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14話〜温泉地・ドリフ

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「不思議な匂いですね」

村に入ると温泉地特有の匂いが2人を迎えた。

「そうだな、コレはなんの匂いなのだ?」

「お二人さん、温泉は始めてかしら?」

2人の会話を聞いていたのだろう、村の入口近くで串焼きの屋台をしているおばちゃんが話しかけてきた。

人の良さそうな笑顔を浮かべている。

「うむ、初めてだ。 美味しそうだな、2つ貰えるか?」

「ありがとう、1つ銅貨8枚だよ」

フェイが10イマ銅貨を2枚手渡した。

「この匂いは硫黄と言ってね、温泉独特の匂いなんだ。 温泉に入りに来たのかい?」

串焼きとお釣りを渡しながらおばちゃんが話す。

「いえ、私達は冒険者で、イスラン火山に向かう途中です」

「へぇー、若いのに腕が立つんだねぇ。 いや、エルフだから以外にいい歳なのかい?」

「私は100を超えるがフェイは若い、そういえばフェイは幾つなのだ?」

「なんだい、彼女の歳も知らないのかい?」

「違います、彼女じゃないです」

例によってフェイが顔を赤くする。

「はははっ、そんなに顔を赤くするなんて。 お嬢ちゃんが若いのはバレバレだね、今日はこの村に泊まってくんだろ? それならこの先を右に曲がった所の宿に入んな、隣は道具屋だから山用の装備もそこで揃えるといいよ」

おばちゃんに礼を言って村の中に入っていく。

土地が豊かなのか野菜を積んだ馬車が多い、何処か別の村や街に運ぶようだ。

村の中を流れる小さな川では子供達が遊んでいる。

「なんとも長閑で素敵な村だな」

バーンダーバがキョロキョロとあたりを見ながら笑顔になっている。

「バンはどこに行ってもキョロキョロと首が忙しいですね」

「そうだな、首が2つあれば便利なんだが」

そんな事を言って笑っていると宿屋についた。

暖簾には湯気のようなマークがついている。

隣にはおばちゃんが言っていたように道具屋があった。

「大きな道具屋さんですね、イスラン火山が近いからでしょうか」

村の規模のわりに大きな道具屋だった。

「先ずは道具屋さんで明日の準備をしちゃいましょう」

フェイの先導で道具屋に入る、中は通路の間隔が狭く道具屋らしいごちゃごちゃとした雰囲気を醸していた。

「いらっしゃい、今日はどんな御用で?」

奥から片脚が義足の老人が杖をついてよたよたと顔を出した。

「イスラン火山に行く準備をしたいのですが」

フェイが答える。

「ほぉ、あそこへ行くのか。 中々に気合いの入った冒険者だね、採掘かな?」

「いえ、レッドドラゴンの卵を取りに行くんです」

・・・

・・・・・・

フェイの言葉を聞いて老人の動きが止まった。

「ふむ、冒険者を止めるのも野暮というものか。 イスラン火山へは初めてかい?」

「えーっと、初めてです」

「そうか、そんな無謀な冒険者は久しぶりだな。 よし、コレを見なさい」

爺さんはテーブルに羊皮紙を広げて見せた。

「コレはイスラン火山の地図だ、レッドドラゴンの巣穴はこの辺り、山の中腹だ。 はっきり言って身を隠すような場所は無い、余程強力な認識阻害の魔法でも使えんかったらレッドドラゴンとの戦闘は避けられんだろう」

凄みのある声で爺さんは話す、出来れば思い留まらせようとしているらしい。

「分かりやすい地図だな、ありがとうお爺さん。 他には何がいるだろうか?」

爺さんの意図に全く気づかないバーンダーバが陽気な声を出す。

「ふふ、そうだな。 道は比較的に歩きやすい、そう大層な装備はいらんだろう。 その代わり標高が高くなると寒くなるから防寒着でも持っていけば足りるはずだ、後は往復分の食料と雑貨だね」

老人は諦めたように苦笑して話した。

「そうか、ありがとう」

バーンダーバが礼を言う。

「1つ約束しなさい、麓でレッドドラゴンを見てから山に入ること。 レッドドラゴンを見て危険を感じたら必ず引き返す事だ、蛮勇で命を落としてはならん、いいな?」

老人はバーンダーバの目を力強く見つめる。

「肝に銘じておこう、お爺さんも物腰を見るに中々の腕前だったのではないか? 元は冒険者だろうか?」

「はっはっは、この片脚の爺さんを見て物腰を見るとはよう言うたもんだ」

爺さんは木の棒の義足を杖でコンコンと小突いて笑った。

「そうだ、昔は冒険者をやっていた。 足を失って引退したがね、そんな儂が言うんだ、いいか、勇猛果敢と蛮勇は違う。 危ないと思ったら引き返せ、いいな?」

「分かった、約束しよう」

バーンダーバの返答を聞いて爺さんは納得したように頷いた。

「ここはのどかで良い村だな、余生を過ごすには素晴らしい場所に思える」

「あぁ、今はね。 勇者がイスラン火山の麓に陣取った魔王軍四天王、怒炎のオンオールを倒してくれたお陰さ」

その言葉を聞いてバーンダーバの表情が固まった。

フェイだけがそのバーンダーバの反応に気がついた。
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