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22話 イノディクト討伐作戦4

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「ヴァニラ様こちらへ!」

 俺はヴァニラの腕を強引に引っ張る。

「マリナさん! 身体強化魔法をヴァニラ様にお願いします!」

「――ヴァニラ様に……!? まさか接近戦をするつもりですか!?」

「はい。さきほどのマリナさんの剣撃とヴァニラ様の火炎魔法でイノディクトのHPは限界に近いはずです」

「――!! あなた……血迷ったのですか!? あんな化け物との接近戦でヴァニラ様だけを戦わせるなんて……やはりあなたはノーデンタークにふさわしくない!!」

 泥だらけになったメイドは激昂しながら俺を責め立てる。
 そしてヴァニラは俺が見えないマリナと口論している様子に動揺している。

「ヴァニラ様だけ? いいえ。ヴァニラ様にはトドメをさしていただくだけです」

「おそらく次イノディクトが突進の目標とするのは私なのです」

「――? なぜそんなことが言い切れるのですか……?」

 俺を睨みつけながらもマリナは質問をぶつける。

「イノディクトが突進の目標とするのは敵の中でもっとも生命力に溢れた者。このパーティーで最もHPが高いのはマリナさんなので最初の奇襲から僕が隠蔽魔法をかけるまではマリナさんが狙われ続けていたのです」

「その証拠にマリナさんに隠蔽魔法をかけた瞬間すぐにイノディクトは私の方向に向き直しました。だからその習性を逆手に取りましょう」

『スレイブ・フロンティア』をやり込みつくし、レベル上げのお得意様だったイノディクトの戦闘スタイルなんて頭に全て叩き込まれている。

「――しかし……」

 マリナは悔しそうに泥と化した地面を殴る。

「――お願い……! ヴァニラずっとダメな子だったけど……。さっきも失敗しちゃったけど……」

「一回だけヴァニラの事とシュントの作戦を信じてみてくれないかな……?」

 ヴァニラは見えないマリナに向かって優しく語りかける。

 しかし俺にだけは見える。

 優しく語りかけるヴァニラの健気な姿が。

 そしてその姿を瞳に写し、ヴァニラの成長に感涙する彼女の姿が。

「――分かりました……」




「もうすぐイノディクトの混乱が解けます。ヴァニラ様は混乱が解けた瞬間、私の手筈通りに行動してください」

「うん。チャンスは一回だね」

「はい。思いっきりお願いします」

 その時、混乱が解けたイノディクトは立ち上がりながらキョロキョロと首を振る。
 そして獲物である俺に再び照準を合わせると突進の構えになる。

「今です! 離散してください!」

 俺の号令でヴァニラは俺の進行方向とは逆に走り出す。

 案の定、走り出したヴァニラになどは目もくれず俺に突進して来た。

「ふぅ。こんな雑魚に手こずるなんて……」

《毒沼を使用しますか?  消費MP4》

 YES

《隠蔽魔法は付与しますか?》

 NO

「毒沼!!」

 猛スピードで突進してくるイノディクトの足元に大きな毒の沼が発生し、イノディクトの巨体をみるみる沼底にひきづり込んでいく。

 グゥゥグググゥギャウゥ!!!

 しかしイノディクトも負けじと抵抗し、ジタバタと暴れる。

「ヴァニラ様! 今です!」
「うん!」

 沈み行くイノディクトの無防備な頭の前に現れたヴァニラは【聖なるロッド】を大きく上に振りかぶる。

「――ややあぁぁ!!!」

 ここで決めるんだ……!
 当たる瞬間を見極める……!

《風突を使用しますか?   消費MP5》

 YES

《隠蔽魔法は付与しますか?》

 YES

 ヴァニラがロッドが振り下ろした瞬間、イノディクトの頭上には風突によって凄まじい下降気流が発生。

 風速200メートルはゆうに越す剛風は圧倒的な下方圧力となってイノディクトの脳天を完璧に打ち砕いた……!

《イノディクトを倒した   89EX獲得》

《レベルアップしました  12レベル→13レベル》

《レベルアップしました  13レベル→14レベル》
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