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第58話 ~新たな町づくり~
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第58話 ~新たな町づくり~
朝靄の漂う村の広場に人々の話し声が響いていた。ここ数週間で見知らぬ顔が増えていることに気づく。噂によると、他の村や町から移住者が増えているらしい。
「忙しそうだな」
肩越しに声をかけられた。
振り返ると白銀の毛並みを持つ白狼族のマフユが立っていた。彼女の長い白髪が朝日に透けて輝いている。
「ああ……仕事の依頼が殺到してるんだ」
俺の言葉にマフユが小さく鼻を鳴らした。
「当然だろう。我が主である海斗が作り出すものはどれも素晴らしく美しいのだから」
彼女の率直な称賛に少し照れる。しかし今はそんな悠長な話をしている場合ではない。
「何かあったのか?」
「村長がお前を呼んでいる。至急会いたいそうだ」
マフユの言葉に眉をひそめる。村長からの正式な呼び出しだなんて珍しい。
「何の用だろう?」
「私にもわからない。ただ……かなり重要な案件だと聞いた」
---
村の中央にある村長邸は最近建て替えたばかりの新しい建物だった。以前の古びた小屋から比べると格段に立派になっている。
「失礼します」
扉を開けると室内には既に数人の村人が集まっていた。村長を中心にして円卓を囲んでいる。
「やあ黒瀬くん」
村長の太い声が響いた。その顔には満面の笑みが浮かんでいる。
「忙しいところすまんな」
その言葉に頭を下げる。
「いえ、問題ありません。それでご用件は?」
村長は満足げに頷くと口を開いた。
「実は大掛かりな相談があるんだ」
室内に緊張が走る。周りの村人たちも真剣な表情になった。
「今や我が村は多くの人々が憧れる場所となった」
村長の言葉に一同が頷く。
「元々小さな村だったが君のクラフト技術のおかげで急速に発展した」
褒め言葉に戸惑いつつも黙って聞く。
「もはや村という規模を超えつつある。そこでだ」
村長が居住まいを正した。
「この村を『町』に昇格させたいと考えている」
その言葉に室内がざわめいた。町への昇格—それは大きな飛躍を意味する。
「そこで黒瀬くんにお願いしたいことがある」
村長の真剣な眼差しが俺に向けられた。
「町の象徴となる大聖堂の建設を任せてほしい」
大聖堂という言葉に思わず息を呑む。今までの小さな建物とは比較にならない規模だ。
「私が……ですか?」
「他に適任者はいないだろう」
村長の言葉に周りの村人たちも同意の声を上げた。
「我々は君の才能を信頼している」
その言葉に胸が熱くなる。こんなにも多くの人から信頼されているなんて—。
「わかりました。引き受けます」
即答すると室内に歓声が上がった。
「ただし一つ条件があります」
俺の言葉に村長が首を傾げる。
「設計に関しては自由にさせてほしいんです」
村長は一瞬考え込んだ後で頷いた。
「もちろん構わない。君の才能を信じている」
---
帰り道—頭の中でデザインを練り始める。
「町の象徴となる大聖堂か……」
ふと見上げると森の上空に鳥の群れが舞っていた。彼らの羽ばたきがインスピレーションを与えてくれる。
「木造と石造の融合……それにガラス工芸を取り入れるか」
独り言を呟きながら歩いていると前方から人影が見えた。
「海斗!」
彩音の声が響く。彼女は大きく手を振っていた。
「どうしたの?難しい顔して」
彼女の問いかけに事情を説明する。
「大聖堂の建設を任されたんだ」
彩音の目が輝いた。
「すごいじゃない!」
彼女の純粋な喜びが伝わってくる。
「私も協力するよ!」
その申し出に思わず笑みが零れた。
「助かるよ」
彩音が小首を傾げる。
「ところでどんなデザインを考えているの?」
俺は少し考えてから答えた。
「森と調和する建物にしたいんだ」
彩音が納得したように頷く。
「それで木と石を組み合わせるのね」
鋭い洞察力に感心する。やはり彼女は理解が早い。
「それと……」
「ガラス工芸でしょう?」
言おうとしたことを先に言われて驚く。
「海斗が好きなモチーフだもんね」
彼女の笑顔に頷き返す。確かに俺はガラスの透明感と光の屈折に魅力を感じていた。
「デザイン案は決まっているけど……実際に作るのは大変そうだな」
本音を漏らすと彩音が胸を張った。
「だから私も手伝うって言ってるじゃない」
その言葉に勇気づけられる。一人で抱え込む必要はないのだ。
「ありがとう」
感謝の言葉を述べると彩音が照れたように笑った。
「それより早く家に帰ろう。夕飯の準備をしてるから」
彼女の提案に頷きながら思う—この平穏な日々が続けばいいのにと。
しかし心の奥底では予感していた。大聖堂の建設が単なる建築プロジェクトで終わらないことを。
---
深夜—静まり返った部屋で設計図を描いていると不意にドアが開いた。
「まだ起きてたの?」
寝巻き姿の彩音が顔を覗かせる。彼女の金髪が月明かりに照らされて幻想的に輝いていた。
「ああ……ちょっとアイデアが浮かんだから」
嘘ではない。確かに新しい構造を思いついたのだが眠れない理由は別にあった。
「何を考えてるの?」
彼女の問いかけに苦笑する。
「どうやってこの規模の建物を作るか考えてたんだ」
正直に打ち明けると彩音がベッドの縁に腰掛けた。
「確かに大変ね……」
彼女が真剣な表情になる。
「でも海斗ならできるよ」
その言葉に救われる思いだった。誰よりも俺の能力を信じてくれている彩音の言葉には特別な力がある。
「ありがとう」
心からの感謝を述べると彩音が微笑んだ。
「それより眠くない?」
彼女の指摘に時計を見る。すでに深夜2時を回っていた。
「そうだな……そろそろ寝るよ」
ペンを置こうとした瞬間—突然閃きが走った。
「待てよ……」
脳裏に新しい構造のイメージが浮かぶ。これは今までにない革新的な方法かもしれない。
「どうしたの?」
「新しいアイデアが浮かんだんだ!」
興奮を抑えきれずに説明する。彩音は最初こそ戸惑っていたが次第に熱心に聞き入るようになった。
「それって凄いかも!」
彼女の目が輝く。
「でも……本当にできるのかしら?」
疑問を呈する彩音に自信を持って答える。
「理論上は可能だと思う。問題は材料の調達かな」
二人で議論を重ねるうちに夜はどんどん更けていった。
---
翌朝—目を覚ますと既に日は高く昇っていた。隣には彩音の姿がない。
「しまった……寝坊したか」
慌てて起き上がると台所から良い匂いが漂ってきた。
「おはよう!」
エプロン姿の彩音が顔を覗かせる。彼女の笑顔に昨夜の疲れが吹き飛んだ。
「昨日は遅くまで付き合わせてしまってごめん」
謝ると彩音が首を振った。
「楽しかったから気にしないで」
彼女の優しさに胸が温かくなる。
「それより朝食できたわよ」
誘われるままダイニングへ向かうとテーブルには豪華な朝食が並んでいた。
「これ全部一人で?」
「うん。海斗が頑張ってるから私も頑張らなきゃと思って」
その言葉に心が打たれる。彼女は常に俺を支えてくれている。
「ありがとう……」
感謝の言葉を述べると彩音が照れたように笑った。
「さあ食べよう!」
---
朝食後—設計図の続きを描いていると突然玄関のベルが鳴った。
「お客さんかな?」
彩音が立ち上がる。
「私が対応するから海斗は続けてて」
彼女の言葉に甘えることにした。今こそ集中すべき時だ。
しばらくして戻ってきた彩音の表情が晴れやかだった。
「どうしたんだ?」
「実はね……」
彼女が告げる内容に思わず筆を止める。
「材料の調達がうまくいったわ!」
彩音の報告に耳を疑う。
「もう調達できたのか?」
驚きを隠せない俺に彩音が説明してくれた。
「市場で偶然出会った商人さんがね……海斗の噂を聞いて材料を提供してくれたの」
その話に胸が熱くなる。こんなにも多くの人々が俺の成功を願ってくれているなんて—。
「これは頑張らなくちゃな」
決意を新たにする俺に彩音が微笑んだ。
「私も全力でサポートするから」
彼女の力強い言葉に勇気づけられる。そうだ—一人じゃないんだ。
---
昼過ぎ—早速現場に向かうことにした。
「いよいよ始まるね」
彩音の言葉に頷く。目の前には広大な敷地が広がっていた。
「まずは基礎からだな」
計測器具を取り出し作業を開始する。複雑な計算を終えると地面に印をつけ始めた。
「すごい……本当に理解してるのね」
彩音が感心したように呟く。彼女は俺の計算過程を見ても理解できないようだった。
「数学は得意なんだ」
冗談めかして言うと彩音が笑った。
「でも私も数字が得意なら良かったな」
彼女の言葉に首を振る。
「得意な部分を補い合えばいいさ」
その言葉に彩音が嬉しそうに頷いた。
作業を進めていると不意に強い風が吹いた。思わず目を細める。
「危ない!」
彩音の警告に反応する間もなく何かが俺の方へ飛んできた。咄嗟に避けようとするが間に合わない—
衝撃に備えて目を閉じる。しかし予想した痛みは訪れなかった。
恐る恐る目を開けると目の前に白い毛並みが見えた。マフユが身を挺して守ってくれたのだ。
「大丈夫か?」
「ああ……ありがとう」
安堵のため息をつく。危うく怪我をするところだった。
「海斗を傷つけるものは許さない」
マフユの低い声には怒りが滲んでいた。彼女の尻尾がピンと立っている。
「落ち着いて」
「しかし……」
なおも警戒するマフユに彩音が声をかけた。
「ここは安全な場所よ。何も怖がることはないわ」
彩音の言葉にマフユがゆっくりと尻尾を下ろす。
「そうだな……」
彼女の態度が軟化したことに安堵する。マフユは普段クールだが時に過剰に保護的になることがあった。
「ところで……」
俺は話題を変えようと試みる。
「何故ここに?」
マフユが小さく鼻を鳴らした。
「海斗の危険を感じ取ったからだ」
彼女の言葉に驚く。まさか本当に危険を察知したというのだろうか?
「マフユって本当にすごいわね」
彩音が感心したように言う。確かに彼女の感覚は常人の比ではない。
「当然だ。海斗を守るのが私の恩返しだからな」
誇らしげに胸を張るマフユ。その姿に思わず笑みが零れる。
「ありがたいけどあまり無茶はしないでくれよ」
本音を漏らすとマフユが不満そうな表情になった。
「だが……」
「でも」
彩音が割って入る。
「マフユの言う通りよ。海斗はもっと自分の身を大切にして」
二人の心配に胸が熱くなる。こんなにも大事に思われているなんて—。
「わかった。気をつけるよ」
約束すると二人が安堵の表情を浮かべた。
---
午後の作業を終えて家路につく頃には既に夕暮れ時だった。
「今日は成果があったね」
彩音の言葉に頷く。基礎部分の多くを完成させることができた。
「ああ……順調に進んでると思う」
実際のところ予定よりもかなり早く進んでいた。村人たちの協力があってこそだ。
「それにしても……」
彩音が不意に呟いた。
「本当に素敵な大聖堂になりそうね」
彼女の言葉に同意する。完成形を想像するだけで胸が高鳴った。
「そうだな……」
言いかけて止まる。何か違和感を感じたからだ。
「どうしたの?」
彩音の問いかけに首を振る。
「いや……何でもない」
確かに何かがおかしい。しかし具体的に何がとは言い表せなかった。
「疲れたんじゃない?早く休もう」
彩音の提案に頷く。明日も早いのだ—あまり深く考えないでおこう。
---
しかし—翌日になって事態は一変した。
朝早く現場に向かうと何者かによって破壊された基礎部分が目に飛び込んできた。
「何だこれは!」
怒りに震える俺の横で彩音が呆然と立ち尽くしていた。
「誰がこんなことを……」
彼女の声が震えている。無理もない—あれだけの労力を費やしたものが無残に破壊されているのだから。
「マフユ!」
叫ぶと同時に白い影が駆け寄ってきた。
「どうした?」
彼女の鋭い目が現場を見渡す。
「誰かが私たちの作業を妨害しているようだ」
状況を説明するとマフユの表情が厳しくなった。
「誰であろうと許さない……」
彼女の全身から怒りのオーラが立ち上る。白狼族の本能が刺激されたのだろう。
「落ち着いて」
冷静に諭すがマフユの興奮は収まらない。
「でも……」
言いかけた瞬間—背後から物音が聞こえた。
「誰だ!」
振り返ると森の中から一人の男が姿を現した。その姿を見て息を呑む。
「あなたは……」
彩音が驚きの声を上げる。男はマフユと同じような姿の白狼族であった。
マフユの運命の針が動きだす。
朝靄の漂う村の広場に人々の話し声が響いていた。ここ数週間で見知らぬ顔が増えていることに気づく。噂によると、他の村や町から移住者が増えているらしい。
「忙しそうだな」
肩越しに声をかけられた。
振り返ると白銀の毛並みを持つ白狼族のマフユが立っていた。彼女の長い白髪が朝日に透けて輝いている。
「ああ……仕事の依頼が殺到してるんだ」
俺の言葉にマフユが小さく鼻を鳴らした。
「当然だろう。我が主である海斗が作り出すものはどれも素晴らしく美しいのだから」
彼女の率直な称賛に少し照れる。しかし今はそんな悠長な話をしている場合ではない。
「何かあったのか?」
「村長がお前を呼んでいる。至急会いたいそうだ」
マフユの言葉に眉をひそめる。村長からの正式な呼び出しだなんて珍しい。
「何の用だろう?」
「私にもわからない。ただ……かなり重要な案件だと聞いた」
---
村の中央にある村長邸は最近建て替えたばかりの新しい建物だった。以前の古びた小屋から比べると格段に立派になっている。
「失礼します」
扉を開けると室内には既に数人の村人が集まっていた。村長を中心にして円卓を囲んでいる。
「やあ黒瀬くん」
村長の太い声が響いた。その顔には満面の笑みが浮かんでいる。
「忙しいところすまんな」
その言葉に頭を下げる。
「いえ、問題ありません。それでご用件は?」
村長は満足げに頷くと口を開いた。
「実は大掛かりな相談があるんだ」
室内に緊張が走る。周りの村人たちも真剣な表情になった。
「今や我が村は多くの人々が憧れる場所となった」
村長の言葉に一同が頷く。
「元々小さな村だったが君のクラフト技術のおかげで急速に発展した」
褒め言葉に戸惑いつつも黙って聞く。
「もはや村という規模を超えつつある。そこでだ」
村長が居住まいを正した。
「この村を『町』に昇格させたいと考えている」
その言葉に室内がざわめいた。町への昇格—それは大きな飛躍を意味する。
「そこで黒瀬くんにお願いしたいことがある」
村長の真剣な眼差しが俺に向けられた。
「町の象徴となる大聖堂の建設を任せてほしい」
大聖堂という言葉に思わず息を呑む。今までの小さな建物とは比較にならない規模だ。
「私が……ですか?」
「他に適任者はいないだろう」
村長の言葉に周りの村人たちも同意の声を上げた。
「我々は君の才能を信頼している」
その言葉に胸が熱くなる。こんなにも多くの人から信頼されているなんて—。
「わかりました。引き受けます」
即答すると室内に歓声が上がった。
「ただし一つ条件があります」
俺の言葉に村長が首を傾げる。
「設計に関しては自由にさせてほしいんです」
村長は一瞬考え込んだ後で頷いた。
「もちろん構わない。君の才能を信じている」
---
帰り道—頭の中でデザインを練り始める。
「町の象徴となる大聖堂か……」
ふと見上げると森の上空に鳥の群れが舞っていた。彼らの羽ばたきがインスピレーションを与えてくれる。
「木造と石造の融合……それにガラス工芸を取り入れるか」
独り言を呟きながら歩いていると前方から人影が見えた。
「海斗!」
彩音の声が響く。彼女は大きく手を振っていた。
「どうしたの?難しい顔して」
彼女の問いかけに事情を説明する。
「大聖堂の建設を任されたんだ」
彩音の目が輝いた。
「すごいじゃない!」
彼女の純粋な喜びが伝わってくる。
「私も協力するよ!」
その申し出に思わず笑みが零れた。
「助かるよ」
彩音が小首を傾げる。
「ところでどんなデザインを考えているの?」
俺は少し考えてから答えた。
「森と調和する建物にしたいんだ」
彩音が納得したように頷く。
「それで木と石を組み合わせるのね」
鋭い洞察力に感心する。やはり彼女は理解が早い。
「それと……」
「ガラス工芸でしょう?」
言おうとしたことを先に言われて驚く。
「海斗が好きなモチーフだもんね」
彼女の笑顔に頷き返す。確かに俺はガラスの透明感と光の屈折に魅力を感じていた。
「デザイン案は決まっているけど……実際に作るのは大変そうだな」
本音を漏らすと彩音が胸を張った。
「だから私も手伝うって言ってるじゃない」
その言葉に勇気づけられる。一人で抱え込む必要はないのだ。
「ありがとう」
感謝の言葉を述べると彩音が照れたように笑った。
「それより早く家に帰ろう。夕飯の準備をしてるから」
彼女の提案に頷きながら思う—この平穏な日々が続けばいいのにと。
しかし心の奥底では予感していた。大聖堂の建設が単なる建築プロジェクトで終わらないことを。
---
深夜—静まり返った部屋で設計図を描いていると不意にドアが開いた。
「まだ起きてたの?」
寝巻き姿の彩音が顔を覗かせる。彼女の金髪が月明かりに照らされて幻想的に輝いていた。
「ああ……ちょっとアイデアが浮かんだから」
嘘ではない。確かに新しい構造を思いついたのだが眠れない理由は別にあった。
「何を考えてるの?」
彼女の問いかけに苦笑する。
「どうやってこの規模の建物を作るか考えてたんだ」
正直に打ち明けると彩音がベッドの縁に腰掛けた。
「確かに大変ね……」
彼女が真剣な表情になる。
「でも海斗ならできるよ」
その言葉に救われる思いだった。誰よりも俺の能力を信じてくれている彩音の言葉には特別な力がある。
「ありがとう」
心からの感謝を述べると彩音が微笑んだ。
「それより眠くない?」
彼女の指摘に時計を見る。すでに深夜2時を回っていた。
「そうだな……そろそろ寝るよ」
ペンを置こうとした瞬間—突然閃きが走った。
「待てよ……」
脳裏に新しい構造のイメージが浮かぶ。これは今までにない革新的な方法かもしれない。
「どうしたの?」
「新しいアイデアが浮かんだんだ!」
興奮を抑えきれずに説明する。彩音は最初こそ戸惑っていたが次第に熱心に聞き入るようになった。
「それって凄いかも!」
彼女の目が輝く。
「でも……本当にできるのかしら?」
疑問を呈する彩音に自信を持って答える。
「理論上は可能だと思う。問題は材料の調達かな」
二人で議論を重ねるうちに夜はどんどん更けていった。
---
翌朝—目を覚ますと既に日は高く昇っていた。隣には彩音の姿がない。
「しまった……寝坊したか」
慌てて起き上がると台所から良い匂いが漂ってきた。
「おはよう!」
エプロン姿の彩音が顔を覗かせる。彼女の笑顔に昨夜の疲れが吹き飛んだ。
「昨日は遅くまで付き合わせてしまってごめん」
謝ると彩音が首を振った。
「楽しかったから気にしないで」
彼女の優しさに胸が温かくなる。
「それより朝食できたわよ」
誘われるままダイニングへ向かうとテーブルには豪華な朝食が並んでいた。
「これ全部一人で?」
「うん。海斗が頑張ってるから私も頑張らなきゃと思って」
その言葉に心が打たれる。彼女は常に俺を支えてくれている。
「ありがとう……」
感謝の言葉を述べると彩音が照れたように笑った。
「さあ食べよう!」
---
朝食後—設計図の続きを描いていると突然玄関のベルが鳴った。
「お客さんかな?」
彩音が立ち上がる。
「私が対応するから海斗は続けてて」
彼女の言葉に甘えることにした。今こそ集中すべき時だ。
しばらくして戻ってきた彩音の表情が晴れやかだった。
「どうしたんだ?」
「実はね……」
彼女が告げる内容に思わず筆を止める。
「材料の調達がうまくいったわ!」
彩音の報告に耳を疑う。
「もう調達できたのか?」
驚きを隠せない俺に彩音が説明してくれた。
「市場で偶然出会った商人さんがね……海斗の噂を聞いて材料を提供してくれたの」
その話に胸が熱くなる。こんなにも多くの人々が俺の成功を願ってくれているなんて—。
「これは頑張らなくちゃな」
決意を新たにする俺に彩音が微笑んだ。
「私も全力でサポートするから」
彼女の力強い言葉に勇気づけられる。そうだ—一人じゃないんだ。
---
昼過ぎ—早速現場に向かうことにした。
「いよいよ始まるね」
彩音の言葉に頷く。目の前には広大な敷地が広がっていた。
「まずは基礎からだな」
計測器具を取り出し作業を開始する。複雑な計算を終えると地面に印をつけ始めた。
「すごい……本当に理解してるのね」
彩音が感心したように呟く。彼女は俺の計算過程を見ても理解できないようだった。
「数学は得意なんだ」
冗談めかして言うと彩音が笑った。
「でも私も数字が得意なら良かったな」
彼女の言葉に首を振る。
「得意な部分を補い合えばいいさ」
その言葉に彩音が嬉しそうに頷いた。
作業を進めていると不意に強い風が吹いた。思わず目を細める。
「危ない!」
彩音の警告に反応する間もなく何かが俺の方へ飛んできた。咄嗟に避けようとするが間に合わない—
衝撃に備えて目を閉じる。しかし予想した痛みは訪れなかった。
恐る恐る目を開けると目の前に白い毛並みが見えた。マフユが身を挺して守ってくれたのだ。
「大丈夫か?」
「ああ……ありがとう」
安堵のため息をつく。危うく怪我をするところだった。
「海斗を傷つけるものは許さない」
マフユの低い声には怒りが滲んでいた。彼女の尻尾がピンと立っている。
「落ち着いて」
「しかし……」
なおも警戒するマフユに彩音が声をかけた。
「ここは安全な場所よ。何も怖がることはないわ」
彩音の言葉にマフユがゆっくりと尻尾を下ろす。
「そうだな……」
彼女の態度が軟化したことに安堵する。マフユは普段クールだが時に過剰に保護的になることがあった。
「ところで……」
俺は話題を変えようと試みる。
「何故ここに?」
マフユが小さく鼻を鳴らした。
「海斗の危険を感じ取ったからだ」
彼女の言葉に驚く。まさか本当に危険を察知したというのだろうか?
「マフユって本当にすごいわね」
彩音が感心したように言う。確かに彼女の感覚は常人の比ではない。
「当然だ。海斗を守るのが私の恩返しだからな」
誇らしげに胸を張るマフユ。その姿に思わず笑みが零れる。
「ありがたいけどあまり無茶はしないでくれよ」
本音を漏らすとマフユが不満そうな表情になった。
「だが……」
「でも」
彩音が割って入る。
「マフユの言う通りよ。海斗はもっと自分の身を大切にして」
二人の心配に胸が熱くなる。こんなにも大事に思われているなんて—。
「わかった。気をつけるよ」
約束すると二人が安堵の表情を浮かべた。
---
午後の作業を終えて家路につく頃には既に夕暮れ時だった。
「今日は成果があったね」
彩音の言葉に頷く。基礎部分の多くを完成させることができた。
「ああ……順調に進んでると思う」
実際のところ予定よりもかなり早く進んでいた。村人たちの協力があってこそだ。
「それにしても……」
彩音が不意に呟いた。
「本当に素敵な大聖堂になりそうね」
彼女の言葉に同意する。完成形を想像するだけで胸が高鳴った。
「そうだな……」
言いかけて止まる。何か違和感を感じたからだ。
「どうしたの?」
彩音の問いかけに首を振る。
「いや……何でもない」
確かに何かがおかしい。しかし具体的に何がとは言い表せなかった。
「疲れたんじゃない?早く休もう」
彩音の提案に頷く。明日も早いのだ—あまり深く考えないでおこう。
---
しかし—翌日になって事態は一変した。
朝早く現場に向かうと何者かによって破壊された基礎部分が目に飛び込んできた。
「何だこれは!」
怒りに震える俺の横で彩音が呆然と立ち尽くしていた。
「誰がこんなことを……」
彼女の声が震えている。無理もない—あれだけの労力を費やしたものが無残に破壊されているのだから。
「マフユ!」
叫ぶと同時に白い影が駆け寄ってきた。
「どうした?」
彼女の鋭い目が現場を見渡す。
「誰かが私たちの作業を妨害しているようだ」
状況を説明するとマフユの表情が厳しくなった。
「誰であろうと許さない……」
彼女の全身から怒りのオーラが立ち上る。白狼族の本能が刺激されたのだろう。
「落ち着いて」
冷静に諭すがマフユの興奮は収まらない。
「でも……」
言いかけた瞬間—背後から物音が聞こえた。
「誰だ!」
振り返ると森の中から一人の男が姿を現した。その姿を見て息を呑む。
「あなたは……」
彩音が驚きの声を上げる。男はマフユと同じような姿の白狼族であった。
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命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります
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( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )
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といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
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