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45話 お母さん
しおりを挟む超至近距離からの『風突』による衝撃波とそれに伴う爆風で俺とデビスは、それぞれ大広間の端まで吹き飛ばされ壁に激突する。
「――いっててて……。納屋であれを拾ってこれたのがデカかったな」
「シュント君! 大丈夫ですか!?」
遠くで聞こえるファナの心配声。
おそらく障壁魔法で二次被害から身を守ったのだろう。
一方でデビスは壁にめり込みぐったりとして動かない。
「――はぁはぁはぁ……。ごめんねエマさん――」
大広間の冷たい地面に横たわるエマとそれを上から見下げるヴァニラ。
HP残量が残りわずかになっているエマはもう立つことすら出来ない。
「な……なぜ……。ファナの誘導無しで私の正確な場所が分かるはずなど……」
エマはダメージを食らった体で、途切れ途切れになりながら話す。
「うん。でも灰の中で光が見えたから」
「――! 全てはファナの作戦通りってことね」
シュントのわざとらしくエマをターゲットにするような発言と突っ込む姿をあえて見せたこと。
進行方向をいきなり左に変更した後、それをよんでいたエマは必ず『雷光滅《エレキトリス》』を放つこと。
そしてその光は灰色の世界において絶好の目印になること。
それら全てを加味した上での作戦だったのだ。
「――ゴホッゴホッ……しかし……お前には魔法の才は無いはず……」
「その誤った認識を利用させていただきました……お母様……!」
ファナの声が大広間に響く。
「ファナちゃん……」
「お姉様決して魔法の才がないわけではありません。真に才能が無いものはそもそも魔法術式を組み上げて発動することすら出来ないのですから」
ツカツカと小さい歩幅でエマ達に近づく5歳児。
「――しかしお姉様の魔法は発動する。今はまだ掠れゆく儚い火の粉だとしても使い方次第で大炎にもなりうるのです」
『魔力贈与』
己のHPを1にすることで対象術者の次回魔法攻撃の攻撃力をHPの差分上昇させる。
更にシュントが授けた【恩恵のローブ】の効果との相乗効果により莫大な魔導量を生み出した。
無能と揶揄され続けたヴァニラによるたった一撃の攻撃に全てを委ねた一か八かの作戦。
「エマさん」
ヴァニラはしゃがみながら横たわるエマに顔を近づける。
「エマさんごめんね。ヴァニラが……お母様がエマさんを知らないところで傷つけていたのかもしれないね」
悲しそうな声でヴァニラは呟く。
「――でもね。エマさんは望んでなかったのかもしれない、屋敷の皆は反対したのかもしれない……」
声が詰まりながらも必死に自分の想いを伝えようとする姉の姿を初めて見たファナは驚きでただただ呆然と見ている事しか出来ない。
「それでも……! あの時エマさんがヴァニラの『お母さん』になってくれて本当は嬉しかったの……!!」
「――!!」
「お母様が亡くなった時、皆悲しんでた。お父様もミルボナ婆様もマリナさんも……」
月明かりがエマとヴァニラを優しく照らす。
「――それでも一番お母様の為に泣いてくれたのはエマさんだった……!!」
「や……」
「落ち込むお父様や屋敷の皆の前では一回も泣かなかったエマさんが夜の葡萄畑で一人で泣いてたの知ってたよ……」
「……やめて」
「毎週礼拝にお母様との写真を持って行ってくれているのも。毎月お墓を綺麗に掃除をしてくれてお母様の好きだった幸福を告げる『カランコエの花』をお供えしてくれていたのも。そして毎年命日にまた一人葡萄畑で泣いてくれるのも……全部知ってたよ……?」
「お願いやめて……」
「だからね。ヴァニラの事は嫌いかもしれないけど、お母様の事は好きでいてくれたって分かってるよ……」
「――やめてよ!!」
エマのつん裂く叫びにファナは一瞬体を反らせる。
しかし、ヴァニラの美しい蒼い視線は一切ブレる事なくエマに向けられていた。
「その目……憎たらしいほどあの女にそっくり………」
「あの女はいつも笑顔だった。私からエリクスを奪った時も……。ヴァニラ、あんたを妊娠した時も心から母親になれる事を喜んでた……。神嬰の呪いを知る周りの反応なんてお構いなしにね」
「――神……嬰……?」
「――みんな!!! デビスが!!!」
俺の叫びが離れた3人に届いた時。
すでに生気を吸い尽くした邪剣の二振は最後の龍炎を纏っていた。
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