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第09章 勇者召喚

13 様々な衝撃

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 孝輔たちへ真実を話したところ、何とか3人とも納得してくれたようだ。まぁ彼らにしてみれば教会に言われたことも他人事だから、そこまで移入していなかったのだろう。

「ほかに何か聞くか?」
「えっと、そうですねぇ」
「あの、スニルさんって、どうして魔王になったんですか?」

 麗香が聞くことを考え出し、那奈が質問してきた。

「そうだよな。なんで魔王になったんですか、日本人ならしかもそれなりに年齢言っていたんなら、なおさら魔王なんて名乗れない気がするんですけど、俺だったらなんか恥ずかしいですよ」

 孝輔が尤もなことを言う、確かに日本人なら魔王を名乗るなんて中二病みたいでいやだよな。俺だって当初は悩んだものだ。

「魔王なんてまさに中二だしな」
「はい」
「別に俺はわすらったわけじゃないんだが、簡単に言えば魔族たちに頼まれたからだな」
「頼まれた?」
「そう、彼ら魔族には、お前たちも聞いたあの魔王以来、魔王が不在だった。王がいないという状況で彼らも長らく不安だったんだ。そんな時、俺という彼ら魔族をはるかにしのぐ魔法の使い手が現れた。それも人族ではあったが、獣人族を始めエルフ、ドワーフに対しても、また魔族に対しても全く偏見を持っていないときた。そんな俺だからこそ、彼らは自らの王に選んだというわけだ。だから、俺は物語に出てくるような魔王ではなく、ただ魔族たちの王であり、ここテレスフィリア魔王国の王となったわけだ」

 これが俺が魔王になったわけとなる。

「へぇ、でもどうしてこれまで魔王がいなかったんだ?」
「それは、魔王になるにも規定というものがあるからだな。基本は最も魔法に長けたものとあるが、最低限これができるものというものもある。今の魔族はその最低限もできないものしかいないのが現状なんだ」
「どうしてですか? 魔族って魔法に長けた種族ってことですよね」
「そうだ。でも、魔法の才能ってのは遺伝する。それは魔族でも同じで、先代の魔王が暴走して、先代の勇者がそれを討伐したわけだけど、実はその際に魔王を含む魔族の中でも上位の実力者たちが軒並み倒されてしまった。今現在残っている魔族はその際に非戦闘民やその護衛をした下位の実力しかない者たちの末裔。まぁ、人族よりは強い魔法を扱えるが、魔王を名乗れるほどの実力者はいないんだよ。だからもしお前たちが軍でも引き連れてやってきたらさすがに魔族が全滅していたかもな」

 俺としては珍しく長文で説明をしたわけだが、ちゃんと伝わっただろうか、俺ってこういう説明は苦手だからな。

「そうなんですね。よかったです。実は教皇から軍をって言われてて」
「軍を動かしたら、それって船倉ですよね。だから私たちは断ったんです」
「そうだろうと思ったよ。お前たちが日本人だって聞いていたからな。戦争は悪、日本人なら誰もが教わっていることだからな」
「はい」
「戦争なんてしちゃいけません」
「そうそう」

 さすがは日本人だと思う、よかったよ俺がいなくなった後も日本人は日本人のままみたいだ。こうなると第九条は偉大だ。

「あっ、でも、スニルさんってどうしてここに、魔族がいる場所に来たんですか、スニルさんがここに来たから魔族の人たちから王様になってほしいって言われたんですよね」
「そういえばそうだよな」
「教皇も長らくにん、人族は魔族と接していないって、というかここって結界があって普通は入れないんですよね。私たちは教会が用意してくれた船で来ましたけど」
「んっ、ああ、そのことか……そうだなぁ、時間もまだあるし、ちょっと長くなるが、これまでのことを話すかその方がいいだろ」
「これまでって」
「俺が記憶を取り戻してからってことだ。どうする聞くか?」
「はい、聞きたいです。なんかスニルさんって主人公みたいだし」
「んなわけはないんだが、というか主人公というのなら俺より孝輔のような気がするが、まぁいいや、それじゃ話すぞ」

 お茶を1口飲んでから話し始めることにした。

「そうだな。とりあえず前世のことを話すか、といっても俺の前世なんてほんと大したことないんだけどな。俺の前世は人嫌いで引きこもり、40手前だってのに定職にも就かずバイトで食いつないでいるというような状況、まぁ、一言で言うならろくでもない人間だった。だから、いくら中身が年上だからってお前たちに敬われるような男ではなかった。それが何の因果か突然病死して、気が付いたらこの世界の神様が目の前にいたってわけだ」
「そういえばさっきも神様の話をしていましたけど、神様って本当に要るんですか?」

 俺がろくでもない男だったということを聞いて、なんとも言えない顔をしていた3人だったが、そこを無視して神様のことを聞いてきた。

「おう、居るぞ。といってもキリエルタじゃないけどな。この世界を作って、本当に管理している神様、といっても神様はこの世界には干渉しないことにしてて、この世界で神様の存在を知っているのは俺だけだろうな」
「干渉? ですか」
「そう、なんでも世界を作るときに神様が世界に干渉、例えば地上に降りたり、神官とかに信託を下すとか、そういうのをしないって決めるんだそうだ。そしてそう決めるとただ見るだけとなるらしい」
「でもスニルさんは神様から俺たちのこと聞いたんですよね」
「そうだな」
「それって干渉しているってことにならないんですか?」
「ああ、なんでもそれは特例らしいぞ。というか言い忘れていたけど、お前たちの召喚は神様としても想定外なんだ」
「想定外?」

 ここでちょっと脱線して勇者召喚についての説明をしていく。

「……というわけだ、だから本来ならお前たちが召喚されることはなかった。いうなれば俺がこの世界に来たことが原因で、神様も責任を感じている。だから同郷である俺に保護してくれと頼んできたというわけだな」
「な、なるほど、そうなんですね」
「えっと、それじゃ私たちって相当運が悪いってことですか?」
「どうだろうな。異世界召喚されたんだ。運がよかったのか、悪かったのか、もはやそれはお前たちがどう思うかってことだろう」

 運がいいか悪いなんてもんはどれも本人がどう感じるかで決まるものだ。本人にとっていいことであればそれは運がよかったことだし、逆もしかりってことだ。

「とまぁ、そういうわけでとりあえず話を戻すと、神様が言うにはこの世界は文明文化の発展があまりにも遅くて面白くないから、俺という異世界人を投入することで何か面白いことになるんじゃないかっていう、まぁ面白半分だな。んで、俺はそれを受け入れて転生したってわけだ。それで、生まれた時から記憶を持っていると、いろいろとやばいだろ」
「ああ、確かに、そういう話ってありますよね」
「だろ、中身おっさんからしたら一体何の羞恥プレイだよって話だ。だから、12歳で記憶を取り戻すようにしてもらったってわけだ」

 俺の言葉に3人とも納得したようだ。というかこれはおっさんじゃなくとも、3人にとっても同じことだしな。

「それで、記憶を取り戻したら、牢屋の中だったってわけだ。あれは、びっくりしたよなぁ。まじか! ってな」
「……」

 俺の話に黙り込む3人であったので、俺は話を続ける。

「まぁでも、俺には神様から魔法系のチートスキルをもらっていたからな。それで、あっさりと脱出できたわけだ」
「それってどんなスキルなんですか?」

 孝輔がチートスキルという言葉に食いついた。

「大賢者って聞いたことあるか?」
「はい、那奈の聖女と双璧を成すスキルだって、確かどこかに1人いるらしいですけど、もしかして?」

 孝輔が言うように、那奈が持つ聖女スキルは神聖魔法と回復魔法に注目しがちだが、それが得意であるというだけで他の属性魔法も問題なく使える。その力はまさに大賢者に匹敵するといってもいいだろう。だから、まさに双璧というわけだ。

「いや、俺は大賢者じゃなくて、それの上位スキルに位置するものでメティスルって言うんだ」
「メティスル? 聞いたことないです。そんなスキルがあるんですか?」

 麗香が首をかしげている。

「本来はないものなんだけどな、いわゆる転生特典ってやつで、神様が俺専用に作ってくれたんだ。これで何か面白いことをしろってことだな」

 神様がこのスキルを作った際に俺に行ったことでもある。

「すごいですね。あれ、大賢者の上位ってことは、私の聖女よりもすごいってことですよね」
「まぁな。メティスルはあらゆる魔法を使いこなし、魔法の改造から作成までできるからな。文字通り魔法でなんでもできるようになる。その上、魔力量も跳ね上がっているから、ほぼ無限となる」
「まじかよ。それじゃもしかして俺たちがあのまま戦ったとしても勝てなかったんじゃ」
「そうだな。魔法に関しては俺には通用しなかっただろうし、近接なら格闘技経験者である孝輔と麗香ならある程度は通用するだろう。でも、魔法による身体強化と、こっち来てからの実戦経験、シュンナダンクスから訓練、俺もそれなりに強くなってはいるからな。というか武器の差もでかいと思う」
「武器って」
「ドワーフに作ってもらった刀なんだが、俺が魔力を込めまくったら神剣にまで登ってしまったからな。もう完全なチートだろ」
「た、確かに、そんなすごいスキルなら脱出もできますよね」

 チートにもほどがある俺自身もそう感じる強さとなっているはずだ。孝輔たちもあまりのことに若干引いている。

「そういうこと、それで脱出したわけなんだけど……」

 その後俺は孝輔たちに牢から出たこと、その際奴隷の首輪の効果で真名がはく奪されていたこと、自分の名前を取り戻すための行動を起こしたこと。そして、村に戻り真名を取り戻し両親の死の真相に行きついた事、そして旅に出たということだ。それからシュンナとダンクスにであり、カリブリンで行ったことから、奴隷狩りに間違われたことで存在を知り興味を持ち、その総本山に乗り込んだこと、それでサーナを発見し保護しばらく休んだのち今度はサーナを獣人の住む土地へ送り届けることにしたということだ。

 ここまで話したところ、3人は両親のことで奴らに対して怒りをあらわにしていた。奴隷狩りのところでも同様の反応示し、ショックを受けていた。そして、何よりサーナのところではニーナの状況に涙を流していた。もちろん3人にはニーナが受けた地獄については話していない。彼らに話したのはあくまでサーナを生んだ直後に命を落としたということだけだ。それでも、普通の高校生にとってはきつい話だったかもしれない。

「実はな、その途中で突然神様から知らせがあって、ある村に行ってみろというから何事かと思っていたらな」

 ここで俺は言葉を切ってみた。

「そこになんと、俺の両親が転生した存在がいたんだよ。あれはほんとに驚いたよな」
「えっ、御両親ってでも、えっ、転生?」
「まじかっ」
「それじゃ、再会できたんですか?」
「ああ、おかげでな。それで一緒に旅をして、聖教国を通って獣人族の土地へとたどり着いたというわけだ」

 その後、ハンターたちとの戦いから、獣人族の英雄となり、エルフの里を通り抜けてからここ魔族の街アベイルへとやってきた。そして、レッサードラゴンを討伐し、魔王となった。その話をしたのだった。

「こうして、魔王として国を作って、いろいろ奔走しているというわけだな」
「なんか、いかにも冒険ですね」
「うん、確かに、本当に物語の主人公みたい」
「ほんとね。それにしてもやっぱり教会は許せない気がする。確かに人族には優しいのかもしれない、でも他種族に対してそんな扱いをしているなんてね。まぁ、シムサイトって国はもっと許せないけど」
「ほんとだよな」

 孝輔たちはそういって俺の話に感想を述べている。

「さて、そろそろ夕方になるし、話はこのぐらいにしておこう」
「あっ、もうそんな時間なんですね」
「そういえば腹減ってきたなぁ」
「もう、孝輔ったら」

 あはははっ、と笑い3人とともに俺も笑いながら続ける。

「とりあえず、俺の家族……あっ、ああ、忘れてた」

 家族という言葉に重要なことを言い忘れていた。まぁ、言い忘れたとしても問題はそこまでないんだけどな。わかることだし。

「なんですか?」
「いや、実はなさっきも言った通り今回の召喚は神様としても予想外であるんだが、同時に神様の責任でもある。なにせ、パスをつないだままにしていたわけだからな。それでだ、その償いとして今晩、一晩だけとなるが、特例でお前たちの意識を地球に送ってくれるらしい」
「え、ええとそれって」
「つまりだ、今晩眠っている間、夢でお前たちの家族に会えるってわけだ」
「えっ!」
「そ、それって!」
「ほ、ほんとですか?!」
「ああ、神様がいうには俺たちが接触したその日の夜って言っていたから今晩だろう、というわけで今晩を楽しみにしておけ」
「はい!」

 この特例は本当に特例で、通常はありえない措置となるみたいだ。これもまた神様たちの償いというわけだな。

「ちなみに俺も事情を知るものとして同行するからな。まぁ、別に邪魔をするつもりはないが」

 一応今後彼らを保護するものとしての挨拶ぐらいはした方がいいだろう。いくら俺でもそれぐらいはする。

「ありがとうございます」

 久しぶりに両親に会えると喜ぶ3人である。なんだかんだ言ってもまだ高校生だからな。

「そんじゃ、その前に俺の家族を紹介して飯でも食うか」
「あっ、はい」

 そうして俺たちは立ち上がり、廊下に出たのであった。

「ここだ。まぁ、入ってくれ」

 俺が案内したのはいつも俺たちがのんびりとするリビング兼、サーナの遊び部屋だ。

「ここは俺たちが仕事終わりとかに集まる部屋なんだよ」

 というわけで3人を連れて部屋の中へと入っていく。

「あっ、スニルー」
「おう、サーナ」

 サーナももう2歳となり、たどたどしいながらもしっかりとした足取りで、俺の元までやってくる。俺はそれをしゃがみ込み受け止める。

「よいしょっと、サーナも重くなってきたなぁ」
「えへへへ、スニルもあそぼ」
「おう、そうだな。でもその前に、って、どうした?」

 サーナの相手をしていると背後にいた麗香と那奈の様子がおかしい、なんだか『な』、とか『か』をさっきから繰り返しているし、動きも固まっている。

「な、な、な、なんなんですか、この子!」
「か、か、か、かわいい!!」
「うおぅ!」

 突然叫びだしたので思わずびっくりした。というか俺がびっくりしているのにサーナは全くびっくりしていないのはすごいな。

「ね、姉ちゃん、那奈、いきなりなんだよ」

 孝輔も驚いたようで、2人に対して文句を言っているがどうやら2人の耳には届いていないようだ。

「す、スニルさん、スニルさん」
「お、おう、どうした?」

 さすがの俺も若干引くぐらいのテンションで詰め寄ってくる麗香。

「こ、この子が、サーナちゃん、ですか?」
「ああ、そうだ。ほらサーナ、この人たちはな。今日から家族になったんだ」
「かぞく」
「そう、このにいちゃんが孝輔、こっちが麗香で、那奈だ」

 俺はそういって孝輔たちを順にサーナに紹介していく。

「こーすけ、れーか、なーな」
「おっ、すごいな。正解だ。ちゃんと言えて偉いなぁ。サーナ」
「うん、サーナえらい」
「おう、偉いぞ」

 俺は元来こういうキャラじゃないんだが、どうもサーナ相手だとこうなる。

「い、痛い、痛いって」

 そんな俺たちをよそに、孝輔の悲鳴がとどろく、見てみると、孝輔を挟んで麗香と那奈が、幾度となく孝輔の肩をたたいている。

「ね、姉ちゃん、スナップ、スナップ効いてるから、ちょっ!」

 しかも麗香は空手とキックボクシングやっているだけあって、肩をたたく手にスナップが効いてしまっているらしく、その痛みは倍増しているみたいだな。何やっているんだか。
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