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第2章 少年期前編
第16話 酒場
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水の都の夜道を歩く。
細い路地は暗いのでランプか光魔法などの光源が必要だが、大通りは街灯が至る所に設置してある。
大通りを歩くだけなら夜の道も問題はなかった。
時間にして夜の八時。
人通りも日中に比べればずっと少ない。
その方が街を見て回るには有り難い。
まずは商店街に向かったが、もうどこも店仕舞いしていた。
出歩く人も少ないし、そりゃそうだよね。
商店はやはり日中しかやらないか。
とりあえず、俺は話をしなければいけない相手がいるので、例の荷馬車が入った倉庫へと向かった。
今夜話せなくとも、居場所くらいは知っておきたい。
辿り着いた大きな倉庫には沢山の荷馬車があった。
似たような荷馬車が多いが、ザドの荷馬車は盗賊の襲撃時に付いてであろう傷があったはず。
そして、その荷馬車はすぐに見つかった。
馬はいなくなっているので、恐らく厩舎にでも行ったのだろう。
俺は倉庫の中にいる男性に話しかけた。
「あの、この荷馬車の持ち主のザドっていう行商人を知りませんか?」
俺が尋ねると男は怪訝そうな顔をして俺を見てくる。
「あん?なんでこんな所にガキが彷徨いてんだ?
それにザドに用だと?
悪いが契約者の情報をおいそれと出したりはしない。
早く家に帰りな」
そう言ってその男は俺にシッシッと手を払う。
取り付く島も無いな。
しかし、契約者、と言ったか?
やはりここに荷馬車を置いてある事からこの場所を使わせてもらってる、ってことは確かだ。
んー、どうするかな。
ここで無駄に粘っても時間がもったいない。
俺はとりあえず引き下がる。
ザドのあの反応なら、いずれ俺に会いに来るだろう。
その時に文句の一つでも言ってやるか。
倉庫を後にして俺は考える。
さて、何処に行こうかっ!と。
なんせ今は完全な自由な身。
別段ジノの下にいた時もそこまで不自由はしてなかったが、何処で何するにもジノには報告しておかなくてはいけなかった。
それは自分の身に何かあった時の為でもあったし、俺が無茶な事をしたり、厄介事に巻き込まれていないかの確認でもあった。
しかし、もう俺は自分の身くらいは守れる程に成長した。
それは純粋な自分の力が成長したという意味でもあり、相応の知識も身につけたという事でもある。
自由だから、何をしてもいいわけでは無い。
この世界、またそれぞれの村や街によって守らなければならない事や規則がある。
それを力があるからと言って捻じ曲げていいものではなない。
この世界で生き抜く力と、それを正しく使う知識と判断力。
それを認めてもらえた上での自由だ。
そんな訳で、この街に迷惑をかけない程度に、ある程度好きなようにやらせてもらおう。
見知らぬ夜の街を歩くなんて、本来はとても危険な話だが、例え襲われても今の俺なら返り討ちに出来るだろう。
だが、面倒ごとは勘弁だ。
気配遮断によって自分の気配を限界まで消す。
これならまず一般人には俺に気付く事すら出来ないだろう。
そんじゃ行くか。
俺は歩き出す。
夜の街は人が少ないが、誰も出歩いていない訳ではない。
とりあえず、その辺を歩いている人について行った。
すると、酒場が立ち並ぶ飲屋街に行き着く。
へぇ、こんな所もあるんだな。
少し覗いてみようか。
適当な酒場に入ってみると、中はガヤガヤと喧騒に包まれていた。
大きな広間に複数の木のテーブルが並び、そこを沢山の人達が囲んで飲み、食らって話をしている。
猫耳に猫の尻尾を揺らす女性の獣人族が忙しそうに右へ左へ飲み物や食べ物を運んでいる。
生猫耳である。
付け耳……じゃあないよな?
尻尾も動いている。
細い手足がウェイトレスの服から伸び、器用に人の間をすり抜けて食事を運んでいる様には少し驚いた。
確か、獣人族は身体能力が非常に高いんだっけか。
それぞれのテーブルには小さな小樽のジョッキに飲み物が並々と入っている。
白い泡が溢れ落ちてるって事はビールなのかな?
飲んでみてぇ。
けど、今はダメだな。
俺は覗いたその酒場を後にしようとした時、聞き覚えのある声がした。
「そんでよ!?
俺は盗賊の大群に襲われた訳だよ。
しかも、こっちの護衛は新兵に毛が生えた程度のペエペエばかり。
絶対絶命って奴だ!」
五、六人が囲むテーブルで声高に話しをしてるのはザドである。
皆ザドの話を聞き入っている。
「そこに現れたのがまだ年端もいかねぇガキでよ。
そんなガキが空飛んで魔法を放ったんだよ。
こう、稲妻がビカビカッてな!
それで全ての盗賊の身体を撃ち抜いたんだ!
有り得ねぇだろ!?」
周りの人達に指をさしながら同意を求める。
「年端もいかねぇガキだって?
そんなガキがそこまで高度な魔法を使えるもんかい。
酔っ払ってホラ吹いてんじゃないよ!」
そう言って隣のテーブルの女性が小馬鹿にしてくる。
それは真っ赤な髪を後ろで束ねた筋肉質の女性だった。
その人は黒いズボンに焦げ茶のシャツ、そして金色のネックレスとイヤリングをしていた。
「あん?
俺の話は全部本当だぜ、リゼット。
しかも聞いて驚けよ。
そのガキは俺の護衛として契約してんだよ!」
「子供を護衛にする?
ほとほと呆れる。
専属の護衛も付ける事も出来ないアンタは子供にまで頼るようになった訳?」
そう言ってリゼットと呼ばれた女性は嘲笑う。
「ちっ!
オメェはあのガキを見てねぇからそんな事が言えるんだよ。
あのガキはなぁ!」
「ガキガキ言わないで頂けますかね?」
俺はザドの背後から声をかける。
ザドが驚いて振り返り、俺を見ると飛び上がる。
「し、シン坊じゃあないか!
い、いやぁガキって言ったのはその、なんだ、言葉の綾って奴だよ。
な?怒るなって!」
ザドは引きつった笑いをして冷や汗をかいている。
「怒ってません。
ガキという発言には。
それより、文句言いたいのはネラの宿屋での事ですっ!
ツケなんかしないで金払っておいてもらえますか!?
それに、ザドさん払いは通用しないから普通に宿代僕が払いましたしっ」
そう言ってズイッと前のめりになる。
するとザドは視線を逸らして半笑いになる。
「あー、そういえば払ってなかったっけか?
いや、悪ぃ悪ぃ!
今回の行商はうまくいったし、ちゃんと稼ぎはあるからよ!」
「金貨一枚分、先払いで払ってます。
契約金に上乗せでもらいますからね」
俺はジト目でザドを見ると、わかってるわかってるって!とザドは言う。
「アンタが、その噂の魔法使いの坊やかい?」
隣のテーブルから声がかかる。
さっきザドに食って掛かったリゼットと呼ばれてた人だ。
「えぇ、多分僕の事ですね。
そしてガキでも坊やでも無く、シン・オルディールという名を持っています」
俺は平然と答えると、リゼットはジッと俺を見る。
「ただのガキにしか見えないね。
とは言え、肝は据わっているようだ。
本当に魔法を使えるのかい?」
この人今あえてガキって言ったな。
そんでまた疑われてるのか。
無理もないけど、証明するのも面倒だな。
「えぇ、自分の身を守るくらいは出来ますよ。
それで、あなたは?」
「あたしゃリゼット・グレンジャー。
この辺じゃ名の通った行商人だよ」
そう言ってテーブルに頬杖をついて俺を見下ろすリゼット。
「ザドさんの同業者ですか」
「こんなチンケな男と一緒にしないで欲しいね。
二回に一回は行商に失敗するようなヘナチョコの行商人と私とじゃ天と地ほど違うんだからね」
へぇ、そうなのか。
ザドは、なにおう!?と喚いてるが相手にもされていない。
てか二回に一回行商に失敗するってどんだけ失敗率が高ぇんだよ。
よく生活出来てたな。
むしろよく生きてこれたな。
「リゼットさん。
こんな子供が魔法を扱える訳がありませんよ。
まだ小さすぎます。
使えても初級魔法が使える程度でしょう?」
そう言ってきたのはリゼットと同じテーブルにいた女性だ。
その女性は尖り帽子を被って、ローブを纏っていた。
そして短い木の杖を腰に差している。
どう見ても魔法使いです。
「確かに。
ローラ、お前は空は飛べるんだっけか?」
リゼットは魔法使いの女性、ローラに問いかける。
「飛べませんよ。
飛翔の魔法は上位魔法の一つですよ?
魔法操作を引き上げる杖があれば別ですけど」
「だそうだ。
それで?ザドの話じゃ空を飛んだ上に雷魔法を使ったって?
坊や、その話は本当かい?」
試すような眼差しで俺を見てくるリゼット。
はぁ、なんか人に会う度にこんな事を聞かれるのか?
面倒くさー。
「ええ、出来ますよ」
そう言って俺は風を纏ってゆっくり身体を宙に浮かせる。
それを見たリゼットとローラは目を見開く。
「う……嘘でしょ……!?
だって、今詠唱もしてないわ!
それに、なんでこんなに静かに身体を浮かせられるの!?
風だって周りに何も撒き散らしてない……っ!」
同じ魔法使いだからなのか、俺のやってる芸当に一番ローラが驚いている。
そりゃあ、俺も最初は周りに風を撒き散らして飛び上がってた。
でも、それはマナを無駄に消費する割に速度も出ない。
きちんと風魔法を操作して、身体にしっかり纏わせれば無駄なくマナを使い、飛行のコントロールも自由自在になる。
そこまでなるのに一年はかかったが。
「それで、飛んだまま雷魔法を使えば納得して頂けますか?」
そう言ってザドの背中に人差し指を当て、電流を流すとその身体が飛び跳ねた。
「いってぇっ!
今なんかビリビリってきたぞ!?」
初級魔法の“スパーク”だ。
しかし、威力は極限まで抑えてある。
静電気程度の痛みだろう。
それを見たリゼットとローラは開いた口が塞がらないようだ。
「ちゃんとした信頼関係を築いていないのに、宿屋を紹介した罰です。
多少の痛みは我慢して下さい」
俺は淡々と告げる。
ザドは無茶苦茶なっ!と喚いてるが皆無視する。
「本物……って訳ね。
才能の塊みたいな坊やだよ。
ローラ、どう思う?」
「正直……規格外、としか言いようがありません。
同時に二つの魔法が使える魔法使いは確かにいますが、それは相当経験を積んだ魔法使いに限ります。
“飛翔”魔法のあの繊細で正確な操作。
そして“スパーク”も、威力をあんなに落として扱う器用さ。
どれをとっても、信じられないような事です」
それを聞いてザドさんがドヤ顔になる。
「どうだ?
大したもんだろうよ!」
誰もがザドを見て思う。
お前が凄い訳じゃない、と。
「でもまぁ、確かに良い物を見せてもらったよ」
そう言って微笑むリゼット。
「ザド、あんたは明日の行商は何処に向かうんだい?」
「あー、ティルバ村かコッツマルズ村のどっちかに明日向かう予定だ。
でもまぁ、コッツマルズ村は道中のロックヴェルド峡谷を通らなきゃいけないから、後回しだろうな。
あそこは最近ゴーレムの目撃証言が多発してるから、討伐が終わってから行くさ」
ロックヴェルド峡谷……。
確かに、あそこはゴーレムの出没地域と聞いたことがある。
生半可な物理攻撃では傷もつけられない頑丈な魔物だ。
「ザド、あたしもコッツマルズ村には用がある。
あっちで鉱石や宝石、その加工物を買い取って欲しいそうだ。
だからあたし達は明日、そこに向かう。
なんなら一緒に来るかい?」
その誘いにザドはニヤリと笑って腕を組む。
「リゼットから申し出が来る日が訪れるたぁ思った事も無かったぜ」
「アンタはついでだよ。
あたしゃ、その子に興味がある」
そう言ってザドを無視して俺に顔を寄せるリゼット。
「坊やの力を見せとくれ。
もしも、その魔法の力が本当に戦闘で役に立つなら、あたしの護衛団に入れるのも考えたげるよ」
めっちゃ上から目線だな、おい。
俺はザドを見上げる。
「ザドさんはどうするんです?
一応今はザドさんと契約してます。
あなたが行く場所に僕は付いて行くだけです」
俺はザドに尋ねる。
「そりゃあリゼットの護衛団が一緒なら怖いもの無しだっ!
コッツマルズ村に行けりゃ金になる。
あそこは希少価値のある物ばかりだからな。
乗ったぜ、その話!」
そう言って酒の入った小樽のジョッキをリゼットに突き出す。
しかしリゼットは取り合わない。
「おい、この子に何か飲み物をくれてやっておくれ」
リゼットは猫耳ウェイトレスに声をかけると「かしこまりましたーっ!」と元気良く答えて、猫耳ウェイトレスはカウンターの奥へと消えていった。
そしてすぐに戻ってきて、俺に小樽のジョッキを渡してくれた。
中身は恐らく果実酒だな。
「期待してるよ。
それはあたしからの奢りさ」
そう言って俺に小樽のジョッキを突き出してくるリゼット。
俺は頷いて小樽のジョッキを打ち合わせた。
互いに喉を鳴らしてゴクゴク飲む。
これ……量多すぎ……。
それでも俺は一気に飲み干した。
俺は飛び跳ねて空の小樽のジョッキをテーブルにドンッ!と勢いよく置いた。
「ご馳走さまでしたっ」
俺は頭を下げる。
「ハッ!なかなか良い飲みっぷりじゃないか」
鼻で笑ったリゼットは上機嫌そうに笑った。
「では、自分はこれで失礼します」
俺は一礼して背を向ける。
「また会うとしよう、坊や。
明日を楽しみにしてるよ」
「明日の朝、迎えにいくからな!」
リゼットとザドが俺の背中に向けて声を掛けてくる。
ザド、お前はちゃんと金払っておけよ。
そうして俺は宿に戻り、身体を休める事にした。
細い路地は暗いのでランプか光魔法などの光源が必要だが、大通りは街灯が至る所に設置してある。
大通りを歩くだけなら夜の道も問題はなかった。
時間にして夜の八時。
人通りも日中に比べればずっと少ない。
その方が街を見て回るには有り難い。
まずは商店街に向かったが、もうどこも店仕舞いしていた。
出歩く人も少ないし、そりゃそうだよね。
商店はやはり日中しかやらないか。
とりあえず、俺は話をしなければいけない相手がいるので、例の荷馬車が入った倉庫へと向かった。
今夜話せなくとも、居場所くらいは知っておきたい。
辿り着いた大きな倉庫には沢山の荷馬車があった。
似たような荷馬車が多いが、ザドの荷馬車は盗賊の襲撃時に付いてであろう傷があったはず。
そして、その荷馬車はすぐに見つかった。
馬はいなくなっているので、恐らく厩舎にでも行ったのだろう。
俺は倉庫の中にいる男性に話しかけた。
「あの、この荷馬車の持ち主のザドっていう行商人を知りませんか?」
俺が尋ねると男は怪訝そうな顔をして俺を見てくる。
「あん?なんでこんな所にガキが彷徨いてんだ?
それにザドに用だと?
悪いが契約者の情報をおいそれと出したりはしない。
早く家に帰りな」
そう言ってその男は俺にシッシッと手を払う。
取り付く島も無いな。
しかし、契約者、と言ったか?
やはりここに荷馬車を置いてある事からこの場所を使わせてもらってる、ってことは確かだ。
んー、どうするかな。
ここで無駄に粘っても時間がもったいない。
俺はとりあえず引き下がる。
ザドのあの反応なら、いずれ俺に会いに来るだろう。
その時に文句の一つでも言ってやるか。
倉庫を後にして俺は考える。
さて、何処に行こうかっ!と。
なんせ今は完全な自由な身。
別段ジノの下にいた時もそこまで不自由はしてなかったが、何処で何するにもジノには報告しておかなくてはいけなかった。
それは自分の身に何かあった時の為でもあったし、俺が無茶な事をしたり、厄介事に巻き込まれていないかの確認でもあった。
しかし、もう俺は自分の身くらいは守れる程に成長した。
それは純粋な自分の力が成長したという意味でもあり、相応の知識も身につけたという事でもある。
自由だから、何をしてもいいわけでは無い。
この世界、またそれぞれの村や街によって守らなければならない事や規則がある。
それを力があるからと言って捻じ曲げていいものではなない。
この世界で生き抜く力と、それを正しく使う知識と判断力。
それを認めてもらえた上での自由だ。
そんな訳で、この街に迷惑をかけない程度に、ある程度好きなようにやらせてもらおう。
見知らぬ夜の街を歩くなんて、本来はとても危険な話だが、例え襲われても今の俺なら返り討ちに出来るだろう。
だが、面倒ごとは勘弁だ。
気配遮断によって自分の気配を限界まで消す。
これならまず一般人には俺に気付く事すら出来ないだろう。
そんじゃ行くか。
俺は歩き出す。
夜の街は人が少ないが、誰も出歩いていない訳ではない。
とりあえず、その辺を歩いている人について行った。
すると、酒場が立ち並ぶ飲屋街に行き着く。
へぇ、こんな所もあるんだな。
少し覗いてみようか。
適当な酒場に入ってみると、中はガヤガヤと喧騒に包まれていた。
大きな広間に複数の木のテーブルが並び、そこを沢山の人達が囲んで飲み、食らって話をしている。
猫耳に猫の尻尾を揺らす女性の獣人族が忙しそうに右へ左へ飲み物や食べ物を運んでいる。
生猫耳である。
付け耳……じゃあないよな?
尻尾も動いている。
細い手足がウェイトレスの服から伸び、器用に人の間をすり抜けて食事を運んでいる様には少し驚いた。
確か、獣人族は身体能力が非常に高いんだっけか。
それぞれのテーブルには小さな小樽のジョッキに飲み物が並々と入っている。
白い泡が溢れ落ちてるって事はビールなのかな?
飲んでみてぇ。
けど、今はダメだな。
俺は覗いたその酒場を後にしようとした時、聞き覚えのある声がした。
「そんでよ!?
俺は盗賊の大群に襲われた訳だよ。
しかも、こっちの護衛は新兵に毛が生えた程度のペエペエばかり。
絶対絶命って奴だ!」
五、六人が囲むテーブルで声高に話しをしてるのはザドである。
皆ザドの話を聞き入っている。
「そこに現れたのがまだ年端もいかねぇガキでよ。
そんなガキが空飛んで魔法を放ったんだよ。
こう、稲妻がビカビカッてな!
それで全ての盗賊の身体を撃ち抜いたんだ!
有り得ねぇだろ!?」
周りの人達に指をさしながら同意を求める。
「年端もいかねぇガキだって?
そんなガキがそこまで高度な魔法を使えるもんかい。
酔っ払ってホラ吹いてんじゃないよ!」
そう言って隣のテーブルの女性が小馬鹿にしてくる。
それは真っ赤な髪を後ろで束ねた筋肉質の女性だった。
その人は黒いズボンに焦げ茶のシャツ、そして金色のネックレスとイヤリングをしていた。
「あん?
俺の話は全部本当だぜ、リゼット。
しかも聞いて驚けよ。
そのガキは俺の護衛として契約してんだよ!」
「子供を護衛にする?
ほとほと呆れる。
専属の護衛も付ける事も出来ないアンタは子供にまで頼るようになった訳?」
そう言ってリゼットと呼ばれた女性は嘲笑う。
「ちっ!
オメェはあのガキを見てねぇからそんな事が言えるんだよ。
あのガキはなぁ!」
「ガキガキ言わないで頂けますかね?」
俺はザドの背後から声をかける。
ザドが驚いて振り返り、俺を見ると飛び上がる。
「し、シン坊じゃあないか!
い、いやぁガキって言ったのはその、なんだ、言葉の綾って奴だよ。
な?怒るなって!」
ザドは引きつった笑いをして冷や汗をかいている。
「怒ってません。
ガキという発言には。
それより、文句言いたいのはネラの宿屋での事ですっ!
ツケなんかしないで金払っておいてもらえますか!?
それに、ザドさん払いは通用しないから普通に宿代僕が払いましたしっ」
そう言ってズイッと前のめりになる。
するとザドは視線を逸らして半笑いになる。
「あー、そういえば払ってなかったっけか?
いや、悪ぃ悪ぃ!
今回の行商はうまくいったし、ちゃんと稼ぎはあるからよ!」
「金貨一枚分、先払いで払ってます。
契約金に上乗せでもらいますからね」
俺はジト目でザドを見ると、わかってるわかってるって!とザドは言う。
「アンタが、その噂の魔法使いの坊やかい?」
隣のテーブルから声がかかる。
さっきザドに食って掛かったリゼットと呼ばれてた人だ。
「えぇ、多分僕の事ですね。
そしてガキでも坊やでも無く、シン・オルディールという名を持っています」
俺は平然と答えると、リゼットはジッと俺を見る。
「ただのガキにしか見えないね。
とは言え、肝は据わっているようだ。
本当に魔法を使えるのかい?」
この人今あえてガキって言ったな。
そんでまた疑われてるのか。
無理もないけど、証明するのも面倒だな。
「えぇ、自分の身を守るくらいは出来ますよ。
それで、あなたは?」
「あたしゃリゼット・グレンジャー。
この辺じゃ名の通った行商人だよ」
そう言ってテーブルに頬杖をついて俺を見下ろすリゼット。
「ザドさんの同業者ですか」
「こんなチンケな男と一緒にしないで欲しいね。
二回に一回は行商に失敗するようなヘナチョコの行商人と私とじゃ天と地ほど違うんだからね」
へぇ、そうなのか。
ザドは、なにおう!?と喚いてるが相手にもされていない。
てか二回に一回行商に失敗するってどんだけ失敗率が高ぇんだよ。
よく生活出来てたな。
むしろよく生きてこれたな。
「リゼットさん。
こんな子供が魔法を扱える訳がありませんよ。
まだ小さすぎます。
使えても初級魔法が使える程度でしょう?」
そう言ってきたのはリゼットと同じテーブルにいた女性だ。
その女性は尖り帽子を被って、ローブを纏っていた。
そして短い木の杖を腰に差している。
どう見ても魔法使いです。
「確かに。
ローラ、お前は空は飛べるんだっけか?」
リゼットは魔法使いの女性、ローラに問いかける。
「飛べませんよ。
飛翔の魔法は上位魔法の一つですよ?
魔法操作を引き上げる杖があれば別ですけど」
「だそうだ。
それで?ザドの話じゃ空を飛んだ上に雷魔法を使ったって?
坊や、その話は本当かい?」
試すような眼差しで俺を見てくるリゼット。
はぁ、なんか人に会う度にこんな事を聞かれるのか?
面倒くさー。
「ええ、出来ますよ」
そう言って俺は風を纏ってゆっくり身体を宙に浮かせる。
それを見たリゼットとローラは目を見開く。
「う……嘘でしょ……!?
だって、今詠唱もしてないわ!
それに、なんでこんなに静かに身体を浮かせられるの!?
風だって周りに何も撒き散らしてない……っ!」
同じ魔法使いだからなのか、俺のやってる芸当に一番ローラが驚いている。
そりゃあ、俺も最初は周りに風を撒き散らして飛び上がってた。
でも、それはマナを無駄に消費する割に速度も出ない。
きちんと風魔法を操作して、身体にしっかり纏わせれば無駄なくマナを使い、飛行のコントロールも自由自在になる。
そこまでなるのに一年はかかったが。
「それで、飛んだまま雷魔法を使えば納得して頂けますか?」
そう言ってザドの背中に人差し指を当て、電流を流すとその身体が飛び跳ねた。
「いってぇっ!
今なんかビリビリってきたぞ!?」
初級魔法の“スパーク”だ。
しかし、威力は極限まで抑えてある。
静電気程度の痛みだろう。
それを見たリゼットとローラは開いた口が塞がらないようだ。
「ちゃんとした信頼関係を築いていないのに、宿屋を紹介した罰です。
多少の痛みは我慢して下さい」
俺は淡々と告げる。
ザドは無茶苦茶なっ!と喚いてるが皆無視する。
「本物……って訳ね。
才能の塊みたいな坊やだよ。
ローラ、どう思う?」
「正直……規格外、としか言いようがありません。
同時に二つの魔法が使える魔法使いは確かにいますが、それは相当経験を積んだ魔法使いに限ります。
“飛翔”魔法のあの繊細で正確な操作。
そして“スパーク”も、威力をあんなに落として扱う器用さ。
どれをとっても、信じられないような事です」
それを聞いてザドさんがドヤ顔になる。
「どうだ?
大したもんだろうよ!」
誰もがザドを見て思う。
お前が凄い訳じゃない、と。
「でもまぁ、確かに良い物を見せてもらったよ」
そう言って微笑むリゼット。
「ザド、あんたは明日の行商は何処に向かうんだい?」
「あー、ティルバ村かコッツマルズ村のどっちかに明日向かう予定だ。
でもまぁ、コッツマルズ村は道中のロックヴェルド峡谷を通らなきゃいけないから、後回しだろうな。
あそこは最近ゴーレムの目撃証言が多発してるから、討伐が終わってから行くさ」
ロックヴェルド峡谷……。
確かに、あそこはゴーレムの出没地域と聞いたことがある。
生半可な物理攻撃では傷もつけられない頑丈な魔物だ。
「ザド、あたしもコッツマルズ村には用がある。
あっちで鉱石や宝石、その加工物を買い取って欲しいそうだ。
だからあたし達は明日、そこに向かう。
なんなら一緒に来るかい?」
その誘いにザドはニヤリと笑って腕を組む。
「リゼットから申し出が来る日が訪れるたぁ思った事も無かったぜ」
「アンタはついでだよ。
あたしゃ、その子に興味がある」
そう言ってザドを無視して俺に顔を寄せるリゼット。
「坊やの力を見せとくれ。
もしも、その魔法の力が本当に戦闘で役に立つなら、あたしの護衛団に入れるのも考えたげるよ」
めっちゃ上から目線だな、おい。
俺はザドを見上げる。
「ザドさんはどうするんです?
一応今はザドさんと契約してます。
あなたが行く場所に僕は付いて行くだけです」
俺はザドに尋ねる。
「そりゃあリゼットの護衛団が一緒なら怖いもの無しだっ!
コッツマルズ村に行けりゃ金になる。
あそこは希少価値のある物ばかりだからな。
乗ったぜ、その話!」
そう言って酒の入った小樽のジョッキをリゼットに突き出す。
しかしリゼットは取り合わない。
「おい、この子に何か飲み物をくれてやっておくれ」
リゼットは猫耳ウェイトレスに声をかけると「かしこまりましたーっ!」と元気良く答えて、猫耳ウェイトレスはカウンターの奥へと消えていった。
そしてすぐに戻ってきて、俺に小樽のジョッキを渡してくれた。
中身は恐らく果実酒だな。
「期待してるよ。
それはあたしからの奢りさ」
そう言って俺に小樽のジョッキを突き出してくるリゼット。
俺は頷いて小樽のジョッキを打ち合わせた。
互いに喉を鳴らしてゴクゴク飲む。
これ……量多すぎ……。
それでも俺は一気に飲み干した。
俺は飛び跳ねて空の小樽のジョッキをテーブルにドンッ!と勢いよく置いた。
「ご馳走さまでしたっ」
俺は頭を下げる。
「ハッ!なかなか良い飲みっぷりじゃないか」
鼻で笑ったリゼットは上機嫌そうに笑った。
「では、自分はこれで失礼します」
俺は一礼して背を向ける。
「また会うとしよう、坊や。
明日を楽しみにしてるよ」
「明日の朝、迎えにいくからな!」
リゼットとザドが俺の背中に向けて声を掛けてくる。
ザド、お前はちゃんと金払っておけよ。
そうして俺は宿に戻り、身体を休める事にした。
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赤ん坊から15歳まで成長する中で、異世界の常識を学んでいくが、その中で気付いたことがひとつ。
「ポーションが不味すぎる」
必需品だが、みんなが嫌な顔をして買っていく姿を見て、「美味しいポーションを作ったらバカ売れするのでは?」
と考え、試行錯誤をしていく…
勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。
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エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。
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自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!
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無口最強の仮面メイド・シンカク、命を取引に差し出した狼耳少女・アイリ。彼は常にコスパの高い道を選び、母の遺したノートの謎、そして生まれて一度も会ったことのない父・帝国大元帥のいる帝都の闇へと踏み込んでいく。
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