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第09章 勇者召喚

09 ついに勇者がやってくる

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 勇者が召喚されて2か月余り、本日ついに勇者たちの旅立ちである。

「では、行ってきます」
「勇者様、御武運をお祈りしております」

 教皇をはじめとして数多くの神官から見送られる勇者たちであった。
 それから、彼らは聖都中から歓声を受けつつ、元エイパール、現在聖教国聖都エイパール地区にある船着き場へと向かった。

「ここら辺ってずいぶんと荒れてるよね」
「はい、言われてみると、なぜでしょうか」
「なんでもここって、以前魔王軍の襲撃があったらしいよ」
「えっ! そうなの」
「ここに住んでいた人たちはどうなったんだろう?」
「聞いた話によると、突然の襲撃で大部分の人がやられたらしい、生き残った人たちも何とか教会に逃げ込んだって」
「……ひどい」
「ほんとね」

 孝輔の話は当然事実とは違う、ここエイパールはもともと聖教国が主導して行っていたハンターたちの拠点があった。しかし、スニル達の活躍によりハンターたちが退却したことにより荒廃したのである。

「なんとしてでも魔王を討伐しないとな。人類の平和のために」
「う、うん」
「そうね」

 なんだか新たに決意した3人であった。


 それから3人はすでに待機していた10人の聖騎士とともに用意されている船に乗り込んだのだった。

「勇者様、くれぐれも船倉には入らないようにお願いします」
「どうしてですか?」

 船に乗り込んだところで船長からあいさつ代わりにそんなことを言われた勇者たち、意味が分からず聞き返した。

「この川は一見普通の川なのですが、以前魔族が結界を無造作に張り巡らせまして、その結界はどうも人間をはじくもののようで、以前知らずに船倉にいた者たちが、その、船と結界の間に挟まれて圧死しました」
「!」
「なっ! それって」
「ひ、ひどい」

 船長の話を聞き真っ青になる3人、ますます魔王に対して怒りを覚えるのである。もし、これをスニルが聞いたら絶句したことだろう。

 こうして、勇者たちは10人の聖騎士とともに魔王討伐に向けてテレスフィリア魔王国へと旅立ったのであった。




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「陛下、獣人族からの報告です。勇者がこちらにやってきたとのことです」
「おう、ついに来たか」

 執務室で書類仕事をしていたら、扉がノックされて執事がそういってきた。それによるとついに勇者たちが俺の討伐に向けてやってきたらしい。あれから2か月ぐらいずいぶんとかかったな。まぁ、おそらく訓練でもしていたのだろう。
 それはそうと、なぜ遠く離れた情報が俺に入るのかというとこれは例のごとく転移の魔道具を使い手紙のやり取りを行っているからだ。それと、獣人族たちが勇者が船に乗り込んだことが分かる理由については、彼らに支給している望遠鏡によるもの、もちろんこれも魔道具で普通の望遠鏡よりも遠くを見ることができるようになっている。

「さてと、来たんならこっちも準備をしないといけねぇな」

 さっそく勇者歓迎の準備を始めることにした。


「てなわけで、やっと来たみたいだから、こっちの準備は?」
「できてるぜ。俺たちはもちろんこいつらもいつでも行けるぞ」
「それはよかった」

 さっそく四天王の4人を集めて準備の進捗を聞いてみた。

「まずは、グロッゴだったな」
「はっ!」

 グロッゴというのは、獅子人族の獣人で、獣人族の戦士の中でも最強の存在だ。

「グロッゴもかなり強いとは思うが、相手は勇者だ。いくらもともと戦闘経験皆無だとしても、勇者になった時点でそれを凌駕する力を得ている。おそらくだが戦闘能力だけならお前よりも上だ。まぁ、思うところもあるだろうが無茶はせずに必ず生きて帰れ、尤もその魔道具があればある程度のダメージを受けると自動で転移するようになっているがな。それでもそれを過信せずに余裕をもって退避できるようにするんだ」
「はっ、了解いたしました」

 グロッゴは幼いころからハンターたちと戦うために戦闘訓練を重ねてきたし、これまで幾度となくハンターたちを撃退してきた歴戦の戦士。そうである以上そのプライドがあり、戦闘経験なしの高校生から撤退するなんてことはいろいろな意味でそのプライドに傷をつけることになる。それを承知で退避することを命令している。

「悪いな。俺の遊びに付き合わせて」

 だからこそ俺もその言葉を投げかける。

「いえ、お気になさらないでください。確かに少々思うところはありますが、勇者という強者と戦うことは我が一族の喜びです」

 グロッゴが言うように獅子人族の戦士は本来、強者と戦うことを喜びとするどこかの戦闘民族のような連中だ。それがハンターという存在のために作業のような戦いしかできなかったという。それというのも、獅子人族の戦闘能力はハンターたちと比べると圧倒的に上だったからだ。そのため獅子人族がいる地域は一切拉致被害者がいないという。なら、その獅子人族があちこちに行きほかの獣人族を守ればよかったのではと思うかもしれないが、残念ながら獅子人族は全部で6人しかおらず、彼らは自分が住む地域を守るだけで手一杯だった。

「そうか、なら行ってこい」
「はっ!」

 俺が行ってくるように命じるとグロッゴは意気揚々と出て行った。




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「ここに、魔王が」
「なんか、普通の森だね」
「もっと、まがまがしいのかと思ってた」

 魔族が住む場所、そこはきっとおどろおどろしい場所ではないかと勝手ながら思っていた3人からしたら、明らかな普通な森に若干の拍子抜けを感じていた。

「ここらあたりは獣人が住んでいます。お気をつけてください、奴らは木の陰から突如襲い掛かってきます」

 聖騎士たちがそういって孝輔たちへ忠告する。彼らもまたそのようにハンターたちから聞いているのである。

「はい」

 実際にはここで彼らが獣人族と出会うことはないが、それを知らない彼らは警戒しながら森へと入っていったのであった。


 それからしばらく進んでいるとふと、孝輔がつぶやいた。

「誰もいないな。というか魔物すらいないじゃん」
「そうだよね」
「ねぇ、何か変じゃない」

 いくら森の中を進んでも一向に獣人族はおろか、魔物すら出てこないことがおかしいと気づき始める3人。それもそのはず、獣人族はそれぞれの集落に張られた結界の中に引きこもり、孝輔たちが通り過ぎるのを静かに見守っているし、魔物はここ最近ハンターと戦うことがなくなった獣人族たちが狩りまくったことが理由だ。

「あっ、あそこ」

 那奈が前方に何かを見つけた。

「あれって、人?」
「その割に大きいようなって、あれは!」

 続いて孝輔が人のようなものを見つけ、麗香が何となくその姿をとらえた。

「亜人!」

 聖騎士が叫んだ。この森に生息している人型の存在といえば亜人でしかないからだ。実際徐々に見えてきた人影の頭には耳が付いており、その背後に尻尾も見えた。まさしく彼らの言う亜人、獣人族の戦士だった。

「我は魔王軍四天王が1人、獅子人族の戦士グロッゴ。侵略者ども、これより先通ることを禁ず。それでも通るというのなら死を覚悟せよ」

 威圧感たっぷりにそう告げるグロッゴである。これはある程度そうするようにとスニルから支持されたことである。尤も、グロッゴは獣人族最強の戦士であるために、言われるまでもなくある程度のこうした態度を普段からとっているのわけだが。

「くっ、亜人風情が偉そうに、何が四天王だ」

 基本亜人として獣人族を下に見ている聖騎士たちはその態度にかなり腹を立てている。

「ねぇ、獅子ってライオンだよね。ということはあの人はライオンの獣人ってこと」
「は、はいえっと、よく見るとあの耳、猫耳ですよね」
「おおっ、すげぇ、初獣人じゃん」

 一方で、孝輔たち3人はちょっと興奮していた。ここら辺はスニルと同じである。さすがは同じ日本人である。

「勇者様、ここは我々が、このような亜人など勇者様方が相手をするまでもありません」

 ここで聖騎士の1人がそういいだした。

「いえ、ここは私にやらせてください」

 だが、ここで待ったをかけ自分がやると言い出した人物がいる。麗香だ。麗香はここに来るまで考えていたことがある。亜人や魔族などと戦うことがあったら自分が先陣を切りたいと、それというのもやはり自分が姉だからだ。孝輔は実の弟であり那奈も先輩と慕ってくれるかわいい後輩であると同時に、幼馴染で幼いころは麗香お姉ちゃんといわれていた。だからこそ麗香は孝輔以上に那奈のことを妹のようにかわいがっている。そんな2人がもし、亜人や魔族という人型の存在と命のやり取りをすることで、心を痛めてしまった場合それを励まさなければならない。しかし、麗香がそれを経験していなければ励ますことはできないが故にまずは自分が経験するべきだと考えている。実は以前魔物討伐を経験したときも、麗香は同じことを思い実行している。

「ほぉ、まずは貴様かいいだろう。かかってくるがいい」

 どこまでも傲岸不遜な態度のグロッゴであったが、これもまたスニルの指示によるものである。

「ええ」

 麗香はそう返事をするとグロッゴの前に出て構える。なるほど、さすが幼いころから習っているだけあって自然な空手の構えである。

「ほぉ」

 その構えを見た瞬間グロッゴは思わず感嘆の声を漏らす。

「行きます」

 麗香はそういって一気に駆け出し、それこそ幾度となく繰り返してきた突きを繰り出した。しかしそれは難なくグロッゴに防がれ、代わりにグロッゴのこぶしが礼かめがけて飛んできた。

「姉ちゃん!」

 それを見た孝輔が思わず叫ぶが、麗香はこれをあっさりとよける。その後、幾度となく繰り返される攻防に見ていた孝輔たちや聖騎士たちは息をのんでいる。2人の間に行われていることは、それほどの高度なものばかりであった。

 そうしてさらに幾度目かの攻防の末、麗香とグロッゴはお互いに、それなりにダメージを負っていた。

「はぁ、はぁ、はぁ、さ、さすがに、強い」

 息も絶え絶えの麗香がグロッゴをにらみつけるようにつぶやく。

「ふぅ、やるな。しかし、これはどうだ」

 グロッゴはそういうと構えを変え、何やら力をため始める。それを見た麗香も何か奥義のようなものを出すのだろうと考え、自らも奥義を出すことにする。これは、幼いころからやってきた空手の技と高校から始めたキックボクシングの技、そしてこの世界に召喚されたことで身に着けた格闘術スキルからの技、それ以外にも魔力などといった力などを合わせた。まさに今の麗香の最終奥義ともいえる一撃。それを行うために基本である空手の構えをとる。

「すー、はぁーっ」

 麗香が深呼吸をして呼吸を止めたと同時、まず最初に動いたのはグロッゴ、すさまじい覇気とともに渾身のこぶしを麗香に突き出す。しかし同時、麗香もまたすでに攻撃を放っていた。

 その結果、グロッゴが吹き飛んだ。

「グガァァァ!」

 そんな声おとともに吹き飛んだグロッゴは背後にあった木々を次々になぎ倒していき、

 ドッガーーーン!!

 大きな爆発音が響いた。

「はぁ、はぁ、はぁ、お、おわった。のかな」
「ね、姉ちゃん、それフラグ」
「で、でも見て」

 麗香が思わずつぶやいたフラグを指摘する孝輔であったが、那奈が爆発のあった場所を指さしている。

「おおっ、麗香殿、やりましたぞ」
「死体すら残さない威力、素晴らしいです」
「こ、これなら魔王ですら耐えられますまい」

 爆発があった場所には何も残っていない、それを見た聖騎士たちが歓声を上げた。

 こうして、勇者たちはまず最初の難関である四天王の1人グロッゴを倒したのであった。




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 グロッゴが勇者と戦いに行ってからしばらく経ったわけだが、俺は現在城の中庭でのんびりしている。その理由は四天王に渡している退避魔道具の転移先がここだから、グロッゴが帰ってくるのを待っているからだ。と思っていると光が現れ一転に収束し始めた。どうやら帰ってきたみたいだ。

「帰ったか、って、ボロボロだな」

 戻ってきたグロッゴを見たところ鎧も服も体もすべてがボロボロだった。

「陛下、お待たせしたようで申し訳ありません」

 ボロボロだってのに俺への礼儀を忘れないのはさすがだが、俺のせいでボロボロなんだからちょっといたたまれない。そこで、すぐさまヒールをかけてやることにした。

「”ヒール”、それで、どうだった?」

 ”ヒール”をかけるとすぐさまグロッゴの傷がなくなり、すくっと立ち上がるグロッゴに、勇者たちとの戦いを聞いた。

「はっ、私が戦ったのは勇者の1人で格闘術を使う娘でした」

 格闘術を使うということは、たぶん勇者の姉だな。

「そうか、それで強かったのか?」

 グロッゴほどの男をここまでボロボロにしたのだから相当に強かったはずだ。

「はい、どうやら対人戦闘はそれなりに経験しているようですが、おそらくそのほとんどが模擬戦で実戦経験は皆無のようでした。そのため攻撃箇所が若干急所を外れておりました」

 相手を倒して殺そうとすれば当然確実に急所を狙うが、勇者の姉はそれをしなかった。それは当然だろう、何らかの格闘技を学んでいたとしても日本で実戦を経験するなんてないからな。

「まぁ、そうだろうな。それで、具体的にはどんな攻撃だったんだ?」

 ここで気になったのは勇者の姉がどんな格闘技をやっていたのかだ。

「はい、見たところ大きく分けて2種類の技を使っているようで、1つはこう地に足をつけた構えでした」

 そう言ってグロッゴの構えを見た俺はすぐにこれが空手の構えであることを理解した。

「空手か、それでもう1つは?」
「はっ、もう1つはこのように両手を前に出し軽く拳を握り、足は小刻みにステップを踏んでいました。少々変わったものでしたが、うまく使えば相手を翻弄することもできるでしょう」
「ファイティングポーズか、ということはボクシングかな」

 ファイティングポーズといえばボクシングが思い浮かぶ、空手にボクシングとはね。

「陛下、お聞きしてもよろしいでしょうか?」
「なんだ?」
「そのカラテというものとボクシングというのはどのようなものなのでしょうか?」

 俺のつぶやきを聞いていたグロッゴが聞きなれない言葉を尋ねてきた。

「空手というのは、あっと、俺が異世界からの転生者であることは知っているな」
「はい存じています」
「その世界というか俺がいた国、まぁ勇者たちの故郷でもあるわけだが、その国に昔からある格闘技の1つでな。とはいえ俺もそこまで詳しくは知らないんだけどな」
「そうなのですか?」
「興味はあってもやってたわけじゃないからな。俺の場合それよりもこっちの方が興味あったし」

 そう言って俺は腰に差している方を手に持った。

「まっ、予定としては勇者たちを保護するわけだしな。その時に本人から聞いてくれ」
「了解しました。楽しみです」
「おう、それで次のボクシングだが、こっちは別の国で生まれたものでな、拳のみを使った競技となる」
「拳のみ、ですか。なるほど、ですが陛下あの娘はその構えでも蹴りを放ってきました」

 ここで新たな情報として、ファイティングポーズの状態でも蹴りを放ったという。

「ああ、ということはキックボクシングの方か、さっきのボクシングに蹴りを加えたものがあるからそれだな」
「ほぉ、そのようなものがそれを聞くのも楽しそうですな」
「まっ、ほどほどにな。それで他は何かあるか?」
「いえ、報告は以上となります」
「そうかご苦労だった、まぁ勇者たちが来るまでまだまだ時間がかかるゆっくり休め」
「はっ」

 そう言ってグロッゴはその場を去っていった。
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