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31話〜エピソード・フェイ
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フェイ、彼女は大森林の奥深く、エルフの里で生まれ育った。
勇者アルセンとは子供の少ないエルフの里でたった1人の幼馴染だった。
必然的に2人はいつも一緒に遊ぶようになった。
一緒に狩りを覚え、一緒に里で暮らしていく為の魔法を教わり。
森で生きていく為のしきたりを古臭いと笑い、一緒に悪さをして一緒に怒られた。
成長してお互いを意識するようになり、ゆくゆくは一緒になろうと誓った。
10代も終わりに差し掛かった頃、唐突にその時は来た。
アルセンが天啓を受け、その手に時の大神の紋章を受けたのだ。
フェイはすぐに一緒に旅立つ事を決めた、勿論、アルセンもそれを了承し、共に故郷を旅立った。
フェイはアルセンの助けになろうと努力した、旅の為の水や火の魔法を覚え、道中での食事の作り方等を一生懸命に覚えた。
だが、戦闘面では全く役に立てず、里を出てから2つ目の村ですぐにアルセンから「里で待っていてほしい」と言われた。
仕方なかった、フェイも自分が邪魔になると思い1人で里へと帰った。
アルセンと
「魔王を倒したら一緒に暮らそう」
という約束を交わして。
しかし、その約束が果たされる事は無かった。
3年後、アルセンが魔王を倒して里へと凱旋した。
フェイはアルセンが帰ってきたと聞いて嬉しさのあまり涙を流しながら里の入口へと走っていった。
そして、里の入口で皆に囲まれるアルセンを見つけてフェイの顔から笑顔が消えた。
アルセンの隣には背の低いお団子頭の武闘着を着た女の子が立っていた。
アルセンに肩を抱かれながら・・・
フェイの存在に気付いたアルセンがパッと女の子の肩から手を離し、きまり悪そうな顔でフェイの元へと歩いてきた。
アルセンの後ろを申し訳なさそうな表情で女の子がついてくる。
「あの、アルセン、おかえり」
フェイのぎこちない声にアルセンも「あぁ、ただいま」とぎこちなく返事をした。
こんなはずでは無かった、もっと素敵な笑顔でアルセンを迎えるハズだったのに・・・
フェイの顔にも、アルセンの顔にも
バツの悪そうな表情が浮かんでいた。
「フェイ、久しぶりだね。 その、元気だった?」
アルセンの、幼い頃からずっと一緒に過ごしてきた幼馴染とは思えない声音だった。
フェイは何故か、「アルセンってこんな話し方だったかな?」そんな事を考えた。
それは、2人の心の距離を表していたのかもしれない。
「あぁ、うん、まー、アレだね。 ずっと里にいて退屈だったかな」
フェイはそんな風に返した。
実際には、フェイはアルセンの旅について行く事を諦めきれずに毎日のように鍛錬を欠かさず、全く才能が無いにも関わらずレベルを12まで上げていた。
それは、この小さな里では誰よりも強いと言える程の物だった。
才能の無い彼女には、それこそ毎日が苦行とも思えるような日々だった。
「そっか、相変わらずだな」
アルセンはそう言って「ははっ」と乾いた笑い声を出した。
それがフェイには少し気に入らなかった。
「その、そちらの女性は?」
フェイはアルセンの後ろでこちらを伺う女の子に話を向けた。
女の子はフェイの事を上から下まで注意深く見つめていた目をハッとフェイに目に目線に向けた。
「あー、彼女はファリスって言うんだ。 一緒に魔王を倒した仲間だ」
「初めまして、ファリスです」
女の子はそう言って控えめに頭を下げた。
身長の高いフェイに比べて小さい、男からしたら護ってあげたくなるような可憐さを持っていた。
「その、フェイ、君に言わなくちゃいけない事がある」
アルセンが非常に言いにくそうに口を開く。
フェイにはもう、その言葉が何かは分かっていた。
「フェイ、俺はファリスと一緒になろうと思っているんだ。 ずっと一緒に旅をしていて、ずっと苦楽を共にして、その、かけがえのない絆が生まれたんだ」
アルセンはそこまで言って俯いた。
フェイは、そう言われるんだろうと、別れを告げられるんだろうと気付いてはいたが、頭が真っ白になってなにも考えられなかった。
「ごめんよフェイ、一緒に暮らそうという約束を破ってしまうことになった。 本当にすまない、フェイ、君とは一緒になれない」
「ううん、いいよ、わざわざ言いに来てくれてありがとう。 ごめんね、なんか、気を使わせちゃってさ」
言いながら、フェイの瞳からは溢れだした涙が零れていた。
それを見たアルセンが困った表情になって後ろのファリスを見た、ファリスも居心地の悪そうな表情をアルセンに返す。
フェイはその仕草が凄く嫌で「それじゃ」と言って走り出した、後ろからアルセンに呼び止められた気がしたが、振り返ることなく走り続けた。
たどり着いた先は、子供の頃にアルセンとよく森へ入る前に待ち合わせた大きな栗の木だった。
フェイはその木に額を付けてわんわんと泣いた、いつまでもそうしていた。
涙は時折止まるが、アルセンの顔を思い出すとまたとめどなく溢れた。
止まっては泣き。
泣いては止み。
フェイは虚ろな顔で家に帰った。
その後、里で3日程を過ごした。
エルフは他人に恋人を取られる事を大変な恥としていた。
フェイにもその冷ややかな視線が向けられた。
フェイは里にも居ずらくなり、荷物を纏めて旅に出た。
アルセンと一緒に旅に出ようと学んでいた事が今更こんな風に役にたったことが皮肉に思えて少し笑った。
冒険者となって依頼をこなしながら、宛もない旅を続けた。
いつしか、それも馬鹿らしくなり。
最早、浮浪者と見紛うような酷い格好になって荒野を歩いていた。
目の前に突然巨大なベヒーモスが現れ、咄嗟に悲鳴を上げて逃げた。
鞄を投げつけ、ベヒーモスの攻撃を躱し。
必死に生きようとしながら、なんで自分は生きようとしているんだろうと、そんな考えが頭を過ぎる。
その時だった、長い黒髪の自分と同じ浮浪者ような格好をした男がベヒーモスと自分の間に割って入った。
その男はベヒーモスに手を向けて喋った。
「出来れば殺したくはない、お前も喰わねば生きていけんだろうが、見てしまった以上、同族を見殺しにするのも気が引ける。 大人しく引き下がってはもらえないか?」
と。
それがバーンダーバとの出会いだった。
勇者アルセンとは子供の少ないエルフの里でたった1人の幼馴染だった。
必然的に2人はいつも一緒に遊ぶようになった。
一緒に狩りを覚え、一緒に里で暮らしていく為の魔法を教わり。
森で生きていく為のしきたりを古臭いと笑い、一緒に悪さをして一緒に怒られた。
成長してお互いを意識するようになり、ゆくゆくは一緒になろうと誓った。
10代も終わりに差し掛かった頃、唐突にその時は来た。
アルセンが天啓を受け、その手に時の大神の紋章を受けたのだ。
フェイはすぐに一緒に旅立つ事を決めた、勿論、アルセンもそれを了承し、共に故郷を旅立った。
フェイはアルセンの助けになろうと努力した、旅の為の水や火の魔法を覚え、道中での食事の作り方等を一生懸命に覚えた。
だが、戦闘面では全く役に立てず、里を出てから2つ目の村ですぐにアルセンから「里で待っていてほしい」と言われた。
仕方なかった、フェイも自分が邪魔になると思い1人で里へと帰った。
アルセンと
「魔王を倒したら一緒に暮らそう」
という約束を交わして。
しかし、その約束が果たされる事は無かった。
3年後、アルセンが魔王を倒して里へと凱旋した。
フェイはアルセンが帰ってきたと聞いて嬉しさのあまり涙を流しながら里の入口へと走っていった。
そして、里の入口で皆に囲まれるアルセンを見つけてフェイの顔から笑顔が消えた。
アルセンの隣には背の低いお団子頭の武闘着を着た女の子が立っていた。
アルセンに肩を抱かれながら・・・
フェイの存在に気付いたアルセンがパッと女の子の肩から手を離し、きまり悪そうな顔でフェイの元へと歩いてきた。
アルセンの後ろを申し訳なさそうな表情で女の子がついてくる。
「あの、アルセン、おかえり」
フェイのぎこちない声にアルセンも「あぁ、ただいま」とぎこちなく返事をした。
こんなはずでは無かった、もっと素敵な笑顔でアルセンを迎えるハズだったのに・・・
フェイの顔にも、アルセンの顔にも
バツの悪そうな表情が浮かんでいた。
「フェイ、久しぶりだね。 その、元気だった?」
アルセンの、幼い頃からずっと一緒に過ごしてきた幼馴染とは思えない声音だった。
フェイは何故か、「アルセンってこんな話し方だったかな?」そんな事を考えた。
それは、2人の心の距離を表していたのかもしれない。
「あぁ、うん、まー、アレだね。 ずっと里にいて退屈だったかな」
フェイはそんな風に返した。
実際には、フェイはアルセンの旅について行く事を諦めきれずに毎日のように鍛錬を欠かさず、全く才能が無いにも関わらずレベルを12まで上げていた。
それは、この小さな里では誰よりも強いと言える程の物だった。
才能の無い彼女には、それこそ毎日が苦行とも思えるような日々だった。
「そっか、相変わらずだな」
アルセンはそう言って「ははっ」と乾いた笑い声を出した。
それがフェイには少し気に入らなかった。
「その、そちらの女性は?」
フェイはアルセンの後ろでこちらを伺う女の子に話を向けた。
女の子はフェイの事を上から下まで注意深く見つめていた目をハッとフェイに目に目線に向けた。
「あー、彼女はファリスって言うんだ。 一緒に魔王を倒した仲間だ」
「初めまして、ファリスです」
女の子はそう言って控えめに頭を下げた。
身長の高いフェイに比べて小さい、男からしたら護ってあげたくなるような可憐さを持っていた。
「その、フェイ、君に言わなくちゃいけない事がある」
アルセンが非常に言いにくそうに口を開く。
フェイにはもう、その言葉が何かは分かっていた。
「フェイ、俺はファリスと一緒になろうと思っているんだ。 ずっと一緒に旅をしていて、ずっと苦楽を共にして、その、かけがえのない絆が生まれたんだ」
アルセンはそこまで言って俯いた。
フェイは、そう言われるんだろうと、別れを告げられるんだろうと気付いてはいたが、頭が真っ白になってなにも考えられなかった。
「ごめんよフェイ、一緒に暮らそうという約束を破ってしまうことになった。 本当にすまない、フェイ、君とは一緒になれない」
「ううん、いいよ、わざわざ言いに来てくれてありがとう。 ごめんね、なんか、気を使わせちゃってさ」
言いながら、フェイの瞳からは溢れだした涙が零れていた。
それを見たアルセンが困った表情になって後ろのファリスを見た、ファリスも居心地の悪そうな表情をアルセンに返す。
フェイはその仕草が凄く嫌で「それじゃ」と言って走り出した、後ろからアルセンに呼び止められた気がしたが、振り返ることなく走り続けた。
たどり着いた先は、子供の頃にアルセンとよく森へ入る前に待ち合わせた大きな栗の木だった。
フェイはその木に額を付けてわんわんと泣いた、いつまでもそうしていた。
涙は時折止まるが、アルセンの顔を思い出すとまたとめどなく溢れた。
止まっては泣き。
泣いては止み。
フェイは虚ろな顔で家に帰った。
その後、里で3日程を過ごした。
エルフは他人に恋人を取られる事を大変な恥としていた。
フェイにもその冷ややかな視線が向けられた。
フェイは里にも居ずらくなり、荷物を纏めて旅に出た。
アルセンと一緒に旅に出ようと学んでいた事が今更こんな風に役にたったことが皮肉に思えて少し笑った。
冒険者となって依頼をこなしながら、宛もない旅を続けた。
いつしか、それも馬鹿らしくなり。
最早、浮浪者と見紛うような酷い格好になって荒野を歩いていた。
目の前に突然巨大なベヒーモスが現れ、咄嗟に悲鳴を上げて逃げた。
鞄を投げつけ、ベヒーモスの攻撃を躱し。
必死に生きようとしながら、なんで自分は生きようとしているんだろうと、そんな考えが頭を過ぎる。
その時だった、長い黒髪の自分と同じ浮浪者ような格好をした男がベヒーモスと自分の間に割って入った。
その男はベヒーモスに手を向けて喋った。
「出来れば殺したくはない、お前も喰わねば生きていけんだろうが、見てしまった以上、同族を見殺しにするのも気が引ける。 大人しく引き下がってはもらえないか?」
と。
それがバーンダーバとの出会いだった。
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