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59話 急転
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しばらくむすっとした顔をした後、アスナカーレが口を開こうとした瞬間だった。
地下道の奥から張り裂けるような男の叫び声が聞こえた。
「――!」
「な、なんだ!?」
「音の反響からおそらく地下室に居た眼鏡男でしょうね……。燕尾とかいう奴らの仕業かもしれないわ。弱っちーアンタは後ろから着いてきなさい」
「はい……」
俺たちは駆け足で地下階段を降りて行き、周囲を警戒しながら地下室を目指す。
「もし燕尾が攻めてきていたとしたら……。今の僕たちの戦力で勝てますかね……」
【沈黙魔杖】さえあれば……。
でも流石にここで杖を取りに行くのは不自然すぎる。
「そんなこと私の方が分からないわよ。でももしさっきの女レベルがゴロゴロ存在しているのなら厳しいでしょうね」
そうだよなー。
聖騎士エリクスとその弟子が居るとは言え、今まともに戦える戦力はその二人だけだ。
「着いたわね。いい? 死にたくなかったら背後を離れるんじゃないわよ……?」
地下室の扉の前に立つアスナカーレは潜めた声でポジション確認をする。
「分かりました。もし侵入して敵がいた場合はどうしますか?」
「……。罪人と判断したら焼き尽くすわ。そうじゃないならアンタが決めなさい」
極端な回答に半笑いになるも再度気を引き締める。
「ちょっと下がりなさい。3……2……1……」
「――爆廊!!」
「え!? ええ!?」
彼女の詠唱と共に地下室の扉はおろかその半径10メートルを吹き飛ばす爆発が起こった。
いや。
起こしたのだこの馬鹿女が。
築数百年はくだらない地下室で爆砲魔法を打ち込むなんて論外中の論外だ。
「――何してんの! こんな地下で! もし崩れでもしたら死ぬって!」
真面目と優秀という肩書きを引っ提げたはずのもう一人のヒロイン候補の謎行動に思わず口調が荒くなる。
「だからよ。もし燕尾とかいう奴らなら私たちの足音に気づいて対策してくる。おそらく私が魔導師と分かっている状況で最も適切な対処はなんだと思う?」
「――? それは……魔法を打つ間を与えずに懐に潜り込むことですかね」
「小さい脳みそにしてはまずまずの回答ね。だからこそ扉の前にスタンバイした相手を威嚇もしくはダメージを与える意味も兼ねて魔法を使った。崩れたら崩れたとき用の準備もあるし」
素直に人を誉められないのか?
まぁ俺もネット民時代は人の行動の粗探しに奔走していた廃オタだったから強くは言えないのだが……。
地下を埋め尽くす爆煙が鎮まると、地下室の中に男性の人影が見えた。
「――まぁ。これはまた酷い光景ですね……」
アスナカーレの冷えた口調が一段と凍ったように聞こえる。
伸びた背筋と長い髪のシルエット。
そして腰からぶら下がる名刀がアスナカーレの灯火魔法を怪しく反射させていた。
「何故お前達が此処の場所に辿り着けたかは今更問わん。だがロリスの件で来たのだろう?」
血に染まったロリスの体。
足元に転がる遺骸になど一切目をくれずにエリクスはこちらを向いている。
痛々しく拷問されたのだろうか、体中に無数の切り刻まれた殺傷痕が壮絶なロリス生涯の終え方を示していた。
「こ、殺したんですか……?」
乾いた喉を唾で一度湿らし、質問する。
「ああ。情報を聞き出そうとしたが記憶機能に超高度の呪縁魔法がかかっておりコイツに用が無くなったのでな」
エリクスはまるで何事もなかったかのように平然と自分の愛刀を華麗な所作で拭き上げる。
仮にも何年も自分に仕えた部下が死んだという人間には到底見えなかったのが尚更恐ろしい。
「しかし、最後にコイツは言っていた。『あの方』が来られたと……。そしてその人物は組織の幹部であるとも――」
エリクスの鋭い目線が俺を襲う。
「ヴァニラが拾ってきた餓鬼よ。お前は何を見たんだ?」
「――燕尾と名乗る組織に所属する『クリストフ』という女魔導師と対峙しました。旦那様はご存じでしょうか?」
「――! クリストフ……という事は兄者が関係しているんだな?」
「はい。此度の一件の首謀者はフォルクス・ノーデンタークでございます」
返り血に塗れたエリクスは重々しく腕を組み、しばらく黙った。
「……。ではイノディクトも奴の仕業だな?」
「その通りでございます。エリーモアでの一件はフォルクス・ノーデンタークの仕業で間違いありません。異例の出現方法で現れたイノディクトは奴に洗脳魔法で操られていたからです」
「兄者の狙いはヴァニラか……」
「はい。まだ体勢を立て直すのに時間がかかるでしょうが、ここまで大規模な侵略を試みた奴はおそらくノーデンタークを乗っ取るまでヴァニラ様を狙い続けるでしょう」
エリクスは胸ポケットから出したクラシックスタイルの葉巻を咥える。
「――火点」
アスナカーレとの阿吽の呼吸で見事に燃焼を始める葉巻。
さすがは師弟関係を結んだだけはあると感心してしまった。
「ふぅぅーー…。グランフィリア。貴様齢は幾つになった?」
「はい。今年で9を数える歳でございます」
少し誇らしげに答えるアスナカーレ。
しかし、その誇らしげな表情から感情を奪うまさかの言葉が飛んできた。
もちろん俺込みでだ。
「そうか……。ではお前が故郷で魔法を教えている餓鬼と一緒に愚娘の魔法指南をしろ」
『……は?』
この時初めてドS女と心を通わせた瞬間であった。
地下道の奥から張り裂けるような男の叫び声が聞こえた。
「――!」
「な、なんだ!?」
「音の反響からおそらく地下室に居た眼鏡男でしょうね……。燕尾とかいう奴らの仕業かもしれないわ。弱っちーアンタは後ろから着いてきなさい」
「はい……」
俺たちは駆け足で地下階段を降りて行き、周囲を警戒しながら地下室を目指す。
「もし燕尾が攻めてきていたとしたら……。今の僕たちの戦力で勝てますかね……」
【沈黙魔杖】さえあれば……。
でも流石にここで杖を取りに行くのは不自然すぎる。
「そんなこと私の方が分からないわよ。でももしさっきの女レベルがゴロゴロ存在しているのなら厳しいでしょうね」
そうだよなー。
聖騎士エリクスとその弟子が居るとは言え、今まともに戦える戦力はその二人だけだ。
「着いたわね。いい? 死にたくなかったら背後を離れるんじゃないわよ……?」
地下室の扉の前に立つアスナカーレは潜めた声でポジション確認をする。
「分かりました。もし侵入して敵がいた場合はどうしますか?」
「……。罪人と判断したら焼き尽くすわ。そうじゃないならアンタが決めなさい」
極端な回答に半笑いになるも再度気を引き締める。
「ちょっと下がりなさい。3……2……1……」
「――爆廊!!」
「え!? ええ!?」
彼女の詠唱と共に地下室の扉はおろかその半径10メートルを吹き飛ばす爆発が起こった。
いや。
起こしたのだこの馬鹿女が。
築数百年はくだらない地下室で爆砲魔法を打ち込むなんて論外中の論外だ。
「――何してんの! こんな地下で! もし崩れでもしたら死ぬって!」
真面目と優秀という肩書きを引っ提げたはずのもう一人のヒロイン候補の謎行動に思わず口調が荒くなる。
「だからよ。もし燕尾とかいう奴らなら私たちの足音に気づいて対策してくる。おそらく私が魔導師と分かっている状況で最も適切な対処はなんだと思う?」
「――? それは……魔法を打つ間を与えずに懐に潜り込むことですかね」
「小さい脳みそにしてはまずまずの回答ね。だからこそ扉の前にスタンバイした相手を威嚇もしくはダメージを与える意味も兼ねて魔法を使った。崩れたら崩れたとき用の準備もあるし」
素直に人を誉められないのか?
まぁ俺もネット民時代は人の行動の粗探しに奔走していた廃オタだったから強くは言えないのだが……。
地下を埋め尽くす爆煙が鎮まると、地下室の中に男性の人影が見えた。
「――まぁ。これはまた酷い光景ですね……」
アスナカーレの冷えた口調が一段と凍ったように聞こえる。
伸びた背筋と長い髪のシルエット。
そして腰からぶら下がる名刀がアスナカーレの灯火魔法を怪しく反射させていた。
「何故お前達が此処の場所に辿り着けたかは今更問わん。だがロリスの件で来たのだろう?」
血に染まったロリスの体。
足元に転がる遺骸になど一切目をくれずにエリクスはこちらを向いている。
痛々しく拷問されたのだろうか、体中に無数の切り刻まれた殺傷痕が壮絶なロリス生涯の終え方を示していた。
「こ、殺したんですか……?」
乾いた喉を唾で一度湿らし、質問する。
「ああ。情報を聞き出そうとしたが記憶機能に超高度の呪縁魔法がかかっておりコイツに用が無くなったのでな」
エリクスはまるで何事もなかったかのように平然と自分の愛刀を華麗な所作で拭き上げる。
仮にも何年も自分に仕えた部下が死んだという人間には到底見えなかったのが尚更恐ろしい。
「しかし、最後にコイツは言っていた。『あの方』が来られたと……。そしてその人物は組織の幹部であるとも――」
エリクスの鋭い目線が俺を襲う。
「ヴァニラが拾ってきた餓鬼よ。お前は何を見たんだ?」
「――燕尾と名乗る組織に所属する『クリストフ』という女魔導師と対峙しました。旦那様はご存じでしょうか?」
「――! クリストフ……という事は兄者が関係しているんだな?」
「はい。此度の一件の首謀者はフォルクス・ノーデンタークでございます」
返り血に塗れたエリクスは重々しく腕を組み、しばらく黙った。
「……。ではイノディクトも奴の仕業だな?」
「その通りでございます。エリーモアでの一件はフォルクス・ノーデンタークの仕業で間違いありません。異例の出現方法で現れたイノディクトは奴に洗脳魔法で操られていたからです」
「兄者の狙いはヴァニラか……」
「はい。まだ体勢を立て直すのに時間がかかるでしょうが、ここまで大規模な侵略を試みた奴はおそらくノーデンタークを乗っ取るまでヴァニラ様を狙い続けるでしょう」
エリクスは胸ポケットから出したクラシックスタイルの葉巻を咥える。
「――火点」
アスナカーレとの阿吽の呼吸で見事に燃焼を始める葉巻。
さすがは師弟関係を結んだだけはあると感心してしまった。
「ふぅぅーー…。グランフィリア。貴様齢は幾つになった?」
「はい。今年で9を数える歳でございます」
少し誇らしげに答えるアスナカーレ。
しかし、その誇らしげな表情から感情を奪うまさかの言葉が飛んできた。
もちろん俺込みでだ。
「そうか……。ではお前が故郷で魔法を教えている餓鬼と一緒に愚娘の魔法指南をしろ」
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この時初めてドS女と心を通わせた瞬間であった。
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