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19ー前、ADのお仕事
しおりを挟む奏多と再び『友人』として付き合いだしてからまた数日。
ウチのテレビ局で奏多主演のドラマを撮影することとなり、俺はその現場でADの仕事をこなしていた。
「…今回は恋愛ドラマか」
しかも昨今には珍しいぐらいオーソドックスなもの。
奏多が演じる大企業の社長が平凡なヒロインと共通の趣味を通じて互いの正体を知らないまま仲良くなる話だ。
(ヒロインは一応平凡設定なのに可愛い子を使うの不思議だよな…)
そんなドラマのお約束を疑問に思いながらも、なるべく奏多に近寄らないようにして仕事をこなす。
セットの方では既に1話冒頭の撮影が始まっていて、時折その様子をチラ見しながら俺は次の撮影に使う小道具をダンボールから取り出していた。
(なんだこれ?…あぁ、これ主人公とヒロインの共通の趣味ってやつか)
取り出したのはどこかユルい顔をした、カニモチーフの謎のキャラクターグッズ数点。
設定では『世間的には認知度が低いが一部に熱狂的ファンがいるキャラ』という設定らしく、主人公とヒロインはこれをきっかけに交流を深めることになるようだ。
「なるほど…これはリアルなグッズ展開も視野に入れてるな…」
と、作り込まれた小道具を綺麗に拭いていたその時だった。
「おい社!ちょっとこっち来い!」
「え、小道具はいいんですか?」
「いいから早く!」
上司に呼ばれ、俺は渋々スタジオの外に出る。
ちなみに小道具は同僚の吉田に任せた。
「…えーと…何かトラブルでも?」
スタジオの外では上司が険しい顔をしていた。
明らかに何かあったっぽいし、さらに言えばその尻拭いを俺がやらされる気がする。
「…今日の撮影に着ぐるみが出るの知ってるよな?」
「えぇ…あのユルい顔したマスコットの着ぐるみ、ですよね?」
「あぁ。その着ぐるみに入る専門のアクターを呼んでたんだが…さっき連絡があって、ここに来る途中で救急車で運ばれたらしい。交通事故だそうだ」
「oh......」
思わず英語が出てしまったのは仕方ないと思う。
だって、この流れで考えられることは1つだけだし。
「幸い命に別状はないが、足を痛めて今日の撮影は無理なようなんだ。だから…」
「背格好的に俺が代役、ってことですか?」
「よく分かったな。その通りだ」
ですよねー!!
俺は笑顔を引き攣らせ、やり場のないストレスで拳を震わせていた。
「でも俺着ぐるみなんて…」
「大丈夫。着ぐるみの出番は削れるだけ削って、主人公の社長と記念撮影する所だけにしたからな!」
「えぇっ…」
そこはヒロインじゃないのか。
いや、それよりも奏多は俺と密着して平気なのだろうか?
(…いや、さすがに着ぐるみ着てたら分からないよな)
顔はおろかボディラインも分からない。
さらに声出しもNGなので、奏多が俺に気付く要素はゼロなのだ。
俺は少し考えて決心すると、大きく頷いた。
「…分かりました。それなら俺、やります」
「よし、なら早速着替えだ!控え室に向かうぞ」
………………………………
今日は新ドラマの撮影初日。
僕は拓磨の務めるテレビ局内のスタジオで、ヒロインと出会う冒頭のシーンを演じていた。
(主人公は大企業の社長。でも実は可愛いもの好きな面を持ち、それを理解してくれたヒロインに恋をする…か)
設定としてはよくある方だろう。
そして2人が出会うきっかけとなったのは、台本の表紙に描かれた謎のマスコット。
スベスベマンジュウガニをモチーフとした『スベちゃん』だ。
(ダサい。見た目もアレだけど、何より名前が壊滅的だ)
グッズ展開を視野に入れていると聞いたが、こんな微妙なキャラで本当に大丈夫なんだろうか…?
『スベちゃんスタンバイ出来ました!次のシーンにはいりまーす!』
「奏多、そろそろ」
「うん、分かったよ」
着ぐるみの支度が出来た声を聞き、佐原に促されながら立ち上がる。
そして撮影の前に拓磨を一目見ておこうと思ったが、別の仕事をしているのかいつの間にかいなくなっていた。
(さっきまでいたはずなのに…)
少し残念に思いながらも僕は気持ちを切り替え、撮影セットの方へと向かった。
「鏑木さん、引き続きよろしくお願いします」
「あぁ、よろしく。…次は写真撮影のシーンだよね?」
ヒロイン役の若手女優に微笑みかければ、彼女はこくこくと頷く。
「は、はい。鏑木さん演じる社長とマスコットのスベちゃんのツーショットを私が撮影するシーンです」
「スベちゃん…あれか」
ふとスタジオの出入口に目を向ければ、AD数名に誘導されながらよたよたと歩いてくる謎のマスコット。
…うん。絶妙に可愛くない。
「それではお二人共スタンバイお願いしますね」
「はい、分かりました」
スタッフの声に促され、ヒロイン役の女優さんと共にセットの中でスタンバイをする。
その途中で例のスベちゃんに触ってみたが、モチーフはスベスベマンジュウガニなのにボディは何故かふわふわだった。
『小鳥遊さん!ほら、スベちゃん!生スベちゃんです!』
『…スベちゃん…!』
そしていよいよ撮影が始まる。
僕は『可愛いもの好きの社長』になりきり、よたよたと歩くスベちゃんに目を輝かせた。
『崎原さん、写真…撮ってくれないかな?』
『も、もちろんです!』
ヒロインに写真撮影を頼むと、僕は早足でスベちゃんの隣に並び密着する。
(…ん?)
しかしその瞬間、僕はどこか心休まる気持ちを覚えた。
もちろん撮影中なので顔には出さないけど……試しにスベちゃんの体に腕を回すと、中の人はビクリと反応した。
(なるほどね)
その反応である程度のことを理解した僕は、演技を完璧にこなしながらもアドリブとしてスベちゃんのふわふわな体を堪能する。
『はい、撮りまーす』
ーパシャッ
『…ありがとう崎原さん。スベちゃんと写真撮るの、念願だったんだ』
そして写真撮影が終わるとそのまま何事もなかったかのように台本通りの演技に戻った。
視界の端でスベちゃんが引っ込んでいくのを見送りながら、ヒロインにほほ笑みかける。
『あ、写真どうしましょうか?』
『それなら僕の連絡先を教えるから、そこに送ってくれると嬉しいな。…それに、スベちゃんの話が出来る友達も欲しかったし』
…このシーンは写真のやり取りを理由に、ヒロインと僕が連絡先を交換する所で終わる。
頬を赤らめるヒロインの手に触れ、そっとメモ紙を渡したところでカットの声がかかった。
「カーット!はい、OKでーす!」
「ふぅ。お疲れさま。…あれ?少し顔赤い?」
「だ、大丈夫です…」
「あ。まだ少しいいかい?」
スタッフや女優さんと話をしながらセットを降りると、最後にプロデューサーがカメラを取り出す。
「ドラマのSNSアカウントにアップする写真を撮りたいんだ。スベちゃんも一緒にね」
「!?」
「あぁ、なるほど。そういうことでしたら」
出入口に向かっていたスベちゃんは連れ戻され、再びセットの中央へと歩かされる。
そしてスベちゃんを挟むようにして左右にヒロインと僕が屈み、その後ろに他の出演者達が立つような構図で記念撮影が行われた。
「……ねぇ、スベちゃん」
「…?」
プロデューサーさんがカメラを構える中、僕はスベちゃんの着ぐるみに向かって軽く声をかける。
「この間の『朝ごはん』、美味しかったよ」
「!!」
「撮りまーす!はい、チーズ!」
ーーパシャッ!
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