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第51話〜時間の氷柱〜
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第51話~時間の氷柱~
北の空気が肌を刺すように冷たかった。私たちの乗る馬車は岩山の間を縫うように進んでいく。
「もうすぐだ」
アッシュが窓の外を指さす。山肌にぽっかりと開いた巨大な穴が見えた。氷洞窟だ。
「こんなところにあるなんて……」
レンカが小さく震える。馬車が止まり、私たちは荷物を持って降りた。
「準備はいいか?」
エドガー卿が振り返る。彼の表情はいつも以上に硬い。
「行くぞ」
洞窟の入り口で一瞬立ち止まる。中からは冷気が流れ出ており、壁には氷の結晶が張り付いていた。
「気をつけろ」
エドガー卿が警告する。
「内部は時間の流れが一定ではない」
最初は普通の洞窟に見えた。しかし奥に進むにつれ様子が変わっていく。天井から垂れ下がる氷柱が異様に大きいのだ。まるで時間が凍りついたかのように成長し続けている。
「ここで何を?」
私の問いにエドガー卿が答える。
「ここには『時間の氷柱』がある」
「時間の氷柱……?」
「クロノライトのだ」
彼が奥を指さす。そこには他の氷柱とは比べ物にならない巨大な柱が聳え立っていた。表面は緑色に輝き、ゆっくりと脈打っている。
「あれが……」
息を呑む私を見てエドガー卿がうなずく。
「そうだ。そしてあれに触れられるのは……」
彼の視線が私に向けられる。
「異世界人の血を持つ者だけだ」
アッシュが拳を握りしめるのが見えた。彼の母親は異世界人だったのだから……
「近づいてみよう」
私が一歩踏み出した瞬間――
「待て!」
エドガー卿の声と同時に地面が揺れた。天井から氷の塊が降り注ぐ。
「危ない!」
アッシュが私を押し倒す。間一髪で避けることができた。
「何が起きたの?」
「時間の歪みだ」
エドガー卿が説明する。
「この空間では予測不能な現象が起こる」
立て続けに氷柱が崩れ落ちてくる。私たちは必死に逃げ惑った。
「分断された!」
アッシュの声が聞こえる。振り返ると彼とレンカの姿が見えない。
「大丈夫!」
レンカの声が反響する。無事なようだ。
「合流地点に集合だ!」
エドガー卿の指示で私たちは急ぐ。しかし道は複雑に入り組んでおりなかなか進めない。
「あれは……」
前方に緑色の光が見える。時間の氷柱だ。だが近づくにつれ現実感が薄れていく。まるで夢の中にいるような感覚……
「彩音!」
突然の声に振り向くとアッシュが走ってくる。彼の後ろにはレンカもいる。
「良かった……」
安堵したのも束の間、またしても地震が起こる。今度は氷柱全体が大きく揺れ始めた。
「まずい!」
エドガー卿が叫ぶ。
「崩壊が始まった」
私たちは全力で逃げようとするが間に合わない。巨大な氷柱が倒れかかってきた。
「彩音さん!」
レンカが私の腕を掴む。次の瞬間――
「えっ……?」
目に飛び込んできたのは見慣れた教室の風景だった。黒板に書かれた数式。窓から差し込む陽光。そして……
「彩音?」
席に座る海斗がこちらを振り返る。
「海斗……?」
夢なのか現実なのかわからない。ただ目の前に彼がいる。
「会いたかった」
自然と涙が溢れる。彼は立ち上がり私に近づく。
「俺もだ」
温かい手が私の頬に触れる。懐かしい感触。
「ごめんね……ずっと一人にして」
「いいんだ」
彼の声は優しい。
「君はちゃんと生きてる」
ふと気がつくと彼の姿が揺らいでいる。まるで鏡に映った像のように……
「これは……」
「現実と記憶の狭間だ」
彼が説明する。
「時間の氷柱が見せている幻だ」
「じゃあ……」
「でも本物の気持ちもある」
彼の目が真剣になる。
「このまま帰るつもりか?」
言葉に詰まる。帰りたい。でも……
「彩音!」
現実世界のアッシュの声が聞こえる。
「戻ってこい!」
「どうする?」
海斗が問いかける。
「俺と一緒に……」
彼の言葉が途切れる。心臓が高鳴る。選択を迫られている。戻るべきか留まるべきか……
「海斗」
名前を呼ぶと彼の表情が曇る。
「あなたといるのは幸せだけど……」
一瞬のためらいの後、
「私はまだやり残したことがある!」
決意を込めて叫ぶと海斗の姿が揺らぎ始めた。
「そうか……」
寂しそうな笑顔を見せる彼。
「なら頑張れ」
最後の言葉と共に光が爆発する。視界が真っ白になった。
「彩音さん!」
レンカの声で我に返る。私は地面に倒れていた。全身が痛むが生きている。
「大丈夫か?」
アッシュが心配そうに覗き込む。
「うん……」
立ち上がると目の前に時間の氷柱があった。だが先ほどとは違い透明な氷に包まれている。
「奇跡だ……」
エドガー卿が呟く。
「崩壊寸前だったのに……」
突然氷柱の表面に亀裂が入る。そして―
「わぁっ!」
氷が砕け散り中から緑色の結晶が現れた。クロノライトだ。
「これって……」
結晶に手を伸ばすと不思議な暖かさを感じる。クロノライト……
「成功だ」
エドガー卿が喜びの声を上げる。
「よくやった」
アッシュも安堵の表情を見せる。
「私……」
言いかけて止まる。体が重い。意識が遠のいていく。
「彩音さん!」
レンカの叫び声を最後に私は意識を失った。
北の空気が肌を刺すように冷たかった。私たちの乗る馬車は岩山の間を縫うように進んでいく。
「もうすぐだ」
アッシュが窓の外を指さす。山肌にぽっかりと開いた巨大な穴が見えた。氷洞窟だ。
「こんなところにあるなんて……」
レンカが小さく震える。馬車が止まり、私たちは荷物を持って降りた。
「準備はいいか?」
エドガー卿が振り返る。彼の表情はいつも以上に硬い。
「行くぞ」
洞窟の入り口で一瞬立ち止まる。中からは冷気が流れ出ており、壁には氷の結晶が張り付いていた。
「気をつけろ」
エドガー卿が警告する。
「内部は時間の流れが一定ではない」
最初は普通の洞窟に見えた。しかし奥に進むにつれ様子が変わっていく。天井から垂れ下がる氷柱が異様に大きいのだ。まるで時間が凍りついたかのように成長し続けている。
「ここで何を?」
私の問いにエドガー卿が答える。
「ここには『時間の氷柱』がある」
「時間の氷柱……?」
「クロノライトのだ」
彼が奥を指さす。そこには他の氷柱とは比べ物にならない巨大な柱が聳え立っていた。表面は緑色に輝き、ゆっくりと脈打っている。
「あれが……」
息を呑む私を見てエドガー卿がうなずく。
「そうだ。そしてあれに触れられるのは……」
彼の視線が私に向けられる。
「異世界人の血を持つ者だけだ」
アッシュが拳を握りしめるのが見えた。彼の母親は異世界人だったのだから……
「近づいてみよう」
私が一歩踏み出した瞬間――
「待て!」
エドガー卿の声と同時に地面が揺れた。天井から氷の塊が降り注ぐ。
「危ない!」
アッシュが私を押し倒す。間一髪で避けることができた。
「何が起きたの?」
「時間の歪みだ」
エドガー卿が説明する。
「この空間では予測不能な現象が起こる」
立て続けに氷柱が崩れ落ちてくる。私たちは必死に逃げ惑った。
「分断された!」
アッシュの声が聞こえる。振り返ると彼とレンカの姿が見えない。
「大丈夫!」
レンカの声が反響する。無事なようだ。
「合流地点に集合だ!」
エドガー卿の指示で私たちは急ぐ。しかし道は複雑に入り組んでおりなかなか進めない。
「あれは……」
前方に緑色の光が見える。時間の氷柱だ。だが近づくにつれ現実感が薄れていく。まるで夢の中にいるような感覚……
「彩音!」
突然の声に振り向くとアッシュが走ってくる。彼の後ろにはレンカもいる。
「良かった……」
安堵したのも束の間、またしても地震が起こる。今度は氷柱全体が大きく揺れ始めた。
「まずい!」
エドガー卿が叫ぶ。
「崩壊が始まった」
私たちは全力で逃げようとするが間に合わない。巨大な氷柱が倒れかかってきた。
「彩音さん!」
レンカが私の腕を掴む。次の瞬間――
「えっ……?」
目に飛び込んできたのは見慣れた教室の風景だった。黒板に書かれた数式。窓から差し込む陽光。そして……
「彩音?」
席に座る海斗がこちらを振り返る。
「海斗……?」
夢なのか現実なのかわからない。ただ目の前に彼がいる。
「会いたかった」
自然と涙が溢れる。彼は立ち上がり私に近づく。
「俺もだ」
温かい手が私の頬に触れる。懐かしい感触。
「ごめんね……ずっと一人にして」
「いいんだ」
彼の声は優しい。
「君はちゃんと生きてる」
ふと気がつくと彼の姿が揺らいでいる。まるで鏡に映った像のように……
「これは……」
「現実と記憶の狭間だ」
彼が説明する。
「時間の氷柱が見せている幻だ」
「じゃあ……」
「でも本物の気持ちもある」
彼の目が真剣になる。
「このまま帰るつもりか?」
言葉に詰まる。帰りたい。でも……
「彩音!」
現実世界のアッシュの声が聞こえる。
「戻ってこい!」
「どうする?」
海斗が問いかける。
「俺と一緒に……」
彼の言葉が途切れる。心臓が高鳴る。選択を迫られている。戻るべきか留まるべきか……
「海斗」
名前を呼ぶと彼の表情が曇る。
「あなたといるのは幸せだけど……」
一瞬のためらいの後、
「私はまだやり残したことがある!」
決意を込めて叫ぶと海斗の姿が揺らぎ始めた。
「そうか……」
寂しそうな笑顔を見せる彼。
「なら頑張れ」
最後の言葉と共に光が爆発する。視界が真っ白になった。
「彩音さん!」
レンカの声で我に返る。私は地面に倒れていた。全身が痛むが生きている。
「大丈夫か?」
アッシュが心配そうに覗き込む。
「うん……」
立ち上がると目の前に時間の氷柱があった。だが先ほどとは違い透明な氷に包まれている。
「奇跡だ……」
エドガー卿が呟く。
「崩壊寸前だったのに……」
突然氷柱の表面に亀裂が入る。そして―
「わぁっ!」
氷が砕け散り中から緑色の結晶が現れた。クロノライトだ。
「これって……」
結晶に手を伸ばすと不思議な暖かさを感じる。クロノライト……
「成功だ」
エドガー卿が喜びの声を上げる。
「よくやった」
アッシュも安堵の表情を見せる。
「私……」
言いかけて止まる。体が重い。意識が遠のいていく。
「彩音さん!」
レンカの叫び声を最後に私は意識を失った。
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