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36話 侵入開始
しおりを挟むヴァニラが眠る地下室を出た俺たちは冷たい地下通路を奥に進む。
「おそらく術者は屋敷内に居るとは思いますが如何せんこの広い屋敷を二人で捜索するのは骨が折れますね……」
「それなら俺に任せてくれ。俺の方位磁針は相手の残留魔導思念を感知出来れば方角が分かる……が、さっきの呪縁魔法の思念はもうすでに消え去ってる」
残留魔導思念とは術者が残した魔法の遺伝子のようなもの。
地球のDNA鑑定のように人それぞれ異なる魔導思念を持っており、それを調べれば術者のあらゆる情報が手に入る。
「そうですか……。先ほどのような強力で広範囲に影響を及ぼす呪縁魔法は再使用に時間と膨大なMPを要するはずです。ですから再使用されるまでは素直に二人で捜索しましょう」
「術者を捜索しながらお母様・デビスを避けねばなりません……」
「どうしてだ? お前はこれほどまでに魔導師として才能があるじゃないか?」
お世辞では無く俺が見てきた上で口から出た言葉だった。
「ーーそうでした。シュント君にはファナの能力を知ってもらわねばなりませんね。シュント君、パーティー制度は知っていますね?」
「ああ」
「ではシュント君がホストになって私のステータスを覗いてください」
《ファナをパーティーに誘いますか?》
YES
「はい。ではご覧ください」
《ファナ(5) 魔導師 人間》
【レベル】 32
【HP】 134/134
【MP】 98/132
【攻撃】 3
【防御】 33
【装備】 武器 叡智の杖
防具 水魔の羽衣
防具 詠力の手袋
装飾品 援術師の紋章
《習得魔法》
粉塵の霧 消費MP6
サラビアの盾 消費MP6
完全治癒 消費MP22
未確認魔法有り
「これは……」
ステータスは5歳児にしては異常な数値であるのは間違いない。
それと使用時を見た事がない魔法は未確認魔法としてステータスビジョンには反映されない。
しかし、問題はそこではなかった。
「攻撃力が……3? 防御力もレベルの割には……」
「ファナ達双子は二人で一つです。デビスには圧倒的物理能力、剣術スキルがありますが魔法はからっきしです。なのでデビスはコントロール出来ない魔導を特殊な双剣で変換して技を放っています。そしてファナも魔導力こそ高いですが、通常攻撃や物理防御は周りに大きく劣ります」
二人で一つか。
確かに原作でもこの二人はいつも行動を共にしていた気がする。
あれは互いの長所を発揮できるからだったのか。
「よく領民の皆さんから天才だの神童などと持て囃されますが、ファナは一人では支援魔法や障壁魔法しか使えない凡人に成り下がります。なので今回はファナの支援魔法とシュント君の攻撃を主体とした戦闘スタイルでいきましょう」
「分かった、でも俺もMPが無いからそこまであてにしないでくれ」
まじかよ。
この状況でMP切れは結構まずいだろー。
「MPポーションが必要ですね……。あ、でもあそこなら」
「あそこって?」
「お母様の書斎です。でもそこまでに誰にも遭遇しないとは限りませんが……」
エマの書斎……?
ああ、たしかにデスクの2番目の引き出しに高濃度ポーションがあったな。
「でもまぁ魔導師パーティーの俺らにMPは不可欠だ。とりあえずは下手な戦闘は避けつつエマの書斎に忍び込もう」
そうだ。
時間は刻一刻と迫ってきている。
そして、歩き続けていた俺達は地下道の行き止まりに突き当たった。
「――解放」
ファナが行き止まりのレンガの壁に手を当てると、レンガはガチャガチャと配置を入れ替えながら地上に繋がる階段に姿を変えた。
「よし。では参りましょう」
階段を上がるとそこからはご飯のいい香りがした。
「ここは……屋敷のキッチン?」
「ええ、では侵入開始です」
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