宴もたけなわではございますが、異世界に呼ばれましたので

バラモンジン

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2.村人と聖火の巫女

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 荒野から緑の多い景色に変わり、ポツポツと家が現れた。

 放牧中の羊や、家の周りに犬はいるが、人の姿が見当たらない。

「あの、村の方たちは?」

村長むらおさのところだ。魔物が出たから一番頑丈な家に集まってる」 

 乗り慣れない馬にお尻が痛くなってきた頃、若様が、あそこだと指差した。

 踏み固められた広い道の向こう、大きな建物の前にたくさんの人たちが集まっているのが見えた。

 心配そうな顔が、徐々に喜びに溢れてきた。男たちの無事を確認したようだ。 

「とうちゃん!」

 駆け出してきた子どもが若い男に抱きついた。男が抱き上げると、男の子は引き攣るように泣き出して、首にしがみついた。

「ただいま。もう大丈夫だ、聖火の巫女様が飛竜を消してくれたから」

「巫女さま?」

 男の子は涙でグシャグシャの顔を上げ、奈月を見た。

 奈月は馬から降ろしてもらい、まっすぐ立って挨拶をした。

「白川奈月です。よろしく」

 何がよろしくなのか、奈月自身も分かっていないので、とりあえずこれしか言えなかった。

「こちらは聖火の巫女様だ。手に持っている祝福のトーチで、森を焼いた飛竜を消し去ってくださった」

 ―― おおっ!! 祝福のトーチか! 神々しいな!

「白き衣の巫女様の伝説は、本物じゃった」

 ―― なんと! 美しき純白の衣装だ!

「いきなり空からお姿を現して、気合の入った声と共に、青白い炎で飛竜を焼き尽くしたのだ。骨さえ残さず見事なものよ」

 ―― それはすごい! どれほどの炎だったのか!

 森にいた男たちの説明に、村人たちのテンションが上がった。死と、死に別れを一度は覚悟した者たちだ、生きて再会できたことが嬉しくてたまらないのだろう。

 それは奈月にも分かる。だが、やはり奈月はよそ者だ。たたえられても疎外感があった。

「巫女さま?」

 ウエディングドレスの袖を軽く引っ張られ、声のした方を見ると、数人の女の子が奈月を見上げていた。

「巫女さま、キレイ」
「キラキラしてお姫様みたい」
「ドレスもすてき。こんなに透き通った布、見たことない」
「レースもすっごく細かいの」

 女の子たちの賞賛は素直に嬉しかった。何日も迷いに迷って決めたお気に入りのドレスなのだ。飛竜退治を褒められるよりずっと嬉しい。

「ほら、あんたたち、巫女様のドレスが汚れるから触るんじゃないよ。巫女様、ごめんなさいね。女の子だから、綺麗なものには目がなくて」

「いえ、お気に入りのドレスなので、いくらでも褒めてください。触っても大丈夫ですよ」

 そう言って奈月は笑った。

「それならいいんだけど。それと、男衆を助けてくれてありがとうございました。森から立ち上る煙を見て、私たち半分諦めていたんです。それがこうして誰ひとり怪我することもなく戻ってこれて、なんとお礼を言っていいのやら。本当にありがとうね」

 こんなふうに次々をお礼を言われ、奈月はこれから否応なしに、何かの任務に組み込まれることになるのだろうと思った。

 だけど、あまり期待されても困る。ここは奈月の世界じゃないし、活躍したからといって帰してもらえるのかも分からない。
 
『どうしよう、陽一さん。陽一さんならどうする?』



 その日は、皆疲れているだろうからということで、奈月の歓迎会は翌日に行われることになった。

 奈月は村長の家の客間に泊めてもらった。


 布団に入ってから考えたのは、披露宴と陽一のことだった。あれからどうしただろう。新婦がいきなり消えてしまうなんて、さすがの陽一でも対処が難しいだろう。
 
 花嫁失踪? 別の男と逃げた? 誘拐? どれだとしてもとんでもない失態だ。奈月は自分の意思ではないがここにいる。異世界だ。連絡の取りようもない。取れたところで説明もできないし、信じてもらえないだろう。

 いつも陽一に頼りきりで守ってもらっていた奈月だが、今回ばかりは奈月が自分で動かないといけない。こちらに呼ばれた理由があるのなら、それをやりとげれば帰れるかもしれない。一縷の望みを抱いて、奈月は眠りに就いた。


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