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揃った欠片/双子弟×双子兄、ヤンデレ攻め

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平日深夜、1人のサラリーマンが酷く疲れた様子で公園のベンチに座っていた。

彼…立花 葵たちばな あおいはいわゆると呼ばれる社会人。
今日も勤務先のブラック企業で日付が変わるギリギリまで働かされて心身ともに疲弊しきっていた。

「……はぁ…つかれた…」

誰もいない公園で小さく呟き、自販機で買った缶コーヒーをちびちびと飲み進める葵。

このまま眠ってしまいたい程疲弊していたが、自宅まではまだ徒歩10分もある。
さらに明日も仕事の予定となっており、重たい体を引きずるように立ち上がった。

(今の仕事は辛いけど…でも早くお金貯めないと…)

葵にはブラック企業での仕事を続けるに足る理由があった。

鞄に付けられた、薄汚れた鈴のストラップを握りしめて僅かに頬を緩める。

「……紅弥あかや…僕の、大切な弟…」


立花 葵…旧姓・大宮おおみや 葵は孤児だ。
その昔、交通事故に合い両親を同時に亡くした彼はと共に孤児院に預けられた。

一年後に葵は立花夫妻に引き取られることになったのだが…その際、双子の弟であった大宮 紅弥は金銭上の理由から引き取ることが出来なかったのだ。

以来20年、葵は双子の弟である紅弥とは顔を合わせていない。
それどころか、今何をしているのかさえ分からなかった。

(お金を貯めて、探偵さんを雇って…せめて、紅弥が今何をしているのか…幸せに、なれたかどうか…それだけでも知りたい)

しかし葵は紅弥を探しても会おうとは思わなかった。

今更『双子の兄だ』と名乗り出たところで紅弥にも自分の人生があるだろう。
そう考えてのことだった。

「…とにかく、あと数ヶ月貯金すれば…なんとか…」

と、葵がベンチから立ち上がって歩き始めたその時だった。


「あーっ!!!無事だったんすね!!!」
「っ!?」

突然道路から響いた低い男の声。
咄嗟にそちらの方を向けば、黒塗りの高級車から3人のスキンヘッドの強面男がこちらを見ていた。

(若…って、何?人違い…だよね…?)
「なにキョロキョロしてるんすか若!大丈夫っすよ、サツなんていませんから!」
「ほら早く!車に!」
「え、ま、まって…」

困惑する葵をよそに、スキンヘッド達は葵を護るように取り囲んで車に押し込める。

左右に2人、運転席に1人の計3人に取り囲まれた葵は恐怖と圧迫感から身動きが取れなくなってしまった。

「いやぁ、若が無事で良かったっす!」
「凄いカチコミでしたもんね。まさに血しぶき雨あられ!」
「あれだけ酷い目に合わせれば向こうも身の程を知ったでしょうね!」
(な、何をしたんだろう…)


そして勝手に盛り上がるスキンヘッド達に怯えながら車で連行されること数十分。

葵の目の前には、大きな和風建築の門と家屋が聳えていた。

「でっかぁ…」
「さ!到着しましたよ若!」
「お荷物は俺がお持ちしますので!」
「若宮兄貴もお待ちかねですよ!」
「あ、お、押さないでっ…ほんと、人違いですから…」

しかし弱々しい葵の言葉はスキンヘッド達には届かず、仕方なく門をくぐる。
鞄もスキンヘッドに持っていかれたため、1人で帰ることも出来なかった。

(うぅっ…本当に人違いなのに…)

「……若?」

とぼとぼと玄関の方へ向かっていると、驚いたような声が聞こえ葵は顔を上げる。

するとそこには黒髪をオールバックにしたこれまた強面の男。
…明らかに、堅気ではない。

「ひっ…あ、あのっ…僕、人違いなのに…つれて、こられて…」
「…そうですか…貴方が、若の……あの三馬鹿も役に立つものだな」
「え…?」

強面男の言葉に困惑する葵。
しかし強面男は何か納得した様子で葵に頭を下げた。

「ウチの組の者が失礼しました。私は若宮と申します」
「く、組…?あ、もしかして建築会社…」

膨れ上がる嫌な予感に胸の鼓動が速くなるなか、一抹の望みを賭けて強面男…若宮に問いかける。
しかし…


「いえ、当方は榊組さかきぐみ…俗に言う、といったものです」


返ってきた答えは、まさに先程の嫌な予感そのままだった。

(や、ややヤクザっ…!?しかも、榊組って、僕でも聞いたことあるところだ…)
「あぁ、そんなに怯えないでください。…貴方は若頭の大事なお客人なのですから。無体など働きませんよ」
「き、きゃく…?あの、その若頭さんと似てるから間違えられたんじゃ?」

人違いではなく を探していたかのような口振りにさらに困惑する葵。
しかし若宮はあえて何も言わずに葵を家屋の中へと招き入れた。


…葵が招かれたのは広い和室。
龍の絵が描かれた掛け軸と見つめ合いながら、高級座布団の上に小さく正座していた。

(若宮さん、『こちらでお待ちください』って言ってたけど…どれだけ待てばいいのかな…)

時刻は既に深夜1時を回っていた。
疲労と眠気に目を擦り、若宮の入れた緑茶を少しだけ飲む。

「…おいしい」

上等なお茶の味に、緊張していた心がほんの少しだけ和らぐ。

そしてしばらくぼんやりしながら待っていると、深夜だと言うのに廊下からドタドタと騒がしい足音が聞こえてきた。

『お待ちください若!せめてお着替えを…!』
『五月蝿い!着替えの時間が惜しいだろうが!』

(えっ…今の、声…)

廊下から聞こえてきたのは若宮ともう1人…若い男の声。

しかしその声に聞き馴染みのあった葵は思わずその場に立ち上がり、ゴクリと息を飲みながら障子を見つめる。

(まさか、でも…もしなら全て一致する…)

人違いの理由も、若宮が『客人』と言った訳も。

そして障子の向こうに若宮ではないのシルエットが見え、葵は……


「…も、もしかして……紅弥…なの…?」
「っー!兄さん!!」


壊れそうな程の勢いで障子が開き、廊下から葵と全く同じ顔の…双子の弟・紅弥が飛び付いてきた。


 
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