[R18]これはあくまで治療です!

空き缶太郎

文字の大きさ
17 / 27

18、恋人として正面から

しおりを挟む
 

酒盛りを初めてからおよそ2時間。
俺と奏多はいい感じにぐでぐでになり、残り少なくなった惣菜をつまんでいた。

「あ。かなたぁ。枝豆なくなったぁ」
「んー、レンチンするやつ残ってたかなぁ…」

ふらふらと冷蔵庫に向かう奏多の背中を見つめながらチビチビとハイボールを飲む。

「そういやさ、俺に言いたいこと『2つ』あるって言ってなかった?結局ジャンピング土下座しか見てないんだけど」
「…あぁ、そのことか」

食卓から背中を見つめながら問いかければ、奏多は振り返ることなく呟く。

「もしかして、病気が改善したとか?それとも新しい映画の主演に抜擢されたか?」
「うーん、どっちも違うかな」

チンッ

冷凍の枝豆を用意していたのか、奏多の方から電子レンジの音がする。
続けて袋を開ける音、枝豆を皿に出す音を聞きながら、俺はハイボールを飲み干して次の缶に手を伸ばした。

「病気のことは…もう諦めたよ。『女性と付き合えなくてもいい』って考え方をすることにしたんだ」
「えぇっ、マジか…その…ご愁傷さま?」
「慰めてくれるの?…ふふっ、ありがとう」

俺の言葉が面白いらしく、奏多はクスクスと笑いながらまたテーブルに戻ってきた。
そして何故か…わざわざに座り枝豆をつまむ。

「…奏多。1回抜いてきたとはいえ、あんまり近づくと…」
「大丈夫。このグラスで終わりにするから」

あと1杯なら平気かと思い、俺も同じ皿から枝豆をつまみ始める。

「それでね、拓磨に言いたいことのあとひとつなんだけど」
「うん」
「さっきの『病気の治療を諦める』って話に関係するんだけど…で勃たせる必要はないって思ってね」
「…うん」
「これは…これから言うのは、あくまでも僕の独り言だから。何も言わずに聞いて欲しいんだ」
「………うん」

深刻そうな声色でたどたどしく呟く奏多。
俺はグラスを片手にその『独り言』に聞き入る。


「僕は…拓磨が好きだ。友人としてもだけど…それ以上に、になりたい」
「…………」

その『独り言』はなんとなく予想出来ていた。
ただ先週の時のように直接襲われている訳では無いので逃げる気にはならない。

「もちろん性欲だって湧き上がるけど…もう拓磨を傷付けたくないから、僕からは何もしない。性処理も、この写真1枚でどうにか制御出来るようになったから」
「…奏多、俺…」
「っ…ごめん。『独り言』は、これでおしまい」

俺の言葉を遮ると、奏多は手にしたグラスの中身を一気に飲み干す。

「じゃあ…僕、明日も仕事だから早めに休むね。拓磨は泊まっていくといいよ」
「ぁ…」

俺が言葉を発するのを恐れるように、奏多は逃げるように自分の部屋へと戻った。

閉まってしまったドアを見つめ、視線を戻してからまた酒を飲む。

(……謝罪したうえで告白してきたってことは…本気、なんだな)

奏多には大きな借りがある。
その気になればお金を理由に関係を迫ることだって出来たはずだ。

でも奏多は…契約なしに、口約束で100万円もの大金を貸してくれた。

(正直奏多のことは嫌いじゃない。友達としてなら一生つき合えるレベルだ。でも…恋人、か…)

俺は最後の一口を飲み干すと、食器を片付けてから前に使っていた客室に向かう。

「……少し…真面目に考えるか」


………………………………


…次の日、僕が遅めに起床すると既に拓磨の姿はなかった。

代わりにキッチンでは佐原がテキパキと朝食の支度をしてくれていて、僕は『おはよう』と言いながら席に着いた。

「おはようございます。昨夜は…」
「あぁ、告白はしたよ。でも…答えは求めなかった。また拒絶されるのが怖かったからね」
「そうですか」

そしてそんな軽めの返事をしながら佐原が食卓に並べたのは、普段はあまり作らない和食。

卵焼き、鮭の塩焼き、味噌汁、そして白飯だ。

「…珍しいね。佐原が和食なんて」
「私ではないですよ」
「えっ?」
「社さんです。…帰られる前に、『昨日のお礼』だと作っていかれました」

『拓磨の手料理』
そう気付いた瞬間、僕は箸を持つ手に力が入り拓磨への愛しさが胸の奥から込み上げてきた。

「……佐原…僕は、少しだけ期待してもいいのかな?」
「さぁ…ですが脈がないわけではないのでしょう。借りがあるとはいえ、わざわざ朝食まで用意してくれるということは」
「…………」

佐原の言葉を噛み締めるように深呼吸すると、僕は拓磨の手料理に手をつける。

「…しょっぱい。でも、悪くないや」

これが愛情の味、というのだろうか?

とにかく僕は拓磨の作った朝食を美味しく完食すると、上機嫌で仕事の支度を始めるのであった。


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。

批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。

「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。

キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ! あらすじ 「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」 貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。 冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。 彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。 「旦那様は俺に無関心」 そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。 バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!? 「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」 怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。 えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの? 実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった! 「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」 「過保護すぎて冒険になりません!!」 Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。 すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。

【bl】砕かれた誇り

perari
BL
アルファの幼馴染と淫らに絡んだあと、彼は医者を呼んで、私の印を消させた。 「来月結婚するんだ。君に誤解はさせたくない。」 「あいつは嫉妬深い。泣かせるわけにはいかない。」 「君ももう年頃の残り物のオメガだろ? 俺の印をつけたまま、他のアルファとお見合いするなんてありえない。」 彼は冷たく、けれどどこか薄情な笑みを浮かべながら、一枚の小切手を私に投げ渡す。 「長い間、俺に従ってきたんだから、君を傷つけたりはしない。」 「結婚の日には招待状を送る。必ず来て、席につけよ。」 --- いくつかのコメントを拝見し、大変申し訳なく思っております。 私は現在日本語を勉強しており、この文章はAI作品ではありませんが、 一部に翻訳ソフトを使用しています。 もし読んでくださる中で日本語のおかしな点をご指摘いただけましたら、 本当にありがたく思います。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

アプリで都合のいい男になろうとした結果、彼氏がバグりました

あと
BL
「目指せ!都合のいい男!」 穏やか完璧モテ男(理性で執着を押さえつけてる)×親しみやすい人たらし可愛い系イケメン 攻めの両親からの別れろと圧力をかけられた受け。関係は秘密なので、友達に相談もできない。悩んでいる中、どうしても別れたくないため、愛人として、「都合のいい男」になることを決意。人生相談アプリを手に入れ、努力することにする。しかし、攻めに約束を破ったと言われ……?   攻め:深海霧矢 受け:清水奏 前にアンケート取ったら、すれ違い・勘違いものが1位だったのでそれ系です。 ハピエンです。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。 自己判断で消しますので、悪しからず。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

【完結】弟を幸せにする唯一のルートを探すため、兄は何度も『やり直す』

バナナ男さん
BL
優秀な騎士の家系である伯爵家の【クレパス家】に生まれた<グレイ>は、容姿、実力、共に恵まれず、常に平均以上が取れない事から両親に冷たく扱われて育った。  そんなある日、父が気まぐれに手を出した娼婦が生んだ子供、腹違いの弟<ルーカス>が家にやってくる。 その生まれから弟は自分以上に両親にも使用人達にも冷たく扱われ、グレイは初めて『褒められる』という行為を知る。 それに恐怖を感じつつ、グレイはルーカスに接触を試みるも「金に困った事がないお坊ちゃんが!」と手酷く拒絶されてしまい……。   最初ツンツン、のちヤンデレ執着に変化する美形の弟✕平凡な兄です。兄弟、ヤンデレなので、地雷の方はご注意下さいm(__)m

処理中です...