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第四章:海の戦い

21話 海賊船奪取

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 奴隷の人数が増えたおかげで休憩時間が増えた。
 昼夜二交替になり、休み時間は薄暗い船倉にぶちこまれることになった。
 船倉は狭く、立ったままでは入れない。腰をかがめて入口を潜り、そのまま這って奥まで進む。そして空気の澱んだその部屋で半日休まされる。
 正直な話、まったく休んだ気がしない。むしろ、働かされている時よりも疲れた。
 このままでは、時間が経つごとにどんどん体力を失ってしまう。反撃のチャンスを待っていることはできない。
 なので、すぐに行動に移ることにした。


 交代の時間。
 順番に船倉から出される。その時に動いた。
 複数いる監視が全員俺から目を離した瞬間、後ろから首を絞めた。声を出さないように口を抑え、全力で首の骨をへし折った。
 腕の中でゴリゴリと鈍い音がして、海賊女の体から永遠に力が抜けた。
 まだ気づかれていない。
 別の海賊に近づき、同じように始末しようとする。

「あっ!」

 だが、惜しい。
 気づかれた。海賊がこっちを振り返り、素っ頓狂な声を出した。
 予定変更。
 最短手順でこいつらの無効化する。
 俺は指を二本立てて、そいつの目に突っ込んだ。女の穴に棒状のものを突っ込むというは、どうしてこうも気持ちがいいのだろう。
 海賊女の穴は、初めてらしくぬるりとした血を流した。痛そうなどと同情している余裕はない。
 穴の中で指を曲げ、一気に引っこ抜く。

「ぎゃああっぁぁぁぁあああ!!!」

 眼球がすっぽ抜け、海賊女がひどく不細工な悲鳴をあげた。
 これで他の海賊たちにも異常事態だと知られたはずだ。
 もう引き返せない。
 突然の事態に呆気にとられている海賊たちに拳を叩き込む。

「俺に続け! じゃないと殺されるぞ」

 奴隷たちをけしかける。
 反乱を成功させるには、俺一人ではダメだ。彼らの助けが必要だ。
 彼らは、これまで主人に従順に従い、逃げ出そうとすることもなかった。歯向かうなんて選択肢になかったに違いない。
 おとなしくすることでかりそめの平和を守ってきた。
 だが、もうそれは許されない。
 死にたくなければ、全力で敵に歯向かわなければならない。
 そういう状況を俺が作ってやった。
 すると、どうだろう。
 彼らは、勇敢な戦士に早変わりした。
 まず一人が海賊女に頭突きを食らわせた。
 別の一人が上から膝を立てて海賊女の顔にダイブした。
 そして別の奴が海賊女の喉に噛み付き、食いちぎった。
 次から次へと戦士が生まれていく。
 人間は本来、自由な生き物だ。何人にも支配されない崇高な心を持っている。
 たとえどれだけ従順な奴隷でも、一度心に火が付いてしまえば、それを思い出す。
 本来持っているはずの自由を取り戻すべく、彼らの心が燃え上がった。
 これまでの鬱憤を晴らすべく、彼らは海賊女たちを襲い、瞬く間に殺した。

「あんたについて行くよ。一緒にこの船を奪い取ろう」

 奴隷の一人がそう言うと、他の者たちもうなづいた。



 監視の数人を殺して始まった反乱は、すぐに次の展開を要求していた。
 俺たちの最終目的は、船の支配権を奪取すること。
 つまり、海賊たちを皆殺しにするか降伏させるかしなくてはならない。
 そのためには、今オールを漕いでいる連中も巻き込まなくてはならない。

「オールを仲間に漕がせるな! 助けに行くぞ」

 俺の言葉に反応し、足枷のついた足をちょこちょこと動かしながら、奴隷たちが船内を走った。
 だが、すぐに海賊女たちが立ちはだかる。
 湾曲した片手剣……たしかカットラスとかいう名前だったはずだ。それを持って、狭い通路を塞ぐ。

「殺せ!」
「殺せ!」
「殺せ!」

 だが、彼女らの行動はムダだった。
 自由を目指し、憎しみを燃料とする反乱奴隷たちの炎を消すことなどできない。
 最前列の奴隷は刃を恐れることなく前進し、心臓を貫かれて死んだ。
 だが、心臓を破壊されながら、最後のありったけの力を振り絞って海賊女の腕を掴んだ。

「こいつ……離せ! 剣が抜けないだろ……うわぁぁぁ!!」

 海賊女が剣を抜こうとしている間に、二列目の奴隷が仲間の死体を乗り越え彼女を襲った。

「殺せ!」
「殺せ!」
「殺せ!」

 海賊女を始末すると、仲間の胸に突き刺さったカットラスを抜き取り、こちらの武器とした。
 数で勝る俺たちは、仲間の命を一つずつ生贄にし、確実に敵を減らして前進した。


 オールを漕いでいる奴隷たちを解放した。
 彼らは狂喜乱舞で海賊女たちの死体を蹴っている。どうやら、すでに戦士になっているようだ。
 俺たちはいくつもに分かれ、あるチームは甲板の制圧に、あるチームは部屋を一つ一つ回ってしらみつぶしの制圧に向かった。
 俺は足枷の鍵を探した。
 あちこちから聞こえてくる死の音を聞きながら、幹部の個室と思われる部屋をひっくり返して鍵を探した。

「これだ!」

 それらしいものを見つけて、足枷の穴に入れるピッタリ合った。
 回すと、ガチャリと音がしてしばらくぶりに自由を手に入れた。
 なんだこの開放感は。
 やっぱり人間に拘束なんてものは似合わねえ。
 俺についてきた奴の足枷に鍵を突っ込むと、こちらも外れた。どうやら、鍵は一種類しかないようだ。そりゃそうか。二百人の奴隷に、それぞれ別の鍵を用意していられねぇよな。
 自由を取り戻した俺は、おそらく一番の激戦地であろう甲板へ走った。
 そこでは、思った通り、仲間たちがいくつもの死体を晒していた。
 広い甲板では、一人が死んで血路を開いて後続が攻め込む、という船内での定番戦法が使いにくい。
 おそらく、無駄死にした奴が何人かいるのだろう。反乱奴隷たちから、さっきまでの威勢が消えているようだった。
 すがるような目で俺を見てくる。
 それで俺が首謀者だとバレたらしい。

「この女! あんたがこの反乱の親玉かい」

 海賊たちのボス。たしかミューレイと言ったか。
 ミューレイのカットラスはたっぷりと血を吸っている。どうやら、こいつだけであっさりと数人を殺しているらしい。
 そいつが歯ぎしりしながら怒鳴り散らした。

「おい、クソ奴隷ども。その女を殺せ! そうすりゃてめぇらは殺さないでやる」

 切り崩しを狙っているようだ。
 まずいな……奴隷たちの中に、明らかに迷っている表情の奴がいる。
 やっぱり奴隷か……目の前の状況に流されるだけで、自分の意思で行動するのは苦手なようだ。
 こいつらが海賊優位だと判断したら、裏切られる。そうすりゃ反乱は失敗だ。
 勝つためには、ミューレイを潰さなくちゃいけないわけか。
 楽じゃないな。ミューレイの後ろには、まだ十人以上の敵がいる。
 こいつらの攻撃を避けつつミューレイだけの首をとる。
 不可能だ。
 だとしても、

「ミューレイ船長に一騎打ちを申し込む」

 俺はわずかな可能性に賭け、ミューレイに名指しで戦いを挑んでみた。

「一騎打ちだと?」
「臆病風に吹かれたのなら逃げるといい。だが、板子一枚下はあの世の海で生きる勇敢な人間であるならば、まさか断らないはず。ミューレイ船長、あなたは臆病者か、それとも英雄か」
「てめぇ……ただのお嬢様じゃねぇな? おもしろい、受けてたってやるよ。お前ら、手出しするじゃないよ」
「お前たちも手出しはするな」

 俺たちはそれぞれ配下に数歩下がるようにいい、甲板に広い空間を開けさせた。
 そこに出て、向き合う。
 ミューレイの手にはカットラス。
 俺は拳のみ。
 なかなか不利な戦いだ。このていどの不利ならむしろ望むところ。


 戦いは一瞬だった。
 ミューレイの振り下ろした剣を白羽取りで掴むと、腹に蹴りを一撃。
 カットラスを奪い取り、喉元に突きつける。
 これで決着だった。
 一瞬遅れて、大量の冷や汗が噴き出す。
 よくできたものだ。
 もう一度やれと言われても、絶対にできないだろう。一生に一度の成功が、一発目で出てくれた。
 神様がいるなら、いくら感謝してもしたりない。
 ……いや、神様はいるんだった。諸悪の根源みたいな奴が。
 前言撤回。感謝なんてしてやるもんか。これくらいの幸運は当然の権利だ。


 ミューレイが俺に破れたことで、海賊たちの士気は一気に下がった。
 一方、奴隷たちの士気は青天井。

「降参すれば殺さない」

 と言うと、まもなく海賊たちは降参した。
 こうしてこの船は「元」海賊船となり、俺は船長となった。
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みんなの感想(1件)

marble
2017.10.16 marble

初めまして、毎回楽しみに拝見させて
いただいています。
主人公の火中の栗を拾うどころか噛み砕く
ストロングスタイルはあっぱれです!(笑)
いや、この物語の場合、栗じゃなくて乳頭
かしら?!
お姉さま、レイティ、グルージがどう絡むか
楽しみです!!体がじゃないですよ?物語がですよ?

解除
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