春越えて、君を想えるか ~好きとか恋愛とかよくわからなくてもカラダを重ねた曖昧なボクら~

御子柴 流歌

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4th Act: 学校祭本番と真夏の準備と

IV-D: 衆目の中での邂逅

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「楽しみだねえ」

 昨日とはうってかわってしっかりと起きてきていたはやたらと元気だった。……元気だったというべきなのかもしれない。

「何が」

「模擬店でしょう、そりゃあ」

「……まぁ、今日はそれしかないわね」

 それ以上でもそれ以下でもない。何なら午後からの店番として教室内に居なければいけないということを考えると気が重くなる。少なくとも元気になることはない。

「咲妃、そんなに占いやる気あった?」

「え?」

「え?」

 なぜそこで疑問符だけを返されるか解らなかったので、そのまま私も疑問符を送り返すことにした。

 当たり前のことを訊いたと思っていたのだけれど、咲妃にとっては違ったらしい。

「いや、ふつーに他のクラスのを見て回るのが楽しみってことだけど」

「あ、そう」

 シンプルに客としての時間を満喫する宣言だったらしい。それなら納得だった。

「もちろん隣の……ねえ?」

「知らないわよ」

 何を言わせたいのやら。



     ○



 早速自由時間がやってきた。午後からはクラスでの役割があるので、あまり自由という感覚はない。薄いと言うよりは無いと言ってしまった方が私の感情には合っていると思う。

 ――となりの子は、そんなことも思っていないようだけれど。

「ほら、菜那。行くよー」

「ん」

「元気ないねえ」

「咲妃が元気過ぎるだけでしょう」

 いつでも元気な咲妃ではあるけれど、学校祭らしい空気に中てられているのか、明らかにいつも以上に元気な気がする。もしかすると逆に、咲妃が振りまいている空気に学校側が中てられているのかもしれない。そんな見方もできる気させしてきてしまう。

「行くよって言っても、どこに?」

「何かテキトーに」

「あ、珍しい。ノープランってことも無さそうだけど」

 ふたりで遊ぶとき、基本的には咲妃に任せてしまっている。私自身彼女の決めたことを――……まぁ多少はふざけ気味に文句を言うことはあるけれど――拒否することはない。決定権を咲妃に丸投げしておいて不平不満を言うのは違うだろうと思っているし、そもそも咲妃が立ててくれる予定は私のことをしっかりと考えてくれているのがよくわかる。文句なんて言わせないわよ、という咲妃の意地みたいなものを感じてないわけでもない。

「予定はあるけれど、それはさ」

「……ああ」

 咲妃は黒板のある側の壁を見ながら言う。私もその意図を即座に察する。

 隣のクラスの模擬店といえば、がウエイターを務めるという――何だっけ。昭和レトロ喫茶だったっけ。あまり覚えていないけれど、彼が本領を発揮できてしまえるような舞台になっていたはずだ。

 聞いた話によれば、彼がシフトに入るのはお昼前。まだわりと時間はある。そこまでの時間を埋めるためのプランは用意していないということなのだろう。

「ってなわけだから、とりあえず適当に流しつつ空いてそうなところに入れればって感じで良いんじゃね? って思ってるけど」

「任せるわ」

「言うと思ってた。じゃあ行こう」

 手こそ引かないけれど、咲妃の言葉と視線にはそれと同じくらいの引力があると思う。

 何とはなしに廊下へ出て、フラフラと気ままに歩く心地よさ。

 それを感じられるのであれば最高だったのだろうけれど。

「はぁ……」

「コレばかりは菜那が悪いわよね」

「何でよ」

 文句を言われる筋合いも無いのだけれど。

「だって、明らかに視線集めてるの菜那だし」

「そこまでではないでしょ」

「完全否定はしないのね、お嬢様?」

「何よそれ」

 お嬢様然としているつもりも無いし。

「8割くらいは咲妃でしょ」

「いやいやいや、何をおっしゃいますのやら。8割が菜那。残りが私でしょ」

 とにかく、視線と小声が気になってしまう。

 だからこそ咲妃はまだ人混みになっていないところにまで連れ出してくれようとしているのだろうけれど、そこまでの道中には既に相当な数の客が集まっている。もちろんウチの生徒たちが大半なのだが、一般公開日ゆえにそれ以外の人――近隣の学校祭が同日開催ではないところの生徒だったり、中学生やOB・OGを含めた人たちだったりの姿も多い。去年よりも多いのではないかと思ってしまう。

 それらのほとんどが、通りすがりに視線を送ってくる。

 正直、厭になる。

 厭にならない人なんていないと思う。

 名前も素性も知らないし、とくに知りたくもないニンゲンに見られて、気持ち良くなれるニンゲンがいるのなら名乗り出てほしい。

 何となく歩いているような咲妃の後をついて視聴覚室へ入り適当に昨日の出し物の映像を見たり、文化系部活動の活動内容展示を眺めたり。そんなことをしながら正面玄関の展示を見に行きつつ、出店のドリンクで喉を潤したり。それなりには学校祭ムードに浸ったところで一旦校内に戻ることにした。

 ――あ。

「あ、レンレン……何か侍らせてる?」

「言い方」

 私が気付くのとほぼ同時――いや、やや遅かっただろうか。

 咲妃と私の視線の先に居たのは彼と、彼のクラスメイトの女子ふたり。あの時は周りが薄暗かったのもあり記憶は定かではないが、恐らくは行燈行列の前に彼とやたら親しげに話していたふたりだろう。名前は知らない。

 そんなふたりに両サイドをガッチリと固められて歩く彼は、紛れもなく昭和風カフェのウエイタースタイル。日頃彼の伯父さまのカフェバーでの姿とはまた違うスタイルなのだが、それでもこれが彼の制服だと言われてしまえば誰しもが納得する仕立てになっていると思う。

 全体的にはブラウンが基調になっていて、とても落ち着いた印象。パンツはダークカラー、ショコラカラーの襟付きシャツに赤いタータンチェックのベストを合わせて、さらには黒無地のサロンエプロン。

 隣を占める彼女たちもまたよく似合っている。正直、完成度は高い。

 人気店舗になりそうな予感しかしない。

「攻撃力も防御力も高そうなのがまた……最アンド高」

 咲妃がまたどこかへトリップしかけている感じはするが、今だけはそれを放っておこうと思う。

「学校の制服止めて、アレで通学すれば良いのに」

「咲妃は学校を何だと思ってるの」

 ランチタイムに給仕でもさせようとしているのだろうか。

「似合ってるからねえ」

「それは、まぁ……」

「お。菜那がデレた」

「そういうことじゃないから」

 ただ、今だけは彼らに少しだけの同情と感謝の念を抱く。

 何せ今は彼らにかなりの数の視線が向けられているのが良く解る。咲妃がいつもすぐ近くで彼のウエイター姿にでれでれしているから麻痺してしまいがちだが、どうやら同じような感性を持っている女子がこの界隈には多いらしい。

「これは、みんなが気付いちゃいそうだわねえ……。ね、菜那?」

「……知らない」

 少なくとも、私の物ではないわけだし。

 親しくしてもらっているという自覚がないわけではないけれど、そういう物言いができる立場でもないと解っているつもりだ。

 そうこうしている間に彼らはこちらにやってくる。この方向だと恐らくそろそろ自分の教室に戻ろうとしているのだろうか。よく見れば宣伝用のプラカードのようなモノを抱えている。なるほど、宣伝活動の一環だったらしい。午前中の店番担当ならば早い時間に着替えを終えている可能性が高く、せっかく着替えたのだからひとっ走り宣伝をしてきてくれとでも言われたのだろう。少し気怠そうな歩調がまさにそれっぽさを漂わせている。彼のクラスの模擬店担当者も、なかなか上手いことをやる。

 ぼんやりとそんなことを考えている内に、交錯。

 視線が、合った。

 彼とも、その両隣の彼女たちとも。

 じっくりとではないが、しっかりと視線が交錯したのを感じた。

 何故だか、どっと疲れが押し寄せてきたような感覚があった。

「んー、何かバトルって感じだったわね」

「何がよ。どこがよ」

 咲妃の言わんとしていることが全く解らなかった。

「まぁ、もう少しぶらついたら、レンレンのところに行こっか」

「…………そうね」

 そう答える口も、やや重く感じた。
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