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15話 隠蔽解除

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 その後も単独の雑魚モンスターが現れてはマリナが倒し続けるという展開が続いた。

《レベル上昇  魔法【毒沼】習得》
 毒沼か。
 確か自分が狙った範囲に文字通り毒の沼を作る事が出来る遅延魔法だったはず。

「――マリナさん。ヴァニラもマリナさんみたいに皆を守りたいの……! 次はヴァニラも参加していい?」

 ヴァニラはマリナの袖を小さく掴みながら自分の参戦を要求する。

「ヴァニラ様……。ええ、旦那様からも戦闘経験を積ませるようにと仰せ使っておりますので次回の戦闘からはヴァニラ様も参加してくださいませ」
「うん! シュントはヴァニラの後ろに隠れとくんだよ?」
「あ。はい……」

 あれ? 何故かすこしだけ虚しい気持ちになったのはなんでだろう……。
 でもそうか。
 俺はこの子に守られながらこの子を守ると決めたんだ。
 それがこの子の幸せひいては俺の幸せに直結する……!

 しかし、その後は農村や小さな集落を通り抜けたからか一匹のモンスターにも遭遇しないまま夜になった。

「――では陽も落ちましたし本日はここにテントを設営します。シュント君は手伝ってください。ヴァニラ様はそんなに拗ねていないでこっちに来てくださいませんかー?」

 大木の麓を今日の寝床に決定したが、モンスター撃破を意気込んだヴァニラはその感情をどこにもぶつける事が出来なかったためいじけていた。

「……ヴァニラも戦えるのに……。シュント守るのに……」

 ここまでヴァニラがいじけるしまっている姿は初めて見るが、これはこれで年相応の反応で可愛らしい。

「ヴァニラ様。こっちに来て一緒にテント設営をしませんか?」
 しかしヴァニラはそっぽむいたままだ。
「あーあ。マリナさんが湧水を汲みに行ってる今モンスターが襲ってきたら怖いなー。私みたいな見習い魔法使いだけだったら絶対やられちゃうなー」

 ヴァニラの耳がピクっと動いたのを俺は見逃さない。

「誰か私を守ってくれる優しい人は居ないかなぁー? 居てくれたら安心してテントが建てれるのになぁーー」

 自分でも驚くほどの大根役者っぷり。
 これには中高の文化祭演劇でセリフなしだったのも納得出来る。

 しかし、相手は8歳の子供だ。
 案外早めに釣り上げれる事ができた。

「シュントがヴァニラに守って欲しいなら……そっちにもどるよ……」
「ええ。私は友達としてヴァニラ様に守っていただく契約をいたしましたので」

 まだ少し拗ねているがヴァニラは木の陰からようやく姿を現した。

 しかし。ヴァニラが姿を現した瞬間、双頭を持つドーベルファングが出現した。

 ドーベルファングは決して強くは無いが獰猛さと攻撃力は先程のゾックスを遥かに凌ぐ。

「シュント! ヴァニラの後ろに隠れて!」
 
 グァファァ!!
 
 指示通り後ろに回り込み戦闘態勢に入るが、ドーベルファングは間髪入れずに襲いかかってきた。

「――キャャーー!」

 ヴァニラは間一髪のところでドーベルファングの攻撃を避ける。
 いや、ただ向かってきたモンスターに気圧されて転んだと言うのが正しい表現だろう。
 これはモンスターとの実践経験がまるで無いヴァニラとマリナさんとの圧倒的差。

 どうする。
 最悪俺がこのまま倒すしかないか……。
 隙を見てマリナさんを呼んでくるか。


 いや待て、この暗闇ならバレないかも……!

「――ヴァニラ様。立てますか?」
「う、うん……」
「ヴァニラ様、このまま火散弾を打ってください。相手は現在身動きが取れません」

「え?」

「理由は後で説明します!」

《毒沼を使用しますか?   消費MP3》
[YES]
《隠蔽魔導は付与しますか?》
[YES]

 更にヴァニラの詠唱より1テンポ早く火炎魔法発動……!
 そして、隠蔽された火散弾がヴァニラの杖先を通過する瞬間を……狙う!

《火散弾を使用しますか?  消費MP2》
[YES]
《隠蔽魔導は付与しますか?》
[YES]

「――いくよ! 火散弾!」
「隠蔽解除!!」

 ヴァニラの杖先から突如出現した火炎魔法は小さな火粉を軽く飲み込むと、辺り一面を赤々と照らしながらドーベルファングを瞬時に消滅させた。

「――はぁはぁ……シュント……大丈夫?」

《ドーベルファングを倒した  22EX獲得》

「――ええ。まぁなんとか……」
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