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26話 ノーデンタークの危機
しおりを挟む俺はダンテの屋敷を小さな体ながらにヴァニラの元に激走した。
しかし、風呂場の前にはおそらくダンテの息のかかった使用人が出入り口に二人ほど立っていた。
「おや、シュント様。忘れ物はありましたかな?」
さっきまでは何も感じずに接していたコイツらも全員ダンテの息がかかった連中だと思うと吐き気がするが、グッとこらえて笑顔を作る。
「ええ、執事見習いたる者が忘れ物などお恥ずかしい。ではお風呂いただきますね」
偽の笑顔で一旦男湯に入る。
《不可視擬を使用しますか? 消費MP2》
YES
姿を無くした俺は逆戻りし使用人の間をくぐり抜けて、人生で一度も入ったこと無い赤い色の暖簾をくぐり抜ける。
前世の俺がこんなにも堂々と女湯に侵入していたら即赤いランプの車に乗せられるだろうが、今の体ならばまだ子供のお遊び程度で許されるだろう……。
しかし夜明け前ということもあり幸か不幸か、脱衣所に誰の姿もなかった。
俺はヴァニラの着替えが入った籠を見つけるとそれを持ちながらガラッと扉を開ける。
風呂場にも人影はない。
「隠蔽解除」
「ヴァニラ様。いらっしゃいますか?」
姿が見えないヴァニラを声だけで探す。
それと俺は断じて推しヒロインとてまだ幼いヴァニラの裸などには興味はない。
これだけは念を押しておこう。
大人のヴァニラには惚れたが今の彼女はただの守るべき対象の可愛らしい女の子なのだ。
「――え!? シュント!?」
木壁囲まれた流しの方からヴァニラの驚いた声が聞こえる。
「ヴァニラ様! このような蛮行誠に申し訳ございません! 話はあとで必ずいたしますので今すぐ着替えてはいただけませんか?」
「――? う、うん……シュントがそう言うなら……ちょっと待っててね」
「では着替えはここに置き、私は脱衣所を見張って来ますので着替え終わったらお知らせください」
数分後、何が何だか分かっていない風呂上がりのヴァニラが脱衣所に現れた。
「では行きましょう」
「え? そっちは出口じゃないよ?」
「出口から出てはいけません。そこには悪者がたくさん居るからです」
「わる……もの?」
「ええ、とりあえず柵を乗り越えてここを出ましょう」
未だに困惑が隠せないヴァニラとなんとか茂みと柵の隙間を見つけて脱出した。
夜明け前の静かなエリーモアの街をヴァニラの小さな手を引きながら走り抜ける。
「説明は街を抜けてからします……! 今ならまだ我々の失踪が気づかれていないでしょう……!」
わざわざ使用人同行で風呂場を案内させたのはおそらくダンテが俺たちの動向を知っておく為だろうが、それを利用させてもらった。
今頃、俺たちはのんびりリフレッシュタイムを楽しんでいると思い込んでいるだろう。
でも、その騙し効果もせいぜい持って1時間というところか……。
20分以上一心不乱に走り抜けた俺たちはエリーモア草原の更に奥にある、使われていない小さな納屋に身を隠した。
エリーモア草原の西に位置する古びた納屋。
ひっそりと佇む小さな小屋だが、ゲーマー界隈では隠し装備アイテムが手に入る場所として有名だった。
「はぁはぁはぁ……シュント……も、もうきいても……いーい?」
風呂上がりに全力失踪させられたヴァニラの息は上がりに上がっていた。
「ヴァニラ様……落ち着いて聞いてください」
俺も大きく深呼吸し呼吸を整える。
「このままでは――ノーデンターク家は崩壊します」
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