空がなくした子供たち

忸怩くん

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すばらしい新世界

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ピピピ、ピピピ
『推奨起床時間の7時になりました。推奨起床時間、七時になりました。〈アラーム〉の解除認識を行ってください』
ピピピ、ピピピ

・・・スイショウキショウジカン?無の解消? ああ、眠くて・・・意味が分からない。不快な音が鼓膜の内側から響いて・・・。

ピピピ、ピピピ
『推奨起床時間、7時4分になりました。あと1分ほどで自動覚醒プログラムに移ります』

あと一分・・・それだけあればよく眠れるから・・・。だから早く寝かせて・・・。

『自動覚醒プログラムに移ります。オレキシン自動分泌開始』

ん・・・・。

『おはようございます、呉・幸太郎様。本日は7月5日日曜日、ただいまの時刻は7時8分です』

(おはよう。〈helth〉自動健康状態から手動健康状態へ設定)

『自動健康状態から手動健康状態への設定を認識しました。正常に設定が変更されました』

(〈news〉本日の予報)

『第20プリフェクチュア 第2タウン S地区 本日の【サニリウム】《※1》は終日快晴が映し出されます。【grild-rig】《※2》も正常な接続が行えるでしょう』

(〈schedule〉本日の予定を大まかに説明)

『7月5日 本日の予定は9時から10時まで運動プログラム。10時30分から11時30分まで自己啓発プログラム。13時から15時までボランティア活動。16時から17時まで思考プログラムが推奨されています。その他、推奨されている予定はありません』

(本日の運動プログラムは?)

『本日の運動プログラムはサイクリングを提案します。昨日のスイミングで両腕部に乳酸の蓄積が見られます。なるべく腕に負担を掛けないように心がけましょう』

(OK)

『【grild-rig】の更新情報があります。更新を開始しますか? 後で情報の更新を行う場合は予め時間を設定しましょう』

(〈setup〉【grild-rig】の更新時間 7月5日 11時に設定)

『設定時間確認 指定された時間からの情報更新を設定しました。もし時間に変更がある場合は〈setup〉から情報更新時間の変更を選択してください』

(〈setup〉終了)




午前中の運動プログラムと自己啓発プログラムを終え、時刻は十二時四十分を回っていた。
幸太郎は今日のボランティアが行われる公園広場に来ていた。
昼に飲んだ【アニート】《※3》が口の周りについていないように袖で口を拭った。
中華テイストで酸辣湯風味の【アニート】は初めて飲んだが、意外にも美味しかったのでしばらくこの味にはまりそうだった。

公園には既に第2タウンS地区の市民が五十人ほど集まっていて、知り合った顔同士を見つけては慇懃な挨拶を掛け合っていた。
幸太郎も知っている顔を見ては声を掛け、知らない顔には屈託のない笑顔で会釈をして回った。
公園に集まっていた市民達の半分ほどの人に愛想を振りまいた後に、一等聞き慣れた声が幸太郎を呼んだ。

「幸太郎!今日も来てるね!感心、感心!」

「ドゥーニャ!もう来ていたんだね!今日も会えて嬉しいよ」

根津・アヴドーチヤ。幸太郎とは同い年であり、小さい頃から親しい友人でもあった。

「まあね!聞いてよ幸太郎!私がこのボランティアにずっと休まずに来ていたの知ってる?」

「そういえばいつも見ていたような気はしていたけど・・・」

ドゥーニャは感情を抑えきれず両手を大きく広げた。

「実はね、今日で三年間ずっと休まずに来ていたことになるんだ!」

幸太郎はその素晴らしい発表に驚かずにはいられなかった。

「ドゥーニャ・・・君は本当にすごいよ!ずっと休まずに来ていただなんて・・・本当にすごいよ!」

幸太郎はドゥーニャの広げていた両手を強く掴んで大きく揺さぶった。
彼の興奮はそれだけに留まるはずもなく、周りにいた市民達にもこの一大ニュースを伝え始めた。
市民達は一人も余すことなく驚いて、ドウーニャに賞賛の言葉と拍手を送っていた。
ドゥーニャは笑いながらも恥ずかしそうに、それに応えていた。

「そうだ!ドゥーニャ、僕も君に伝えたいことがあったんだ!」

市民達の感動が収まったころに幸太郎は嬉しそうに言った。

「ドゥーニャは酸辣湯風味の【アニート】を飲んだことはある?」

「さんらーたん・・・?いや、ないと思うよ」

「僕も昼に初めて飲んでみたんだけど、これがびっくり!今までにない味ですごく美味しいんだ!」

「幸太郎がそんなに言うのなんて、あのおでん風味以来じゃないの?前に幸太郎からおでん風味を教えてもらって一ヶ月間毎日一回は飲んでいたのを覚えてるよ!幸太郎が言うのならきっと美味しいんだろうなぁ・・・。ありがとう!まさかこんなプレゼントが待っているなんて思わなかったよ!」

幸太郎は誇らしげに頷いた。

一時になるといつも通り、ボランティア長が公園の中央に立って大きな声で挨拶を始めた。

「皆さん、本日もボランティアに参加いただきありがとうございます。このように市民の方々と一緒に汗を流して活動出来る素晴らしさに私は幸福を感じずにはいられません」

ここで幸太郎達市民は盛大な拍手を送った。

「ありがとうございます、ありがとうございます。それでは今日のこの素晴らしい日のために皆さんがんばりましょう」

今日の活動内容は公園の美化作業であった。
普段は担当の【フランク】達《※4》が掃除をしているのだが、今日のボランティアがあったので【フランク】達は昨日から機能を一時停止してあるらしい。
とは言え、公園には塵芥一つも見当たらない。
市民達はゴミを探し始めた。
なかなか見当たるものではないが、たまたま見つけた時には子供のようにはしゃぐ大人もいた。

「幸太郎どう?私はさっきボタンを見つけたよ!きっと誰が気づかずに落としちゃったんだろうね」

「僕はまだ一つも見つからないなー」

「じゃあこれ幸太郎にあげるよ!さんらーたん?を教えてくれたお礼!」

「いいの?ドゥーニャは本当に優しいなぁ!」

幸太郎達はまた掃除の続きを始めた。

ボランティアの二時間が経ち、幸太郎は帰路についた。
今、彼はボランティアの疲れと充足感でいっぱいであった。
幸太郎は今日の十六時からの思考プログラムで【アニート】の新しい味を見つけたことをテーマにしようと思っていたが、今は今日のボランティアのことを考えようと決めていた。
あの素晴らしい時間を深く考えられるということに彼は今から歓喜をしていた。
その情動が抑えきれず、幸太郎は【サニリウム】を見上げて大きく手を広げた。
【サニリウム】は薄い青色に雲がわずか半分ほどしか浮かんでいないような晴天であった。
そのことが彼にまた喜びを与えた。
そしてこの喜びが絶頂に達した時、彼は大きく叫んだ。

「すばらしい新世界!」

















(補足)
※1 sunnyrium。紫外線や自然災害からの被害を防ぐために街を覆っている天候型都市円天井。昼間は五十種類近くの晴れ模様を映し出すことができる。また夜間には数百もの星も映される。
※2 接続権によって市民全員が誕生時に脳への移植を義務づけられている市民安全生活保護器具。人間らしく健康で文化的、そして常に幸福に包まれた生活を送れるように、市民全員が幸福省管轄の都市型コンピューター〝Flest-rin〟と接続していて、身体の運動状態や脳の活動から思考の読み取りなどができ、その健康情報を随時計測している。計測された数値から算出して最も安定して幸福を感じる事ができるとされる行動を市民達に推奨する。
※3 uneat。食事をする代わりに摂取を推奨されている健康飲料。週の初めに七つの味を選び、一日三飲、その時に飲みたい味を七つの中から選んで摂取することを推奨されている。
※4 自動掃除人形 フランクF型

(引用元)
grild-rig・・・「ガリヴァー旅行記」(スウィフト)ブロブディンナグ国渡航記 グリルドリッグより

Frest-rin・・・同上 リリパット国渡航記 フレストリンより

フランクF型・・・「夏への扉」(ハインライン) 万能フランクより

すばらしい新世界・・・「すばらしい新世界」(オルダス・ハクスリー)又は「テンペスト」(シェクスピア)より

世界をのぞむ家・・・「幸福な死」(カミュ)より
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