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63話 同族嫌悪
しおりを挟む――同刻 ノーデンターク屋敷 エリクス書斎内
旅立つ3人を見送った後ソファーに腰掛けるエリクスと窓辺に立ち外を眺めるエマ。
「ヴァニラちゃん大丈夫かしら……アスナカーレちゃんと仲良くやっていけるか心配だわ。もしあの姉妹みたいに喧嘩ばっかりだったらと思うと……」
エマの心配そうな瞳の奥のさらにその奥の果てには、シュント達が向かったコルトン大陸がある。
「アナタの事だからあの子達にはまだアクリシアやテリシャさんの事話してはいないのでしょう?」
「――ああ」
エリクスは葉巻に火を点けると最低限の2文字のみ返す。
「でもやっぱりテリシャさんそっくりね、あの子。魔導への崇拝と探究心、そして何よりも強い正義感は彼女そっくり……ヴァニラちゃんとソリが合えばいいのだけど」
「ふぅー……。同族嫌悪……。やはり神嬰の運命とはこれほどまでに導かれる……」
「運命かぁ……ねぇエリクス? 初めてアクリシアに会った時のこと覚えてる? 葡萄畑で遊んでた時のこと! もしかしたらあれも運命だったのかな?」
「――さあな」
いつも通りの淡白な返答。
「そうだよね……。ご、ごめんね! 昔話したらあの頃を思い出しちゃって……じゃあ私はデビスの様子を見てくるね」
自分の心を守るためか、苦笑いを浮かべる事しか出来ないエマは書斎を出ようと振り返る。
その時、エマの額は鋼板のように硬いエリクスの胸元にぶつかり顔を見上げる。
「ご、ごめんなさい! 私ったら昨日から本当に迷惑ばっかりかけちゃうね……」
「――エマ」
エリクスはエマの後頭部を優しく引き寄せる。
葉巻のフレーバーと懐かしいエリクスの匂いにタジタジになるエマは慌てて口を開く。
「ど、どうしたの……!? 急にそんな……」
「お前はあの頃のままで居てくれ……それがアクリシアの願いでもあり……子供達の願いである。そして何より……絶望の淵から蘇った俺の願いだ」
「――うん……。ありがとエリクス」
「――い、今なんと仰いました……?」
「そのままよ。私は家系や血統だけでチヤホヤされる人間が嫌いなだけ。師匠の頼みじゃ無かったらそんな人間に魔導指南なんてするはずもないわ」
う・そ・だ・ろ。
正直これはツンデレの域を大いに超えてるし、もはやいじめに近い。
「ヴァニラ様をそこら辺の貴族や領主のような浅ましい人間と一緒にしないでいただきたい。それにその発言はノーデンターク家並びにアナタの尊敬するエリクス様も侮辱する発言だ!」
「師匠は強い。この事実だけでこの子とは逸脱した次元に居られると思うのだけど? 話によればこの子に魔導才能は無いと聞いたしね」
「アナタって人は……!」
アスナカーレと俺の視線が空中で激しくぶつかる。
しかしそこに割って入る白いシルクのような糸が見えた。
「だめだよシュント!」
「し、しかし……」
そしてヴァニラは俺の腕を掴むと説き伏せるように語りかけてくる。
「アスナカーレちゃんの言いたいこと……ヴァニラちょっと分かるんだ……お父様の言ってた通りヴァニラはまだまだ領民の皆に認めてもらえない」
「それは……」
「でもねアスナカーレちゃん……」
「――! 何?」
ヴァニラはそのままテント内で立ち上がると振り返り、今度はアスナカーレへ語りかける。
「こんなヴァニラだけど、ノーデンタークの皆を守りたい……領民の皆の笑顔を守りたい……そして、大切な人を守りたい……!」
アスナカーレは睨むように見上げるだけ。
「ヴァニラの事は嫌いでも良いよ。それでも魔導指南だけは引き受けてくれないかな……? お願いします!」
ヴァニラは勢いよくアスナカーレに向かって頭を下げる。
俺もそのまま立ち上がり、ヴァニラを真似て頭を地面に平行になるまで落とす。
「私からもお願いします!」
このお辞儀が俺達の将来に関わってくるならコイツに頭を下げるなんて安いもんだ。
「ばっかみたい……やっぱりアンタ達嫌いよ」
空振りに終わったラブコールは虚しくテント内を駆け回ったあと静かに消滅した。
しかし。
「――指南はする。私は請け負った依頼を無碍にするような不真面目で下衆でもない」
アスナカーレが俺達と目を合わせる事は無かったが、流れる車窓を眺めがらそう呟いた。
その時、引者の大きな声が聞こえた。
「護衛の皆さん! 前方からモンスターが来ます! 警戒してください!」
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