[R18]これはあくまで治療です!

空き缶太郎

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16、親友として正直に

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拓磨にまた会える。
しかも今度はちゃんとした友人として。

その事実がもたらした精神的効果は凄まじく、僕のモチベーションはこれ以上ないレベルまで上がっていた。


「…佐原、残りの仕事は?」
「ラジオとトークショーが1本ずつ、あとはグラビアの撮影も少々」
「わかった。最速で終わらせよう」

残っていたミネラルウォーターを一気に飲み干し、佐原と共に控え室を後にする。

先程までの重い気持ちが嘘のように晴れ晴れとしたおかげか、ラジオもトークショーもグラビア撮影も何もかもが上手くいった。

『いつも以上にトークが乗ったね。何かいい事あったの?』

『凄いよ鏑木くん!今日の君は見違えるようだ!』

トークショーの司会やグラビア撮影のカメラマンなどにも褒めちぎられ、僕は久々にアイドルとしての充実感を得る。
でも…


「どうせ褒められるなら拓磨に褒められたいな」
「…もう隠さないのですね」
「当然さ。この感情は心に留めておくだけじゃ意味が無いからね」

口から零れた願望を聞いた佐原が小さくため息をつく。
最初はアイドルである僕が拓磨に恋愛感情を抱くことを咎めるように嫌味を零していたが、すぐに諦めたのか呆れたようにバックミラーを見た。

ちなみに、今はマンションへと帰る車の中。
帰り道に食べ物やお酒を買い揃え、拓磨と軽いお祝いをするつもりだ。

「…アイドルは恋愛禁止だなんて誰が言い出したんだろうね。まぁ僕も最近までは恋愛するつもりなんて無かったけど」
「まったく、それを隠蔽する立場になる私の苦労も少しは考えて欲しいですよ」
「はは、ごめんごめん」

それでも佐原が僕を見放さないのは信頼があるからだろう。

「佐原がマネージャーで良かったよ」
「当たり前です。貴方の素質を腐らせるような者には任せられませんからね」

そんな話をしているうちに車はマンションの地下駐車場に到着し、僕は荷物を持って車を降りる。

「拓磨、来てるかな?」
「コンシェルジュに聞けば分かりますよ」
「…やっぱり自分の目で見たいから先に帰ってるね」

人から聞くよりも自分で確認したかった僕は、佐原を置いて小走りでエレベーターに乗り込む。

そして向かうは最上階。
ステージに立つ時よりも緊張しながら、僕はゆっくりとインターホンを押した。


ーーピンポーン

「……た、拓磨…?来てるの?」
『…奏多?』
「っー!」

インターホン越しに聞こえた拓磨の声。
僕はたまらず玄関を開けてリビングに飛び込んだ。

「拓磨!…あぁっ、会いたかった…!」
「かなt、ぐえっ」

拓磨の声を遮るように抱きつき、その体格や匂いを存分に味わう。
一週間ぶりということもあり愚息がすぐに硬くなったが、また拓磨を襲うようなことはしない。

「ちょ、くるしっ…てか、なんか当たってる…!」
「あ、あぁ…ごめん。嬉しくてつい…」

下腹部から湧き上がる性欲を押しとどめて拓磨から1歩離れる。
そして懐から取り出したのは…拓磨の寝顔の写真。

「えっ」
「…ちょっと処理してくるから待っててね」
「い、いや待てって!なんだよその写真!おい!」

『いつの間に撮ってたんだよ!!』という声を背に受けながら、僕は鼻歌交じりに部屋に閉じこもった。


…………………………………………


奏多が部屋に篭って数分。
俺はとりあえず奏多の持ち帰った袋を開けて中を確認していた。

「お?美味そうな料理…こっちは缶ビールか」

中身は色んな惣菜と缶ビールなどの酒類。
しかもその惣菜のラインナップは唐揚げや枝豆、エビチリなど完全に酒盛りのラインナップだ。

「…グラスを冷やしておいてやるか」
「そうして頂けるとありがたいです」
「っー!?」

背後から聞こえた声に慌てて振り向けば、そこには涼しい顔をした佐原さん。
しかし驚く俺の隣を静かに通り過ぎ、荷物をテーブルに置いた。

「奏多は?」
「あ…自分で処理してくるって、俺の写真持って部屋に…」
「なるほど。ではみたいですね」
「は?」

『まだ』って…なにが?
俺は小首を傾げたが、佐原さんはまた涼しい顔でテーブルを片付け始めた。

「ところで社さん、ご両親は大丈夫なのですか?」
「あ…はい。父さんは一命を取り留めましたし、医療費や生活費も元々貯えていたお金でしばらくは…」
「そうですか。それは何よりです」

テーブルに料理や酒などをセッティングしながら佐原さんと言葉を交わすこと数十分。

そろそろグラスも冷えた頃合かと冷蔵庫を開ければ、ほぼ同じタイミングで部屋から拓磨が出てきた。
やけにツヤツヤな顔で。

「お待たせ拓磨。…佐原ごめんね、先走っちゃって」
「いえ。構いませんよ」
「それじゃあグラスを出して、と…はい、拓磨も」
「え?い、いいのか?」
「もちろん!…むしろ、これは拓磨のための酒盛りだから」

冷たいグラスを手に持たされて俺は少し困惑したが、アイドルスマイルに押し負けて渋々席に座った。
すると奏多と佐原さんの連携プレーで俺のグラスにビールが注がれ、目の前には温められた惣菜が並べられる。

「えっ…え?」
「さて、こんな感じかな。…佐原」
「ええ。後はお2人でごゆっくり」

困惑する俺をよそに奏多は佐原さんに合図すると、佐原さんは部屋に入り俺と奏多だけがリビングに残される。

「か…奏多…?」
「大丈夫。緊張しなくていいよ。…拓磨には、言わなきゃ行けないことが2ほどあって…佐原には少し下がってもらったんだ」
「言わなきゃ、行けないこと…?」

真面目な表情の奏多に俺はゴクリと息を飲む。
そして……


「……ほんっとうにすみませんでした!!!」

ガバッ!

「えっ」

奏多は、俺の目の前でとても綺麗なジャンピング土下座をした。

アイドルとしてのダンス力が生きているのかそのジャンプはとても綺麗で……って、いやそうじゃなくて。

「ど、土下座なんてやめろよ!い、一応人気アイドルなんだろ?」
「いや!こればかりは譲れない!…僕は許されないことをした。だから、一度しっかり謝罪をいれておかないと!」
「だからって土下座なんて…」

アイドルの土下座なんてファンが見たら色んな意味で卒倒ものだろう。

俺は慌てて奏多を抱き起こす。

「俺こそ、謝らないと。…父さんが事故ってお金が必要になった時…真っ先に浮かんだのは奏多の顔だったから」

それは遠回しに奏多を『金ヅル』と(ほんの僅かでも)認識していた、ということだ。
しかし当の奏多は怒ることも悲しむことも無く優しい表情で首を横に振る。

「いいんだよ。それはお金目当て云々よりも、拓磨が真っ先に俺を頼ろうとしてくれたってことだよね?」
「ぽ、ポジティブだな」
「こうでもないとアイドルなんて出来ないからね」

そしてまた眩しい奏多の笑顔に俺は目を細めた。

「…じゃあこの件は一旦終わり。とりあえず乾杯するぞ」
「ははっ、分かったよ。…じゃあ、乾杯」

気を取り直してぬるくなったビールのグラスを握り、奏多と2人で乾杯する。

そしてこれまたぬるくなった惣菜をつまみながらビールを一気に飲み干した。


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