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第06章 獣人の土地
12 来訪者からの相談
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族長の家に行ったら突如放置された。ていうか族長と一緒にいる若い男が族長のことを東とか言っているし、族長もそう名乗っているけど、どういうことだろうか。
「……おおっ、すまんなスニル。待たせてしまったようだな」
族長がそう言って誤ってきたので俺は首を横に振って返事をした。
「それより、なに?」
「ずいぶんと、不愛想な子供だな」
俺は最小限にしかしゃべらないのを見た知らない男がそう言ってぼやいている。
「この子は訳在って人見知りが激しいそうだ」
そんなぼやきに対して族長が男に答えた。ていうか、2人のやり取りはいいから用件を言ってほしい。
「おっと、すまんな。今回スニルを呼んだ理由だが、こ奴に紹介するためなんだ」
「?」
「この者は中央獣人族族長の息子でアグリスという」
「中央?」
「ああ、そうかお前たちには話していなかったな」
そう言って族長が説明してくれたことによると、俺たちが今いるこの森は大陸南部に位置しておりその大きさは大陸の1/3を占めているという。確かに俺の”マップ”を確認すると、大陸南部にはいまだ白地図状態ではあるが巨大な森となっている。
ここでちょっとした余談だが、俺の”マップ”に記載されている白地図は神様がこの世界を作った際の情報であり、その後人間によって改変された情報は記載されていない。だから、白地図で森となっているここは神様が作った時点でも森として作られたというわけだ。
それから、ここに来る際にわたってきた巨大な川だけど、実はこれ正確には川ではなく海なんだよな。というのも森に沿って弧を描くようにあり、両端が海につながっているからだ。つまりだ、この森は巨大な島ということになる。んで、まぁそれはいいとして、問題はこの島の分布についてなんだが、中央に魔族が住みその周りにエルフ、そのさらに周囲、つまり島の外延部に獣人族が住んでいるそうだ。こうなった理由は単純に人族に追いやられた順番だという。つまり最初に魔族が追いやられて次がエルフ最後に獣人族というわけだ。ちなみにドワーフもいるが彼らは島の中心にそびえたつ山の洞窟内に住んでいるそうだ。
それで問題の東やら中央というのは、島の分布において獣人族が島の外延部であり、北側から逃れてきたことから島の西側を西獣人族、北側中央部分を中央獣人族、東側を東獣人族と呼称してそれぞれの族長が治めているそうだ。そして、俺が今いるここの集落の族長がその東獣人族の族長も兼ねているというわけだ。
「へぇ、なるほど、それで、その中央がなぜ俺に?」
気になるのはこれだ、どうして中央獣人族の族長の息子に俺を紹介する必要があるのだろうか。
「ふむ、そのことなんだがな」
そう言ってから再び族長が説明してくれたが、なんでも中央にある噂が流れてきたという。その噂がここ東のハンターたちが撤退をしたということだった。これを聞いた中央はどういうことかと思い、真相を確かめるためにアグリスを送り込んできたという。そうして、族長がアグリスに俺が作った魔道具のおかげであることを話したことで俺を紹介という流れになったという。なるほど確かに俺が作ったものだから当然と言えば当然か。
「我らとしてはその魔道具をぜひとも手に入れたい。我らは依然として同胞が連れ去られている」
アグリスによると、ここ東側はハンターが撤退したが中央ではいまだにハンターたちが暴れているという。しかも、最近になってそのハンターの数が増えているという。もしかしなくとも多分こちらにいたハンターが流れていったと考えるべきだな。実際エイパールで聞き込みを行った際に別のギルドに映ったほうがいというアドバイスをもらったからな。
「奴隷の首輪?」
奴隷の首輪はシムサイト商業国で製造販売されている。そしてその製造の魔法陣を俺が改造したこともあり、今出回っている首輪はほとんどが俺が改造したものが広がっているはずだ。となると警報の魔道具を作らずともそろそろ首輪が機能しなくなるのではないかと思うんだけど。そういったことを一言で済まそうとしたんだが、どうやら族長とアグリスには通用しなかったらしい。首をひねってるよ。
「あなた、スニル君はあの事を言っているのでないかしら」
「あの事、ああもしかして改造したというあれか」
「……」
メリルさんの助けもあって族長が理解したのでうなずいておく。
「東の、改造とは?」
「うむ、わしらの勝利の要因はこの警報の魔道具だけではなく、スニルが奴隷の首輪の製造に関して改造を施したからなんだ。確か、機能としてはそのままだが犯罪などを犯した者以外にはハメることができないようにしたのだったな」
「……」
族長の説明にうなずいた。
「なっ、そんなことが可能なのか?」
アグリスはかなり驚愕している。
「わしもよくはわからんができるそうだ。実際そういった機能しなくなった奴隷の首輪もいくつも見ているし、何よりここ最近は警報よりもそちらで反撃ができていたな」
「ええ、そうね」
族長の言葉にメリルさんが同意しているがアグリスは驚愕したままだ。
「そっちでもあるんじゃないのか、そうした機能しなくなった首輪が」
族長がアグリスにそう尋ねた。中央のほうが遠いから流通は遅いかもしれないがあってもおかしくはない。
「た、確かにそういった報告も来ている。しかし、それがこの子供の仕業というのが、どうも……」
信じられない。そう言いたいのだろう。まぁ、俺みたいな小さな子供がそんなことをしたと聞いても信じられないのも仕方ない。
「わしも信じられなかったが、ここのところずっと見ていたからわかるんだが、スニルは間違いなく天才だ。魔法に関してならおそらく魔族よりもはるかに上だろう」
「そ、そんなにか!」
族長が上げた魔族、先ほども島の分布で出たが彼らは別に世界征服をもくろ人間に敵対している種族ではなくただ魔法に長けた人間の一種のことだ。その魔族よりも上だと聞いて驚愕もひとしおのようだ。
「はっ、ま、まさか、大賢者か!」
アグリスは俺が大賢者スキルを持っているのではないかとあたりをつけたようだが、確かに大賢者スキルがあればこれぐらいならできると思うかもしれないな。なにせ大賢者は一般的に知られている魔法に関する最高のスキルだからな。
「いや、それより上のスキルだそうだ。確かメティスルといったか?」
「……」
俺が大賢者よりも上位スキルであるメティスルを持っているということは族長にも話している。そのほうが説明が楽だったからだ。実はこれまで旅の中ではなるべく俺がメティスルを持っているということは隠してきた。その理由はキリエルタ教にある。聖教国で聖地巡礼したからわかったんだけれど、どうやらキリエルタは大賢者を持っていたようだ。そのため賢者や大賢者を持っている人族は教会に詩人とか御子とか言って狙われる可能性があった。それはそれで面倒だったし、俺も教会に囲われる気は毛頭なかったので隠していたというわけだ。だが、ここ獣人族の土地では特に面倒ごともないと判断して話したというわけだ。
「そんなスキル、聞いたことないが」
「わしも今回のことで初めて聞いた。しかし、そのスキルがいかなものかということは否応なく理解させられたものだ」
族長はそう言って少し遠い目をした。ちなみに族長たちには俺が前世の記憶持ちであることや、神様とあっているという事実は話していないが、”森羅万象”については話しているので俺が前世などの知識を用いてもそれで納得している。
「にわかには信じられないが……」
アグリスは何やら深く考え込み始めた。
「スニルといったな」
「……」
考えた後アグリスが俺に対して向き直りそう言いだしたので、俺は黙って首肯した。
「頼みがある。人族であるお前に頼むのは業腹ではあるが、これも一族のため力を貸してほしい」
何やら一言余計なことがあったが、この一言にこそいかに獣人族が人族に苦しめられたという事実と思いがあるのだろう。
「わかった」
だからこそ俺はその思いにこたえるために即答でうなずいたのだった。
ということでまずこの集落にある警報の魔道具をいくつか渡すこととなった。
「助かった。これで我等中央も奴らに勝って見せる」
「うむ、中央によろしくな」
アグリスは意気揚々と帰っていったのであった。
「へぇ、そういうことになってるんだぁ」
「西と中央と東ねぇ」
「というかそんなに獣人族っているんだな」
「そうね。それにほかにも種族がいたとはね」
テントに帰ってさっそくみんなに先ほどの話を聞かせたら、それぞの感想がこれだ。
「それにしてもおかしくない」
「何がだ」
母さんがそう言ってダンクスが尋ねている。一体母さんは何を不思議がっているんだ。
「スニルはシムサイトで奴隷の首輪を改造したのよね」
「ああ、そうだよ」
正確には製造の魔法陣の改造だ。
「それから1年以上が経って、最近使われたものはほとんどがその首輪だったのよね」
母さんが言うように俺たちがここに来た当初はまだ俺が改造した首輪はたまにある程度であった。しかし、ここ最近使われていた奴隷の首輪は大半がその改造後の物となっていた。だからこそハンターたちが撤退したといってもいいだろう。
「でも、その中央ではまだ拉致被害者が出てる。確かにここはシムサイトから一番近い場所でもあるのだけれど、それでも中央でもその首輪が広まっていてもおかしいと思わない」
言われてみると確かにおかしい、距離がある分流通が遅いのは仕方ないにしても、シムサイトもそこまで多くの首輪を作っているわけでもないし、ハンターたちは毎日多くの首輪を消費しているはずだ。となると当然過去の首輪はあっという間に使い果たし、新しいものである改造したものが流通していてもおかしない。にもかかわらず中央ではまだ被害者が出ている。どういうことだ。
「ねぇ、スニル」
考え込んでいるとシュンナが呼んだ。
「なに?」
「奴隷の首輪って作るが難しいの?」
「そうだなぁ。一から作るのは今現在のこの世界の人間には、たとえ大賢者を持っていてもそれは無理だな」
奴隷の首輪を製造する魔法陣は過去の天才が生み出した物らしいが、魔法陣を見る限りかなり複雑でいびつなものとなっている。それを一から作ることはおそらく無理だな。多分その天才も偶然の産物だったはずだ。また、俺がやっているように魔法陣を使わずに魔法式などをいじくってやるのも無理だろう。あれは俺が魔法式を完全に理解しているからこそできる芸当だからな。
「そっか」
「それがどうしたんだ。シュンナ」
「うん、もしかしたらシムサイト以外でも作っているのかなとか思ってさ。それだったらシムサイトの魔法陣を改造してても……」
「そっか、それだ!」
シュンナの言葉で気が付いた。
「なに?!」
俺が突然声を上げたものだからその場にいた全員が驚いている。
「シュンナそれだよ。多分、いや、間違いなくシムサイト以外でもあの首輪を作ってる」
「どういうことだ。スニル」
「おそらく、コピーだ。シムサイトの魔法陣をそのままコピーして別の場所で作っているとみて間違いないだろう」
「コピー? 何それ」
コピーという聞きなれない言葉を聞いて首をかしげる一同、そっかここにはコピーって言葉はなかったな。
「ええと、要するに書き写したってことだ。魔法陣は意味が分からなくともそっくりそのまま書き写すことができれば問題ないからな」
これが魔法陣の特色ともいえる。
「そっか、確か魔道具を作る際もこの魔法陣を書き写しているのよね」
「そう、通常の魔道具職人はいくつかある魔法陣を組み合わせて様々な道具を作っているんだ」
魔法陣に刻まれている魔法式はかつての人間たちは理解していたらしいが、現代はそれらは失われておりおそらく俺以外誰も理解することはできない。まぁ、もしかしたらどこかには理解できるつわものがいるかもしれないが。
「つまり、シムサイトが使っていた奴隷の首輪製造のための魔法陣を誰かが写し取って使っているというわけか」
「そうなるな。でも、おそらくだけどシムサイトがコピーを使っていた可能性のほうが高いけどね」
「どういうことだ?」
俺の言葉にダンクスが疑問を投げつけてきた。
「あり得るわね。シムサイトは商業国だから魔法陣を開発する技術を持つよりそれを買うほうが自然よね」
俺が答える前にシュンナが答えたが俺も同意見だ。
「ああ、なるほど確かにそのほうがしっくりくるな」
「だろっ。と、それはともかくだ。もし今の話が本当だったとしたら、ちょいと面倒なことになるぞ」
「どういうことだスニル」
「ここで、ハンターに勝てたのは俺が作った警報の魔道具もあるけど、もう1つ俺が奴隷の首輪を改造していたことが理由となる。この2つがあったからこそ特に問題もなく勝てた」
「そうだな。スニルがせっせと毎日作っていたからな」
「そう、すべて俺がこの手で作ってたんだよ。でもそれは改造首輪の流通が増えてきたからこそ問題が起きなかった。でも」
「そうね。もしシムサイト以外でも作っててそれが流通していれば、いずれ間に合わなくなるわね」
「ああ、それに向こうだって馬鹿じゃないんだから警報の魔道具の存在だってわかるだろ。そうなると捕まえた獣人族から警報の魔道具を奪ってからつけるか、首輪を使わずにさらって自陣に戻ってからつけるって手も考えられる」
その手が使われると意味がないんだよな。あれはあくまで大音量の警報が鳴って周囲に知らせるだけだからな。
「そうなると、別の方法を考える必要が出そうだ」
「そ、それは確かに面倒ね」
尤も面倒なのは俺なんだけどな。
「まっ、それはともかくさ。まずは中央で使われている首輪を手に入れれてみる必要がありそうね」
「だな。それをスニルが鑑定すれば、それがシムサイト産かがわかるんだろ」
「まぁな」
「だったら、族長に言って手に入れてもらってくるわ」
そう言ってシュンナはテントを出て族長の家へと向かったのだった。願わくば俺たちの予想が外れていますように、そう願わずにはいられないな。
「……おおっ、すまんなスニル。待たせてしまったようだな」
族長がそう言って誤ってきたので俺は首を横に振って返事をした。
「それより、なに?」
「ずいぶんと、不愛想な子供だな」
俺は最小限にしかしゃべらないのを見た知らない男がそう言ってぼやいている。
「この子は訳在って人見知りが激しいそうだ」
そんなぼやきに対して族長が男に答えた。ていうか、2人のやり取りはいいから用件を言ってほしい。
「おっと、すまんな。今回スニルを呼んだ理由だが、こ奴に紹介するためなんだ」
「?」
「この者は中央獣人族族長の息子でアグリスという」
「中央?」
「ああ、そうかお前たちには話していなかったな」
そう言って族長が説明してくれたことによると、俺たちが今いるこの森は大陸南部に位置しておりその大きさは大陸の1/3を占めているという。確かに俺の”マップ”を確認すると、大陸南部にはいまだ白地図状態ではあるが巨大な森となっている。
ここでちょっとした余談だが、俺の”マップ”に記載されている白地図は神様がこの世界を作った際の情報であり、その後人間によって改変された情報は記載されていない。だから、白地図で森となっているここは神様が作った時点でも森として作られたというわけだ。
それから、ここに来る際にわたってきた巨大な川だけど、実はこれ正確には川ではなく海なんだよな。というのも森に沿って弧を描くようにあり、両端が海につながっているからだ。つまりだ、この森は巨大な島ということになる。んで、まぁそれはいいとして、問題はこの島の分布についてなんだが、中央に魔族が住みその周りにエルフ、そのさらに周囲、つまり島の外延部に獣人族が住んでいるそうだ。こうなった理由は単純に人族に追いやられた順番だという。つまり最初に魔族が追いやられて次がエルフ最後に獣人族というわけだ。ちなみにドワーフもいるが彼らは島の中心にそびえたつ山の洞窟内に住んでいるそうだ。
それで問題の東やら中央というのは、島の分布において獣人族が島の外延部であり、北側から逃れてきたことから島の西側を西獣人族、北側中央部分を中央獣人族、東側を東獣人族と呼称してそれぞれの族長が治めているそうだ。そして、俺が今いるここの集落の族長がその東獣人族の族長も兼ねているというわけだ。
「へぇ、なるほど、それで、その中央がなぜ俺に?」
気になるのはこれだ、どうして中央獣人族の族長の息子に俺を紹介する必要があるのだろうか。
「ふむ、そのことなんだがな」
そう言ってから再び族長が説明してくれたが、なんでも中央にある噂が流れてきたという。その噂がここ東のハンターたちが撤退をしたということだった。これを聞いた中央はどういうことかと思い、真相を確かめるためにアグリスを送り込んできたという。そうして、族長がアグリスに俺が作った魔道具のおかげであることを話したことで俺を紹介という流れになったという。なるほど確かに俺が作ったものだから当然と言えば当然か。
「我らとしてはその魔道具をぜひとも手に入れたい。我らは依然として同胞が連れ去られている」
アグリスによると、ここ東側はハンターが撤退したが中央ではいまだにハンターたちが暴れているという。しかも、最近になってそのハンターの数が増えているという。もしかしなくとも多分こちらにいたハンターが流れていったと考えるべきだな。実際エイパールで聞き込みを行った際に別のギルドに映ったほうがいというアドバイスをもらったからな。
「奴隷の首輪?」
奴隷の首輪はシムサイト商業国で製造販売されている。そしてその製造の魔法陣を俺が改造したこともあり、今出回っている首輪はほとんどが俺が改造したものが広がっているはずだ。となると警報の魔道具を作らずともそろそろ首輪が機能しなくなるのではないかと思うんだけど。そういったことを一言で済まそうとしたんだが、どうやら族長とアグリスには通用しなかったらしい。首をひねってるよ。
「あなた、スニル君はあの事を言っているのでないかしら」
「あの事、ああもしかして改造したというあれか」
「……」
メリルさんの助けもあって族長が理解したのでうなずいておく。
「東の、改造とは?」
「うむ、わしらの勝利の要因はこの警報の魔道具だけではなく、スニルが奴隷の首輪の製造に関して改造を施したからなんだ。確か、機能としてはそのままだが犯罪などを犯した者以外にはハメることができないようにしたのだったな」
「……」
族長の説明にうなずいた。
「なっ、そんなことが可能なのか?」
アグリスはかなり驚愕している。
「わしもよくはわからんができるそうだ。実際そういった機能しなくなった奴隷の首輪もいくつも見ているし、何よりここ最近は警報よりもそちらで反撃ができていたな」
「ええ、そうね」
族長の言葉にメリルさんが同意しているがアグリスは驚愕したままだ。
「そっちでもあるんじゃないのか、そうした機能しなくなった首輪が」
族長がアグリスにそう尋ねた。中央のほうが遠いから流通は遅いかもしれないがあってもおかしくはない。
「た、確かにそういった報告も来ている。しかし、それがこの子供の仕業というのが、どうも……」
信じられない。そう言いたいのだろう。まぁ、俺みたいな小さな子供がそんなことをしたと聞いても信じられないのも仕方ない。
「わしも信じられなかったが、ここのところずっと見ていたからわかるんだが、スニルは間違いなく天才だ。魔法に関してならおそらく魔族よりもはるかに上だろう」
「そ、そんなにか!」
族長が上げた魔族、先ほども島の分布で出たが彼らは別に世界征服をもくろ人間に敵対している種族ではなくただ魔法に長けた人間の一種のことだ。その魔族よりも上だと聞いて驚愕もひとしおのようだ。
「はっ、ま、まさか、大賢者か!」
アグリスは俺が大賢者スキルを持っているのではないかとあたりをつけたようだが、確かに大賢者スキルがあればこれぐらいならできると思うかもしれないな。なにせ大賢者は一般的に知られている魔法に関する最高のスキルだからな。
「いや、それより上のスキルだそうだ。確かメティスルといったか?」
「……」
俺が大賢者よりも上位スキルであるメティスルを持っているということは族長にも話している。そのほうが説明が楽だったからだ。実はこれまで旅の中ではなるべく俺がメティスルを持っているということは隠してきた。その理由はキリエルタ教にある。聖教国で聖地巡礼したからわかったんだけれど、どうやらキリエルタは大賢者を持っていたようだ。そのため賢者や大賢者を持っている人族は教会に詩人とか御子とか言って狙われる可能性があった。それはそれで面倒だったし、俺も教会に囲われる気は毛頭なかったので隠していたというわけだ。だが、ここ獣人族の土地では特に面倒ごともないと判断して話したというわけだ。
「そんなスキル、聞いたことないが」
「わしも今回のことで初めて聞いた。しかし、そのスキルがいかなものかということは否応なく理解させられたものだ」
族長はそう言って少し遠い目をした。ちなみに族長たちには俺が前世の記憶持ちであることや、神様とあっているという事実は話していないが、”森羅万象”については話しているので俺が前世などの知識を用いてもそれで納得している。
「にわかには信じられないが……」
アグリスは何やら深く考え込み始めた。
「スニルといったな」
「……」
考えた後アグリスが俺に対して向き直りそう言いだしたので、俺は黙って首肯した。
「頼みがある。人族であるお前に頼むのは業腹ではあるが、これも一族のため力を貸してほしい」
何やら一言余計なことがあったが、この一言にこそいかに獣人族が人族に苦しめられたという事実と思いがあるのだろう。
「わかった」
だからこそ俺はその思いにこたえるために即答でうなずいたのだった。
ということでまずこの集落にある警報の魔道具をいくつか渡すこととなった。
「助かった。これで我等中央も奴らに勝って見せる」
「うむ、中央によろしくな」
アグリスは意気揚々と帰っていったのであった。
「へぇ、そういうことになってるんだぁ」
「西と中央と東ねぇ」
「というかそんなに獣人族っているんだな」
「そうね。それにほかにも種族がいたとはね」
テントに帰ってさっそくみんなに先ほどの話を聞かせたら、それぞの感想がこれだ。
「それにしてもおかしくない」
「何がだ」
母さんがそう言ってダンクスが尋ねている。一体母さんは何を不思議がっているんだ。
「スニルはシムサイトで奴隷の首輪を改造したのよね」
「ああ、そうだよ」
正確には製造の魔法陣の改造だ。
「それから1年以上が経って、最近使われたものはほとんどがその首輪だったのよね」
母さんが言うように俺たちがここに来た当初はまだ俺が改造した首輪はたまにある程度であった。しかし、ここ最近使われていた奴隷の首輪は大半がその改造後の物となっていた。だからこそハンターたちが撤退したといってもいいだろう。
「でも、その中央ではまだ拉致被害者が出てる。確かにここはシムサイトから一番近い場所でもあるのだけれど、それでも中央でもその首輪が広まっていてもおかしいと思わない」
言われてみると確かにおかしい、距離がある分流通が遅いのは仕方ないにしても、シムサイトもそこまで多くの首輪を作っているわけでもないし、ハンターたちは毎日多くの首輪を消費しているはずだ。となると当然過去の首輪はあっという間に使い果たし、新しいものである改造したものが流通していてもおかしない。にもかかわらず中央ではまだ被害者が出ている。どういうことだ。
「ねぇ、スニル」
考え込んでいるとシュンナが呼んだ。
「なに?」
「奴隷の首輪って作るが難しいの?」
「そうだなぁ。一から作るのは今現在のこの世界の人間には、たとえ大賢者を持っていてもそれは無理だな」
奴隷の首輪を製造する魔法陣は過去の天才が生み出した物らしいが、魔法陣を見る限りかなり複雑でいびつなものとなっている。それを一から作ることはおそらく無理だな。多分その天才も偶然の産物だったはずだ。また、俺がやっているように魔法陣を使わずに魔法式などをいじくってやるのも無理だろう。あれは俺が魔法式を完全に理解しているからこそできる芸当だからな。
「そっか」
「それがどうしたんだ。シュンナ」
「うん、もしかしたらシムサイト以外でも作っているのかなとか思ってさ。それだったらシムサイトの魔法陣を改造してても……」
「そっか、それだ!」
シュンナの言葉で気が付いた。
「なに?!」
俺が突然声を上げたものだからその場にいた全員が驚いている。
「シュンナそれだよ。多分、いや、間違いなくシムサイト以外でもあの首輪を作ってる」
「どういうことだ。スニル」
「おそらく、コピーだ。シムサイトの魔法陣をそのままコピーして別の場所で作っているとみて間違いないだろう」
「コピー? 何それ」
コピーという聞きなれない言葉を聞いて首をかしげる一同、そっかここにはコピーって言葉はなかったな。
「ええと、要するに書き写したってことだ。魔法陣は意味が分からなくともそっくりそのまま書き写すことができれば問題ないからな」
これが魔法陣の特色ともいえる。
「そっか、確か魔道具を作る際もこの魔法陣を書き写しているのよね」
「そう、通常の魔道具職人はいくつかある魔法陣を組み合わせて様々な道具を作っているんだ」
魔法陣に刻まれている魔法式はかつての人間たちは理解していたらしいが、現代はそれらは失われておりおそらく俺以外誰も理解することはできない。まぁ、もしかしたらどこかには理解できるつわものがいるかもしれないが。
「つまり、シムサイトが使っていた奴隷の首輪製造のための魔法陣を誰かが写し取って使っているというわけか」
「そうなるな。でも、おそらくだけどシムサイトがコピーを使っていた可能性のほうが高いけどね」
「どういうことだ?」
俺の言葉にダンクスが疑問を投げつけてきた。
「あり得るわね。シムサイトは商業国だから魔法陣を開発する技術を持つよりそれを買うほうが自然よね」
俺が答える前にシュンナが答えたが俺も同意見だ。
「ああ、なるほど確かにそのほうがしっくりくるな」
「だろっ。と、それはともかくだ。もし今の話が本当だったとしたら、ちょいと面倒なことになるぞ」
「どういうことだスニル」
「ここで、ハンターに勝てたのは俺が作った警報の魔道具もあるけど、もう1つ俺が奴隷の首輪を改造していたことが理由となる。この2つがあったからこそ特に問題もなく勝てた」
「そうだな。スニルがせっせと毎日作っていたからな」
「そう、すべて俺がこの手で作ってたんだよ。でもそれは改造首輪の流通が増えてきたからこそ問題が起きなかった。でも」
「そうね。もしシムサイト以外でも作っててそれが流通していれば、いずれ間に合わなくなるわね」
「ああ、それに向こうだって馬鹿じゃないんだから警報の魔道具の存在だってわかるだろ。そうなると捕まえた獣人族から警報の魔道具を奪ってからつけるか、首輪を使わずにさらって自陣に戻ってからつけるって手も考えられる」
その手が使われると意味がないんだよな。あれはあくまで大音量の警報が鳴って周囲に知らせるだけだからな。
「そうなると、別の方法を考える必要が出そうだ」
「そ、それは確かに面倒ね」
尤も面倒なのは俺なんだけどな。
「まっ、それはともかくさ。まずは中央で使われている首輪を手に入れれてみる必要がありそうね」
「だな。それをスニルが鑑定すれば、それがシムサイト産かがわかるんだろ」
「まぁな」
「だったら、族長に言って手に入れてもらってくるわ」
そう言ってシュンナはテントを出て族長の家へと向かったのだった。願わくば俺たちの予想が外れていますように、そう願わずにはいられないな。
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