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広い世界で君だけを/過去作スピンオフ/ネカマ石油王×陰キャ院生
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しおりを挟むーー黎明の花畑。
美しい花々が咲き乱れるこのフィールドには、その美しさに似つかわしい妖精系エネミーが多数回遊していた。
「いつ来ても綺麗だねぇ」
「んだんだ」
そんな和やかな会話を繰り広げる2人だが、現在絶賛戦闘中である。
「手裏剣乱舞~。あ、空蝉切れた」
「おk。じゃあ広範囲焼き払うからその間に」
「りょ」
景色を楽しみつつ、片手間に敵を屠り続けるはんぺんとSHAKE。
ある程度敵を狩り尽くすと、再び敵が湧くまでの時間はスクショ撮りなどで時間を潰していた。
…そして狩りを始めて約1時間。
何度目かのスクショ休憩をしていると、SHAKEが遠くの方にある光景を見つけた。
「はんぺん。あれ見てあれ」
「んー?…なにあれ?結婚式?」
2人がいる場所から少し遠く…海をのぞむ絶景の場所で何やらポーズをとる2人のプレイヤー。
よくよく見ると、その2人はウエディングドレスにタキシードというあからさまな格好をしていた。
「いや…見たところ2人だけだし、結婚式というよりかは『結婚式用の写真を撮りに来たカップル』ってところじゃない?」
「ほーん。お熱いねぇ…ウチのバカップルを思い出すわ」
「それってスノウと月影のこと?」
目を細めるはんぺんに、SHAKEはクスクスと笑う。
スノウ、月影とははんぺん達とよく遊ぶプレイヤーで、ゲーム内のみならずリアルでも結ばれた同性カップルのことだ。
2人とも会社員なのでこの時間帯にはなかなか来れないが、INした時には決まってはんぺん達と4人パーティを組んでいる。
「いやぁ、あれをバカップルと言わずに何て呼ぶのさ?…ま、あの二人のお陰で俺らも『結婚バフ』の恩恵に預かってるんだけど」
『結婚バフ』
それはこのゲームのシステムの1つで、パーティ内に結婚したカップルが居るとそれだけでアイテムのドロップ率やクリティカル率が上がるという嬉しい効果だ。
スノウ・月影のカップルとよくパーティを組むはんぺん達もその恩恵を頻繁に受けてきたのだが…
「そういえばその『結婚バフ』が上方修正されるって聞いた?従来の効果+回復効果10%、お金のドロップも5%upするって」
「マ?」
SHAKEの話に、はんぺんは慌ててメニュー画面を開く。
そして閲覧するのは…『運営からのお知らせ』。
「……うっわー!マジじゃん!ただでさえうまうまだったのに更に上がっちゃうかぁ…」
「羨ましいよねぇ。ゲーム内セックス云々はそこまで興味無いけど…バフ目当てに結婚しちゃおうかな」
「結婚…SHAKEも人妻メイガスに……」
「ちょっと。なんかその言い方やらしいからやめてよ」
はんぺんの茶化すような言葉に、SHAKEはジト目で睨みつける。
するとはんぺんは楽しそうにケラケラと笑い、『冗談だって』と手を振った。
「ま、俺もその気持ち分かるけどね。…でもまぁ俺は無理かなぁ。見ての通り、ネタ極振りの名前とアバだし」
その言葉通りはんぺん…正式名『はんぺんカムチャッカファイヤー』のアバターは色黒マッチョのアフロ頭。
いくらゲーム内とはいえ、コレと結婚しようと言う輩は少ないだろう。
「変身薬(アバター変更課金アイテム)は?」
「それも考えたけど、相手もいないのにそこまでするのはなぁって…」
「なるほどね」
納得したように頷いたSHAKE。
特に慰めの言葉などはなく、はんぺんは少しだけ唇を尖らせた。
(せめて『きっといい人見つかるよ』とか言ってくれよ…)
「はんぺん?」
「な、なんでもない。…それより、SHAKEは結婚するならどんな人がいいとかあんの?」
「理想の結婚相手、ってこと?…ふふっ、いいねこういう話。ジョシカイ?みたい」
突然の話題変更にSHAKEはクスクスと笑うが、嫌がる様子はない。
むしろ『友達との他愛ない会話』を楽しんでいる様子だった。
「私は…そうだね…理想のタイプっていうか、今気になってる人だけど…『小動物みたいに可愛い人』かな」
「うわっ、まさかの絶賛片想い中とはw…それにしても、『小動物みたいに可愛い人』って具体的にはどんな感じ?」
「そうだね…1回しか会ってないから詳しいことは分からないけど…華奢な体つきで肌が白くて、あと何だかオドオドしててハムスターみたいだった」
その『気になってる人』を思い出しながら語るSHAKEは何処か優しい顔をしていて、はんぺんはそれが本気の恋なのだと悟った。
(…ふぅん。SHAKEはその小動物系女子?男子?にガチで恋しちゃってるのか…)
スノウは月影とラブラブ。
そしてSHAKEにも『気になってる人』がいるという状況に、はんぺんは何処か疎外感を感じてしまう。
「…まぁ、その人とはまだ1度顔を合わせただけだから…そんな関係になれるかどうか分からないけど…」
「SHAKEなら大丈夫だって!…そうだ。それなら多少強引にでも会う機会を作ってみたらどうだ?」
「会う機会を作る?…まぁ出来なくはないけど…」
自分の恋愛経験がゼロな癖に、はんぺんはSHAKEの為にと無責任なアドバイスを送る。
「会う機会を増やせばそれだけ好感度も上がるはずだし、まずは顔を覚えて貰うつもりでさ」
「……確かに。それも一理あるね」
SHAKEはその無責任アドバイスに何故か納得したようで、顎に手を当てながら小さく頷いた。
「ありがとう、はんぺん。勇気づけられたよ」
「いやいや、俺なんかが役に立てて良かったわ。……んじゃ、ぼちぼち狩りを再開しますかね」
そして2人はゆっくりと立ち上がると、再び花畑の中央へと向かっていった。
…………………………
……………………………………
…数時間後。
はんぺんとの狩りを終えたSHAKEはゲーム内の自室でアイテムの整理をしていた。
「……よし。素材もかなり溜まったね」
インベントリを閉じ、ベッドに腰掛けるとそのままログアウト処理を行う。
…意識が途絶して数秒。
再び意識を取り戻すと、そこは現実の世界。
SHAKE…いや、褐色肌の美丈夫『アーデル・イブン・ジャリル』はヘッドギアを外しながら大きく息をついた。
「ふぅ…まさかはんぺんに恋愛相談することになるとは…」
誰にともなく苦笑し、乱れた髪を整えるアーデル。
その脳裏に浮かぶのは例の『気になってる人』の姿。
(まさか、私が一目惚れなんてね……)
線が細く華奢で、肌は色白…そしてオドオドとしたハムスターのような可愛い青年。
その名は、『日達 陽介』。
アーデルの務める会社が共同研究を行っている大学のゼミに所属する1人の大学院生だ。
「……はんぺんのアドバイス通り、まずは多少強引にでも会う機会を作るとしようか」
小さく呟くと、アーデルはテーブルに置いた携帯電話を手に取った。
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