俺「が」守りたいのは俺「を」守りたい推しヒロイン〜全クリしたゲームに転生した俺は才能ゼロの推しヒロインに守られるフリに徹します〜

長縄 蓮花

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27話 今泣いて、次笑え

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「――ど、どうゆう事?」

「はい。まず順を追って説明します」

 今から話す俺の推論はこの子を大いに傷つけるだろう。

「ヴァニラ様はフォルクス・ノーデンタークという男に聞き覚えがありますか?」

「――フォルクスおじさんがどうかしたの……?」

 やはり顔見知りか。

「おそらくその男はエリクス様からノーデンタークの主権を奪うつもりなのです。そして今回の討伐任務もヴァニラ様を拘束し、エリクス様に圧力をかけるのが目的だったのです」

「――。」

 ヴァニラは突拍子もない話にも口をつぐんで聞いてくれている。
 普通の8歳児ならば混乱してしまってもなんらおかしくないが、この子の心はやはり強くそしてしなやかだ。

「そして、マリナさん。いえ、マリナの他にも屋敷内に内通者及び裏切り者が居るはずです。それもエリクス様の近くに――」

 俺は自分が応接間で見たこと、聞いたものをヴァニラに全て伝える。

「ま、マリナさんが……ヴァニラを……?」

 今まで気丈に振る舞っていたヴァニラの心を打ち砕く告白だったのかもしれない。
 マリナの裏切りを伝えた瞬間、大粒の涙を流すヴァニラ。
 おそらく生まれてからずっとお世話をしてくれていたメイドさんであり、人付き合いが苦手なヴァニラも心を開く数少ない人間の一人だったはずだ。

 しかし、今はのんびり慰めている時間もない。

「ヴァニラ様。おそらく奴らはヴァニラ様を餌にエリクス様を誘き出し、ノーデンタークの屋敷を乗っ取るつもりです」

「涙を拭けとは言いません。しかし、今はヴァニラ様が動かなければ皆が涙を流すことになります。――ノーデンタークの後継者になるヴァニラ様ならば……今やるべき事は理解しているはずです……!」

 こんな子供に厳しい言葉しかかけてあげられない自分の無力さが悔しかった。
 でも今行動しなければ、またこの子は下を向いて生きていく人生を歩んで行ってしまうことだろう。

 大人になったヴァニラに笑ってもらうには……今泣いてもらう他ないんだ……!




 その時、小屋の扉がいきなり開くと猟銃を持った男性が恐る恐る入って来た。

「だ、だれですかぁ……? あ、あのここは僕の家なのですがぁぁ……」

 いかにも弱そうなヒョロヒョロな男性の後ろに馬の姿が見えた。

「え? こ、こども?」

 男はすぐさま銃を下ろす。

「こ、こんなところで、な、何してるのかな? 迷子なら港街のお巡りさん呼んでこようか?」

 まずい……そんな事されたら俺たちの失踪がダンテの耳に入る。

 しかし言い訳を考えている最中、隠しアイテムの存在に気づいた俺は男に見えないようにこっそりと手元のアイテムを入手する。

《恩恵のローブを手に入れますか》

 YES

「お、お兄さん! 迷子になった僕達を乗せて港町まで送ってくれないかな? 港町でお母さんが心配していると思うんだー」

 俺の三文芝居に驚いた様子のヴァニラ。

「大丈夫……? 港に帰ったら……」
「大丈夫です……耳を貸してください」

 ローブで口元を隠しながらヴァニラに乱暴とも取れる作戦を伝える。

「ふ、二人をかい? うーん。まぁ君たちなら軽いだろうしいけるかな……」
「お願いします!」

 男は猟銃を置くと俺たちを丁寧に馬へと乗せてくれた。
 ヴァニラ、俺、ヒョロガリの男性の順番で跨った馬は港街目掛けて駆け出していく。

「で、でもこんな時間に何をしていたの? 家出にしてはまだ若いような……」
「いやー、妹のラーニがどうしても星を見たいってうるさかったからさー。家抜け出して草原で天体観測してたんだ! そしたら迷っちゃって……へへへ」

「そ、そうなんだ。でも安心して僕がしっかり送り届けてあげるからね」

 ああ、この人の純粋な優しさが辛い。
 でもこのまま捕まるわけにもいかないんだ。

 ごめんなヒョロガリの兄ちゃん。

「ふぁーーあ。眠いなー」

 大きなあくびを一回。
 それが合図だ。

「あ! 見てお兄ちゃん! 右前にでっかいモンスターが居るよ!」
「え、えええ! ど、どこですか!?」

 男性は思わず馬のスピードを落とす。

 その瞬間、俺は前のめりになった男性の懐に潜り込み、思い切り横へと押し出す。
 心優しき男性は減速した馬の鞍上から放り出され、草のクッションに衝突。

「ごめんなさい!! 本当にごめんなさい!! この恩は必ず返します!!!」
「ごめんね! お兄ちゃん! でも行かなきゃいけないところがあるの!」

 俺達は数秒間で伝えられるだけの感謝と謝罪をすると進行方向を真逆に変えて草原を駆け抜けて行った。


「――それにしてもヴァニラ様が馬の操縦まで出来るとは助かりました」
「うん。お父様と領地を回るときはいつもお馬さんだったから……でもあのお兄さんには悪いことしちゃった……大丈夫かな?」

 手綱を握るヴァニラはしょんぼりしながら彼の安否を心配している。

「まぁ馬もある程度減速させましたし、草原の上に落ちたので大事には至っていないかと……それよりもまずは早く屋敷に向かわなければ……」


「――そうだね。ヴァニラは皆を……シュントを守るって決めたんだから……!」

 ヴァニラは決意の言葉と共に軽く馬に鞭を打った。
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