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第05章 家族

02 ブリザリア王国

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 無事にブリザリア王国へ入国を果たした俺たちは、そのまま街道を南へと進んでいた。

「この辺りでいいか」
「そうだなぁ、確かにここらなら人気もだいぶ減ってきたしいいんじゃないか」
「そうね。そろそろこれ外したいし、いいんじゃない」

 俺たちはそういう会話をしてから、あたりを見て誰もいないのを確認してから、街道をそれて森の中へと入っていった。その理由は簡単で、変装の魔道具を止めるためだ。そんなわけで、森の中へ入ったところで俺たちはそれぞれ変装の魔道具を止めて、元の姿へと戻った。

「やっぱり、こっちのほうが落ち着くな」
「ほんとねぇ。一緒にいても誰? って気がするし」
「確かに」
「あー、うー、だっ」

 魔道具を解除して元に戻ったところで、俺たちは再びあたりを見渡したのち、誰もいないことを確認して街道へと戻った。

「そういえば、サーナはまだ話さないよなぁ」
「そうだよね。確かそろそろ話してもいいとは聞いているけれどね」
「まぁ、こういうのは突然やってきそうだしな。まぁ、気長に待つしかないだろ」
「そうね。でも、最初はなんて話すかな」
「そりゃぁ、ダンクスじゃねぇか」
「いや、なんでだよ。俺の名前かもしれねぇぞ」
「いやいや、あたしだよ。あたしが一番お世話しているんだからね。ねっ、サーナちゃん」

 俺たちはよくこうしてサーナが初めて話すことを話し合うことがある。もう立派な親ばかみたいだ。

 そんな会話をしつつ街道を歩くこと3日、ついにブリザリア王国最初の街へと到着したのだった。

「次の方、ようこそメディスカルンへ、身分証はお持ちですか?」

 驚いたことに番兵は女性だった。実はコルマベイントをはじめウルベキナでも兵士はみな男で、女性兵士というものはいない。だからだろうかダンクスはかなり驚いていた。

「へぇ、ブリザリアでは女性も兵士になれるんだ」
「はい、あっ、もしかして外国から来られた方ですか?」
「ええ、コルマベイントよ」
「そうでしたか、確かそちらには女性の兵士はいないのですよね」
「ええ、見たことないわね。コルマベイントもこの国の影響で多少は女性もそれなりに立場はあるけど、兵士はやっぱり男性のみになるかな」
「そうですね。まぁこれは仕方ないことではあるとは思いますが、わが国では女王陛下の意向で女性にも多くの門徒を広げるようになっているんですよ。それに女性の兵士がいれば陛下の身辺警護の際に何かといいですから」

 番兵の言う通りだと思う、女王を警護するのが男だと何かと不都合が起きることだってある。たとえば女性しか入れないような場所での警護、そこに男性兵士を入れるわけにもいかないだろう。例えば風呂とかトイレとか寝室とかだな。男の王であれば、そこに男女はあまりないんだけどな。

「確かにそうね。ああ、あたしたち旅をしているから身分証はないのよ。だから、通行料を払うわ」
「あっ、はい、では、コルマベイントの通貨では、大人1人1200トラム、子供は600トラムです。そちらの赤ちゃんは大丈夫です」
「そうなの。それじゃ、これね」

 サーナは無料らしい、まぁ赤ん坊だしな日本でも普通そうだし、というわけでシュンナは俺たちの分3000トラムを支払った。

「はい、確かに、では、良き旅を……」

 番兵に見送られて俺たちは街へと入っていったのだった。

「やっぱり、女性だけあって人当たりが柔らかかったわね」
「そうだな。男だとどうしても高圧的になるからな」
「ていうかあの番兵終始サーナを見てたな」
「ああ、もしかしてバレたか?」
「いや、かわいかったからじゃない」

 そんなことを話しつつ街の中を歩いているわけだが、なんだろうかちょっとこれまでの街とは雰囲気が違うな。

「こうしてみてみると、巡回している兵士も女が多いな」
「そうね。でも、男の人も結構いるわよ」
「見たところ侮られているって様子もなさそうだな。ていうか、見ろよあの女性兵士、なんか恐れられてねぇ」
「ああ、確かに」
「なんか迫力があるな。あいつ」

 街を巡回している女性兵士が通ると、近くにいた男たちは一歩下がり、女性たちは一歩前に出ている。一体あの兵士は何をしたんだ。

「結構強そうよね」
「ああ、かなり鍛え上げているな。ぱっと見はそうでもなさそうだが」
「そうなのか、2人がそうみるんなら相当だな」

 シュンナとダンクスがその女性兵士を見て強そうだといっている。俺にはまだそこらへんは分からないが、2人が言うのなら間違いなく強いんだろうな。

「あぎゃぁ、おぎゃぁ、ぎゃぅ」

 その時急にサーナが泣き出した。なんだ、おむつか、腹減ったのか。

「ああっ、よしよし、いい子、いい子、どうしたのサーナちゃん」
「どうした?」

 サーナの鳴き声を聞いた先ほどの女性兵士が話しかけてきた。あれっ、さっきまで少し離れた場所にいた気がしたんだが、いつの間に近づいてきたんだ。

「あっ、いえ、この子が急に泣き出してしまって」
「ほぉ、赤子か……ふむ、これは、おむつのようだな。どれ、こっちへ来ると良い」
「えっ、あ、ありがとう」

 そう言ってすたすたと歩いて行ってしまい、俺たちも特に怪しい気はしなかったのでその背後についていく。そうしてやって来たのは、近場にあった詰め所だった。

「ここでいいだろう、ほれっ、その台に寝かせて」
「え、ええ」

 兵士に言われてシュンナは素直にサーナを台の上へ寝かせた。すると、兵士が手早くサーナのおむつをはぎ取り、って、はやっ!

「やっぱりか、替えはあるのか」
「え、ええ、これだけど……」
「貸してみろ」

 シュンナから替えのおむつを奪うとこれまた素早くおむつの交換を行っていく兵士、なんだ一体。

「よしっ、これでいいだろう」
「あ、ありがと、でも、よくわかったわね」

 シュンナの言う通り俺たちだって、まだサーナがどうして泣いているのかすぐには理解できない。それを初見であんなに早く判断できるって、すげぇな。素直に感心してしまった。

「ああ、すまないな。私は弟妹が多くてね。両親が共働きだからいつもわたしが弟妹達の世話をしていたんだ」
「隊長って確か8人兄弟でしたっけ」
「ああ、私が一番上だからな」

 近くにいた別の女性兵士によるとそういうことらしい。つまり、長女として弟妹達が赤ん坊のころに世話をしていた経験で、サーナがなぜ泣いているのか看過したということだろう。まさに経験がなせる業という奴か。

「なるほどなぁ。それだけ兄弟いりゃぁ、あの手際のうなずけるってもんだな」
「そういうことだ。おっと、出過ぎた真似だったな」
「いえ、助かったわ。あたしたちもまだわからないことが多くて」
「そうか、それならよかった」
「そんじゃ、そろそろ行くか」

 ダンクスがそう言って、おむつを替えたことでご機嫌となったサーナを抱き上げた。

「ほぉ、珍しいな」

 ? ダンクスを見た兵士がそう言った。どういうことだ。

「何が?」
「ふむ、済まぬな。我が国では当たり前のことだが、他国ではそのように男性が赤子を抱くことなど珍しいと聞いたのでな」
「ああ、そういう」
「確かに、コルマベイントでも男が赤ん坊を抱くなんてことはねぇな。でも、俺は別にそういうことは気にしねぇし、何より俺たちの場合ほとんど俺がやってることだしな」

 ダンクスの言う通り、サーナを抱くのはほとんどダンクスでたまにシュンナが抱いている。これは先も言ったようにシュンナは普通の女性より少し力が強いというだけなので、長時間抱き続けるほどの力がないからだ。それに対してダンクスならどれだけ抱き続けても全く問題ない。

「そうなのか。それは素晴らしいことだな」

 そんなダンクスの答えに女性兵士たちは素直に感心していた。とまぁ、こうして兵士たちと戯れていてもいいがさすがにこれ以上彼女たちの仕事の邪魔をしては悪いということで、礼を言いつつ詰め所を後にしたのだった。


 再び街に繰り出した俺たちはというと、いつものように街をぶらついてから宿を取ったのだった。

「はぁ、それにしてもこの街ってなんだか今までの街と雰囲気が違うよね」
「よっと、ああ、確かにそうかもな」
「だな。でも、多分それは、女性向けの店が多いことや、兵士や冒険者に女性が多いからじゃないか」

 これまで通ってきた街では、基本男性向けの店が多かった。その理由は、コルマベイントもウルベキナもともにブリザリアの影響を受けているとはいえ男社会のため、店などは主に男性向けが多い。一応女性向けの店もあることはあるが、どの街にも大体1つから2つ程度しかなかった。それに対してこの街はパッと見ただけで多くの女性向けの店が点在していた。その上、やはり目につくのは女性兵士や冒険者だろう、これまで冒険者であればそれなりに数は見かけたが、この街の女性冒険者は数が多い、といっても男性冒険者が少ないというわけではなく、もちろん女性冒険者よりは圧倒的に多いのは確かだが、それでも印象として多いと思う。

「ああ、なるほどね、確かに言われてみると、かわいいお店とか結構あったよね」
「そうか?」

 ダンクスは気が付かなかったようだが、シュンナは心当たりがあるようだ。

「スニルはよくわかったな」
「俺の場合は前世の記憶があるからだろ、前世の世界も男女平等をうたっていたから、女性の社会進出が普通だったからな。ていうか向こうじゃむしろ男性向けのほうが少なかったからな」
「そうなのか」
「そうそう、男ってほらものをめったに買わないだろ」
「確かにな。服なんてめったに買わないな」
「だろ、でも女はちょっとしたことですぐに服を買うから、商売をする上では男より女向けにしたほうがいいんだよ」
「そういうもんか」

 とそんな会話をしつつ夜は更け、翌日俺たちはまた街へと繰り出していった。

「今日は、別行動にしましょうか?」
「ああ、そうだな。でも、サーナはどうするんだ」
「あたしが連れて行くわ。せっかくかわいいお店もあるしサーナと一緒に見て回ろうと思うし」
「そうか、わかったぜ。それじゃ、俺は武器屋にでも行くかな、スニルはどうする」
「そうだな。適当にぶらつくさ」
「そっか、それじゃ、昼に合流しようぜ」
「だな、中央広場でどうだ」
「いいぜ」
「わかったわ」

 それから俺たちはいつものようにばらばらに別れてそれぞれが自分の生きたい場所へと向かうのだった。

「俺はどこいこっかな。とりあえず技術を見るためにも武器屋にでも行ってみるか。といってもダンクスが行ったところに行ってもなぁ。おっと、あそこに行ってみるか」

 そう言うことで、ダンクスが入っていったところとは別の武器屋へと足を踏み入れたのだった。

「いらっしゃい、おや、子供とは珍しいな。何か用か坊主」

 俺が店に入ると店主がそう言ってきたわけだが、これはよくあることだ。

「ちょっと、どんな武器があるのかを……」
「そうか、まぁ、見るだけならいくらでも見ていきな」

 俺が買わないと知るや否や店主はそっぽを向いてしまったが、気にせずに店内を物色していく。

「武器となるとどこも同じだな。おっ、これはなかなかよさそうだな」
「うぉ、なんだこれ?」

 店内を見て回っていると背後から、そんな聞き覚えのある声が聞こえてきた。

「ダンクス、ずいぶん早かったな」
「おう、スニルか、いやなに向こうはゴミみたいなものしかなくてな」
「へぇ、それはまた、それでどうしたんだ?」

 ダンクスが向かった武器屋は使えない物ばかりだったらしく、すぐに出てこっちの店へとやって来たということだった。それはそうと、先ほどの声は一体何だったんだ。そう思って聞いてみた。

「ああ、あれ見ろよ」
「あれ?」

 ダンクスが指さしたほうを見て、絶句した。なにあれ? 今までなんで気が付かなかったんだと思うほどの異様な光景が広がっていた。

「なんで、ピンク?」

 武器の装飾と言えば、暗めの色を使った無コツなものが多く、たまに赤とか青とかがポイント的に入っている者はたまに見る。しかしこれはなんというか全体的にピンクをはじめ、そういった系統の色でまとめられている。これじゃ武器というよりおもちゃみたいだ。

「向こうの店もほとんどがこんな色だったぜ。しかもどう見ても使えねぇものばかりでな」

 ダンクスが言うには最初に行った店は入った瞬間にピンクなどの配色を施したまさにおもちゃみたいなものしかなかったらしい。

「もしかして、お前さんらよそから来たのか?」

 俺たちが困惑していると店主が話しかけてきた。

「ああ、コルマベイントだが、なぁ、なんでこんな装飾がされてるんだ」
「そいつは女性向けだ。以前はうちも普通の武器を扱っていたんだがな。女性冒険者が増えるにつれて、注文が来るようになったんだよ。そんな色にしてくれってな」
「ああ、そういうことか」
「そういえば、シュンナも武器の色がかわいくないとか言ってたような気がするな」
「そうだっけか、ならシュンナなら喜ぶってとこか、見たところ武器自体はいいものだしな」
「当たり前だ。そんな色だろうと使えねぇもんなんて売らねぇよ」
「まっ、そうだろうな」

 それから俺たちはまた別れたのち、中央広場で合流。そこでシュンナに武器屋のことを話したところさっそく行ってみるとのことで向かっていったのだった。
 こうして。過ごすこと2日メディスカルンを出たのだった。

「次の街は、なんだっけ」
「確か、ルンボーテって街だったはず」
「そんじゃ、そこに向かって行くか」
「そうね」
「だっ」

 というわけで、俺たちは次の街ルンボーテを目指して街を出た。



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 3日後、俺たちの目の前にルンボーテの防壁が見えてきた。

「あれか、こう見るとほんと街の防壁ってのはどこも同じだな」
「そりゃぁ、変えようもないからな」
「街によって装飾とか変えてもよさそうなものだけどね」

 そんな会話をしながら俺たちはルンボーテへと入ったのだった。

 そうして、これまたいつものように俺たちはばらばらに過ごして、その夜俺は夢を見た。


「よぉ、XXXX、おっと、悪い今はスニルだったな。久しぶりだな」

 夢の中でそんな声が聞こえてきた。なんだろうかとあたりを見渡したところ、いつの間にか目の前に人が立っていた。

「か、神様?」
「おう、そうだぜ」
「え、えっと、なぜ神様が?」
「いやなに、ちょっとな。ええと、その前にまずはすまなかったな」

 神様はそう言っていきなり俺に頭を下げてきた。

「えっ? えっ?!」

 もう意味が分からない、なんで神様は俺に頭を下げてきたんだ。

「まさか、転生先の両親がいきなり命を落とし、その上に虐待まで受けた。俺もこいつは予想外だった。すまない」
「い、いえ、それは神様が謝ることでは、というか俺が死なないようにしてくれましたし」
「いやなに、俺も少し焦ってな。記憶を取り戻す前に死ぬとかさすがにないだろ、だから苦肉の策としてつけたんだが、いやぁ、良かったよかった」

 神様はそう言ってほっとしている。

「おかげで助かりましたよ。まぁ、あまりいい思い出ではないんですけど、もう少し記憶が戻るのが遅かったら、俺の精神完全に死んでましたし」
「お、おう、そうだな。そっちも何とかしたほうがよかったんだろうが、これ以上は難しくてな。まぁ、なんにせよ。すまなかった。もう一度謝らせてくれ」
「いえ、神様が気にすることではありません。ところで、神様今回はそれについてですか?」

 さっきから神様は俺に謝罪ばかりだけど、もしかしてそれだけのために俺の前に出てきたんだろうか、そうだとしてもなぜ今?

「ああ、それはな。そんなお前さんに詫びとして贈り物を用意しててな。本来ならあっちからお前さんを探しに行くはずだったんだが、ちょうどお前さんたちが近くにいるもんだから知らせておこうと思ってな」

 贈り物、神様から? 一体何なんだろうか。
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