春越えて、君を想えるか ~好きとか恋愛とかよくわからなくてもカラダを重ねた曖昧なボクら~

御子柴 流歌

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4th Act: 学校祭本番と真夏の準備と

4-16: 何事もなくはなかった学校祭2日目

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 学校祭2日目の朝。個人的なイメージを言ってしまえば、今日は中だるみの日という位置付けだった。当然ながら他の生徒の中には俺とは逆で2日目に命を賭けている生徒も居るだろうけど、それは人それぞれの話なので。どうぞご自由に。

 俺がそういう位置付ける理由はシンプル。今日行われる催しであるステージでの出し物発表会に、俺は大した役を宛がってもらっていないからだった。免除されたと言っても良い。

 やるのはステージへ上がるような演者ではなく、ステージ脇にあるブースのようなところで照明機材をちょっとだけ動かす裏方だ。日頃から(内緒にはしているが)バイトをしていて大部分の作業時間に不在だったことと、終盤で参加した作業も行燈に関するモノだったので許されたという感じだ。

 欠伸あくびをかみ殺しながら靴を履き替える。だいたいいつも通りの時間だが、登校済みの生徒は多い。確実に、今日に命を賭けている生徒たちだろう。陰ながら支えたい。

 そんなことを思いながら教室に入ったところで早速任務が回ってきた。発表時に使う装置とか装飾とかを事前搬入するということらしい。ある程度人数が集まったら始めようという算段だったようで、運が良いのか悪いのか。――何もやらないでいるのも寝覚めが悪いので、『運が良かった』と思っておくことにする。

 登校済みだったしょうりょうへいも手伝うらしいが、女子の集まりもいい。大工仕事メインの行燈作業に男子が流れやすい反面、こっちは女子人口が高いというのも理由だろう。大道具もそこそこあってその運搬は男子組の仕事らしいが、小物は女子に預ける。

 移動の最中、つい隣のクラスの様子を覗ってしまう。が、少なくとも稲村咲妃の声はしないので教室には居ないらしい。彼奴の声は大きいしよく通るので解ってしまう。

「なぁ、れん。お前筋肉痛とか来てないの?」

 そう言ってくるのは翔太。コイツはあんどん作業も熟していたはずだが、ステージ発表にもしっかり参加するらしい。元気なことだ。

「あー、足の方は問題無いけど上半身はそこそこかな。とくに肩周りはヤバイかもな」

 下半身は普段のバイトでもそこそこ鍛えられている気はするが、上半身はそうでもない。重労働ではあるが過度に重たいモノなんてしょっちゅう持たない。あの行燈の重さはさすがに堪える。諸々あった帰宅後にストレッチはしたけれど、思ったより効果は薄かったらしい。

「あれ? って帰宅部……だよね?」

「部活入ってるとは聞いた感じしないけど」

 そう訊いてきたのはおかもとれいさかした。昨日の俺をがんばって団扇うちわで扇いでくれたふたり――なのだが、今、もしかしなくても岡本に名前で呼ばれたか?

「ふだんランニングとかしてるの?」

「まぁ、それなりには……」

 しかも矢継ぎ早に何か訊かれる。答えないわけにもいかないので一応答える。

 ランニングと言われれば思うところはある。中学の時とかは体力作りというか、それなりに目的意識を持ってやっていたこともあるが、この街で高校生となり伯父さんのところでバイトを始めてからは余り時間も取れなくなった。

「ってことは、やっぱり」

「部活はやらんと言ってるだろうが」

「ガードかってー」

 いつものように翔太が言ってくるので、いつものようにそれに返す。「えー、それどういうことー?」などと俺についての話で勝手に盛り上がりそうになっているようだが、その辺りは翔太が上手くやるだろう。

 仕方ない。それは仕方の無いことだ。翔太も最初の頃は本気の勧誘をしてくれていたが、あまりにも断り続ける俺に対して良い意味で諦めてくれて、そしてまた別の良い意味で諦めてくれなかった。こうして適当なノリで扱ってくるのが、わりとありがたいのだ。



     ○



 無事に搬入を終えれば、実質的にはもう自由時間。

 もちろん完全に何をしても許されるというわけではない。自分たちのクラスの発表になればステージに上がるか裏方としての仕事をするし、そうでない時間も体育館のどこかしらで他のクラスの出し物を観劇することにはなっている。

 ただ、どういう集まりで座ろうとも問題は無いし、途中で翌日の準備作業の必要が出てきた場合は誰かしらに許可を取れば体育館の外に出ることは可能だった。

 だいたいの時間になったタイミング、全員で体育館へ移動。すでに全体の照明はある程度落とされている。「何かやっぱ暗い体育館ってテンション上がるんだよなー」と亮平が見るからにわくわくした顔で言ったが、――心の中でちょっとだけ同意する。わかる。非日常感ってヤツだ。

 ウチのクラスの順番は全体でも3番目。照明担当ということで大した仕事でもないから特段何も緊張はしないのだが、さすがにステージに上がる連中は緊張した感じがする。『練習は試合のように、試合は練習のようにやるんだぞ』という定番の勇気付けを演者のひとりである翔太にだけ伝えたつもりだったが、その周りのヤツらもわりとしっかり聞いていた。ちょっと恥ずかしい。

 発表に関してはやるべきことをしっかりとやりきっていたと思う。舞台のライトが強すぎて、客席は誰がいるのかも見えない。それでも、視線だけは確かに届いてくる気がした。終わってからの晴れやかな顔は舞台袖からもしっかりと解るほどだった。だからこそちょっとだけ、その当事者ではなかったことを惜しいと思ってしまった。

 俺たちのクラスの次の次、全体では5番目がのクラスの番だ。ぼんやりと眺めるが、話に聞いていたとおり彼女たちも舞台上には立っていない。宣言通り、そういう感じで人前には立たずに済ませたらしい。こういう言い方は良くないかもしれないが、あのふたりを出せなかったのは勿体なかったかもしれない。

 ふたりが表には来なかったもののしっかりと発表は見終わったところでトイレへ立つ。戻ってきたところでまた同じようなところに座るのも少しだけ面倒になり、体育館通用口近くにひとりで腰を下ろすことにした。

 ひとりになりたかったとか、そういうことでもないとは思う。ただそれを強く否定できるだけの材料も持ち合わせていなかった。

 そろそろ2年生の発表になるなあ――とぼんやり思っていたところで、何となく視線を感じた。

 何だろう、誰だろう。

 そう思いながら辺りを見回してみると――視線の正体は咲妃と菜那だった。

 刺さるような視線という言い方があるがそれをまさに体現したらしい。俺がここにひとりで座っていることに気付いた咲妃がずっとこちらを見つめ続けていて、俺がその視線に気付いたところで(あくまでも当社比レベルで)小さく手を振ってアピールを始めたという具合なのだろうか

 その流れ自体はまぁまぁわかる。そして、菜那にもそれを強要するのはとても咲妃らしかった。

 ただ、いつもならば苦笑いか冷めた視線を添えて咲妃の方を見る菜那が、咲妃に言われるがまま俺に対して本当に小さく手を振ってくれたのは予想外だった。

 しかも、いつもよりも感情の動きのようなモノが見えた気すらしたのだ。

 何故かは全く解らない。しかも体育館は暗いのに。

 一応は俺も手を振っておく。咲妃がやたらと嬉しそうな顔をした――その時。

「あ、こんなところに居たのかよ」

「んぁ?」

 肩に手を置かれる。翔太だった。

「……どうした?」

 手を振っていたのはバレていないだろうか。平静を装っておく。

 話を聞くと、明日の教室展示で使うための荷物が届いたということらしい。教室への搬入を手伝ってくれと言うことだったので、後ろ髪は引かれるがここは素直に従っておくことにした。せめて離席する詫びくらいは入れておきたかったのだが。



     ○



 搬入作業後はほぼクラス単位での行動になった。その後も何度か呼び出され作業を手伝っているうちにあっさりと学校祭2日目は終わった。

 ――いや、終わってない。俺たちの学校祭2日目はこれからだ。決して物語の途中で打ち切りになってしまったマンガの差し込み文句なんかではない。マジでこれからが本番だ。

 なにせ明日のための準備、つまりは教室の飾り付けを一気に熟さないといけない部分があるのだから。

 搬入し終わった部材を組み上げたりする部分はだいたい行燈制作と似た様なものだ。陣頭指揮こそ模擬店担当である学級委員長に一任はするけれど、細かい部分の判断はある程度こっちに丸投げされている。だったらそこそこ勝手にさせてもらうことにした。

「さすがぁ」「頼りになるー」

 そんなことを言われてちょっとだけ良い気分になりながら作業を進めていく。もしかしたら『豚もおだてりゃ木に登る作戦』みたいなモノなのかもしれないが、それで作業効率が上がるのなら構わなかった。

 最後の荷物を受け取った帰り道の廊下で、菜那と咲妃とすれ違う。向こうも作業中で他の女子といっしょにいたので、声はえげつないほどかけづらかった。というか、かけられなかった。立場の差――とかいう言葉が脳裏を過る。なのに心臓は立場を弁えてくれない。

 ただ、そのままにしておくことは出来なかった。

 ――『無視したわけじゃなくて』『でもごめん』

 そんな短いメッセージを連打しておく。直ぐさま作業に戻らないといけなかったし、この作業も結局それなりの時間がかかった。帰路に就いたのは午後9時を超えたくらい。

 諸々を終えてベッドに入る。スマホを充電機へセットすることだけは忘れない。既読のマークがついたかどうかの確認をする気も眠気のせいでどこかへ飛んで行った。



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