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62話 大っ嫌い
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「ユーザー・ワン……」
『スレイブ・フロンティア』において最初期設定で名付けられているプレーンな名前。
「まぁアイツの馬鹿さというか突き抜けた行動力にはアンタも覚悟しておいた方がいいわよ」
「はぁ……」
「それじゃ早く終わらせるわよ。師匠が帰ってくる前までに完成出来なかったら死刑よ」
瞬く間にこの大陸の司法権まで握ってしまったアスナカーレの命令通り俺は作業に取りかった。
数時間後、陽が落ちた頃なんとか大広間の大枠の修復が完了した。
「こんな……もんね……」
「は、はい……疲れましたね……」
俺たちが息を切らしながら膝に手をついているとヴァニラ達が屋敷に帰ってきた。
3人とも両手に抱えきれないほどの大量の買い物袋を持っている。
「ただいまーってあれ? もう修復終わっちゃったの!?」
「師匠からのご命令でしたので……それでは私は明日に備えて休ませていただきます」
「え! アスナカーレちゃんの分まで夜ご飯の準備しちゃったわ」
「それでは奥様……失礼致します」
アスナカーレはそのまま来賓室へと帰っていき、生まれ変わった大広間に妙な気まずさが残る。
「あはは。まぁ人にお家のご飯が食べられないって性格の人も居るわよね」
「そうでしょうか……ファナにはあのお方からもっと別な感情があるように感じましたが……」
「アスナカーレ……さん……」
しらけてしまった空気に俺は質問を投げる。
「みなさんはどちらに行かれていたのですか? そんな大量のお買い物されるなど……」
「これは明日の出発に備えての準備よ。そんでもって今日の晩御飯は凄いわよー? シェフ達と私達が腕によりをかけて作るから楽しみにしててね」
「シュント! 絶対美味しく作るから楽しみに待っててね!」
「はい。楽しみです」
笑顔のままキッチンへ向かう3人の後ろ姿を見た時、俺は無性に胸が熱くなった。
「良かったな。ヴァニラ……エマ」
その後、盛大に盛り付けられた豪華な晩御飯を皆で笑いながら楽しんだ。
しかし、そこにアスナカーレの姿は無かった。
翌朝。
深い霧がかる葡萄畑が幻想的に感じる。
「よし」
「準備オッケーだよ!」
「それでは師匠。行って参ります」
「ああ、ダンヴィンにもよろしく伝えておけ」
「はい。では辺境騎士団の護衛の皆様よろしくお願いします」
俺たち子供3人は別れの挨拶をする。
「ヴァニラちゃん……。これを」
「これって……」
寂しそうなエマが手渡したのは『カランコエの花びら』が封入された緋色のクリスタルだった。
「いつでもあなたを思っているわ……ねぇファナ」
「当たり前です。お姉様にはこのノーデンタークを受け継ぐという使命がありますから」
ファナは小さく胸を張って答える。
「ありがとう……お母さん! ファナちゃん! ヴァニラ頑張る!」
「ふん戯言を……まだまだ貴様など高潔なるノーデンタークの家紋を継承するには相応しくないわ」
「エリクス……。ヴァニラちゃんの成長はあなたが一番分かっているんでしょ? そんなお別れ寂しいわ。ヴァニラちゃんも、そして天に居るあの子も……」
「奴の話はいい。たとえ私がコヤツを認めようが領民が認めない限り何の意味もなさない。無才能の領主など空の玉座に張り付いた人形に過ぎんからな」
冷たい言葉で突き放すエリクスに、俯くヴァニラはそのまま馬車に乗り込もうと背を向ける。
「行こっか。シュント」
「――え、ええ」
「それでは引者さん。出してください」
俺たちは馬車の荷台に乗りこみテントを閉める。
その時。
微かに、僅かに聞こえた低い声。
「――恥を晒すな。胸を張れ」
回り出した車輪の音に今にもかき消されそうな小さな声だった。
顔こそ見えないが、その数文字には愛情と期待というものが多量に含まれていたと俺は思う。
「お父様……」
走り出した馬車の中、ヴァニラはお気に入りのぬいぐるみを抱きしめながら口元を緩めている。
「旦那様らしい激励ですね」
「――うん……!」
俺がこの世界に来てヴァニラの評価は少しは上向いたのだろうか。
俺が導き出した最適解のレールに乗ることは果たして出来ているのだろうか。
しかし、今のエリクスの言葉を聞く限り、『ヴァニラの事を認めさせ、ノーデンタークの家督を継ぐ』という第一目標は上手く行っているのかもしれない。
そんな温かい空気の中、アスナカーレが口を開く。
「挨拶が遅れたわ、私はアスナカーレ・グランフィリアよ。あなたのお父様から魔法指南の命を受けた者で歳はあなたと同じ」
「あ、あ……私……ヴァニラリア・サラ・ノーデンタークと言います……よろしくお願いします……」
人見知りだとは聞いていたがここまでとはな。
まぁ同い年の先生なんて距離感が掴めなくて当然だとは思うが……。
「そこで一つ言い忘れていたんだけどいいかしら?」
その時、アスナカーレは黒髪をかき上げながらヴァニラを睨みながらありえない言葉を放った。
「私ね。アナタみたいな人間大っ嫌い」
そうして俺たちを乗せた一行は始まりの大陸に向け走り出した。
『スレイブ・フロンティア』において最初期設定で名付けられているプレーンな名前。
「まぁアイツの馬鹿さというか突き抜けた行動力にはアンタも覚悟しておいた方がいいわよ」
「はぁ……」
「それじゃ早く終わらせるわよ。師匠が帰ってくる前までに完成出来なかったら死刑よ」
瞬く間にこの大陸の司法権まで握ってしまったアスナカーレの命令通り俺は作業に取りかった。
数時間後、陽が落ちた頃なんとか大広間の大枠の修復が完了した。
「こんな……もんね……」
「は、はい……疲れましたね……」
俺たちが息を切らしながら膝に手をついているとヴァニラ達が屋敷に帰ってきた。
3人とも両手に抱えきれないほどの大量の買い物袋を持っている。
「ただいまーってあれ? もう修復終わっちゃったの!?」
「師匠からのご命令でしたので……それでは私は明日に備えて休ませていただきます」
「え! アスナカーレちゃんの分まで夜ご飯の準備しちゃったわ」
「それでは奥様……失礼致します」
アスナカーレはそのまま来賓室へと帰っていき、生まれ変わった大広間に妙な気まずさが残る。
「あはは。まぁ人にお家のご飯が食べられないって性格の人も居るわよね」
「そうでしょうか……ファナにはあのお方からもっと別な感情があるように感じましたが……」
「アスナカーレ……さん……」
しらけてしまった空気に俺は質問を投げる。
「みなさんはどちらに行かれていたのですか? そんな大量のお買い物されるなど……」
「これは明日の出発に備えての準備よ。そんでもって今日の晩御飯は凄いわよー? シェフ達と私達が腕によりをかけて作るから楽しみにしててね」
「シュント! 絶対美味しく作るから楽しみに待っててね!」
「はい。楽しみです」
笑顔のままキッチンへ向かう3人の後ろ姿を見た時、俺は無性に胸が熱くなった。
「良かったな。ヴァニラ……エマ」
その後、盛大に盛り付けられた豪華な晩御飯を皆で笑いながら楽しんだ。
しかし、そこにアスナカーレの姿は無かった。
翌朝。
深い霧がかる葡萄畑が幻想的に感じる。
「よし」
「準備オッケーだよ!」
「それでは師匠。行って参ります」
「ああ、ダンヴィンにもよろしく伝えておけ」
「はい。では辺境騎士団の護衛の皆様よろしくお願いします」
俺たち子供3人は別れの挨拶をする。
「ヴァニラちゃん……。これを」
「これって……」
寂しそうなエマが手渡したのは『カランコエの花びら』が封入された緋色のクリスタルだった。
「いつでもあなたを思っているわ……ねぇファナ」
「当たり前です。お姉様にはこのノーデンタークを受け継ぐという使命がありますから」
ファナは小さく胸を張って答える。
「ありがとう……お母さん! ファナちゃん! ヴァニラ頑張る!」
「ふん戯言を……まだまだ貴様など高潔なるノーデンタークの家紋を継承するには相応しくないわ」
「エリクス……。ヴァニラちゃんの成長はあなたが一番分かっているんでしょ? そんなお別れ寂しいわ。ヴァニラちゃんも、そして天に居るあの子も……」
「奴の話はいい。たとえ私がコヤツを認めようが領民が認めない限り何の意味もなさない。無才能の領主など空の玉座に張り付いた人形に過ぎんからな」
冷たい言葉で突き放すエリクスに、俯くヴァニラはそのまま馬車に乗り込もうと背を向ける。
「行こっか。シュント」
「――え、ええ」
「それでは引者さん。出してください」
俺たちは馬車の荷台に乗りこみテントを閉める。
その時。
微かに、僅かに聞こえた低い声。
「――恥を晒すな。胸を張れ」
回り出した車輪の音に今にもかき消されそうな小さな声だった。
顔こそ見えないが、その数文字には愛情と期待というものが多量に含まれていたと俺は思う。
「お父様……」
走り出した馬車の中、ヴァニラはお気に入りのぬいぐるみを抱きしめながら口元を緩めている。
「旦那様らしい激励ですね」
「――うん……!」
俺がこの世界に来てヴァニラの評価は少しは上向いたのだろうか。
俺が導き出した最適解のレールに乗ることは果たして出来ているのだろうか。
しかし、今のエリクスの言葉を聞く限り、『ヴァニラの事を認めさせ、ノーデンタークの家督を継ぐ』という第一目標は上手く行っているのかもしれない。
そんな温かい空気の中、アスナカーレが口を開く。
「挨拶が遅れたわ、私はアスナカーレ・グランフィリアよ。あなたのお父様から魔法指南の命を受けた者で歳はあなたと同じ」
「あ、あ……私……ヴァニラリア・サラ・ノーデンタークと言います……よろしくお願いします……」
人見知りだとは聞いていたがここまでとはな。
まぁ同い年の先生なんて距離感が掴めなくて当然だとは思うが……。
「そこで一つ言い忘れていたんだけどいいかしら?」
その時、アスナカーレは黒髪をかき上げながらヴァニラを睨みながらありえない言葉を放った。
「私ね。アナタみたいな人間大っ嫌い」
そうして俺たちを乗せた一行は始まりの大陸に向け走り出した。
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