クラフト生活をしながら同級生にコスプレさせて異世界をスローライフします

春風

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第19話〜彩音とマフユ〜

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第19話~彩音とマフユ~




夕暮れ時。台所から甘い香りが漂ってくる。彩音はオーブンの前で熱心に何かを作っていた。

「あー!焦げちゃう!」

慌てて温度を調整する。しかし表情は楽しそうだ。

二階から静かな足音。マフユがそっと階段を降りてきた。松葉杖をついているものの動きは滑らかになっている。

「……」

彩音に気づかれないように台所の影に隠れるマフユ。好奇心と警戒心が入り混じった表情。

「あれ?誰か来た?」

彩音が振り返る。しかし誰もいない。

「気のせいかな……」

再びオーブンに向き合う。

マフユは壁に寄りかかりながら小声で呟く。

「……やはり人間の食べ物とは思えない匂いだ」

彼女の鼻がピクピクと動く。

数分後。オーブンから甘い焼き菓子の香りが溢れ出した。彩音が満足げに皿を取り出す。
「よし!完璧!」

その時だった。

「それは何だ?」

突然の声に彩音が飛び上がる。

「ひゃあ!?」

振り返るとマフユが背後に立っていた。

「びっくりした!なんでそんなとこにいるの!?」


「通りかかっただけだ」

マフユは平静を装うが尻尾が小刻みに動いている。

「それより……」

マフユの視線が皿に釘付けになる。

「すごい匂いだな」


「ああこれ?」

彩音が得意げに説明する。

「クッキーよ!材料は海斗くんが確保してくれたんだ」


「クッキー?」

マフユは首を傾げる。

「初めて聞く名前だ」


「そうなんだ。でもすごく美味しいんだよ」

彩音がマフユに分けようとする。その瞬間—

「いただこうか」

マフユが素早く皿に手を伸ばす。

「ちょっ!?」

彩音が止める間もなく一口食べるマフユ。目を見開いて固まる。

「これは……」


「どう?」

彩音がドキドキしながら尋ねる。

「複雑な味わいだな。甘さが絶妙で美味しい」

マフユの耳がぴょこぴょこと動く。明らかに喜んでいる様子だ。

「でしょ!?」

彩音が嬉しそうに笑う。

「白狼族の食事は素朴なものばかりだから新鮮だ」

マフユが感心したように言う。

「そうなの?」


「ああ。基本は肉と野菜の煮込みだ。ここまで手の込んだ料理は珍しい」

彩音は意外そうな顔をする。

「なんか意外。もっと豪華な食事してると思ってた」


「我々は自然と共存する民だ。贅沢は好まない」

マフユが誇らしげに言う。その時—

「ちょっと待って」

彩音が真面目な顔になる。

「あなたさっきから普通に会話してるけど……」


「?」


「私と馴れ合うつもりないって言ってなかった?」

マフユは一瞬言葉に詰まる。

「……気のせいだ」


「そう?」

彩音がニヤリと笑う。

「でもさっきの反応は可愛いかったよ?」


「勘違いするな」

マフユの頬が僅かに赤くなる。

「食べ物の評価をしただけだ」


「はいはい」

彩音がからかうように笑う。

「まぁいいけどさ。私としては仲良くしたいよ?」


「……なぜだ?」

マフユが警戒心を露わにする。

「同じ家に住んでるんだからギスギスしてても疲れるでしょ?」

彩音が率直に言う。

「それに……」


「それに?」


「海斗くんのこと好きなんでしょ?」

突然の質問にマフユが固まる。

「……関係ない」


「あー分かりやすい反応!」

彩音がケラケラ笑う。

「私も同じだから分かるんだよね」


「お前と一緒にするな」

マフユが苛立ったように言う。

「でも事実でしょ?」

彩音が真剣な顔になる。

「あなたが海斗くんを見る目。恋してる目だよ」

マフユは沈黙する。否定しないことで答えになっていた。

「だからさ」

彩音がマフユの肩に手を置く。

「ライバルだけど協力しようよ」


「協力?」


「うん。まずは怪我を治すこと。それから……」

彩音がイタズラっぽく笑う。

「海斗くんを奪い合うこと!」


「……勝手に決め付けるな」

マフユがため息をつく。しかし表情は柔らかくなっている。

「でも否定はしないんだね」


「……」

再び沈黙。彩音は嬉しそうに言う。

「よし!決まり!」
「何がだ?」

「協力関係!」

「認めてないぞ」

「認めなくてもいいよ。私の作戦だから!」

彩音が勝ち誇ったように言う。

「まずは怪我を治すのを手伝うね!」

「……勝手にすればいい」

マフユが呆れたように言う。しかし拒否はしない。

「あと……」

彩音が声を潜める。

「クッキー美味しい?」

「……まぁ」

「じゃあ毎日作ってあげるよ!」

「不要だ」

「遠慮しないで!」

「遠慮じゃない」

二人のやり取りに少しずつ笑いが混じる。

「でも一つ忠告しておくぞ」

マフユが真剣な顔になる。

「黒瀬海斗は特別な人物だ。我々白狼族にとっては宝のような存在だ」

「え?そうなの?」

彩音が意外そうな顔をする。

「彼の能力は『智慧の巣窟』でも稀有な才能だ」


「智慧の巣窟ってなに?」

彩音が興味津々で聞く。

「白狼族の知恵を集めた聖地のような場所だ」


「へぇー!」

彩音の目が輝く。

「そこに行けば海斗くんが更に成長するかもね!」


「……そうだな」

マフユが複雑な表情で言う。

「でも今は彼を独占したい気持ちは分かるよ」


「だからお前と同類だと……」


「言わないでー!」

彩音が慌てて遮る。

「とにかく!今は協力ね!」


「勝手にすればいい」

マフユは呆れたように言うが、内心では少しだけ彩音への評価を改めていた。

「あ!そういえば!」

彩音が突然思い出したように言う。

「昨日海斗くんと散歩したんでしょ?」


「……」

マフユの耳がぴくりと動く。

「どうだった?」


「別に」


「えー?教えてよー!」


「普通の散歩だ」


「うそだー!絶対何かあったでしょ!」

彩音が詰め寄る。

「例えば夜景を見ながら手を繋いだとか!」


「そんなこと……」

マフユが思わず言い淀む。

「え?まさか本当!?」


「違う!」


「やっぱりなんかあったじゃん!」

彩音が畳み掛ける。

「黙秘権を使う」


「ずるい!」

二人の口論は続く。しかし以前のような敵意は消え、どこか親密ささえ感じられる雰囲気になっていた。

「まぁいいよ」

彩音が不意に大人しくなる。

「私には私の作戦があるから!」


「どんな作戦だ?」


「秘密!」

彩音が勝ち誇ったように言う。

「でも一つだけ約束して!」


「……」


「怪我治ったらちゃんと海斗くんにお礼言うこと!」


「言われなくてもする」


「ほんとに?」


「白狼族に二言はない」

マフユが胸を張る。

「よし!合格!」

彩音が笑顔で言う。

「じゃあ明日は特製栄養クッキー作るね!」


「不要だ」


「いいから食べて!」

二人のやり取りに自然と笑みがこぼれる。最初の対立から想像もできなかったような友情の芽生えだった。

「……ありがとう」

マフユが小声で呟く。

「え?何か言った?」


「何も」


「もう!素直じゃないなー!」

彩音が冗談めかして言う。マフユは照れたように耳を動かした。

---
台所の窓から夕陽が差し込む。二人は並んで椅子に腰掛けている。

「ねぇ」

彩音が不意に言う。

「なんだ?」


「マフユって呼んでいい?」


「好きにしろ」
「じゃあ私も彩音って呼んで!」
「……彩音」


「んふふ!嬉しい!」

彩音が笑顔になる。

「なんか友達みたいだね!」


「友達ではない」


「でも協力者でしょ?」


「……まぁ」


「それって友達みたいなものじゃない?」


「勝手に解釈するな」

マフユは呆れたように言うが、尻尾は微かに左右に揺れている。

「あ!照れてる!」


「照れてない」


「もう!可愛いとこあるじゃん!」

彩音がマフユの頭を撫でようとする。マフユは素早く避けるが本気で嫌がっている様子はない。

「とにかく!」

彩音が真面目な顔になる。

「これからよろしくね!マフユ!」


「こちらこそ……彩音」

二人は顔を見合わせて微笑む。部屋には穏やかな空気が流れていた。

「あ!そういえば!」

彩音が突然大声を出す。

「今度は三人で散歩行こうね!」


「勝手に決めるな」


「いいでしょ!?」


「……」

マフユは渋々頷く。

「でも今日はこの辺にしておこう」

彩音が立ち上がる。

「怪我人に無理させられないもんね!」


「余計なお世話だ」


「もう!素直じゃないんだから!」

二人は笑いながら台所を後にした。

---
玄関ホールで海斗と鉢合わせる二人。

「あれ?二人で何してたんだ?」

海斗が不思議そうに聞く。

「別に!」

彩音とマフユが同時に答える。しかしその表情は明らかに違っていた。

「そっか」

海斗は微笑む。

「夕飯の支度は?」
「彩音が作ってる」

マフユが淡々と言う。しかしその目には温かみがある。
「彩音特製の栄養クッキーだよ!」

彩音が得意げに言う。

「クッキーって夕飯か?」

海斗が優しく微笑む。三人は自然と並んで歩いていく。
初めは衝突していた彩音とマフユ。しかし今では微妙な協力関係が築かれつつあった。もちろん完全な信頼関係には程遠いが、互いを認め始めたことだけは確かだった。

「さてと!」

彩音が勢いよく宣言する。

「マフユの怪我が治ったら忙しくなるからね!」


「何がだ?」

マフユが眉をひそめる。

「秘密!」

彩音が楽しそうに言う。

「まぁ楽しみにしててよ!」


「不安しかないな」

マフユがため息をつく。しかしその表情はどこか嬉しそうだった。

「とにかく!」

彩音が元気よく言う。

「明日から頑張ろうね!二人とも!」


「ああ」


「了解した」

三人は互いに微笑み合う。森の奥深くにある小さな家には、今日も平和な一日が終わろうとしていた。しかし彼らの冒険はまだ始まったばかりなのだ……。
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