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7、アイドルと一般人の日常
しおりを挟む…俺が鏑木さんと契約してあっという間に10日が過ぎた。
え?なんでナレベ(ナレーションベース)で済ませようとしてるのかって?
まぁそれは…鏑木さんのスケジュールがハードすぎて、俺の出る幕が全くなかったからだ。
まず契約初日。
俺の初仕事だったあの日はラジオとドラマの収録、あとダンスの練習をこなした後だったらしい。
3発も抜いたのは疲れマラだったのかな?
んで次の日はニュース番組に歌番組。
移動が長く、結果的にこの2つだけで丸一日を費やしたとか。
以降もトークショー、バラエティ、雑誌モデル、インタビュー、ネット配信番組、その他イベントなどなど。
忙しい鏑木さんとはマトモに話す機会もなく、俺はいつものADの仕事をこなしながら光熱費&食費不要の悠々自適生活を送っていた。
(でもこれで20万って…流石に罪悪感あるなぁ…)
「たくまー。これ終わったらぼちぼち飯行かねえ?」
「吉田もう腹減ったの?…しゃーねーな。今日は俺が奢ってやるよ」
番組で使う紙花を作るために手を動かしながらドヤ顔でそう話せば、吉田はキラキラと目を輝かせる。
「マ?うっわー!ドルオタ家業で万年金欠の拓磨が飯奢ってくれるとか、明日は雪かな??」
「やっぱりやめるか」
「やだやだ!やめないで拓磨さまぁ♡♡」
「ぶふっ」
作った紙花を花束のように持ち、謎の裏声を絞り出す吉田に思わず吹き出す。
「それ何キャラだよお前…」
「うーん、強いて言うならぶりっ子系…?」
「似合わなさ過ぎて逆に引くわ」
と、笑いながら最後の紙花をダンボールに詰める。
これで午前中の仕事は完了。
ダンボールを閉じ、箱に『紙花』と書いてから後片付けをしてしまう。
「よーし、片付いたな」
「昼飯なんにする?」
「そうだなぁ…ファミレスとかでいいか?」
「おけまるー!」
奢りということもあり、やけに意気揚々とする吉田に苦笑する。
俺も人の事言えないけど現金なヤツだな。
とにかく俺達は上司に仕事の進捗を伝えてからテレビ局を出ると、少し離れたファミレスへ足を運んだ。
「案の定混んでるな」
「でもタイミング的に1席空いて助かったわ」
俺達が座ったのは窓際の席。
お冷で喉を潤しながら、見慣れたメニュー表に目を通す。
「拓磨、デザート頼んでもいいか?」
「安いやつならいいぞ。デザート込で800円以内な」
「んー…ならチーズハンバーグのライスセット。デザートはアイスクリームで…794円!」
「ギリギリを攻めてきたな…じゃあ俺はパスタとドリンクバー」
食べたいものを決めると呼び出しベルを鳴らし、店員さんに注文する。
それが終わると俺はそのままドリンクバーのブースへと向かい、メロンソーダを入れてきた。
「あ、メロンソーダいいなー」
「少し飲むか?」
「わぁい♡」
唇を尖らせる吉田とドリンクバーの飲み物を少しシェアする。
良い子は真似するなよ!!
そうしているうちにメインのパスタとハンバーグが届き、俺達は遅めの昼飯を食べ始めた。
「奢りと聞くと二割増で美味いわ」
「今度は俺が金欠の時に奢れよ?」
「うぐぐ」
「なんでそこで苦虫噛み潰したような顔になんだよ」
くしゃくしゃな顔面の吉田に軽くデコピンをかます。
わざとらしく痛がる吉田の姿に苦笑しながら、俺はストローを咥えて窓の外を見た。
(あ。あれロケバスじゃん。…どっかの番組が街ロケしてんのかな?)
こういうのに気付いてしまうのはADの性なのだろう。
少し離れた所に駐車したロケバスに視線を向ける。
「拓磨?」
「ん。吉田、ほらあれロケバスだよな?」
「あ、ほんとだ。街ブラ系バラエティかな?」
「さぁ。でも多分他局だよな」
ウチのテレビ局で予定は入ってなかったはずだよな、と思いながら軽く手を振ってみる。
特に意味は無いけど。
「芸能人乗ってるかな?…あ、アイスきた!」
「さぁな。もしかしたら収録中かもしれないし。…お。美味そうじゃん。アイス1口くれよ」
「しゃーないなー」
そうして外のロケバスの事などあっという間に忘れ、俺は吉田にアイスを分けてもらいながら怠惰な昼休みを過ごした。
……………………………………
…その日、僕はドラマの番宣のためにとあるバラエティ番組に出ていた。
その番組はいわゆる『街ブラ』系のもので、レギュラー出演のタレントと共に街のグルメスポットを訪ね歩くというものだ。
(この手の番組は何度か出たことあるけど…一般の人の相手をすることが多いから割と体力使うんだよね…)
動くロケバスの中で小さくため息をつくと、隣にいた佐原がそれに気付く。
「奏多、大丈夫ですか?最近忙しかったでしょう?」
「うん…大丈夫。まだ平気だよ」
体力にはそれなりに自信がある。
が、精神の方はまた別問題だ。
(以前は心を押し殺して何とかしてたけど、今は…抜いてスッキリ出来るから)
あれから10日。
いい加減2回目をお願いしたいところだな、なんてことを思っているとロケバスが止まった。
「先にレギュラーだけで少し撮影しますので、鏑木さんは出番までしばらくお待ちください」
「奏多、私は少し外で電話をしてきますので」
「あぁ、分かったよ」
佐原と年季の入ったADに軽く笑顔を向け、僕はふと窓の外を見た。
スモークガラス越しに見える雑踏。
平日ということもありその密度はやや少なめなそれを目で追いながらぼんやりと息をついた。
しかし…
(……あれ?)
雑踏のさらに奥。
商業ビル1階のファミレスに見覚えのある顔を見つけた気がした。
よくよく目を凝らして見れば、そこにいたのは社くん。
どうやら友達と食事に来ていたらしく、飲み物をシェアしたり楽しそうに談笑したりしていた。
(…そうか…社くんにも自分の友人関係があるよね)
自分の『病気を治す』という都合に付き合わせてしまっていたことを改めて体感し、少しだけ心が痛む。
と、不意に遠くの社くんと目が合ったかと思えば彼はこちらに向かって手を振ってきた。
(まさか、見えてる?…でもこの距離でスモークガラスもあるのに…)
恐る恐るこちらも手を振り返してみる。
が、社くんはすぐに視線を戻すと友達と談笑し始めた。
(…やっぱり気のせいか…)
社くんから視線を逸らされたことに何故か空虚な気持ちになり、こちらも手を下ろす。
だが、次の瞬間…僕の目に信じられない光景が飛び込んできた。
(…ん?友達くんがスプーンで何かを持ち上げて…それを…社くんの……口、に……!?)
ドラマの中でしか見たことの無い、いわゆる『あーん』行為。
それを(遠距離だが)目の当たりにした僕は思わず絶句した。
(や、社くん…まさか、本当は男の恋人が…!?いや、それよりも…)
社くんのゲイ疑惑よりも僕が気になったのは、社くんを見た時のムラムラの中に混ざる何かしらの不快感。
その正体は分からないが…とにかく不快なものには変わりないと僕はスモークガラスから視線を外し、気を落ち着けさせるように台本を見た。
「鏑木さん!出番5分前でーす!」
「あぁ。すぐに用意するよ」
ロケバスの外から聞こえた声に腰を上げると、僕は素早く気持ちを切り替えて外に出た。
……契約期間 残り20日。
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