俺「が」守りたいのは俺「を」守りたい推しヒロイン〜全クリしたゲームに転生した俺は才能ゼロの推しヒロインに守られるフリに徹します〜

長縄 蓮花

文字の大きさ
42 / 63

42話 エマ

しおりを挟む

 再度廊下を駆け抜け、大広間がある一階に向かう。
 その道中、大広間から戦闘による爆発音や衝撃音が絶えず聞こえてくる。

「はぁはぁ。まずい……もうすぐ9分が経過しちまう」

 階段をかけ下がると大広間が見えてきた。

「隠蔽解除」

 隠蔽を解除し、なぜか戦闘音が消えた大広間の扉を勢いよく開ける。

「――ファナ! 術者の居場所が分かったかも知れないぞ!」

 ファナを呼ぶ声が虚しく響く大広間。
 目の前にはバラバラになった長机と骨董品の破片の数々が床を埋め尽くしており、戦闘によって舞い上がった煙が充満していた。

 しかし、煙が引いた瞬間。
 俺は目の前に広がる状況を理解出来なかった。

「な、なんで……」

「シュント!! ファナちゃんが!!」

 扉の方を振り返るのは煤で顔を黒く汚したヴァニラ。

 ファナはエマの【雷電鞭】が巻きつけられ、持ち上げられた状態でぐったりしている。

「エマさんが……。なんでこんなこと……!」

 浮かべた涙を必死押し殺しながら悲痛に叫ぶ俺の推しヒロイン。
 一応ロッドを構えた両手は小刻みに震えている。

「ヴァニラ様! なんでここに……!」

「分かんないよ……訓練場で皆とお稽古してたはずなのにいきなり非常室で目が覚めたんだもん……それで屋敷に戻ったらこんな事に……」

 そうか。
 ヴァニラは呪縁魔法にかかったデビスにいきなり攻撃されて気を失ったのか。
 そんな子にこの状況を理解しろってのが無理な話だ。

「ファナ……本当に馬鹿な子ね。デビスに『氷層結止』を発動しながらこの出来損ないを守って私と戦うなんて」

 エマの言葉でデビスに目線を向けると、デビスの手足を縛る制限魔法はかろうじて効力を発揮していた。
 しかし、それでも徐々に細く薄く形状変化する様子からファナの魔導力が弱まっているのが分かる。

「シュント君。取引といきましょう」

「取引だと……?」

 邪魔だった障害物を払い除けたエマはリーチのアドバンテージを最大限に活用した場所から取引を持ちかける。

「ヴァニラをこちらによこしてちょうだい。その代わりにファナの解放と動けないデビスから【怨刀対子】を取り上げてそちらに渡すわ。どう? 悪くない条件でしょ?」

「――!! お前……自分の子供を交渉材料に使うつもりか!」

 おかしい。
 さっきまでのコイツはヴァニラへの敵意こそ凄まじいもののデビス、ファナには普通に接していた……。
 いくらファナが俺側についたとてそこまでやるとは考えられない。

「シ……シュント君……ダメです」

「ファナ! 気がついたか?」

「呪いがどんどん強まっています……お母様の提案は無視して……早く術者を……」

 電撃の痺れでぐったりしていたはずのファナは最後の力で俺に忠告する。

「往生際の悪い娘ね……」
「――雷光滅……!」

「きゃやゃあああああぁぁ!!!」

 巻きついた鞭は電気を通す銅線となりファナの体に大量の電気を流し続ける。
 白く輝く光の奥に悶え苦しむファナの顔が見えた。

「早くしなさい。さもなければアナタは一生後悔する事になるわ」

「エマ……てめぇ……!」

 やはり呪いが強まっているのが原因だろうか、さっきまでとはエマの行動パターンがまるで違う。
 それともヴァニラを目の前にして呪いの強度が上がり、なりふり構わない行動にでているのか。

「え、エマさん! なんでこんな酷い事するの!? エマさんは優しくてファナちゃんやデビスを可愛がってたのに…、どうして!?」

 しかし今のヴァニラの叫びなどエマの憎しみに油を注ぐだけだった。

「酷いですって……? 一番酷いのはあんたの母親よ……」

「――! お、お母様……?」

「ええ……あの女は人の大事なものを盗むのが好きな奴だったわ」

「そんな事を……お母様がするはず……」

 ヴァニラの弱々しい反論に被せるような怒声が聞こえてきた。

「――だまれ! あいつは……アクリシアは突然私たち幼馴染の前に現れた。そして私から何もかも奪っていった……。地位も、名誉も、魔法も……そしてエリクスも……」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

社会の底辺に落ちたオレが、国王に転生した異世界で、経済の知識を活かして富国強兵する、冒険コメディ

のらねこま(駒田 朗)
ファンタジー
 リーマンショックで会社が倒産し、コンビニのバイトでなんとか今まで生きながらえてきた俺。いつものように眠りについた俺が目覚めた場所は異世界だった。俺は中世時代の若き国王アルフレッドとして目が覚めたのだ。ここは斜陽国家のアルカナ王国。産業は衰退し、国家財政は火の車。国外では敵対国家による侵略の危機にさらされ、国内では政権転覆を企む貴族から命を狙われる。  目覚めてすぐに俺の目の前に現れたのは、金髪美少女の妹姫キャサリン。天使のような姿に反して、実はとんでもなく騒がしいS属性の妹だった。やがて脳筋女戦士のレイラ、エルフ、すけべなドワーフも登場。そんな連中とバカ騒ぎしつつも、俺は魔法を習得し、内政を立て直し、徐々に無双国家への道を突き進むのだった。

捨てられた前世【大賢者】の少年、魔物を食べて世界最強に、そして日本へ

月城 友麻
ファンタジー
辺境伯の三男坊として転生した大賢者は、無能を装ったがために暗黒の森へと捨てられてしまう。次々と魔物に襲われる大賢者だったが、魔物を食べて生き残る。 こうして大賢者は魔物の力を次々と獲得しながら強くなり、最後には暗黒の森の王者、暗黒龍に挑み、手下に従えることに成功した。しかし、この暗黒龍、人化すると人懐っこい銀髪の少女になる。そして、ポーチから出したのはなんとiPhone。明かされる世界の真実に大賢者もビックリ。 そして、ある日、生まれ故郷がスタンピードに襲われる。大賢者は自分を捨てた父に引導を渡し、街の英雄として凱旋を果たすが、それは物語の始まりに過ぎなかった。 太陽系最果ての地で壮絶な戦闘を超え、愛する人を救うために目指したのはなんと日本。 テンプレを超えた壮大なファンタジーが今、始まる。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

聖女を追放した国は、私が祈らなくなった理由を最後まで知りませんでした

藤原遊
ファンタジー
この国では、人の悪意や欲望、嘘が積み重なると 土地を蝕む邪気となって現れる。 それを祈りによって浄化してきたのが、聖女である私だった。 派手な奇跡は起こらない。 けれど、私が祈るたびに国は荒廃を免れてきた。 ――その役目を、誰一人として理解しないまま。 奇跡が少なくなった。 役に立たない聖女はいらない。 そう言われ、私は静かに国を追放された。 もう、祈る理由はない。 邪気を生み出す原因に目を向けず、 後始末だけを押し付ける国を守る理由も。 聖女がいなくなった国で、 少しずつ異変が起こり始める。 けれど彼らは、最後まで気づかなかった。 私がなぜ祈らなくなったのかを。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。 不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。 14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。

剣ぺろ伝説〜悪役貴族に転生してしまったが別にどうでもいい〜

みっちゃん
ファンタジー
俺こと「天城剣介」は22歳の日に交通事故で死んでしまった。 …しかし目を覚ますと、俺は知らない女性に抱っこされていた! 「元気に育ってねぇクロウ」 (…クロウ…ってまさか!?) そうここは自分がやっていた恋愛RPGゲーム 「ラグナロク•オリジン」と言う学園と世界を舞台にした超大型シナリオゲームだ そんな世界に転生して真っ先に気がついたのは"クロウ"と言う名前、そう彼こそ主人公の攻略対象の女性を付け狙う、ゲーム史上最も嫌われている悪役貴族、それが 「クロウ•チューリア」だ ありとあらゆる人々のヘイトを貯める行動をして最後には全てに裏切られてザマァをされ、辺境に捨てられて惨めな日々を送る羽目になる、そう言う運命なのだが、彼は思う 運命を変えて仕舞えば物語は大きく変わる "バタフライ効果"と言う事を思い出し彼は誓う 「ザマァされた後にのんびりスローライフを送ろう!」と! その為に彼がまず行うのはこのゲーム唯一の「バグ技」…"剣ぺろ"だ 剣ぺろと言う「バグ技」は "剣を舐めるとステータスのどれかが1上がるバグ"だ この物語は 剣ぺろバグを使い優雅なスローライフを目指そうと奮闘する悪役貴族の物語 (自分は学園編のみ登場してそこからは全く登場しない、ならそれ以降はのんびりと暮らせば良いんだ!) しかしこれがフラグになる事を彼はまだ知らない

処理中です...