[R18]これはあくまで治療です!

空き缶太郎

文字の大きさ
7 / 27

7、アイドルと一般人の日常

しおりを挟む
 

…俺が鏑木さんと契約してあっという間に10日が過ぎた。

え?なんでナレベ(ナレーションベース)で済ませようとしてるのかって?

まぁそれは…鏑木さんのスケジュールがハードすぎて、俺の出る幕が全くなかったからだ。

まず契約初日。
俺の初仕事だったあの日はラジオとドラマの収録、あとダンスの練習をこなした後だったらしい。
3発も抜いたのは疲れマラだったのかな?

んで次の日はニュース番組に歌番組。
移動が長く、結果的にこの2つだけで丸一日を費やしたとか。

以降もトークショー、バラエティ、雑誌モデル、インタビュー、ネット配信番組、その他イベントなどなど。

忙しい鏑木さんとはマトモに話す機会もなく、俺はいつものADの仕事をこなしながら光熱費&食費不要の悠々自適生活を送っていた。


(でもこれで20万って…流石に罪悪感あるなぁ…)
「たくまー。これ終わったらぼちぼち飯行かねえ?」
「吉田もう腹減ったの?…しゃーねーな。今日は俺が奢ってやるよ」

番組で使う紙花を作るために手を動かしながらドヤ顔でそう話せば、吉田はキラキラと目を輝かせる。

「マ?うっわー!ドルオタ家業で万年金欠の拓磨が飯奢ってくれるとか、明日は雪かな??」
「やっぱりやめるか」
「やだやだ!やめないで拓磨さまぁ♡♡」
「ぶふっ」

作った紙花を花束のように持ち、謎の裏声を絞り出す吉田に思わず吹き出す。

「それ何キャラだよお前…」
「うーん、強いて言うならぶりっ子系…?」
「似合わなさ過ぎて逆に引くわ」

と、笑いながら最後の紙花をダンボールに詰める。

これで午前中の仕事は完了。
ダンボールを閉じ、箱に『紙花』と書いてから後片付けをしてしまう。

「よーし、片付いたな」
「昼飯なんにする?」
「そうだなぁ…ファミレスとかでいいか?」
「おけまるー!」

奢りということもあり、やけに意気揚々とする吉田に苦笑する。
俺も人の事言えないけど現金なヤツだな。


とにかく俺達は上司に仕事の進捗を伝えてからテレビ局を出ると、少し離れたファミレスへ足を運んだ。

「案の定混んでるな」
「でもタイミング的に1席空いて助かったわ」

俺達が座ったのは窓際の席。
お冷で喉を潤しながら、見慣れたメニュー表に目を通す。

「拓磨、デザート頼んでもいいか?」
「安いやつならいいぞ。デザート込で800円以内な」
「んー…ならチーズハンバーグのライスセット。デザートはアイスクリームで…794円!」
「ギリギリを攻めてきたな…じゃあ俺はパスタとドリンクバー」

食べたいものを決めると呼び出しベルを鳴らし、店員さんに注文する。
それが終わると俺はそのままドリンクバーのブースへと向かい、メロンソーダを入れてきた。

「あ、メロンソーダいいなー」
「少し飲むか?」
「わぁい♡」

唇を尖らせる吉田とドリンクバーの飲み物を少しシェアする。
良い子は真似するなよ!!

そうしているうちにメインのパスタとハンバーグが届き、俺達は遅めの昼飯を食べ始めた。

「奢りと聞くと二割増で美味いわ」
「今度は俺が金欠の時に奢れよ?」
「うぐぐ」
「なんでそこで苦虫噛み潰したような顔になんだよ」

くしゃくしゃな顔面の吉田に軽くデコピンをかます。
わざとらしく痛がる吉田の姿に苦笑しながら、俺はストローを咥えて窓の外を見た。

(あ。あれロケバスじゃん。…どっかの番組が街ロケしてんのかな?)

こういうのに気付いてしまうのはADの性なのだろう。
少し離れた所に駐車したロケバスに視線を向ける。

「拓磨?」
「ん。吉田、ほらあれロケバスだよな?」
「あ、ほんとだ。街ブラ系バラエティかな?」
「さぁ。でも多分他局だよな」

ウチのテレビ局で予定は入ってなかったはずだよな、と思いながら軽く手を振ってみる。
特に意味は無いけど。

「芸能人乗ってるかな?…あ、アイスきた!」
「さぁな。もしかしたら収録中かもしれないし。…お。美味そうじゃん。アイス1口くれよ」
「しゃーないなー」

そうして外のロケバスの事などあっという間に忘れ、俺は吉田にアイスを分けてもらいながら怠惰な昼休みを過ごした。



……………………………………



…その日、僕はドラマの番宣のためにとあるバラエティ番組に出ていた。

その番組はいわゆる『街ブラ』系のもので、レギュラー出演のタレントと共に街のグルメスポットを訪ね歩くというものだ。

(この手の番組は何度か出たことあるけど…一般の人の相手をすることが多いから割と体力使うんだよね…)

動くロケバスの中で小さくため息をつくと、隣にいた佐原がそれに気付く。

「奏多、大丈夫ですか?最近忙しかったでしょう?」
「うん…大丈夫。まだ平気だよ」

体力にはそれなりに自信がある。
が、精神の方はまた別問題だ。

(以前は心を押し殺して何とかしてたけど、今は…抜いてスッキリ出来るから)

あれから10日。
いい加減2回目をお願いしたいところだな、なんてことを思っているとロケバスが止まった。

「先にレギュラーだけで少し撮影しますので、鏑木さんは出番までしばらくお待ちください」
「奏多、私は少し外で電話をしてきますので」
「あぁ、分かったよ」

佐原と年季の入ったADに軽く笑顔を向け、僕はふと窓の外を見た。

スモークガラス越しに見える雑踏。
平日ということもありその密度はやや少なめなそれを目で追いながらぼんやりと息をついた。

しかし…

(……あれ?)

雑踏のさらに奥。
商業ビル1階のファミレスに見覚えのある顔を見つけた気がした。

よくよく目を凝らして見れば、そこにいたのは社くん。
どうやら友達と食事に来ていたらしく、飲み物をシェアしたり楽しそうに談笑したりしていた。

(…そうか…社くんにも自分の友人関係があるよね)

自分の『病気を治す』という都合に付き合わせてしまっていたことを改めて体感し、少しだけ心が痛む。

と、不意に遠くの社くんと目が合ったかと思えば彼はこちらに向かって手を振ってきた。

(まさか、見えてる?…でもこの距離でスモークガラスもあるのに…)

恐る恐るこちらも手を振り返してみる。
が、社くんはすぐに視線を戻すと友達と談笑し始めた。

(…やっぱり気のせいか…)

社くんから視線を逸らされたことに何故か空虚な気持ちになり、こちらも手を下ろす。

だが、次の瞬間…僕の目に信じられない光景が飛び込んできた。


(…ん?友達くんがスプーンで何かを持ち上げて…それを…社くんの……口、に……!?)


ドラマの中でしか見たことの無い、いわゆる『あーん』行為。

それを(遠距離だが)目の当たりにした僕は思わず絶句した。

(や、社くん…まさか、本当は男の恋人が…!?いや、それよりも…)

社くんのゲイ疑惑よりも僕が気になったのは、社くんを見た時のムラムラの中に混ざる

その正体は分からないが…とにかく不快なものには変わりないと僕はスモークガラスから視線を外し、気を落ち着けさせるように台本を見た。

「鏑木さん!出番5分前でーす!」
「あぁ。すぐに用意するよ」

ロケバスの外から聞こえた声に腰を上げると、僕は素早く気持ちを切り替えて外に出た。



……契約期間 残り20日。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。

批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。

「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。

キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ! あらすじ 「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」 貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。 冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。 彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。 「旦那様は俺に無関心」 そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。 バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!? 「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」 怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。 えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの? 実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった! 「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」 「過保護すぎて冒険になりません!!」 Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。 すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。

【bl】砕かれた誇り

perari
BL
アルファの幼馴染と淫らに絡んだあと、彼は医者を呼んで、私の印を消させた。 「来月結婚するんだ。君に誤解はさせたくない。」 「あいつは嫉妬深い。泣かせるわけにはいかない。」 「君ももう年頃の残り物のオメガだろ? 俺の印をつけたまま、他のアルファとお見合いするなんてありえない。」 彼は冷たく、けれどどこか薄情な笑みを浮かべながら、一枚の小切手を私に投げ渡す。 「長い間、俺に従ってきたんだから、君を傷つけたりはしない。」 「結婚の日には招待状を送る。必ず来て、席につけよ。」 --- いくつかのコメントを拝見し、大変申し訳なく思っております。 私は現在日本語を勉強しており、この文章はAI作品ではありませんが、 一部に翻訳ソフトを使用しています。 もし読んでくださる中で日本語のおかしな点をご指摘いただけましたら、 本当にありがたく思います。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

アプリで都合のいい男になろうとした結果、彼氏がバグりました

あと
BL
「目指せ!都合のいい男!」 穏やか完璧モテ男(理性で執着を押さえつけてる)×親しみやすい人たらし可愛い系イケメン 攻めの両親からの別れろと圧力をかけられた受け。関係は秘密なので、友達に相談もできない。悩んでいる中、どうしても別れたくないため、愛人として、「都合のいい男」になることを決意。人生相談アプリを手に入れ、努力することにする。しかし、攻めに約束を破ったと言われ……?   攻め:深海霧矢 受け:清水奏 前にアンケート取ったら、すれ違い・勘違いものが1位だったのでそれ系です。 ハピエンです。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。 自己判断で消しますので、悪しからず。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

【完結】弟を幸せにする唯一のルートを探すため、兄は何度も『やり直す』

バナナ男さん
BL
優秀な騎士の家系である伯爵家の【クレパス家】に生まれた<グレイ>は、容姿、実力、共に恵まれず、常に平均以上が取れない事から両親に冷たく扱われて育った。  そんなある日、父が気まぐれに手を出した娼婦が生んだ子供、腹違いの弟<ルーカス>が家にやってくる。 その生まれから弟は自分以上に両親にも使用人達にも冷たく扱われ、グレイは初めて『褒められる』という行為を知る。 それに恐怖を感じつつ、グレイはルーカスに接触を試みるも「金に困った事がないお坊ちゃんが!」と手酷く拒絶されてしまい……。   最初ツンツン、のちヤンデレ執着に変化する美形の弟✕平凡な兄です。兄弟、ヤンデレなので、地雷の方はご注意下さいm(__)m

処理中です...