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第45話 ~静かな決意~
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第45話 ~静かな決意~
夜の帳が降り始める頃、俺は工房を後にした。彩音の気配はすでに消えていた。いつものように自分の部屋で休んでいるのだろう。
「行くのか?」
背後からマフユの声がする。彼女は夕食の準備を終えて戻ってきたところだった。
「ああ」
「止めるつもりはないぞ」
「わかってる」
「ただ……」
「何だ?」
「覚悟はあるんだろうな?」
「当然だ」
「ならいい」
彼女はそれ以上何も言わなかった。尻尾が小さく揺れている。これは安心の証だ。
---
彩音の部屋の前で深呼吸をする。何から話せばいいのか頭の中で何度もシミュレーションしてきた。まずは謝罪から始めるべきか?それとも正直な気持ちを伝えるべきか?
「彩音」
控えめにノックする。返事はない。
「入るぞ」
躊躇いながらドアを開ける。薄暗い室内には布団に潜り込んだ姿が見えた。
「起きてるだろ?」
「……」
「話がある」
「今更?」
「そうだ」
「何?」
「大事な話だ」
「……」
重い沈黙が流れる。覚悟を決めて一歩踏み出す。
「さっきはごめん」
「何が?」
「傷つけた」
「嘘つき」
「違う」
「私のことなんか好きじゃないんでしょ?」
「好きだ」
思わず本音が出た。彩音の動きが止まる。
「本当に?」
「ああ」
「嘘……」
「本気だ」
「信じられない」
「当然だな」
「だって今まで散々……」
「認めるよ。俺は逃げてた」
正直に告白する。
「恋愛感情を認めたくなかった」
「どうして?」
「怖かったんだ」
「何が?」
「失うこと」
「……」
また沈黙。でも今度は違った。彩音がゆっくりと布団から顔を出す。
「海斗……」
「うん」
「本当なの?」
「ああ」
「本当に私のこと……」
「好きだよ」
もう一度繰り返す。今度は迷いなく。
「でも遅すぎるよ」
「そうだな」
「アッシュ様との婚約破棄しようとしたけど……」
「無理だった?」
「うん。あの後アッシュ様に偶然出会って返事をした……よろしくお願いしますって」
「そうか」
「だからもう諦めたの」
「何を?」
「海斗のことも自分の気持ちも」
彼女の目に涙が浮かぶ。
「ごめん」
「謝らないで」
「俺のせいだ」
「違うよ。私が勝手に勘違いしただけ」
「違う!」
「海斗?」
「俺が逃げたからだ」
拳を握りしめる。
「本当は気づいてた。彩音が俺をどう思ってるか」
「うん」
「でも受け入れられなかった」
「どうして?」
「……一番は臆病だったからだ」
恥ずかしさを堪えて続ける。
「俺みたいな人間が恋愛する資格ないと思ってた」
「そんなことない!」
「彩音?」
「海斗は優しいよ。真面目だし強いし……何より私のことを大切にしてくれる」
「当然だろ」
「でも恋愛対象としては見てくれなかった」
「ごめん」
「謝らなくていい」
「いや謝らせてくれ」
深く頭を下げる。
「俺は彩音の気持ちを踏みにじった」
「もういいって」
「いいや」
顔を上げる。
「これからのことは別として過去の過ちは償いたい」
「償う?」
「ああ」
彩音の手を取る。
「今からでも遅くないなら……」
「何?」
「俺と付き合ってくれ」
「え……?」
「彩音が好きだ。だから恋人になってほしい」
ついに告白した。これで全てが変わる。受け入れてもらえなくても後悔はない。全ては勇気を持てなかった俺の責任だ。彩音の顔を見つめる。驚いた表情のまま固まっている。そして小さく震え始め—
---
突然彼女が泣き出した。
「彩音?」
「ばか……」
「え?」
「遅すぎるよぉ……」
ボロボロと涙を流す彼女。
「ごめん」
「謝らないでってばぁ……」
「彩音……」
「もうアッシュ様と婚約しちゃったのにぃ……」
「それでもいい」
「よくない!」
「俺は本気だ」
彼女の手を強く握る。
「アッシュと結婚しても構わない。でも俺の気持ちは変わらない」
「海斗……」
「愛してる」
最後の一言が自然に出た。彩音の目が大きく見開かれる。
「うそ……」
「本当だ」
「信じられない……」
「信じてくれ」
俺は膝をついて彼女の目線まで下がる。
「彩音のことが好きだ。誰よりも大切に思ってる」
「でも……」
「答えなくていい」
「え?」
「今すぐには難しいだろ?」
「うん……」
「時間をかけて考えてほしい」
「いいの?」
「ああ」
微笑みかける。
「焦らせるつもりはない」
「海斗……」
「でも一つだけ言わせてほしい」
「何?」
「どんな選択をしても俺は彩音の味方だ」
「うん……」
「それだけは忘れないでくれ」
立ち上がって踵を返す。
「今日はもう休め」
「待って!」
腕を掴まれる。
「まだ帰らないで」
「でも……」
「一緒にいてほしい」
「それはまずいんじゃないか?」
「お願い」
潤んだ瞳で見つめられる。理性が揺らぐ。
「わかった」
頷くしかない。彼女が幸せそうに笑う。その笑顔を見ていると全ての苦労が報われる気がした。
---
しばらく無言で並んで座る。やがて彩音が小さな声で話し始めた。
「私ね……」
「うん?」
「ずっと不安だったの」
「何が?」
「海斗が他の女の子と仲良くなるのが怖くて……」
「例えばマフユとか?」
「うん……」
「心配するな」
「ほんと?」
「ああ」
彼女の肩に手を置く。
「俺にとって特別なのは彩音だけだ」
「嬉しい……」
「でも婚約したんだろ?」
「そうだけど……」
「複雑な心境だな」
「うん……」
沈黙が流れる。彼女の心の中には葛藤があるのだろう。無理もない。急に好きな人が現れて混乱するのは当然だ。
「一つ聞いてもいいか?」
「何?」
「アッシュのことはどう思ってる?」
「正直わからない」
「そうか」
「でも婚約してしまった以上は……」
「責任を感じてるんだな」
「うん……」
悲しそうな表情になる。
「海斗のことは好きだけど……」
「わかってる」
「裏切ることはできないよ」
「彩音……」
「だから今すぐ返事はできない」
真剣な眼差し。
「でも考えてみる」
「ああ」
「ちゃんと向き合うから」
「ありがとう」
感謝の言葉が自然に出てきた。彼女が真剣に考えてくれるだけで十分だ。
「それじゃあ……」
「うん」
「おやすみ」
立ち上がろうとした瞬間—
「待って」
「まだ何か?」
「ぎゅってしてくれない?」
「ここでか?」
「少しだけ……」
「わかった」
そっと抱きしめる。彼女の体温が伝わってくる。
「好きだよ……海斗」
囁くような声。鼓動が高鳴る。これ以上は危険だと本能が警告する。
「そろそろ行くな」
「うん……」
「明日からも普段通りだぞ?」
「わかってる」
「じゃあな」
名残惜しさを感じつつも部屋を出る。廊下に出ると冷たい空気が肌に触れた。同時に肩の力が抜ける感覚。緊張が解けたのだろう。今夜の告白で何かが変わった。それが良い方向なのか悪い方向なのか今はまだわからない。ただ一つ確かなことは—俺の気持ちは正直に伝えたということだ。後は運命が決めるだけだ。
「ふぅ……」
ため息をつく。これからの日々がどうなるのか想像もつかない。でも不思議と恐怖はなかった。むしろ清々しい気分さえある。長い間抱えていた重荷が取り除かれたような解放感。彩音と向き合えたことでようやく前進できた気がする。明日からは新たな一歩を踏み出せるはずだ。そんな予感に胸を膨らませながら自分の部屋へと戻っていった。
夜の帳が降り始める頃、俺は工房を後にした。彩音の気配はすでに消えていた。いつものように自分の部屋で休んでいるのだろう。
「行くのか?」
背後からマフユの声がする。彼女は夕食の準備を終えて戻ってきたところだった。
「ああ」
「止めるつもりはないぞ」
「わかってる」
「ただ……」
「何だ?」
「覚悟はあるんだろうな?」
「当然だ」
「ならいい」
彼女はそれ以上何も言わなかった。尻尾が小さく揺れている。これは安心の証だ。
---
彩音の部屋の前で深呼吸をする。何から話せばいいのか頭の中で何度もシミュレーションしてきた。まずは謝罪から始めるべきか?それとも正直な気持ちを伝えるべきか?
「彩音」
控えめにノックする。返事はない。
「入るぞ」
躊躇いながらドアを開ける。薄暗い室内には布団に潜り込んだ姿が見えた。
「起きてるだろ?」
「……」
「話がある」
「今更?」
「そうだ」
「何?」
「大事な話だ」
「……」
重い沈黙が流れる。覚悟を決めて一歩踏み出す。
「さっきはごめん」
「何が?」
「傷つけた」
「嘘つき」
「違う」
「私のことなんか好きじゃないんでしょ?」
「好きだ」
思わず本音が出た。彩音の動きが止まる。
「本当に?」
「ああ」
「嘘……」
「本気だ」
「信じられない」
「当然だな」
「だって今まで散々……」
「認めるよ。俺は逃げてた」
正直に告白する。
「恋愛感情を認めたくなかった」
「どうして?」
「怖かったんだ」
「何が?」
「失うこと」
「……」
また沈黙。でも今度は違った。彩音がゆっくりと布団から顔を出す。
「海斗……」
「うん」
「本当なの?」
「ああ」
「本当に私のこと……」
「好きだよ」
もう一度繰り返す。今度は迷いなく。
「でも遅すぎるよ」
「そうだな」
「アッシュ様との婚約破棄しようとしたけど……」
「無理だった?」
「うん。あの後アッシュ様に偶然出会って返事をした……よろしくお願いしますって」
「そうか」
「だからもう諦めたの」
「何を?」
「海斗のことも自分の気持ちも」
彼女の目に涙が浮かぶ。
「ごめん」
「謝らないで」
「俺のせいだ」
「違うよ。私が勝手に勘違いしただけ」
「違う!」
「海斗?」
「俺が逃げたからだ」
拳を握りしめる。
「本当は気づいてた。彩音が俺をどう思ってるか」
「うん」
「でも受け入れられなかった」
「どうして?」
「……一番は臆病だったからだ」
恥ずかしさを堪えて続ける。
「俺みたいな人間が恋愛する資格ないと思ってた」
「そんなことない!」
「彩音?」
「海斗は優しいよ。真面目だし強いし……何より私のことを大切にしてくれる」
「当然だろ」
「でも恋愛対象としては見てくれなかった」
「ごめん」
「謝らなくていい」
「いや謝らせてくれ」
深く頭を下げる。
「俺は彩音の気持ちを踏みにじった」
「もういいって」
「いいや」
顔を上げる。
「これからのことは別として過去の過ちは償いたい」
「償う?」
「ああ」
彩音の手を取る。
「今からでも遅くないなら……」
「何?」
「俺と付き合ってくれ」
「え……?」
「彩音が好きだ。だから恋人になってほしい」
ついに告白した。これで全てが変わる。受け入れてもらえなくても後悔はない。全ては勇気を持てなかった俺の責任だ。彩音の顔を見つめる。驚いた表情のまま固まっている。そして小さく震え始め—
---
突然彼女が泣き出した。
「彩音?」
「ばか……」
「え?」
「遅すぎるよぉ……」
ボロボロと涙を流す彼女。
「ごめん」
「謝らないでってばぁ……」
「彩音……」
「もうアッシュ様と婚約しちゃったのにぃ……」
「それでもいい」
「よくない!」
「俺は本気だ」
彼女の手を強く握る。
「アッシュと結婚しても構わない。でも俺の気持ちは変わらない」
「海斗……」
「愛してる」
最後の一言が自然に出た。彩音の目が大きく見開かれる。
「うそ……」
「本当だ」
「信じられない……」
「信じてくれ」
俺は膝をついて彼女の目線まで下がる。
「彩音のことが好きだ。誰よりも大切に思ってる」
「でも……」
「答えなくていい」
「え?」
「今すぐには難しいだろ?」
「うん……」
「時間をかけて考えてほしい」
「いいの?」
「ああ」
微笑みかける。
「焦らせるつもりはない」
「海斗……」
「でも一つだけ言わせてほしい」
「何?」
「どんな選択をしても俺は彩音の味方だ」
「うん……」
「それだけは忘れないでくれ」
立ち上がって踵を返す。
「今日はもう休め」
「待って!」
腕を掴まれる。
「まだ帰らないで」
「でも……」
「一緒にいてほしい」
「それはまずいんじゃないか?」
「お願い」
潤んだ瞳で見つめられる。理性が揺らぐ。
「わかった」
頷くしかない。彼女が幸せそうに笑う。その笑顔を見ていると全ての苦労が報われる気がした。
---
しばらく無言で並んで座る。やがて彩音が小さな声で話し始めた。
「私ね……」
「うん?」
「ずっと不安だったの」
「何が?」
「海斗が他の女の子と仲良くなるのが怖くて……」
「例えばマフユとか?」
「うん……」
「心配するな」
「ほんと?」
「ああ」
彼女の肩に手を置く。
「俺にとって特別なのは彩音だけだ」
「嬉しい……」
「でも婚約したんだろ?」
「そうだけど……」
「複雑な心境だな」
「うん……」
沈黙が流れる。彼女の心の中には葛藤があるのだろう。無理もない。急に好きな人が現れて混乱するのは当然だ。
「一つ聞いてもいいか?」
「何?」
「アッシュのことはどう思ってる?」
「正直わからない」
「そうか」
「でも婚約してしまった以上は……」
「責任を感じてるんだな」
「うん……」
悲しそうな表情になる。
「海斗のことは好きだけど……」
「わかってる」
「裏切ることはできないよ」
「彩音……」
「だから今すぐ返事はできない」
真剣な眼差し。
「でも考えてみる」
「ああ」
「ちゃんと向き合うから」
「ありがとう」
感謝の言葉が自然に出てきた。彼女が真剣に考えてくれるだけで十分だ。
「それじゃあ……」
「うん」
「おやすみ」
立ち上がろうとした瞬間—
「待って」
「まだ何か?」
「ぎゅってしてくれない?」
「ここでか?」
「少しだけ……」
「わかった」
そっと抱きしめる。彼女の体温が伝わってくる。
「好きだよ……海斗」
囁くような声。鼓動が高鳴る。これ以上は危険だと本能が警告する。
「そろそろ行くな」
「うん……」
「明日からも普段通りだぞ?」
「わかってる」
「じゃあな」
名残惜しさを感じつつも部屋を出る。廊下に出ると冷たい空気が肌に触れた。同時に肩の力が抜ける感覚。緊張が解けたのだろう。今夜の告白で何かが変わった。それが良い方向なのか悪い方向なのか今はまだわからない。ただ一つ確かなことは—俺の気持ちは正直に伝えたということだ。後は運命が決めるだけだ。
「ふぅ……」
ため息をつく。これからの日々がどうなるのか想像もつかない。でも不思議と恐怖はなかった。むしろ清々しい気分さえある。長い間抱えていた重荷が取り除かれたような解放感。彩音と向き合えたことでようやく前進できた気がする。明日からは新たな一歩を踏み出せるはずだ。そんな予感に胸を膨らませながら自分の部屋へと戻っていった。
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