵入者がやってくるようだが、すべて俺が貼った結界が働き防げているという。
また、最近では孤児院への侵入を試みるものもいるそうだが、これの狙いは温室だろうな。
尤も、それらも俺が貼った結界ですべて防げているということだ。
「懲りない連中だな」
「多分別口かもな」
「それにしても、無理だって情報は伝わると思うけどなぁ」
ああいう連中は事前に情報を得るために自然と無理だとわかるはずだ。
まぁ、俺としてはいくら侵入を試みたところで誰かが被害を受けるわけではないので、特にどうでもいいけどな。
とまぁ、そんなことが書かれていたが、これらはこれまでの手紙にもよく書かれていたので目新しい情報ではない。
しかし、最後に新しい情報があった。
「ああ、やっぱり、カリブリンにも手配書が来たらしいぞ」
「だろうな」
「それで、どうなった?」
実はポリーへ王都でのことの詳細を事前に手紙で知らせていた。
本当はどうしようかと思ったが、手配書が出回っている以上いつかはカリブリンへ届き、ポリーの耳にも入ると思われたからだ。そうなると下手な心配をかけてしまうだろうと考えられたため、事前にすべて伝えておこうとなった。
そんで、ポリーの手紙によると、手配書を受け取った領主はなんとしても俺たちを捕らえようと躍起になっているようだ。
なんでも俺たちを捕らえることで国王の覚えをめでたくしたいらしい。
しかし、そんな領主の思いとは裏腹に騎士や兵士たちは全くやる気がない。というか、すでに彼らは俺たちであることは分かっている。
それでも動かないのは、彼らの多くが独り者の男であること、そのためフリーズドライに多く助けられているといっていたからな。それだけじゃない、フリーズドライは主婦にも人気があった。
なんでもあれがあると時短ができるからだそうだ。
確かに、忙しい主婦にとっては強い見方だろうな。日本でもそういう話を聞いたことがあったしな。
そして、そのフリーズドライを作ったのが俺であることを知っているからだろう。
というのも、工場に侵入者騒ぎが起きるたびに、俺たちはその騎士たちと顔を合わせていたから顔見知りだしな。
「ということらしいぞ。だからいつでも帰って来いってさ」
最後の締めにそういうことが書かれていた。
「ちゃんと返事書かないとね」
「だな」
「そうするよ」
シュンナがまさに姉のように俺へ、ポリーにちゃんと手紙を書くように言ってきた。
そして、その日の夜頭を悩ませながらポリーに手紙を書いたのだった。
その内容は、主に山越えのことやウルベキナ王国の話である。
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