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10章 娼婦たちを護衛せよ
4 旅の理由
◆◆◆◆◆
レネたちは、ヴィラッジオから乗合馬車でフューメまで移動した。
比較的早い時間に到着したので、町の古着屋に、宴の時にレネが着ていた衣装を売りに行ったら、20000ペリアで買い取ってもらうことができた。
フィリプから借りた資金はもう半分ほどしかなかったので、少しは足しになった。
「なあ、あんたはどこに帰るんだ? オレはその前に借りた50000ペリアを返したい」
宿の食堂で夕飯を食べながら、自分のことで精一杯で今まで聞いていなかった質問をする。
「こっから馬で四日ぐらい行った先にあるフォルテって港町だ。……金返すってそんな無理しなくっていいって」
「いや、どうせ俺たちにはもっとまとまった金が必要だからどこか腰を落ち着けて働こうって思ってたんだ」
バルトロメイがレネに代わり説明を続ける。
『契約の島』へと向かうことを決意し、レネは二人で今後について少し話し合っていた。
今のところ追手に遭遇することもなく、旅は順調に進んでいた。
客を招いて盛大な宴を開き、裏切り者まで出したのだから、行先の明らかになっているレネたちを追うよりも、後始末の方が大変なのだろう。
もしレネが追手の立場だとしたら、いちいち追いかけず、必ず立ち寄るであろう町で待ち伏せをする。
「なあ、地図を見せてくれ。どっか近くにある大きな街で仕事を探すから、金が溜まったらそのフォルテって町まで返しに行くよ」
「ほら」
フィリプが以前見せてくれたことのある地図を机の上に広げる。
「へえ……、このフォルテの前にあるアラッゾって街はどうだ?」
ラバトよりも小さいが、手前にある町よりも大きく表記してある。
フォルテともそう離れていないので、この街で仕事を見つけて金を稼いでから返しに行き、ラバトへと向かったらいいのではないだろうか?
「そうだな……ラバトよりは小さいけど、前のベスペチノストよりはでかいよ。でも一緒にフォルテまで来たら護衛の仕事も紹介できるぞ。フォルテは貴族の別荘地だから、この時期は仕事が沢山ある」
ドロステアで別荘地と言えば……ジェゼロやザトカ、テプレ・ヤロが有名だが、確かに貴族たちが夏休暇に訪れるこの時期だったなら、臨時で護衛を雇うこともある。
「あ~~それもいいかもな」
「確かに」
バルトロメイもフィリプの提案に惹かれている様子だ。
「……ところでお前ら、あんな呪われた城なんかに行ったりして、なにに狙われてるんだ?」
頼んでいた料理が運ばれて来たので、フィリプがテーブルの上に広げていた地図を畳みながら、直球をぶつけて来る。
(きた……)
いつか訊かれるだろうと思っていた。
「オレもずっと、あんたに話さなきゃって思ってたんだ」
「おい、飯食いながらする話じゃねえ。人の目もあるだろ」
「……確かに」
眉を顰めるバルトロメイから注意され、レネは渋々と引き下がる。
確かに誰が聞いているかわからないし、食事で話すような軽い話題でもない。
黙々と食べ物を口に運ぶバルトロメイをレネは横目で一瞥する。
昨日からバルトロメイの様子がなんだかおかしい。
妙にレネに対してつっけんどんなのだ。
「あ~あ……ボリスが居ないとだやっぱり駄目だな……。痣が残ってる」
フィリプはまるで自分が痛みでも感じているかのような顔をしながら、レネの手首と口元にできた紫色の痣を見る。
「痣くらい誰だってできるだろ。気にすんなよ」
言われるまで痣の存在など忘れていたが……リーパにいる時は、頼んでもいないのにボリスが治療してくれていた。
レネは癒しの力を使えるようになったが、自身の傷は癒すことができない。
ラバトに行けばゾタヴェニの神殿もあるだろうが、多額の寄付金を要求される。
リーパにいるころと違うのだ。
今回は大きな怪我まで至らなかったが、ちょっとした油断が大怪我に繋がるので気を付けなければいけない。
「お前わかってないな。セキアはなドロステアと違って美青年は守備範囲の奴が多いからな。気を付けろよ」
「は?」
「男同士でも抵抗がないってことだよ」
「……マジか……」
言われてみれば……昨日も破れたシャツを着たままにしていたら、フィリプがぶつぶつ文句を言いながら自分のシャツを貸してくれた。
それに……山城にいたレーリオとかいう男も、ベタベタと接触してきて挙動が怪しかった。
「言ったって無駄だって。他の旅人もいる中で、いきなり全裸になって川に飛び込む奴だからな」
ムスッとしたバルトロメイが、まるで被害者のような顔をしてフィリプへと告げる。
あの後バルトロメイに迷惑をかけたのは悪かったと思っているが、レネにも言いたいことがあった。
「お前だってすっぽんぽんで泳いでたじゃん」
同じ穴の狢のなのに、なぜフィリプにそういう言い方をするのだ。
意地悪な奴だとバルトロメイを睨む。
「誘ったのはお前だろ。俺が行かなかったら、お前ひとり注目を浴びてたぞ」
「…………」
確かに自分が誘ったので、レネはなにも言い返せなくなる。
「自由過ぎるだろ。変なのに目ぇ付けられるぞ」
フィリプまでバルトロメイに加勢しはじめた。
リーパで行動している時も、野宿が続けば皆で川を水浴びするのに、なにがいけないのだろうか?
「実はそのとき既にこいつは、金髪の男に目を付けられてたんだ。市場で急に姿を消して、周りの人に聞いて回ったら金髪の男がどこかに連れて行ったって言うもんだから、そいつが攫って行ったのかもしれないと思って生きた心地がしなかった」
「だから、必死な顔で部屋に入って来たのか。……たしかに俺も金髪だしな」
フィリプは短い自分の髪を触りながら笑う。
「なんだよ……金髪の男って」
「……お前覚えてないのか? 何度も話しかけられてたじゃねえか」
「あーー……」
金髪かどうかまでは覚えていないが、旅の途中に何度か話かけてきた男がいた気がする。
それも一緒にいるバルトロメイは完全に無視して、自分ばかりに寄って来るので変だなとは思っていた。
しかし攻撃を仕掛けるでもなく、直接害がないので、レネは全く気にしていなかった。
昨日遭遇した山賊たちならまだしも、あんな弱そうな男をいちいち気にしていられない。
「ほらな……」
「お前……苦労してるんだな……」
労わるようにフィリプはバルトロメイの背中を叩いた。
食事を終え部屋に戻ると、レネは二脚しかない椅子を二人に譲り、自分はベッドに腰掛ける。
「で、改めて話を聞こうか」
フィリプがベッドに座るレネの方を向いたまま、背もたれを抱き込んで椅子に座った。
そして向かい側の椅子にはバルトロメイが腰掛ける。
いつもは真っすぐにこちらを見つめて来るのに、今日は視線を合わせてこようとしない。
いったいどうしたのだろうか……。
「ことの始まりは……あの山城の主が、オレに手紙を送って来たんだ。オレがスタロヴェーキ王朝の直系で、王朝最期の王であるレナトス王の生まれ変わりだって。詳しく知りたいなた山城まで来いって書いてあった」
「なんだそりゃ?」
フィリプがぽかんと口を開ける。
誰だってそんな突拍子もない話をいきなりされたら混乱するだろう。
レネだって最初はそうだった。
続けてレネは、『復活の灯火』についてと、城の中で起こったことを順に話していく。
「レネがレナトス王の生まれ変わりか……」
フィリプはずっとなにか考え込んでいるようだ。
「オレたちと行くと厄介なことになるかもしれないぞ?」
フィリプの地元はここからそう離れていないので、いったん別行動をとって、稼いだ後で金を返すのもありかもしれないとレネは考えている。
「そんなの気にしねえって」
「オレたちは助かってるけど、どうしてここまでしてくれるんだ?」
フィリプの気持ちを一度確かめておきたかった。
「知らねえよ……。川に落ちた時もそうだけど……ただ、お前を放っておけないんだ。……元は俺も騎士の端くれだ。お前に流れている血に呼ばれたのかもしれない」
ルカの唄うレナトス叙事詩を聴いたせいだろうか?
歌の中の三騎士フェリペが暴れ馬からレナトスを救う場面と、濁流と化した川から自分を救い出してくれたフィリプの姿が重なるのは……。
声に出してそのことを伝えたかったが、直前で喉まで出かけたその言葉を押しとどめた。
バルトロメイから言われた言葉が心の中に引っ掛かっていたかもしれない。
今朝、洗面所へと行く廊下で、レネはすれ違ったバルトロメイに尋ねた。
『なあバート、お前がナタナエルなんだろ?』
山城に入って以来、自分がレナトスの生まれ変わりだと確信したと共に、隣にいる騎士が誰であるかに気付く。
なんだかバルトロメイとの絆が一層強くなったようで、レネは嬉しかった。
ここまで来るのに色々とあったが、なるべくして主従関係を結んでいたのだ。
フェリペでも、ギーでもなく、バルトロメイがナタナエルであることが嬉しかった。
理由はよくわからない。
しかし返って来た言葉はレネが期待したものとは違った。
『レナトスが俺をそう呼んでいたからそうなんだろう。……でも俺はそんなことどうでもいい』
表情を崩すことなくバルトロメイは告げると、右手に持っていた布切れのようなものをそっと背中に隠した。
『そっか……』
自分との温度差の違いに、レネは訊かなければ良かったと後悔した。
【後書き】
右手にはパンツ。
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