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9章 山城での宴
13 確認
しおりを挟む使用人がお茶と菓子を運んでテーブルに並べ終わり部屋から出て行くのを待ち、シリルは改めて今回の宴について大まかな説明をする。
「じゃあ『復活の灯火』に資金提供をしている客を呼んで、計画は最終段階ですとレネを披露する宴なんだな」
「そうです。ずっと行方不明になっていた『契約者』が見つかったというのが今回の宴の目的です」
「二人とも覚悟はできてるのか?」
いつになく真剣な目でルカが交互に二人と視線を合わせる。
「ええ、でないとあんな手紙を送りません」
「俺もあんないけ好かない男の元で働くのなんか真っ平だ」
「後でウチの長の方がいけ好かない奴だったって後悔するなよ」
思わせぶりにルカが笑ったが、最初からシリルの覚悟は決まっている。
これは好き嫌いで判断する次元の話ではなかった。
本当に事の重大さを知っているのは、この組織の中でシリルだけだった。
「ねえねえ、契約者ってどんな奴なの? レナトスと同じ絶世の美青年だって聞いたんだけど」
ピンと張り詰めた空気を緩ませるようにロメオは話題を変えた。
まだ組織に入って年数の経たないロメオはこの山城に招かれるのも初めてで、まだあのレナトスの壁画も見たことがない。
だからレナトスを絶世の美青年といっているのは、シリルや他のメンバーから聞いた情報でしかなかった。
カムチヴォスは用心深い男で、長年在籍した者しかここへ呼ばない。
今回宴は特別に、メンバー全員が集められた。
ロメオは、レナトスの生まれ変わりとされる『契約者』を見るのを楽しみにしているのだろう。
シリルとしては恋人でもあるロメオが、違う男に興味を示しているのを見るのは気分のいいものではないが、純粋な好奇心だとわかっているので、特になにも言わない。
「見てくれはいいかもしれないが、中身がガキな所はお前にそっくりだ」
こうしているととても信じられないが、ルカはリーパ護衛団という傭兵団の副団長で剣の達人でもある。
そして『復活の灯火』が『契約者』として探していたレネはルカの剣の弟子だった。
だから誰よりもレネのことを知っていた。
「なんだよガキって失礼な奴だな。俺はもう二十一だぞ」
「はっ、十分ガキじゃねえか」
ティーカップを優雅に持ち上げながらも、その口から汚い言葉を吐き出す様子はなかなかの見ものだ。
きっとレネともいつもこんな風に接しているのだろう。
「——なんだよさっきからジロジロ見やがって」
ロメオの胡乱な視線に気付いたのか、お茶を飲んでいたルカが動きを止めた。
「それ食べないのかなって思って」
ルカの前に置かれている菓子の乗った皿は、全く手が付けられていない。
食欲旺盛のロメオがそれを放置するはずもなく……。
「ほら欲しいならならやるよ」
ルカが自分の皿をロメオに差し出す。
「えっ……でも」
「俺は甘いものが苦手なんだよ」
ツンと冷たい表情のままルカは菓子には興味もないとばかりにそっぽを向く。
「やった!」
それとは対照的に、パッと表情を明るくしたロメオは遠慮なくルカの皿に手を付けた。
菓子を食べることに夢中でロメオは気付いてもいないが、そっぽを向いていたはずの青茶の瞳が横目でその様子を満足そうに眺めていた。
年の差を埋めようとロメオはシリルといる時は常に背伸びしている状態だが、ルカは問答無用で子供扱いするので、年相応の姿に戻る。
子供と言ってもロメオはもうとっくに成人を過ぎているのだが、年齢不詳のルカ(たぶんシリルよりも年上)にとっては子供と変わらないのだろう。
シリルから見たら、お互いが化けの皮を剥し合って素のままで寛いでいるという、実に微笑ましい光景であった。
ロメオとルカのやり取りは見ているだけでシリルの心を和ませる。
だがそんな時間もそう長くは続かなかった。
『——誰か来る』
気配を察知したルカが小声で注意を促す。
この山城にいるのは来客以外みな盗賊で、当然一般人よりも物音を立てない。
そんな気配を、誰よりも早く捉えたルカは、盗賊である自分たちより人の気配に敏感なようだ。
ノックとともに使用人が来客を告げる。
その名を聞いてシリルは一瞬眉を顰めたが、断るわけにもいかないので「どうぞ」と入室を許可する。
「おや! まさかこんな所で会うことになるとは」
赤毛の男がルカの姿を見つけ大仰に驚いた振りをすると、ルカは首を傾げてなんのことだろうという表情をして見せる。
「あの時声をかけておくべきだったとずっと後悔していたのを、貴方は知らないでしょうね。——私の名はレーリオ。シリルとは長い付き合いで、私がこの世界に強引に彼を引き込んだのです」
「私がお前を育てた」と言っているようなものだが、レーリオの説明は間違ってはいない。
隣国のレロで今にも殺されそうになっていたシリルを、セキアへと連れて来て、金を稼ぎ生きていく術を教えたのは、元相棒のレーリオだった。
しかし横で聞いていた現相棒のロメオは『偉そうに……』と小声でぼやいている。
当然その声はレーリオにも届いているはずだが、まるで聞こえていないように無視している。
「吟遊詩人のルカと申します。こんな素敵な方を一度見て忘れるはずはないのですが、どこでご一緒だったのでしょうか?」
ルカは立ち上がり丁寧に挨拶を返すと、未だにピンと来ていない顔をしたまま言葉を返す。
これが全くの演技だと知っているシリルは心の中でほくそ笑んだ。
ルカはちゃんとレーリオのことを覚えており、カステロ侯爵の嫡男でフォルテ子爵であることも知っていた。
シリルも情報を付けたして『復活の灯火』の中でも要危険人物として既にルカには知らせてある。
「いえ、貴方が私を覚えていないのも当然です。もう二年も前のことですし、私は慣れない場所で貴方の姿に圧倒されて声をかける勇気がなかったのです。リンブルク伯爵の主催のサロンで貴方が『レナトス叙事詩』を唄っているのを聴いて、感銘を受けました。あの後、ドロステア中で貴方のことを探していたのですが、見つけることができずに諦めていたのに……まさかシリルと知り合いだったなんて……灯台下暗しとは言ったものだ。——お前はどこで彼と出会ったんだ?」
シリルの隣に空いていた椅子を引き寄せて、レーリオは腰掛ける。
どうやら居座る気満々のようだ。
「古書店の店番をしていたら、彼が古い歌について書かれた本はないかと店を訪ねて来たんだ」
シリルはいつか訊かれることがあるだろうと、予め用意しておいた内容をレーリオに話す。
「私は古い歌を収集をして人に伝えることを生き甲斐としています。ラバトで古代王朝関連の書籍を一番多く扱っているのは『石榴古書店』だと皆口を揃えて言うものですから、掘り出し物の詩集がないかと立ち寄ってみたのです」
ルカは嘘の話を悪びれなく語る。
シリルもそれに応えるように話を引き継いでいく。
「彼は東国出身で故郷の古い歌についても教えてくれて、西国では残っていない五柱の神々についての歌も沢山あったからすっかり意気投合して、情報交換するようになったんだ」
「なるほど、あの古書店で繋がっていたのか」
ルカと二人で考えた作り話を、レーリオは案外すんなりと受け入れた。
「御用があってこちらにお見えだったんでしょう? そろそろお暇しようと思っていた所なので、私はこれで失礼します」
これ以上二人の仲を掘り下げられたら面倒だと思ったのか、ルカはさっさと席を立ちシリルの部屋を後にした。
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