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31話 双刀流剣士
しおりを挟む俺は地面に横たわりっているヴァニラを抱き抱えると訓練場の隅に静かに寝かせる。
「ごめん……。きっと君のことだ、あの後訓練場で一人修行していたんだろ? 」
俺はヴァニラの煤まみれになった額を軽く撫でる。
「おーい。おねーちゃんとのイチャイチャは終わったー? 早くやろーよ」
5歳児の挑発に乗るなんて普通では考えられないが、この時ばかりは年齢だの性別だの関係なく叩き潰さないと気が済まなかった。
「ああ。いつでもいいぞ」
「それじゃあ始めるわね……」
エマは右手をスッと上げ、数秒の静寂を作ってから振り下ろす。
「始め!」
エマの掛け声と共にデビスは間髪入れずに間を詰めてくる。
「――いくぞ!!」
風魔導を剣身に宿した高速双剣攻撃。
風の如く閃光の速さで俺の心臓めがけて襲いかかってくる。
「ば、ばか! シュント君相手にそんな大技!」
ファナの静止声など耳にもとめないデビスはそのまま突っ込んでくる。
「うるせー! こいつはノーデンタークを馬鹿にしたんだ! 切り刻んで終わらせる!」
「――やっぱな」
「――!!」
「こっちが何回お前の攻撃見て来たと思ってんだ……」
デビスの高速剣撃は心臓到達寸前、凄まじい衝撃音と共に地面に叩き落される。
「な!?」
簡単な話だ。
狙われたポイントに【沈黙魔杖】を構えておけば、デビスの剣が触れた瞬間、魔導を打ち込む通常攻撃が自動的に発動される。
「高速だろうがなんだろうが、どこをどんなタイミングで攻撃してくるのか分かったらそれは無価値なんだよ。覚えとけ」
『スレイブ・フロンティア』ガチ勢からすれば、デビス・ノーデンタークの攻撃方法なんて手に取るように分かるのだ。
こいつの攻撃は常に前方方向への高速剣撃スタイル。
そして先制攻撃は一撃必殺と自称する風魔導剣技術を必ず使用してくる。
俺も初見の時は高速剣術に苦労したが、スピードに頼りすぎるこいつのスタイルは正直二回見れば対応出来たし、それを応用したカウンターも生み出せた。
「――今の技たしか……双刀流 二閃風刀とかいう名前だよな? 風魔導を込めた剣術スタイルはエリクス様の聖騎士術の応用だったような……しかしまだまだだ」
「――!! お前なんでそれを知っている!? ヴァニラに聞いたのか!? 俺はあんな雑魚にこの技を見せたことないぞ!」
一撃必殺の技が看破されたどころか、技の性質まで見抜かれたデビスの表情からは一気に『余裕』の2文字が取り払われていた。
「き、貴様! 旦那様にデビスの剣術スタイルを教わったとでもいうのか!? この卑怯者が!」
血相を変えて憤慨するエマに俺はいたって冷静に答える。
「はぁ。あのエリクス様が腐ってもノーデンターク家の一員であるコイツの技の事や弱点を教えると本気で思ってんのか……?」
「――!! そ、それは……」
「理由は企業秘密だがこれだけは言っておく」
「これからお前達双子、そしてエマ。お前の攻撃パターン、行動パターン、戦闘スタイルは全てお見通しだと理解しろ」
これはハッタリでもなんでもなく経験に基づいた圧倒的自信から出た言葉。
それほどにこのゲームをやり込んだオタクとしての自負がある。
「このノーデンタークでも無い下民がぁ!!」
「はぁぁぁ!!!!」
振り回した双剣から放たれた龍虎を象った無数の炎の斬撃が訓練場の気温を数度上昇させる。
5歳でこのレベルの魔導剣技術が使えるデビスはやはり自他共に認める天才で間違いないだろう。
しかし相手が悪かったな。
「――双刀流 龍炎虎徹……だったか? 俺それカッコよくて好きだったんだよ」
いくら龍や虎を象ったとて所詮攻撃力で勝る【沈黙魔杖】の物理攻撃でいくらでも防げるのだ。
「――で、デビスの龍炎虎徹を全て消し去るだと……? それも水魔法もなしに……?」
エマの顔面が蒼白になるのが目に見えて分かった。
「デビス。お前は天才だ」
「――は、はぁ?」
「でもこの勝負だけは負けるわけにはいかない。なぜなら俺はヴァニラ様を一生守り続けないといけない存在だから。あの子を虐げるお前らだけは許さない……!」
俺は【沈黙魔杖】を前に構える。
「ちょっと痛いだろうが我慢しろよ……」
《風突を使用しますか? 消費MP5》
「――イエス」
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