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21話 イノディクト討伐作戦3

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「くっ……だ、大丈夫です……。あなた達はそこに居なさい……」

「マリナさん……」

 ググユュゥウーー!!

 左足を切り裂かれたイノディクトはふらつきながらも立ち上がり、マリナに向けて再度標準を定める。

「――シュント。マリナさん。下がってて」


 昨日はドーベルファングの攻撃だけでも腰を抜かしていたはずのヴァニラは腕を押さえるマリナの前に立つ。

「ヴァニラ様!! いけません! このイノディクトは昨日我々が倒したモンスターとはレベルが違います!!」

 しかしヴァニラは振り向かない。

「シュ、シュント君! ヴァニラ様と一緒に早くにげて……! お……お願い……。もう主を目の前で失うのだけは嫌……」

 涙がかった悲痛な叫びだった。
 雨に混じった大粒の涙を落とすマリナ。
 いつもは冷静な彼女がここまで取り乱すとは……。

「――ううん。レベルとかそんなのはヴァニラにはよく分かんない……。ヴァニラはたしかに魔法の才能は無いかもしれない。でもなんかね……二人が居てくれたら少しだけ強くなれる気がするんだ」

「こないだね……お父様に初めて褒められたの。短い言葉だったけど初めてヴァニラを見てくれた。ヴァニラ頑張ってよかったって思えたの。でも――」

「今また逃げたらお父様はヴァニラを嫌っちゃうと思う。シュントはヴァニラを嫌っちゃうと思う」

「そして……ヴァニラがヴァニラをもっと嫌いになっちゃうと思う……!」

 ヴァニラは右手の杖をイノディクトに向けて堂々と突き出す。
 雨にかき消されそうなか細い声だったが少なくとも俺の心を動かすには十分すぎた。

「――そうですね。それなら執事として。友達としてお手伝いします」

「シュント……でも危ないから後ろにいてね!」

「――ヴァニラ様……なぜそこまで……」

《不可視擬を使用しますか? 消費MP2》

 YES

 標的であったマリナに不可視擬をかける。

 その瞬間、突進態勢に入っていたイノディクトの動きが一瞬止まり俺の方向を向く。

 よし。
 いつもの容量で気持ち早めに発動……。

「――いくよ! 火散弾!」

《火散弾を使用しますか? 消費MP4》

 YES

《隠蔽魔導を付与しますか?》

 YES

 そしてヴァニラの杖先を狙う!

「隠蔽解除!」

 ヴァニラの杖先で隠蔽が解除された無数の火炎魔法はイノディクトに襲いかかり、蒸発した水蒸気を噴き上げる。

 まるでエリクスとの訓練のときみたいだなと心で呟いたその時。

「――え?」

「――なんで!? ヴァニラいつも通りに発動したのに……」

 グゥググィグゥーー!!!!

 俺の火散弾を真正面から食らったはずのイノディクトは脳震盪で混乱しているものの、まだ絶命していない。

 降り頻る大雨に飲み込まれた火弾は白い煙となって大気に消えていく。
 沈黙魔杖の攻撃力があるとはいえやはりこの大雨での火炎魔法はあまりにも不利か……。

「――ヴァニラ様。現在使用できる攻撃魔法は他にございますか?」
「ええと……火散弾しかお父様と練習してなかったから……」
「ごめんね。でも必ずヴァニラが二人を守ってあげるから……!」

 藍色の瞳を真っ直ぐこちらに向けるヴァニラ。
 ヴァニラの魔法が使えないのは非常にまずい……。
 魔法が使えない魔導師なんて……。

 ん?
 まてよ。
 別に魔法攻撃だけが攻撃方法じゃないだろ……?

「ヴァニラ様こちらへ!」

 俺はヴァニラの腕を強引に引っ張る。
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