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第05章 家族

07 増築

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 ルンボーテに戻ったその日、俺たち親子は水入らずで過ごし、俺の服や両親の装備を整えていったのだった。

「へぇ、良かったじゃない」
「まぁ、な。それでシュンナもサーナにまたいろいろ買ったのか?」
「そうなの、聞いてよスニル……」

 それからシュンナがサーナに買ったものを見せられ説明を受ける羽目となったが、俺自身シュンナがどんなものをサーナに買い与えたのかが気になったので、特に苦になるということはなかった。尤も、途中で母さんが参加し始めたのには少々疲れたけどね。なにせ母さんは今日俺に買った服などを広げ始め、シュンナと一緒になって来てみろと言い出し幾度となく着替えをさせられてしまったよ。


 翌日、起きるといつもの通りダンクスがすでに起きていた。

「おう、起きたか」
「ああ、まぁな」
「ん、ああ、そうか、スニル、おはよう」
「おはよう、父さん」

 俺が起きるとすぐに父さんも起きたようで挨拶を交わす。これでこの部屋にいるものはすべて起きたことになる。そう、今回から宿の部屋は2つ取り男女で別れることになった。これまではシュンナ1人だけ別というのもシュンナ自身が拒否したために同室だったし、サーナが加わったところで、シュンナ1人にサーナの夜泣きを押し付けることになりかねなかったことから続けていた。しかし、父さんと母さんが加わったことで6人となり、さすがに6人部屋は存在せず、それならと男女で別れて泊ることとなった。まぁ、それによりサーナの世話をシュンナと母さんに任せることになってしまうが、シュンナは聞くまでもなく、母さんは楽しそうにしていた。なんでも夜泣きは大変でもその世話をすることに幸せを感じるらしい。まぁ、喜んでいるなら良しとしようというわけで、この部屋割りとなった。

 それからしばらくして俺たちの部屋の扉がノックされた。

「入るよー」
「おう」

 シュンナの声がしてダンクスが代表して答えた。そして、部屋の中にシュンナと母さん、サーナが入ってきた。

「朝ごはん行くでしょ」
「ああ、そりゃぁな」

 今度は俺が答えて、みんなで1階の食堂へと降りていったのだった。それから、みんなで朝飯を食べて、一旦俺たちの部屋へと戻った。その理由は、今後の予定を話し合うためである。

「それで、これからどうするの」
「とりあえず、ルンボーテはもういいと思うだけど、どうだ」
「あたしも大体見たからいいかな、ダンクスは?」
「俺もだな。だが、ミリアとヒュリックはまだ昨日ついたばかりだろ」
「そうね、でも、私たちも昨日大体見られたし、いいと思うわ。ねぇ」
「ああ、そうだな。俺たちはこれといってみたいものがあるわけでもないからな。昨日は久しぶりにスニルと3人で街を回れたわけだしいうことなしだ」
「そうね」

 父さんが言いながら俺の頭に手を当てると、母さんも微笑みながら俺に抱き着いてきた。

「そんじゃ、次の街、っと行きたいんだけど、その前に増築する必要があるだろうなぁ」
「ああ、増築かぁ。確かにそうだな」
「そうだったわね。人数も増えたし、必要よね」
「増築?」
「何をだ?」

 俺たちが増築というと、父さんと母さんはそれが何のことかわからないようだ。そこで、説明をすることにした。

「テントのこと、あれって空間魔法で広げたところにダンクスと俺で部屋のように作ったものなんだけど、父さんと母さんの部屋作る必要があるでしょ」
「さすがに、スニルの部屋に3人は狭いと思うしね」
「うーん、私はそれでもいいけれど、そうよねスニルも14歳だものね。親と同じ部屋というわけにもいかないものね」
「そうだな。それにスニルもそうだが俺たちもこれからでかくなるし、そうなると余計に狭くなるな」
「そうそう」

 今現在の俺たち親子はみんな130cmほどで子供だから、今のままでもなんとかなるが、それぞれの年齢を考えるとまさに成長期、この時期となると中学生となるわけだが、前世の俺だって30cmは伸びたからな。そう考えると間違いなく狭くなる。

「というわけで、2人の部屋を増築しようと思うんだけどいいかな」
「ああ、いいぞ」
「そうね、そうしましょうか。でも、どうやって作るのかしら」
「それは、俺たちでやるしかないな。あれはさすがに表に出すわけにはいかない代物だからな」
「表に出たら、大騒ぎだろうからな」
「そういう面倒は遠慮したいな」

 俺のテントは、どう考えても多くの者たちが欲しがるからな。特に王侯貴族とか、連中とかかわるのはできれば勘弁してほしい、ろくなことにならなさそうだ。

「ありうるから厄介だな。それじゃぁほかの人間に頼むというわけにはいかないってことか」
「そうなるかな」
「となると、まずはどんな間取りにするか決めないと」
「おおぅ、そうだな。んで、どうするか、部屋を2つ作るか1つにするか」

 俺はそう言ってから父さんと母さんを見た。つまり、2人で1つの部屋にするか、別にするかというわけだ。今現在2人は子供だが元は夫婦、特に同室でも問題ないし、まぁ今までもそうだったらしいから聞いてみた。

「そうね。これまでもそうだったし、生まれ変わっても私たちは夫婦だから、一緒の部屋でもいいわよ。ねぇあなた」
「そうだな。2つ作るのも大変そうだし、1つのほうが楽だろ」

 父さんと母さんは問題ないと同室を選んだ。まぁ、もともと夫婦だしね。

「なら、部屋は1つと、2人だから少し大きめにした方がいいだろうな」
「だな、木材とか足りるか?」

 部屋は1つと決まり、その部屋は2人部屋というわけで少し大きめにすることにしたわけだが、材料はあったかな。”収納”には前回の増築や孤児院を建て替えた時などの木材がいくらか入っている。それを確認してみたがどう考えても部屋を1つ作るには足りないように見える。

「足りないな」
「なら、あとで材木屋に行って木材を買いに行く必要があるな」
「それと、家具なんかも買わないといけないよね」
「ああ、そうだな。あっ、そうだ。父さん、母さん」
「どうしたの」
「なんだ、スニル」

 家具と聞いて思い出したことがあった。

「気が付いたかもしれないけれど、俺の部屋で使っている家具とかもそうだけど、家から持ってきたものが多くて、使っているベッドとか箪笥とか」
「ああ、それで」
「見覚えがあると思ったらそういうことだったのね」

 やはり自分たちの物だけあって気が付いていたようだ。

「そう、それであれどうする?」

 どうするというのは返すのかどうかということだ。

「そうねぇ。スニルが使っているのだからそのままスニルが使うといいとは思うけれど、あの箪笥とかはお母さんが子供のころから使っているからもうだいぶボロボロでしょう」
「いや、まだ使えると思うんだけどな」

 母さんはボロボロだというが、確かにところどころ剥げていたり、傷が結構あったりするけれど使う分には全く問題ない。元日本人のもったいない精神からも使えるものは最後まで使いたい。

「いっそのことスニルの家具も買ったら」
「あらっ、いいわね。それ」
「えっ、いや俺は別に」
「スニルが使っているのって実家から持ち出した者でしょ。だから実家に戻るたびにテントから移動しないといけないから面倒でしょ」

 まさにシュンナの言う通りで家に帰ると、わざわざテントを出して家具類を一旦”収納”へ入れた後、家に帰ってまた出して設置するということをやっており確かに面倒だ。

「なんにせよ。材木屋と家具屋で別れるか」
「そうだな。それじゃダンクスは材木を頼む」
「おう」
「それじゃ俺もダンクスと一緒に材木を買いに行こう、ミリアは家具を頼むな」
「ええ、任せて」
「あっ、あたしも家具屋さんに行こうかな。かわいい家具とかあったら買いたいし」
「ええ、一緒に行きましょ」
「そんじゃ、俺はどうすっか」
「スニルはお母さんと一緒に家具屋さんよ。スニルの家具も買うのだからね」
「お、おお、わかったよ」
「サーナも一緒に行こうねぇ」
「あう、だぅ」

 こうして、ダンクスと父さんが材木屋へ向かい木材を購入することになり、俺と母さんシュンナとサーナの4人で家具屋へ行くことになった。

「それで、お金はどこにあるの」

 材木を買うにも家具を買うにも当然だが金が必要だ。母さんはその心配をしている。そういえばまだ俺たちの資金を言ってなかったな。

「それなら大丈夫だよ母さん、俺たちの金は全部シュンナが持ってて、俺とダンクスはそこから小遣いの形でもらっているんだ」
「へぇ、いい判断ね。男たちにお金を渡すと変なものを買ってくることがあるからね」
「そう、そうなんだよね。ダンクスもスニルもたまにいらなそうなものを買ってくるのよ」
「いやいや、あれは必要になるって」
「でも、今まで使ったことないよね」
「うっ、いや、それはまだ来ないってだけでだな」
「そ、そうだぜ。絶対そのうち必要になるって」

 シュンナから呆れの目で見られながら言葉を紡ぐ俺とダンクスであった。そんな俺たちの様子を見ていた母さんはなんだか微笑んでいた。

「まぁよ。それはともかくシュンナ金をくれ」
「はぁ、わかったわよ。余計なもの買わないでよ」
「わかってるって」

 シュンナは一応という感じに忠告してからダンクスにある程度の金を渡したのだった。余談だが、俺たちの中で最もまじめなのがダンクスだ。そのため、今シュンナが渡した金が俺たち共有の金であることは分かっているのでそれを使って自分の欲しいものを買うことはまずないという確信が持てる。シュンナもそれが分かっているために一応という風に行ったわけだ。

「そんじゃ、行ってくるぜ。待ち合わせは南門でいいか」
「そうだな。そうしよう。多分だけどこっちが遅くなる気がするから、適当なところで時間をつぶしたほうがよさそうだが」
「だな。わかった。適当にしてるさ」

 そう言ってダンクスと父さんは部屋を出ていき、それを見送った俺たちもまた準備を整えてから部屋を出たのだった。


「考えてみると、シュンナが付いてきたのはよかったな」

 家具屋への道を歩いている中ぽつりと俺はつぶやいた。

「どうして?」

 そんな言葉に隣を歩いていた母さんが聞いてきた。

「いや、ほら、俺もそうだけど母さんも今は子供だろ、そんな子供が2人で家具を買いに来たって無理ない」
「ああ、そういえばそうだったわね」
「ちょっと、忘れてた。なるほど確かのそう考えると確かにあたしが一緒のほうがいいよね」

 俺が言ったように俺と母さんはそれぞれ14歳と12歳、年齢だけでも子供だが特に俺は14歳にしては小さい。そんな俺と母さんが行ったところで子供買い物にしか見えないだろう。そこにシュンナという大人が加わることでようやく家具屋も普通に対応することだろう。まぁ、それでも子供率が高いんだけどな。

「そうね。助かったわシュンナ」
「あははっ、そうだよね。ミリアもスニルも子供だものね。時々忘れるんだよね。ほらスニルって記憶の関係で中身はあたしよりもずっと上だし、ミリアはそのお母さんだもんね」
「上ったって、精神的にはたぶんシュンナのほうが上じゃないか、俺そっち方面は全く成長してないから」

 前世でも精神的には子供のまま大人だったからな。どちらかというと俺の精神は今の肉体年齢に合致しているんじゃないかと思えるんだよな。まぁ、おっさんなところは否定しないけどな。

「あら、それじゃ私がすごい年上みたいね」
「はははっ」

 とまぁ、和やかに家具屋へと向かったのだった。平和だ。それから俺たちは家具屋においてシュンナと母さんがあれやこれやと見て回るのを見ながら、時々意見を求められてのなんとも疲れる買い物を済ませてから、ダンクスと父さんとの待ち合わせ場所である南門へと向かったのだった。

「お待たせ」
「ずいぶんと長かったな」
「いいのがいっぱいで迷っちゃったんだよね」
「そうそう、いい街ねここ」

 シュンナと母さんはほくほく顔でそういったが、俺は少し辟易していた。

「お疲れ、スニル」
「全くだ。それで、そっちはどうだったんだ材木」
「問題なく買えたぜ。少し多めに買ったけれど、いいよな」
「いいんじゃないか」

 材木は多くあったほうがいいだろう、作っていて失敗して作り直しということもあるだろうし、急に必要になることだってある。多くあって困ることはない。

「というわけで、シュンナこれつりな」
「ええ、結構使ってる? 高かった?」
「いや、それほどでもなかったが、少し多めに買ったからな」
「なるほどね。まぁ、材木だしいいか」

 シュンナの許しも得たところで俺たちはさっそく街の外へと向かうことにした。なにせテントの改造をするわけだから、街の外でやるわけにはいかないからな。


 そう言うわけで、南門から出て2時間ほど歩いた場所へとやって来た。

「この辺りなら人目もないし、森の奥に入ったら大丈夫だろ」
「そうね。いいと思う」
「そうだな。いいんじゃないか。なぁミリア」
「ええ、そうね」
「んじゃ、決まりだな」

 全員一致で決まったところで俺たちはさっそく森の奥へと入り、”収納”からテントを取り出した。

「いつ見てもスニルのそれはすごいな」
「ほんとね。確か”収納”って魔力量で中の大きさも変わるのよね」
「まぁね。でも俺の場合メティスルのおかげで魔力量がほぼ無限にあるから、”収納”もほぼ無限に入れられるんだ」
「無限って、すげぇな」
「本当だよな。俺たちもかなり”収納”には助けられてるよ」
「全くねぇ、特にいつでもおいしい料理を食べられるとか冒険者時代を考えるとありえないって」
「本当ねぇ」
「あははっ、でもこれでも多少は容量減っているんだけどね」
「そうなのか」
「ああ、ほら普通の”収納”って時間経過もあるだろ。でも俺のは時間経過もないようにしてあるんだ。だからいつでもうまい料理が出来立てで食える。でもそれには魔力消費量が倍近くあって、だから俺が普通に”収納”を使うより半分になっているんだ。まぁ、それでも元が元だから、ほとんど変わらないようなもんだけどね」

 無限の半分は結局無限のようなものだ。

「そう考えると、ほんとすごいな俺たちの息子は」
「そうね。本当ねぇ」

 そう言って父さんと母さんに頭をなでられた。2人はこうして俺を子ども扱いしてくる。まぁこれは仕方ないのかもしれない、2人にとって俺はやはり2歳のままだからな。でも、一応14歳だからできれば勘弁してほしい。ていうか中身はおっさんだから余計にな。まぁ、おっさんだからこそ我慢もできるんだけどな。

 とまぁ、ンなことはどうでもいいとして、問題はこのテントをどう改造するかということだ。
 それから、俺たちはそれぞれが考えていたアイデアを出し合ってダンクスが図面を引いたのだった。元騎士のダンクスは騎士の訓練課程でそういったことも学んだらしい。一体どういう騎士だったんだろうかわからん。まぁ、そのおかげでこうして助かっているんだからいいけど。

「それじゃ、さっそくはじめっか、まずは、この壁をぶち破るぞ」
「おっしゃ、任せろ」

 こうして、俺たちのテント増築工事が始まったのだった。
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