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46話 呪われた親子

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「――ぅぅぁぁぁあああああ!!!」

【怨刀対子】を振り上げたデビスの体は限界をゆうに超えているはずだった。

「デビス!! それ以上大技を使ったら……!!」

 ファナの必死な静止も自我と生気を失ったデビスの耳に届くはずもない。

「がぼはっっっ!!」

 ボタボタと大広間の地面を赤く染める鮮血。

 邪剣を振り上げる手が止まり、デビスはその場に蹲る。

「デビス! お、お姉様! ここはお任せしますファナはデビスを」

「う、うん……! お姉ちゃんに任せて!」

 ようやく吹き飛ばされた俺は体を起こし、ファナの元に向かう。

「――さすがの作戦だったな。ファナ」

 しかし、いつものような満足げな照れ顔をする気配は微塵もなかった。

「賞賛は全てが終わった後にしてください……。まずはデビスの命が最優先です」

「そうだな」

「――がふぁぁ! ゴホッ!! ゴホッ……」

 なんとか双剣を握りしめながら蹲るデビスは損傷した臓器から上がってきたであろう血液を床に撒き散らす。

「『完全治癒』を行いたいですがもうMP残量がありません……。シュント君回復系魔法は使えますか?」

「ああ『治癒』なら使えるが……。先にファナの『氷層結止』で拘束してからの方が良くないか? 【怨刀対子】を取り上げるとか……。もし万が一の事を考えると――」

 俺の懸念をかき消すようにファナは言葉を被せる。

「ダメージの少ない制限魔法とはいえこの状態のデビスに発動するのは危険です。パーティーではない我々にデビスのHP残量が分からない今、少しでもダメージを与えないのが得策です」

「【怨刀対子】も取り上げたいですが、限界を超え二発目を放とうとしたこの状態で、精神と身体のバランスをコントロールしているのはおそらくこの邪剣です。取り上げてしまったら精神と身体のバランスが一気に崩れる可能性があります」

 ここまでの天才がキッパリと言い切るんだ。
 信じないわけにいかない。

「そうか。じゃ先に回復させるぞ」

《治癒を使用しますか?  消費MP5》

 YES


 床を赤く染めながら蹲るデビスの小さな体は白く優しい光に包まれる。

「――良かった。一応の応急処置は終わりましたね」

「ああ。じゃあまずは『氷層結止』をお願い出来るか?」

「はい! お任せください!」

 大切な母親、弟との戦いが終わり、ホッと緊張の糸がほつれたのかファナの表情にやっと満面の笑みが戻った。


 しかしこの時、俺の胸を騒がせた懸念は想定していなかった三つ目の可能性によって残酷にも現実となった。


 ドンっっ!!

 という低い重低音が身体中を激しく揺らしながらノーデンタークの屋敷中に衝撃波となって突き抜けていった。


「ああああぁあぁぁぁ!!!!!!」


 その瞬間。
 ファナ、デビス、エマは今までの聞いたことのない大声で叫ぶ。

 それは到底人間のものとは考えにくく、まるでアマゾンのジャングルに一人彷徨ったと聞かされた方がまだ納得できるほどだった。

「ど、どうした!!? ファナ!! しっかりしろ!!」

「な、なに!? エマさん!! どこか痛いの??」

 平静を保った俺、ヴァニラの声は3人の叫び声にあっさりとかき消された。

「――に、げ……て。の、のろ……。い」
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