勇者として召喚されたのに、なぜか牢の中でした。

夢限

文字の大きさ
4 / 11
第01章 どういうこと?

04 奇跡の魔法

しおりを挟む
===========================

 4日目です。

===========================

 露になった少女の裸身、しかしそこにあるのは初めて異性の裸を見たことに対するドキドキではなく、あまりに凄惨な光景に、息を飲むしかなかった。

 初めて異性の裸を見たはずなのに、そこにあったのは羞恥でも興奮でもない。
 ただ、痛みと怒りと悲しみだけだった。

 体全体にあるみみず腫れ、これだけでも痛々しいがこれはまだ軽いほうで中には皮膚がはがれ下の筋肉が顔を出しているものや、その筋肉すら抉られてしまっている部分も多数。
 また、ところどころやけどの跡があり、右胸に至っては半ばぐらいから切り取られてしまっている。そして当然のように左胸も無事ではなく先端部分が存在していない。腹部も幾度となく何かで殴られたようなあざが、多数存在している。というか、この体を見る限り無事な部分を探す方が大変な様である。
 いや、一か所だけ不自然に無事な部分がある。それは、下腹部のさらに下、股のあたりだけは、不自然なほど無傷だった。おそらくだけど相手もさすがにここだけは責めきれなかったのだろう。その背後の尻は真っ赤に腫れ上がっていたけどな。

 本当に一体誰がこんな非道なことをしたのか、齢15の娘に対してのこの仕打ちは人間の仕業とは思えない。といっても実はここまで非道なことができるのは人間だということを以前愛莉亜から聞いたことがある。

「と、とにかく、いつまでも見ている場合じゃないな」

 このような姿をいつまでも見ているものではなく、一刻も早く治療してやりたいのでさっそく体を拭かせてもらおうと思う。

「これ、使わせてもらうな」

 そう言って手に取ったのは彼女の体をまいていた布、といってもこれははがす際にこびりついていたこともあり繊維がボロボロになったり仕方なくちぎったのですでに後で巻き直すことはできない代物となってしまっている。

「ウォーター」

 水魔法を発動、それにより空中に水球が浮遊した状態が出来上がり、その水球は、まるで祈りのように静かに揺れていた。
 そこに手にした布を差し入れて濡らす。

「あっ、先に浄化しておけばよかった」

 浄化は神聖魔法で、本来は霊を昇天させるものだが、副次効果で滅菌もできる。

「ピュリフィケーション」

 詠唱の声が、静かに牢の空気を震わせる。
 布に触れた瞬間、淡い光が広がり、穢れが祓われていくようだった。

 ピュリフィケーションとは浄化のことである。これをかけることで布を無菌状態にすることができた。あとは、これを使い少女の体をふいていくことになる。まず手を伸ばしたのは顔、傷のところはゆっくりと丁寧に痛みが小さくなるように気を付けながら、傷のないところは少し強めに、といっても汚れが落ちる程度の力加減に調整してではあるが。そうして、顔をふき終わると今度は首、そして肩へと下がっていくこの辺りになるとやはり傷がさらにひどくなるのでより慎重に拭いていく。

「……ん」
「悪いな。もう少しだ」

 時折漏れる少女のうめき声に答えつつさらに体をふいていくが、その前にここで再び水球に布を入れて清めておく。そして、次は胸、ここは半ばから切り取られたり、先端が無くなっていたりと、かなりひどいので、より慎重に拭いていく。

 そうして、さらに腹、下腹部と拭いていき、横に傾けて左右のサイド、そして背中や尻といったぐらいに次々に体を拭いていく。

「いよいよここか、えっと、ほんとに悪い。すぐ終わるから我慢してくれ」

 なるべく見ないようにしながら、布を手に取り少女の股を拭き、これにて少女の体を拭くという作業は終わったわけだけど、まだ彼女は傷だらけ、本番はこれからだ。

「ふぅ、やっと終わったか。これであとは治療をするだけだけど、その前にサンクチュアリ」

 詠唱の瞬間、空気が静かに震えた。
 足元から淡い光が広がり、牢の一角がまるで神殿のような静けさに包まれる。
 これで、彼女を守る“聖域”ができた。


 拭き終わったところで今度のサンクチュアリはピュリフィケーションの上位魔法で、空間全体を浄化する。尤も俺はまだレベルが低いので範囲は人間1人分しかできないが、今回はそれで充分だ。

「よしっ、これで簡易無菌室を作れたから治療に専念できるだろ」

 そう言うことでいざ治療開始であるわけだけど、問題はここからで俺が使える治療の魔法は、ヒールだけ。でもこれは多少の傷とわずかな体力回復しかできない。

「ヒール」

 試しにヒールをかけてみたが、やはりというべきかかすり傷程度の傷が若干薄くなった程度であり、鑑定で確認すると、HPがわずかに回復しただけ、しかもそれも一瞬にしてまた1に戻ってしまった。体中の傷が大きく体力を回復してもすぐにそれを消費してしまうようだ。

「ちりも積もれば山となるというし、これを何度もかけていくしかないか」

 というわけで、それから数度ヒールをかけ続けてみたのだった。しかし、やはり効果が小さすぎて焼け石に水状態、かすり傷程度のものはなくなりみみずばれも薄くなったが、結局はそれだけでそれ以上の治療にはならなかった。

「無理か、あっ、そういえば愛莉亜が言っていたな」

 またまた愛莉亜だが、異世界関係の両親を持つ愛莉亜は魔法にもたけており、それを教わったことがある。それによると、魔法はイメージ次第で威力が変わる。炎魔法も、燃焼の理屈を理解して使えば強くなる。愛莉亜が実演してくれた。そして、回復魔法も同じで、同じヒールでもただかけるよりは、人体構造や医療知識を使った方がより効果が出る。
 ということで、さっそく少女のみみずばれなどが回復して元の肌になるようにイメージしてからヒールをかける。

 皮膚の構造、血管の位置、細胞の再生――
 頭の中で、教科書の図を思い浮かべながら、傷がふさがっていく様子をイメージする。

「ヒール」

 魔法が発動した瞬間、肌の表面がゆっくりと滑らかになっていくのが見えた。

 すると、やはり効果が増したようでみみずばれがかなり薄くなった。

「よしっ、これで何度もかければ」

 それから幾度かヒールをかけ続けたことで、みみずばれ自体は完全になくなり、元の白くきれいな肌が見え始めてきた。といってもそれはみみずばれのような小さなものだけで、大きなものとなると残念ながら回復させることはできなかった。

「はぁ、やっぱりヒールじゃ無理か、もっと上位の魔法じゃないと」

 いくらイメージをしたとしてもヒールという最下級回復魔法では限界があり、これをいくらかけたところで小さな傷しか治すことはできない。
 それを打破するためにはやはりもっと上位の魔法しかない。それも、ハイヒールのような魔法ではなくさらにもっと、部位欠損すら治せるようなものだ。といっても、この世界に召喚されたばかりでレベルも低い俺では当然扱えない。

 でも……

 それでもこの少女を助けるにはそれを使うしかない。それなら、無理やりにでも使うしかない。

 ということで、まずは先ほどよりも強くイメージする。人間の骨の構造、これは骨格標本をイメージする。それから、内臓、この辺りは教科書や人体模型から、そして、筋肉から血管、神経などイメージだけで人体を完成させる。

「だめだ、これじゃ」

 これだけでは足りないと思い、そこからさらに集中して深く、深くイメージする。

 すると、自然に頭の中に細胞から人体を蘇生する元素に至るまでが明確に浮かんでくる。

 深く、深く沈んでいく意識の中で、光が差した。
 それは言葉ではなく、祈りのような感覚。
 頭の中に、ひとつの魔法が浮かんできた。
「……パーフェクト・ヒール」

 詠唱は、歌のように、祈りのように――
 でもその声には、怒りも、悲しみも、希望も、全部が込められていた。
 最後の言葉とともに、俺は全魔力を解き放った。

 少女の体に両手をかざし唱えると、手のひらから魔方陣が浮かび少女の体が白く光る。
 魔方陣が浮かび上がった瞬間、牢の空気が震えた。
 白い光が少女の体を包み、まるで天から祝福が降りてきたようだった。

 そうして始まる光景はまさに劇的であった。

 頭を見てみると、一部禿げ上がり地肌が見えてしまっていたところから徐々に髪が腰まで伸び、前髪が目にかかる。肌は白く滑らかに戻り、瑠璃色の瞳が再生されていく。
 それだけで、彼女は美少女へと変わっていった。

 体となるとこちらも―― 体中にあった小さな傷はすっかり消え、大きな、鞭か何かでえぐられた傷はジュクジュクと細胞が盛り上がり傷をふさいでいく。そして、これまたシミ一つないきれいな肌となった。

 ほかにも胸なども半ば無くなっていた右胸が盛り上がっていき、綺麗なものになり、左胸も問題なく先端まで形成されていった。

 そうして、体の修復が終わったところで、今度は肩口から切断されていた腕から真っ白な骨が生えてきて指先まで形成、その後その周りに筋肉や血管などが作られ最後に皮膚で覆われ、手が生えそろったのだった。また、それは足にも起きたことで、少女の体の修復が完全に終了したのだった。

 そして、彼女の胸が静かに上下し始めた。
 苦しげだった呼吸が、穏やかなものへと変わっていく。
 命が――戻ってきた。

 こうして完全回復した少女を見届けたところで、俺は意識を手放した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

アルフレッドは平穏に過ごしたい 〜追放されたけど謎のスキル【合成】で生き抜く〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
アルフレッドは貴族の令息であったが天から与えられたスキルと家風の違いで追放される。平民となり冒険者となったが、生活するために竜騎士隊でアルバイトをすることに。 ふとした事でスキルが発動。  使えないスキルではない事に気付いたアルフレッドは様々なものを合成しながら密かに活躍していく。 ⭐︎注意⭐︎ 女性が多く出てくるため、ハーレム要素がほんの少しあります。特に苦手な方はご遠慮ください。

勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。

克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。

「餌代の無駄」と追放されたテイマー、家族(ペット)が装備に祝福を与えていた。辺境で美少女化する家族とスローライフ

天音ねる(旧:えんとっぷ)
ファンタジー
【祝:男性HOT18位】Sランクパーティ『紅蓮の剣』で、戦闘力のない「生産系テイマー」として雑用をこなす心優しい青年、レイン。 彼の育てる愛らしい魔物たちが、実はパーティの装備に【神の祝福】を与え、その強さの根源となっていることに誰も気づかず、仲間からは「餌代ばかりかかる寄生虫」と蔑まれていた。 「お前はもういらない」 ついに理不尽な追放宣告を受けるレイン。 だが、彼と魔物たちがパーティを去った瞬間、最強だったはずの勇者の聖剣はただの鉄クズに成り果てた。祝福を失った彼らは、格下のモンスターに惨敗を喫する。 ――彼らはまだ、自分たちが捨てたものが、どれほど偉大な宝だったのかを知らない。 一方、レインは愛する魔物たち(スライム、ゴブリン、コカトリス、マンドラゴラ)との穏やかな生活を求め、人里離れた辺境の地で新たな暮らしを始める。 生活のためにギルドへ持ち込んだ素材は、実は大陸の歴史を塗り替えるほどの「神話級」のアイテムばかりだった!? 彼の元にはエルフやドワーフが集い、静かな湖畔の廃屋は、いつしか世界が注目する「聖域」へと姿を変えていく。 そして、レインはまだ知らない。 夜な夜な、彼が寝静まった後、愛らしい魔物たちが【美少女】の姿となり、 「れーんは、きょーも優しかったの! だからぽるん、いーっぱいきらきらジェル、あげたんだよー!」 「わ、私、今日もちゃんと硬い石、置けました…! レイン様、これがあれば、きっともう危ない目に遭いませんよね…?」 と、彼を巡って秘密のお茶会を繰り広げていることを。 そして、彼が築く穏やかな理想郷が、やがて大国の巨大な陰謀に巻き込まれていく運命にあることを――。 理不尽に全てを奪われた心優しいテイマーが、健気な“家族”と共に、やがて世界を動かす主となる。 王道追放ざまぁ × 成り上がりスローライフ × 人外ハーモニー! HOT男性49位(2025年9月3日0時47分) →37位(2025年9月3日5時59分)→18位(2025年9月5日10時16分)

タイム連打ってなんだよ(困惑)

こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
「リオ、お前をパーティから追放する。お前のようなハズレスキルのザコは足手まといなんだよ」  王都の冒険者ギルドにて、若手冒険者のリオは、リーダーの身勝手な都合によってパーティから追い出されてしまい、同時に後宮では、聖女の降臨や第一王子の婚約破棄などが話題になっていた。  パーティを追放されたリオは、ある日商隊の護衛依頼を受けた際、野盗に襲われる可憐な少女を助けることになるのだが、彼女は第一王子から婚約破棄された上に濡れ衣を着せられて迫害された元公爵令嬢こと、アイリスだった。  アイリスとの出会いから始まる冒険の旅、行く先々で様々な思惑によって爪弾きにされてしまった者達を受け入れていく内に、彼はある決意をする。 「作ろう。誰もが幸せに過ごせる、そんな居場所を」  目指すべき理想、突き動かされる世界、そしてハズレスキル【タイム連打】に隠されたリオの本当の力とは?    ※安心安全安定安泰の四安揃った、ハピエン確定のハズレスキル無双です。 『エ○ーマンが倒せない』は関係ありません。

世界最強の賢者、勇者パーティーを追放される~いまさら帰ってこいと言われてももう遅い俺は拾ってくれた最強のお姫様と幸せに過ごす~

aoi
ファンタジー
「なぁ、マギそろそろこのパーティーを抜けてくれないか?」 勇者パーティーに勤めて数年、いきなりパーティーを戦闘ができずに女に守られてばかりだからと追放された賢者マギ。王都で新しい仕事を探すにも勇者パーティーが邪魔をして見つからない。そんな時、とある国のお姫様がマギに声をかけてきて......? お姫様の為に全力を尽くす賢者マギが無双する!?

神様に与えられたのは≪ゴミ≫スキル。家の恥だと勘当されたけど、ゴミなら何でも再生出来て自由に使えて……ゴミ扱いされてた古代兵器に懐かれました

向原 行人
ファンタジー
 僕、カーティスは由緒正しき賢者の家系に生まれたんだけど、十六歳のスキル授与の儀で授かったスキルは、まさかのゴミスキルだった。  実の父から家の恥だと言われて勘当され、行く当ても無く、着いた先はゴミだらけの古代遺跡。  そこで打ち捨てられていたゴミが話し掛けてきて、自分は古代兵器で、助けて欲しいと言ってきた。  なるほど。僕が得たのはゴミと意思疎通が出来るスキルなんだ……って、嬉しくないっ!  そんな事を思いながらも、話し込んでしまったし、連れて行ってあげる事に。  だけど、僕はただゴミに協力しているだけなのに、どこかの国の騎士に襲われたり、変な魔法使いに絡まれたり、僕を家から追い出した父や弟が現れたり。  どうして皆、ゴミが欲しいの!? ……って、あれ? いつの間にかゴミスキルが成長して、ゴミの修理が出来る様になっていた。  一先ず、いつも一緒に居るゴミを修理してあげたら、見知らぬ銀髪美少女が居て……って、どういう事!? え、こっちが本当の姿なの!? ……とりあえず服を着てっ!  僕を命の恩人だって言うのはさておき、ご奉仕するっていうのはどういう事……え!? ちょっと待って! それくらい自分で出来るからっ!  それから、銀髪美少女の元仲間だという古代兵器と呼ばれる美少女たちに狙われ、返り討ちにして、可哀想だから修理してあげたら……僕についてくるって!?  待って! 僕に奉仕する順番でケンカするとか、訳が分かんないよっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

処理中です...