異世界転生した俺は最強の魔導騎士になる

ひとつめ帽子

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第5章 遥か遠いあの日を目指して

第94話 受け入れ難い現実

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 目の前で飛び散る血飛沫。
首を締め付けられながらも小さく漏れた悲鳴。
そして力無く落ちる手足と、光を失った瞳。
その彼女に、あらん限りの力を込めて手を伸ばす。
けれど、それは届く事はない。
彼女は遠く、遠く離れて行き、次第に闇に飲み込まれていく。
待ってくれ、と叫びたくとも、声も出ない。
俺は叫ぶ。
彼女の名を。
その声が、届くようにと。
何度も、何度も——。





「アネッサッ!!」

 ガバッと起き上がった俺は、全身に鋭く走る痛みに再び倒れ込んでしまう。
特に、呼吸がし難く感じる程に胸が痛い。
荒い息をしながら、視線を動かす。

 そこは、暖かな日差しが差し込む小部屋。
俺はそこのベッドに横になっていた。
手触りが良いとは言えないシーツを手で捲り上げる時、片手に違和感を覚える。

 左腕の……肘から先が、無い……。

「——ッ!!」

 突然鋭い針が頭に突き刺さったような頭痛に襲われる。
そして蘇るあの記憶。
俺の腕は……焼き消されたのだ。
目の前の震える左腕を見つめ、それが夢ではない事を再確認する。
そして、再び鋭い頭痛に襲われ思い出す。

「アネッサ……」

 俺は小さくその名を口にする。
記憶が曖昧だ。
でも、アネッサの身に何かあった気がする。
とても……本当に、良くない事が……。

「確か、あの魔族に、襲われて……そして……ッ!!」

 まるで走馬灯のように記憶が蘇り、脳裏を駆け巡る。
思い出される光景がフラッシュバックのように映し出され、消えていく。

「あ……あぁ……ァァあああッ!!」

 心臓が飛び出す勢いで脈打ち始め、呼吸はどんどん荒くなる。
頭が整理できず、うまく、息も吸えない。
苦しい……。
このまま、死んでしまいそうだ……。

「シンッ!!」

 勢いよく扉が開く。

「シン、落ち着いて。
大丈夫だから。
もう、大丈夫だからッ!」

 誰かが痙攣する俺の肩を掴み、話しかけてくる。
焦点が合わず、誰かがわからない。

「シン……ッ。
落ち着いて、お願い……」

 目の前の、恐らく少女の手から放たれた暖かな光が俺の身体を包み込む。
その暖かさを感じ、少しずつ身体の震えが止まってくる。
呼吸も、次第に落ち着いてくる。
そして、しっかりと映るその景色に、彼女——リアナの姿があった。

「リア……ナ……?」

 力無く、ベッドに倒れ込む俺はその名を口にする。

「そうだよ、私はリアナだよ。
もう、大丈夫だから。
目が覚めて、本当に良かった……。
もう……目が覚めないのかと……ッ!」

 リアナは俺の手を強く握り、崩れ落ちるように膝をついて俺に泣きついてきた。

 もう、大丈夫……?
俺は、助かったのか?
あの絶望的な状況から、どうやって?
いや、そんな事より——。

「アネッサ、は……?
アイツは、無事か……?」

 俺は途切れ途切れに問いかける。
すると、リアナはゆっくり顔をあげて、悲痛に顔を歪める。

「わからないの……私にも……」

「わからない……?
アネッサは……ここにいないのか?何処にいる?」

 俺はなんとか身体を起こそうとしながらも、そう尋ねる。

「ゴメン……それも、わからない……。
そもそも、私達がはどんな場所なのかも、よくわかってないの。
だから、アネッサさんの居場所も、わからない……」

 俺達が今いる世界がわからない?
どういう事だ?
そりゃあまるで、転生したみたいな言い方じゃないか。

「一体、それはどういう事なんだ……?」

 俺が掠れた声でそう問いかけると、リアナは答え始めた。
その、信じ難い話を……。
そして、まだ理解しきれてはいない現状を——。





「——そして、シンの一命をとりとめた後、この村を目指したの。
私達を助けてくれたエルフはゼノさんって言っていたわ。
私とゼノさんで長い間歩き続けて、今いるククール村に来たわ。
この村には小さな孤児院があって、そこで身寄りのない子供達を預かってるんだって。
私達も、とりあえず一時預かりって事で此処に住ませてもらってるの」

 それを黙って聞き入り、リアナが一区切りつけると俺は右手を額に当てる。
あまりに、衝撃的な事が起きすぎて、整理しきれない……。

「時空を超えた……?
マジかよ……」

 異世界ヤベェなぁ……、と久々に思った俺は一つ息を吐く。
しかし、とりあえず命は助かった。
死を覚悟して使った幻魔の術式だったが、どうやらギリギリのところで命は助かったらしい。

「それじゃあ……アネッサは無事なのかも、わからないんだな」

「うん……」

 小さく頷くリアナ。

 ……断片的な記憶と、リアナの話を照らし合わせれば、俺が生きてるって事はアネッサもまだ息がある可能性はある。
あるが、致命傷を負っているのは間違いない。
助けは必要だ。
その為に、まずはあの時代、そしてあの日に戻らなければ。
いや、時空を超越出来んるなら、もっと前に行って起こり得る事象そのものを変える事だって、出来るんじゃ……?
なんにせよ——。

「……まだ、希望はある、って訳だな」

 俺は右手を額から離し、その手を握り締める。

 今はまだ無理だが、幻想魔導術式を鍛え上げれば時空を超える事だって出来るかもしれない。
実際に俺達が時空を超えたのなら、そういうスキルが存在するって事だ。
ならば、きっと——。

「シン、あのね?
そのゼノさんが言ってたんだけど——」

 俺はしばし考え込んでいると、リアナが話し掛けてくる。
その言葉に俺は顔を上げ、強い眼差しでリアナを見つめる。

「リアナ、大丈夫だ。
俺がなんとかする。
希望はある。
お前が俺を助けてくれたお陰だな」

 俺はリアナの肩を叩き、微笑んでそう告げる。

「ありがとう」

 その言葉に、リアナは顔を悲しそうに顔を歪める。

「シン……」

「とりあえず、この時代について詳しく調べよう。
それから、どれくらい時間がかかるかはわからないけど、必ず時空を超えるスキルを身に付ける。
すぐにとはいかないだろうが、絶対にやり遂げる。
そうすりゃあの時代に戻れ——」

「シンッ!」

 俺の言葉を遮るように、リアナが声を上げる。
その声に俺は驚き、リアナを見る。
その瞳からは、涙をこぼしていた。

「シンの身体は……もう、魔法が使えなくなってるの……」

 小さく、けれどハッキリと、そう告げられた。

「え……?」

 俺は思わず間の抜けた声を漏らし、自分の身体を見る。
片腕が消し飛んでる事くらいしか前との変化はわからない。
しかし、リアナの物言いや顔付から意味を汲み取れば、嘘をついているようには到底思えない。

 俺は確認する為に、片手を掲げて水球を作り上げようと魔力を込める。
その突如、身体が引き裂かれるような痛みに襲われ、鋭い頭痛が突き刺さる。

「ァッ——カッハァ——ッ!」

「シンッ!」

 俺は膝をつき、片手を地面につけて目を見開く。
呼吸もし難い……。
身体中が軋み出し、耐え難い激痛が駆け巡る。

 な、なんだこれ?
何が、どうなってやがる!?

 リアナは俺に寄り添い背中を優しく撫でながら続けた。

「やっぱり……シンはもう、魔法は使えないんだね……。
シンの身体はもう、魔法が使えるような状態じゃないんだって……ゼノさんが言ってたの。
魔法だけじゃない。
魔力を身体に巡らせる事が出来なんだって。
だから、私の回復魔法もシンには効果が無いし、スキルで身体を強化する事も、硬化させる事も出来ないって、言っていたわ……」

 何かを諦めたように、弱々しくリアナはそう告げた。

 ……待て……。
待て待て……。
そんな……そんな訳が……!?

「だから、もうこれ以上無理して魔力を使わないで。
もし無理して使おうとすれば、シンが本当に死んじゃうよッ」

 そう言って泣きついてくるリアナ。
しかし、その身体を抱き留める余裕も、気力も俺には無かった。
あまりに、受け入れ難い現実が目の前に横たわり、俺はただただ呆然とする他に無かった。

 つまり……幻想魔導術式を使うのは夢のまた夢……という事。
いや、そもそも——。

 俺は、揺れる瞳でリアナを見る。
そして、その肩にゆっくりと右手を置くが、その手も震えている。

 ……俺は、魔法無しでこの世界を生きられるのか?
リアナを守りつつ、この時代を生き、元の世界に戻る事が……できるのか……?



 あの日に戻る為の一歩を踏み出すことすら、今の俺には許されていなかった——。
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