空がなくした子供たち

忸怩くん

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幼年期の終わり

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十九時、今日の推奨プログラムを全て終え、夕食も食べ終わった幸太郎は身体洗浄室にいた。
部屋の壁から発射される数千もの水の線が身体の隅々に直撃して弾けていく。
幸太郎はこの時間が好きだった。
どこかなつかしい、何も聞こえないほどに打ちつける水の音。
そして髪の毛の一本一本に絡みつき、身体中に覆い被さる水。
とても気持ちがいい。
・・・以前にこのことをドゥーニャに話したら不思議な顔をされてしまったが。
三分間のシャワー時間が終わり、乾燥のための温かいエアが身体中に吹き込まれた。
一分が経ち髪の毛の湿り気もなくなったので幸太郎は服を着始めた。
シャツを着て上から三段目のボタンをとめていたときに、【grild-rig】が囁いた。

『LUH-3417 根津・ドゥーニャより着信あり 応答しますか?拒否しますか?』

(音声のみで応答)

(遅くにごめんね!大丈夫だった?)

(もちろん大丈夫だよ!今ちょうど身体洗浄が終わったところなんだ)

幸太郎は服を全部着たのを確認してから玄関に行き外へでた。彼は時折、身体洗浄をしたあとにこうやって散歩に出かけていた。

(それでどうかしたの?)

(ああ、そうそう!幸太郎から教えてもらった酸辣湯風味飲んでみたんだ!)

(おお!それでどうだった?)

(幸太郎の舌に狂いはないね。もう明日からしばらくは毎日あの味を飲むだろうね)

(そう言ってくれると思ってたよ!)

幸太郎はのんびりと歩きながら【サニタリウム】を見上げた。

今夜の【サニタリウム】は星が数十個も見えてきれいだ。
幸太郎は昼間にボランティアプログラムをした公園に入った。
公園は幸太郎以外の人影も見当たらず、ただ静かに一人の夜を迎えようとしていた。

(それでね、この味を他の人にも教えてあげようと思うんだけどいいかな?だってこんな美味しいものを教えずにいるなんてもったいないじゃない?まあ、とは言ってもまた味を変えられるのは来週になるけど)

ドゥーニャが嬉々として話している時、公園に植えられた造花ツツジの茂みから物音がした。
幸太郎は不思議に思い、周りを見渡してみたが相変わらず人影はなかった。

(幸太郎?)

(ああ、ごめんね。今ちょっと散歩をしてて)

(そうだったんだ!)

(他の人にも教える・・・だっけ?僕は全然いいと思うよ!みんなと分かち合いたいしね)

(よかった!ありがとう!・・・そうだ!明日はボランティア来る?)

(勿論、いくつもりだよ)

幸太郎はその後もドゥーニャと、今日の思考プログラムでボランティアのことを考えたことや、身体洗浄をしたときに感じる得も言われない思いのことを話した。
そしてお互いに満足するまで通話をし、幸太郎は家に帰ってから二十二時には床に就いた。


ピピピ、ピピピ
『推奨起床時間の7時になりました。推奨起床時間、七時になりました。〈アラーム〉の解除認識を行ってください』
ピピピ、ピピピ


翌朝、いつもと同じように【grild-rig】の目覚ましで起きる。

『第20プリフェクチュア 第2タウン S地区 本日の【サニリウム】は終日快晴が映し出されます。【grild-rig】も正常な接続が行えるでしょう』

(〈schedule〉)

『7月6日 本日の予定は9時から10時まで運動プログラム。10時30分から11時30分まで自己啓発プログラム。13時から15時までボランティア活動。16時から17時まで思考プログラムが推奨されています。その他、推奨されている予定はありません』


今日のボランティアプログラムは幸福省庁舎周辺の清掃活動だった。
幸福省庁舎は幸太郎たちの住むS地区ではもっとも大きな建築物であった。
当然、昨日清掃をした公園よりも面積も大きく、活動参加人数も100人ちかくは来ていた。
幸太郎はその群衆の中からドゥーニャを探し始めた。
彼女はまだ成長も半ばなので身長もそう高くはない。
だから、こういう場に紛れてしまうと見つけるのは困難であった。
幸太郎はドゥーニャを探しているとき、不思議な格好をした市民たちを見つけた。
頭部全体をフードで覆っていて、遠目では表情などが全く読めない。
およそ十人ちかく似た格好をした市民がいた。
周りの市民たちも不思議そうにしていて、いつも他の市民たちにするように、彼らに声をかけていた。

「どうかされたのですか?」

「あまりボランティアにはお見かけしないように思いますが、どちらにお住まいの方でしたか?」

しかし、これらの質問にフードを覆った市民たちは受け答えをしようとはしなかった。

幸太郎も彼らに何か聞いてみたいと思ったが、ドゥーニャを探すことにした。
すると、ドゥーニャも幸太郎を探していたようで、【grild-rig】に着信がきた。

幸太郎たちはなんとか自分の居場所を伝え合ったのちに無事に合流することができた。

「いやー、今日は多いね」

「本当だね。そういえばさっき変わった格好の人達見たんだけど、ドゥーニャも見た?」

「変わった格好の人達?見てないと思うけど・・・」

そうこうしていると、いつの間にか十三時になっていてボランティア長の挨拶が始まっていた。

「あ、あの人達のこと?」

ドゥーニャは小声で幸太郎たちから見て右側のほうを指さした。
幸太郎もその方角を見ると、さっきの彼らがいた。

「ああ、そうそう。あの人達。どう?ドゥーニャ見たことある?」

「いやー、私も今まで見たことない人達だと思うけど・・・」

幸太郎とドゥーニャは好奇の目で彼らを見ていると、彼らの中でも二番目ぐらいには体格のいい男性と思われる市民が、急に懐から何かを取り出してそのまま【サニリウム】高く掲げた。
突然、鼓膜を劈く衝動のような激しい音が響いた。
多くの市民はその現象を理解できず、その場に尻餅をついてしまった。
幸太郎とドゥーニャは立ってこそいたものの、他の市民たちと同様、言葉を失ってしまった。
しかし、音がどこから響いたのか、男が手にした黒い塊から漂っている白い煙を見て、なんとなく理解した。
しかし、その行為の意味は当然理解できなかった。
やがて、耳の残響がなくなったころに、男が大きな声で叫んだ。

「こんにちは、白痴諸君」






(引用元)
LUH-3417・・・「THX-1138」(ジョージ・ルーカス)より

幼年期の終わり・・・「幼年期の終わり」(アーサー・C・クラーク)より
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