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15、友人として真摯に
しおりを挟む…あのフェスの日からあっという間に1週間が経過した。
僕と拓磨の繋がりは無くなり、また色褪せたつまらない毎日が続いていくことに心がみるみる枯れていくのを感じながらも毎日アイドル稼業に励んでいた。
どこかで拓磨が僕のアイドルとしての姿を見てくれていると信じて…
『鏑木奏多さんで、『only one』でした!』
『いやぁ、本当に素晴らしい歌で…』
「…お疲れ様です、奏多」
「うん…」
歌番組の収録映像をチェックしながら、佐原からミネラルウォーターを受け取る。
しかし収録映像に写った自分の顔は、一見笑顔のようでどこか晴れないようだった。
「…少し表情が暗い、かな?意識して笑ってたつもりなんだけど」
「疲れが溜まっているのかもしれないですね。今度のオフの日は気晴らしに出かけますか?」
「うん、そうだね」
僕も佐原も原因は分かっていたが、あえてそれを口にはせず適当な言い方で濁していた。
(明後日は拓磨の勤めるテレビ局でレギュラー番組の収録があったな…そこで、せめて一目でも…)
拓磨の顔を思い出しながら目を細め、『会いたい』と唇の形だけで紡ぐ。
(でも、彼には彼の人生がある。…それになにより…僕は拓磨を傷つけてしまった。会うことなんて今更…)
無意識に力が入ったのか、『ベコッ』とへこんでしまったペットボトルの音に僕はふと正気に戻る。
「っ!…はぁ…」
「…奏多。疲れているなら今日は……」
ーピピピピピ!!
佐原が手帳へと手を伸ばした瞬間、その胸元から携帯の音が鳴り響く。
「っと…失礼。少し外に………!」
「佐原?」
いつもならすぐに控え室の外でに向かって電話を取る佐原だが、この時ばかりは何故か画面を見て目を見開いていた。
「………奏多、これを」
そして佐原が見せた携帯の画面には…『社 拓磨』の文字。
「っー!拓磨…?」
「…スピーカーにして電話を取ります。ですが、彼を驚かせたくないので奏多は声を出さないように」
「…分かった」
小さく頷き、口元を手で覆えば佐原は携帯を操作してテーブルに置いた。
………………………………………………
出来ることなら、もうここに電話したくはなかった。
「……も、もしもし?佐原さん…ですか?」
『はい、佐原ですよ。…社さん、どうされましたか?マンションに忘れ物でも?』
「あ、い、いや…その…そうではないんですけど…」
いつものように冷静な佐原さんに躊躇いながらも、俺は意を決して本題を切り出した。
「……あんな形で契約打ち切りにしてもらった後で申し訳ないんですが…また、奏多と契約させてもらえないでしょうか…?」
緊張と恐怖、不安に声が震えそうになる。
拳を握りしめることでそれをどうにか抑え、言葉を絞り出した。
『再契約、ですか…』
「っ…すみません。やっぱり、白々しいですよね…」
『いえ、奏多には社さんしかいないので大変助かります。…ですが…急な心変わりの理由を聞いても?』
…あぁ、やっぱり聞かれるよな…
俺は唇を噛み締めながら必死に平然を装った。
「ちょっと…急に、まとまったお金が必要になって…あ。た、大した理由じゃないので心配しないでください!」
『……そう、ですか』
上手く誤魔化せただろうか?
だが佐原さんの声色では成否が判断できず、俺はゴクリと息を飲んだ。
『…ところで、まとまったお金とはどれぐらいの額ですか?早急に必要ということであれば先払いも対応出来ますが』
「!ほ、本当ですか!?…あ…い、いやその…で、出来るなら…『100万』ほど…お願いしたいのですが」
『100万円、ですか?そうですとだいたい5ヶ月ほど契約していただくことになりますが…』
奏多とのあの契約を、今度は5ヶ月。
いやでも『特別手当』があればもっと短く終わるかもしれない。
俺は静かに呼吸を整え、唇を……
『待って!佐原変わって!…拓磨!聞こえる?僕だよ、奏多だよ!』
「っ!?か、奏多…!?」
言葉を発しようとした瞬間、突如電話から奏多の声が割り込んでくる。
少し離れた所から佐原さんの戸惑う声が薄らと聞こえていたが、俺はそれどころではなく電話を持つ手が震えてしまっていた。
「な、んで…」
『ごめん。本当はスピーカーモードにしてて全部佐原の隣で聞いてたんだ。…そ、それより拓磨!お金が必要ってどういうこと!?借金?それとも…詐欺被害に?』
「いや…違う…ウチの家の事だから、奏多には関係ない事だし…」
グイグイと話を聞き出そうとする奏多に思わず電話を切りたい気持ちになりつつも、『家族を救いたい』という願いに歯を食いしばる。
『関係ある!…拓磨は嫌かもしれないけど…僕は、まだ拓磨のこと…大好きな友達だって思ってるから』
「…かな、た…」
その言葉と泣きそうな声色に、俺はほんの少しだけ奏多に対する警戒心を解いた。
「…実は…あのフェスの後、母さんから電話があって…うちの父さんが、事故で意識不明の重体になったって…」
『っ…それは…』
「車は大破、稼ぎ頭の父さんは全治数ヶ月。でも俺の収入じゃ…治療費と母さんの生活費や諸々はまかないきれなくて…」
『…それでまとまったお金が必要に?』
「あぁ…」
元々持っていた貯金も前の『お試し契約』の時のお金も全てそちらに回した。
しかしそれでも足りず、すがる思いで携帯に残っていた佐原さんの番号に電話をかけたのだ。
『……分かった。お金はすぐに用意するよ』
「あ、ありがとう…それなら契約を…」
『いいや。契約はいらないよ。…その100万円は、僕のポケットマネーから出すから』
「えっ…」
『だって、大好きな友達が困ってるのに対価なんて求めないよ』
奏多の、『友達』としての真摯な言葉に俺は言葉を失った。
「…奏多…ごめん、おれ…」
『…拓磨?もしかして、泣いてる?あ、ご、ごめん。僕、また拓磨を傷つけて…』
「ちがう…ちがうんだ…」
勝手に溢れ出る涙を拭い、涙声で電話を続ける。
「おれ、奏多のこと突き飛ばしたのに…こんな無茶なこと、きいてくれて…」
『あれは暴走した僕が悪かったことだから。…謝るのは僕の方だ。拓磨に怖い思いをさせてしまって、本当にごめん…』
「奏多…」
『あいたい』と掠れた声で溢れ出た言葉。
しかし奏多はそれを聞き逃さなかった。
『…僕も会いたい。拓磨に直接会って、謝りたい。…それに、伝えたいこともあるし』
「で、でも俺、カードキー返しちゃったし…」
『大丈夫ですよ』
不意に電話の向こうから物音がしたと思えば、今度は佐原さんの声が聞こえてくる。
『こんなこともあろうかと、マンションのコンシェルジュに鍵を預けています。…万一社さんかやって来たら鍵を渡すようにと』
「え、じゃあ…」
『奏多の『友人』ですからね。いつでも逢いに来てください』
『佐原…』
「…ありがとうございます!」
スマホを握りしめたまま立ち上がると、俺は急いでアパートを出た。
もちろん奏多が仕事中なのは分かっていたけど…それでも、今すぐにあのマンションへ戻りたかったんだ。
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