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32話〜エピソード・フェイ2

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フェイはその男の顔を見て息が止まりそうになった。

アルセンにそっくりだったのだ。

食事を勧めるその男から離れたかったが、男の「手伝ってくれ」という言葉がなんだか嬉しくてテキパキと食事の準備をした。

一瞬だが、アルセンと旅をしていた頃を思い出した。

なんで聖剣を持っているのか?

なんと、彼は魔王軍の四天王だとお喋りな聖剣は言った。

勇者に置いてけぼりにされた、と。

なんだか、それが自分と重なって笑った。

バーンダーバはなんとも微妙な顔をしていた。

それもおかしかった。

久しぶりに笑った。

本当に久しぶりに。

喋っていたら何故か急に聖剣フェムノが自分の担い手になれと言い出した。

状況に頭がついていかなかった。

なんだか、さっきはアルセンと旅をしていた事を思い出して少し気分が上がったのに、今度はそれに対して自己嫌悪になった。

今度は聖剣を持っていたらずっとアルセンを意識するハメになる。

それが嫌だった、が、流れで私が持つことになった。

喋る聖剣に驚きながらも、バーンダーバの旅の目的を聞いて少しは自分でも役に立てるかもしれないと思って同行を頼んだ。

聖剣があれば、こんな自分でも力になれるかもしれない。

そう思ったのだ。

彼と一緒にいるとますますアルセンを思い出した、でも、それはそんなに暗いものでは無かった。

嬉しそうな顔も、笑った顔も、悲しそうな顔も。

どれもがアルセンに似ていた。

無邪気になんでも見ては驚き、感動するバンを見ていて嫌な気分になることは無かった。

冒険者ギルドへ初めて行った時、妙な2人組に絡まれて本当なら一瞬でやっつけられるのに困ったような顔で相手をしているのを見た時。

あぁ、この人は本当に戦う事が好きじゃないんだなと思った。

チンピラに絡まれて最後は宿のおばちゃんに助けられている四天王、それが凄く面白かった。

初めての採集依頼。

花を積むことを躊躇うバンを見て、よくこんな人が魔王軍の四天王なんてやっていたなと思った。

その日の夜、冒険者パーティの灰色剣グレイソードのアニーさんに敵意を向けられて。

不安そうな表情を見て、あぁ、この人はそんなに強い人じゃないんだと思った。

自分に出来るだけ、支えてあげたい、助けてあげたいと思った。

落ち込むバンを自分なりに励まそうとするフェムノの事もなんだか好きになれた。

次の採集依頼はまさかのレッドドラゴンの卵の採集だった。

自分にそんな所についていけるか不安が膨らんだ。

その上、世界最強の存在と言われる闘争の龍アグレスドラゴンと知り合いだとか言い出した。

喧嘩をした事があると。

また、さらにバンの事が遠い存在に思えた。

それでも、恐怖をなんとか押さえ込んでついて行った。

邪魔にならないように頑張ろうと。

もう、誰かに置いていかれるのは嫌だから。

そこでとんでもないことが起こった。

なんと、レッドドラゴンの王様。

ロッソケーニヒから自分に闘争の加護を与えられた。

最初はまた、そんな凄い物を背負うのが怖かったけど、これでもっとバンの役に立てるんじゃないかとも思った。

そして、ロゼさんが仲間に加わった。

とんでもなく綺麗な人だ。

バンの事が好きみたいだ。

きっと、闘争の龍の子供だから強い人が好きなんだろう。

バンに抱きついているのを見て、少し複雑な気持ちになった。

私はバンが好きなんだろうか?

それとも

アルセンに重ねているだけ?

そんな私の葛藤をロゼさんはいとも簡単に見破ってきた。

コレはきっと愛情の龍エロイスドラゴンの子供だからだろうか?

ロゼさんに話すと随分とスッキリしたけれど、結局、自分の心はよく分からない。

きっと、アルセンの事が全然吹っ切れていないからだろう。

それでも気付いた、最近はアルセンの事を思い出すことも少なくなったし、夜に1人で泣く事はもう無い。

きっとアルセンを忘れる事は出来ないのだろう。

でも、それを思って、アルセンの事を思って暗い気持ちになる事はもう無いだろう。

そう考えると、自分も前に進めているんだと思えた。

今度の依頼はなんと迷宮探索だった。

だけど不安はあまりない。

聖剣フェムノもいるし、ロゼさんの加護もある。

きっとついていける。

新しい仲間の荷物持ちポーターのセルカさんは非常に頼りになる。

迷宮に詳しいし、冒険の準備も完璧だ。

彼女がいればきっとこの先戦闘面以外では困る事は無いだろう。

ロゼさんはセルカさんが女性って気づいてるだろうけど、バンは気付いてないみたい。

セルカさんが男として扱ってほしいんだろうからなにも言わない。

でも、彼女が料理等もするようになって少し自分の居場所が狭くなった気がする。

迷宮に入ってロゼさんの戦うところを見た。

凄まじく強かった、当然だ。

なにせ彼女は闘争の龍アグレスドラゴンの子供なのだ。

レベルも90。

私もロゼさんの加護のお陰でレベルが28になっていたけどその差は凄い。

ロゼさんに「しょぼい」と言われて少しムキになってしまった。

落ち込んでいたらセルカさんに「このままでは迷宮探索は出来ない」と言われた。

邪魔になってしまう。

邪魔になってしまう。

そんな考えで頭がいっぱいになる。

「バン、私も戦いますから少し休んでいて下さい」

フェイの頭は不安でいっぱいだった。

フェムノを背中から抜き放ち、魔力強化で不安を断ち切るように魔物を斬っていく。

そして、彼女が踏んだ転移罠の魔法陣。

フェイの体に引っ張られるような感覚の後。


======



視界が切り替わってフェムノの光に照らされた空間に響いたのはフェムノの声だった。

《フェイっ! 右へ飛べっ!!》

フェムノの思考加速の強化魔法のお陰でほとんどタイムラグ無しに飛んだが、とてつもなく巨大な何かがフェイのすぐ側で空を切った。

それと同時に凄まじい激痛がフェイの左腕を襲った。

「あ"あ"ぁぁぁっ!」

《フェイ! 魔力を!》

フェイの悲鳴とフェムノの声が空間にこだまする。

フェムノに魔力を流し込む、銀色の光がフェイの左腕を包む。

見ると左腕は肘から先を失っていた。

大量の汗を浮かべながらフェイが視線を上げるとそこには体長5m程の切り出された鉱石を組み合わせたような巨大なゴーレムが拳を振り抜いたあとのポーズをしていた。

そして、怪しく紫色に光る眼でこちらを見据えていた。
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