クラフト生活をしながら同級生にコスプレさせて異世界をスローライフします

春風

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第53話 ~時を超えた愛の告白~

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第53話 ~時を超えた愛の告白~




時間跳躍の感覚は想像を絶していた。体が引き裂かれるような激痛と共に、空間が歪んでいく。まるで無数の糸が絡み合い解けていくように―色彩が渦巻き、音が逆流し、匂いが混ざり合う。

「耐えてくれ……」

耳元でエドガー卿の声がする。だが彼の存在すら確かなものではなくなり、ただ緑色の光が暗闇の中で唯一の道標となった。

次の瞬間、すべてが静止した。

---

埃っぽい病室の匂い。消毒液の刺激臭。窓から差し込む斜光が床に影を落としている。

「ここは……」

言葉を発しようとした途端、喉が締め付けられる感覚に襲われる。時間跳躍の影響だろうか。

「大丈夫だ」

エドガー卿が小さな声で囁く。彼の顔は蒼白だが、目は決意に満ちている。

ベッドに横たわる女性が視界に入った瞬間、息を呑んだ。

漆黒の黒髪―まるで月光を集めたような輝き。顔色は悪く呼吸も浅いが、その美しさは衰えることを知らない。

「リリア……」

エドガー卿の声が震える。彼の足取りは重く、しかし確実にベッドへと近づいていく。

「君に……ずっと言いたかったことがある」

エドガー卿はベッドの傍らに跪き、リリアの手をそっと握った。彼女の指先は冷たく、かすかに震えている。

「あの日……私は研究室に閉じこもっていて……君の最期に立ち会えなかった……」

リリアの瞼がわずかに動き、瞳が開く。青い虹彩がエドガー卿を捉えた。

「あなた……?」

か細い声が室内に響く。エドガー卿の頬を涙が伝う。

「すまない……君を一人にしてしまった……」

リリアは弱々しく首を振る。

「いいの……あなたはいつも忙しかったもの……」

彼女の目が遠くを見るように宙を漂う。

「ただ……最後に会いたかった……」

その言葉にエドガー卿の胸が締め付けられるのが伝わってくる。彼はさらに強くリリアの手を握りしめた。

「リリア……私はずっと言えなかった……」

一瞬の沈黙。

「愛している」

言葉が空気を震わせる。リリアの表情が和らぎ、口元に小さな笑みが浮かぶ。

「私も……愛していました……」

彼女の瞳から一筋の涙が頬を伝い落ちる。それが最後の力だったのか、彼女の目が閉じていく。

「待ってくれ!」

エドガー卿が叫ぶ。彼の指がリリアの腕を掴むが、その体は冷たくなっていくばかりだ。

「まだ……」

絶望の色が彼の顔を覆う。だが次の瞬間、彼は何かに気づいたように振り返った。

「彩音殿……!」

私の存在を思い出したのだ。時間跳躍の限界が近づいている。

「帰還しなければ……」

彼の声に焦りが混じる。リリアの傍に立ち尽くしたまま動かない彼を促すように。

「エドガー卿……」

私の声が届いたのか、彼はようやくリリアから手を離した。その手には彼女の冷たくなった指輪が残されている。

「すまない……」

彼はリリアの額にキスをし、立ち上がった。

「帰ろう」

踵を返す彼の後ろ姿は以前より小さく見える。彼の心の中に去来する思いを想像すると胸が痛んだ。

---

病室を出る時、不思議な感覚に包まれた。壁に掛かっている肖像画―若かりし日のエドガー卿とリリアが寄り添っている。その画の中の彼女の姿と今のリリアの姿が重なる。

「なぜ泣いている?」

エドガー卿が振り返る。涙が頬を伝っていることに気づいていなかった。

「不思議ですね……他人のことで涙が出るなんて」

言い訳めいた言葉が口を突いて出る。だが本当は彼の悲しみが自分の胸に突き刺さっていたのだ。

「彩音殿……」

彼の声には感謝の念が込められている。

「君のおかげで最期に言葉を交わすことができた」

廊下を歩きながら、時間が本来の速さに戻っていくのを感じる。人々の話し声。看護師の足音。全てが徐々に鮮明になっていく。

「戻るぞ」

エドガー卿が決然と告げる。時の門へと向かう彼の背中には決意が漲っていた。

---

時間跳躍の逆回転はさらに過酷だった。骨が軋み、血管が破裂しそうな圧力に耐えながら必死に意識を保つ。

「もう少しだ……」

エドガー卿の声が遠くから聞こえる。目を開けると彼の姿が揺らめいて見える。体の境界線が曖昧になり、周囲の景色と一体化していく感覚。

次の瞬間、強烈な閃光が視界を奪った。

---

意識が戻った時、私は研究室の床に倒れていた。体が鉛のように重く、指一本動かせない。

「彩音殿!」

エドガー卿の声がする。彼も同様に疲弊しているのが見て取れる。

「成功した……のか?」

言葉を発しようとするが喉が乾ききっていて声にならない。彼は頷きながら近づいてくる。

「完璧だ。リリアと会話できた」

彼の目は潤んでいる。時空測定機のモニターには正常終了のサインが点滅している。

「よかった……」

なんとかそれだけ言って再び意識が遠のいていく。まるで深い海の底に沈んでいくような感覚。

---

次に目を覚ました時、私はアッシュの屋敷のベッドにいた。窓から見える空は夕暮れに染まっている。

「起きたか」

アッシュの声が近くで聞こえる。彼はベッドサイドに腰掛け、本を読んでいた。

「時間は……?」


「一日半だ」

彼は本を閉じて微笑む。

「よく頑張ったな」

その言葉に胸が熱くなる。長い旅路の終わりを感じた瞬間だった。

「エドガー卿は?」


「父上は研究室にいる。時間跳躍の記録を整理しているところだ」

アッシュは立ち上がり窓際に移動する。

「俺たちは長い旅をしてきたな」


「ええ……」


「これからどうするつもりだ?時空測定機を使えばもしかしたらお前の居た世界に帰れるかもしれない」

彼の問いかけに答えを躊躇う。異世界での使命は終わったような感覚。だが……

「戻らないよ?この世界でマフユがアマテラスがツクヨミが……そして海斗が私を待っていてくれるから」

言葉が口を突いて出る。アッシュが振り返る。

「自分の世界に?」

私はゆっくりと頷く。この世界での冒険は素晴らしかった。しかし海斗のこと、家族のこと、学校のことが脳裏をよぎる。

「決めるのは君だ」

アッシュの声は優しい。

「ただ一つ言えるのは……今日の父上の表情を見たら分かるだろう?」

彼は窓の外を指差す。そこには庭園を眺めるエドガー卿の姿があった。かつてないほど穏やかな表情をしている。

「あなたの行動が多くの人を救ったんだ」

アッシュの言葉に胸が熱くなる。この異世界での経験は間違いではなかった。それだけは確かだ。

「ありがとう」


「礼を言うのはこっちだ」

アッシュは再び椅子に座る。

「俺も……久しぶりに笑っている父上に会えて嬉しいよ」

かつて悲劇的な出来事があったのだろう。しかしそれを乗り越えたエドガー卿の姿に希望を見出す。

「私……行かないと」

突然強い衝動に駆られる。海斗の顔が脳裏に浮かぶ。彼は今何をしているだろう?

「急ぐのか?」

アッシュが問いかける。

「ええ……大切な人が待ってる」

言葉が自然と溢れる。その瞬間、右手の甲が熱を帯び始めた。紋章が光り輝き始める。

「時間跳躍の影響か……」

アッシュの顔に緊張が走る。ベッドから降りようとすると足元がふらつく。

「大丈夫か?」

彼の手が私の肩を支える。

「大丈夫……行くわ」

部屋を出ようとすると廊下でレンカと出会う。彼女は私を見て驚いた表情を浮かべる。

「彩音さん!」


「レンカ……またね」

短い挨拶だけ交わし足早に屋敷を後にする。街道に出ると空には星が輝き始めていた。

---

城下町を抜けて森の中へ入っていく。紋章の光が導く方向に向かって。

(どこに向かっているんだろう?)

疑問を抱きつつも足を進める。森の奥深くで急に足が止まる。目の前に小さな泉が広がっていた。

水面に映る自分の姿を見つめていると異変に気づく。服装が変わっているのだ。魔法少女の姿ではなく、学生服姿になっている。

「これは……」

思考を巡らせていると突如として視界が歪み始める。足元の地面が消失し体が宙に浮く感覚。

「えっ?」

叫び声を上げる間もなく意識が遠のいていく。まるで深淵へと落ちていくような感覚。

最後に見たのは満天の星空だった。
 
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