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4th Act: 学校祭本番と真夏の準備と
4-17: 学祭カフェ開店直前
しおりを挟む日曜日の目覚めは良い。
自分が思っていたよりも身体は疲れていたらしく、昨日の22時を回ってからの記憶が無いままに朝を迎えた感はある。もっとも日曜日は伯父さんのところでバイトをしているため普段からこの時間には起きているので、いつも通りと言えばいつも通りの朝でもあった。
充電機に繋がれたスマホには通知がそれなりに溜まっている。概ねはウチのクラスの連中からだ。とくに今日のメイン担当者からは『衣装を忘れるな』の念押しが3回ほど。わかってるわかってる――と頭では理解しているつもりでも、学校祭3日目ともなれば疲労から集中力は低下している。念押しは大事だ。
「……ん?」
ただ、ひとつだけ、ウチのクラスの連中ではない通知があった。
――『明日もがんばりましょう』
「やっべ……」
そのメッセージの主は二階堂菜那だった。昨日の20時半頃の着信。いくらなんでもこれに気付かなかったのはやらかしだ。俺は伯父さんから借りてあった今日の衣装の準備をしつつも、菜那への返信内容を考えていた。
そして同時に、どうしてこんなにも申し訳なさを感じているのかということについても考えを巡らせることになった。
○
教室に着いたときには、早くも全体の半分くらいは集まっていた。今日が本番という感じのクラスメイトも多い気はする。その理由はシンプルで、一般公開日のこの日に得られる人気投票が学校祭での順位付けに大きな影響を与えるからだった。
「着替えてる時間も勿体ないし、もう来てる人たちはさっさと着替えちゃって!」
確かにその通りだった。反対する理由もとくにないので、それぞれ着替え用に宛がわれている会議室や空き教室に移動したり、品出し用のスペースとして区切られている部分でさっさと済ませたりとそれぞれが着替えを始めることになった。
俺はとりあえず誰とも会わなくて済むようなルートを選びながら1階まで階段を降り、職員玄関近くにある小会議室で着替えることにした。他の場所よりは移動距離が多いので時間はかかるが、その分だけあって本当に誰も居なくて助かる。
ただ、助かったのはここまでなのかもしれない。
「おお~……!」「わぁ!」
「え、なに?」
ついさっき来たらしい連中やら、飲食物の在庫を置いておくために間仕切りされたところなどで着替えを済ませていた連中やらが、戻ってきた俺を見るなり妙な声を上げ始めた。
「解像度高い……」
どういう表現だとは思ったが、言い得て妙とはこのことか。
それは明らかに、その時代をメインで生き抜いた俺の伯父さんのせいだ。
そしてさらに言うならば、俺をいつものように着せ替え人形のようにしてくれた伯母さんのせいだ。
「しかも似合ってるし」
それは、ありがとう。
「なんなんお前」
そっちは知らんわ。言いがかりだ。
「深沢くん、そのエプロンって自前?」
「まぁ、うん」
学級委員長である岩瀬莉々歌に訊かれて一応答える。本当の意味で自前かというとちょっと違うが、俺が借りてきた物だから今日のこの場合ならば自前と言ってしまっても間違っていないかもしれない。
店番を担当するときには最低限あった方が良いということではあったが、さすがに家庭科の授業とかで使うモノだと浮いてしまうだろう――ということでその辺りのコーディネートは伯父さんと伯母さんに任せたところはある。
結果として全体的にはブラウン基調。パンツはダークカラー、ショコラカラーの襟付きシャツに赤いタータンチェックのベストを合わせた。サロンエプロンは黒の無地ということで無難にはしているが、ウェイター業務の時は外しても良いよというお達し付きだった。
「……むむむ」
「お、喫茶店オーナーが悩んで居られるぞ」
翔太の謎ツッコミを他所に岩瀬は悩んでいる。
肩書きを正確に言えば模擬店担当のトップ兼学級委員長であるのだが、途中から徐々に我を出していった結果――もとい、意見を出していった結果そう呼ばれることになったらしい。ちなみにだが、良い意味でいわゆるステレオタイプな学級委員長っぽさの無いタイプだ。
「深沢くんってシフトいつだっけ?」
「お昼前の方だけど……」
「ってことはそれまだ脱がないよね?」
「え? ……まぁ、いちいち脱ぎ着するのも面倒だし、そのままかな」
「だったらお願いがあるんだけど」
うわ。
何か猛烈に嫌な予感がする。しかもほぼ回避不可能な案件な気がする。
もはやそうとしか思えない。
「それ着たままでちょっと宣伝しながら外歩いてて。でも時間になるまでは自由」
「ん?」
自由時間ではあるけれど宣伝活動はしろ、と? どうやって両立させれば良いんだ?
「……ちょっと待ってね」
言いながら岩瀬は何かを手短なところにあったスケッチブックに書いていく。下書きも何もしていないのにやたら上手いし、文字には軽くレタリングみたいなこともしている。明らかに手練れだ、熟練者だ。
「コレをぶら下げてもらうけど、他の展示とかは全然見に行ってイイよってこと」
どうやら動く広告塔のように、即席で作った学年・クラスに模擬店の内容を書いた広告を持って歩けということらしい。
その即席看板はスッと後ろで渡された女子たちに盛大にイラストやマステで飾り付けをされている。黒板のところに貼られている装飾イラストを担当してくれた子たちだ。仕事が早い。
そうして出来上がった広告は、裏板よろしく段ボールを2層ほど重ねたモノに貼り付けられて、もはや立派な看板になっていた。
さすがに仕事が早すぎる。早すぎてもはや逃げられる気がしない。
「ちょっと待って。コレ、俺だけで?」
だからこそせめてそちらにも譲歩してほしいポイントは訴えておくことにする。
いくら学校祭ムードであふれかえっている白陽潮陵高校の日曜日と言えども、明らかに異質な恰好で小一時間ほど衆目に曝されろというのはキツい。たしかに、学校が終わった後とか週末、さらには祝祭日には、カフェ制服に身を包んでそれなりに人前には立っているとは言えども。それとこれは違うという話ではある。
「うーん……」
一応岩瀬も悩んでくれた。しかし何か妥協案でも考えてくれるのか、それとも俺を完全に諦めさせるような手段に打って出るのか。鬼が出るか蛇が出るかという印象は拭えない。
何となく長引きそうで尾を引きそうな沈黙。
あー、やだよ。帰りてえよ。
静かな時間は基本的に好きだけど、こういう居心地の悪い静寂は苦手だ。得意なヤツなんて居ないと思うけれど、こういうのは本当に――。
「……だったら私らと行けば良いんじゃない?」
「ああ」「へ?」「あ」
ひとつの提案が飛び出して、さらに複数のリアクションが同時に湧く。
具体的に何が起きたのかと言えば、沈黙を破ったのが岡本美玲で、納得したような声を出したのが坂下夏菜海で、マヌケな声を出したのが俺で、気付きを得たのが岩瀬莉々歌だった。
「蓮くんのシフトって私たちと一緒だし。それまではいろいろ見て歩こうっては思ってたから」
「たしかに。それで宣伝的に貢献できるんだったら一石二鳥ってヤツ!」
「それ良いアイディアかも。深沢くんもひとりでは無くなるわけだし」
一瞬で外堀が埋められていく感触。もはや内堀もまとめて埋められた感じもある。
妥協案としては何も問題は無いと思う――岩瀬的には。
「……ひとりよりは絶対そっちの方がありがたいかな」
つまり、断る理由を完全に消されてしまった俺は、首を縦に振るしか無くなった。『だったらそれでいいよ』と言いたくはなったが、こんなトゲのある言い方を朝からする度胸はないし、そもそも岡本と坂下にも失礼な気がした。
「ありがとう! ほんとありがとう! マジで助かるっ!」
「いや、力になれるんだったら良いけど……」
圧しが強い。岩瀬は一気に距離を詰めて俺の両手を握り込んでぶんぶんと振りまくる。そこまで喜んでくれるのなら嬉しいが、さすがに熱量がヤバすぎて今の俺にはちょっとついていけなかった。
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