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18、恋人として正面から
しおりを挟む酒盛りを初めてからおよそ2時間。
俺と奏多はいい感じにぐでぐでになり、残り少なくなった惣菜をつまんでいた。
「あ。かなたぁ。枝豆なくなったぁ」
「んー、レンチンするやつ残ってたかなぁ…」
ふらふらと冷蔵庫に向かう奏多の背中を見つめながらチビチビとハイボールを飲む。
「そういやさ、俺に言いたいこと『2つ』あるって言ってなかった?結局ジャンピング土下座しか見てないんだけど」
「…あぁ、そのことか」
食卓から背中を見つめながら問いかければ、奏多は振り返ることなく呟く。
「もしかして、病気が改善したとか?それとも新しい映画の主演に抜擢されたか?」
「うーん、どっちも違うかな」
チンッ
冷凍の枝豆を用意していたのか、奏多の方から電子レンジの音がする。
続けて袋を開ける音、枝豆を皿に出す音を聞きながら、俺はハイボールを飲み干して次の缶に手を伸ばした。
「病気のことは…もう諦めたよ。『女性と付き合えなくてもいい』って考え方をすることにしたんだ」
「えぇっ、マジか…その…ご愁傷さま?」
「慰めてくれるの?…ふふっ、ありがとう」
俺の言葉が面白いらしく、奏多はクスクスと笑いながらまたテーブルに戻ってきた。
そして何故か…わざわざ俺の隣に座り枝豆をつまむ。
「…奏多。1回抜いてきたとはいえ、あんまり近づくと…」
「大丈夫。このグラスで終わりにするから」
あと1杯なら平気かと思い、俺も同じ皿から枝豆をつまみ始める。
「それでね、拓磨に言いたいことのあとひとつなんだけど」
「うん」
「さっきの『病気の治療を諦める』って話に関係するんだけど…女の子で勃たせる必要はないって思ってね」
「…うん」
「これは…これから言うのは、あくまでも僕の独り言だから。何も言わずに聞いて欲しいんだ」
「………うん」
深刻そうな声色でたどたどしく呟く奏多。
俺はグラスを片手にその『独り言』に聞き入る。
「僕は…拓磨が好きだ。友人としてもだけど…それ以上に、恋人になりたい」
「…………」
その『独り言』はなんとなく予想出来ていた。
ただ先週の時のように直接襲われている訳では無いので逃げる気にはならない。
「もちろん性欲だって湧き上がるけど…もう拓磨を傷付けたくないから、僕からは何もしない。性処理も、この写真1枚でどうにか制御出来るようになったから」
「…奏多、俺…」
「っ…ごめん。『独り言』は、これでおしまい」
俺の言葉を遮ると、奏多は手にしたグラスの中身を一気に飲み干す。
「じゃあ…僕、明日も仕事だから早めに休むね。拓磨は泊まっていくといいよ」
「ぁ…」
俺が言葉を発するのを恐れるように、奏多は逃げるように自分の部屋へと戻った。
閉まってしまったドアを見つめ、視線を戻してからまた酒を飲む。
(……謝罪したうえで告白してきたってことは…本気、なんだな)
奏多には大きな借りがある。
その気になればお金を理由に関係を迫ることだって出来たはずだ。
でも奏多は…契約なしに、口約束で100万円もの大金を貸してくれた。
(正直奏多のことは嫌いじゃない。友達としてなら一生つき合えるレベルだ。でも…恋人、か…)
俺は最後の一口を飲み干すと、食器を片付けてから前に使っていた客室に向かう。
「……少し…真面目に考えるか」
………………………………
…次の日、僕が遅めに起床すると既に拓磨の姿はなかった。
代わりにキッチンでは佐原がテキパキと朝食の支度をしてくれていて、僕は『おはよう』と言いながら席に着いた。
「おはようございます。昨夜は…」
「あぁ、告白はしたよ。でも…答えは求めなかった。また拒絶されるのが怖かったからね」
「そうですか」
そしてそんな軽めの返事をしながら佐原が食卓に並べたのは、普段はあまり作らない和食。
卵焼き、鮭の塩焼き、味噌汁、そして白飯だ。
「…珍しいね。佐原が和食なんて」
「私ではないですよ」
「えっ?」
「社さんです。…帰られる前に、『昨日のお礼』だと作っていかれました」
『拓磨の手料理』
そう気付いた瞬間、僕は箸を持つ手に力が入り拓磨への愛しさが胸の奥から込み上げてきた。
「……佐原…僕は、少しだけ期待してもいいのかな?」
「さぁ…ですが脈がないわけではないのでしょう。借りがあるとはいえ、わざわざ朝食まで用意してくれるということは」
「…………」
佐原の言葉を噛み締めるように深呼吸すると、僕は拓磨の手料理に手をつける。
「…しょっぱい。でも、悪くないや」
これが愛情の味、というのだろうか?
とにかく僕は拓磨の作った朝食を美味しく完食すると、上機嫌で仕事の支度を始めるのであった。
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