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第1章: 恋することのプロローグ
1-4. 様子がちょっと違う?
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「ナミー!」
「え?」
部活終わりの生徒玄関前によく知った人影――と思われるモノを見つけたので、軽くダッシュで接近しながら声をかけてみた。その人影に近付けば近付くほど、自分の勘と視力に間違いが無いことがわかる。
「あ、セナだー。部活おつかれさま」
「ナミもおつかれさま」
ほんのりと墨の匂いがするような、穏やかな笑みで迎えてくれる。ナミの癒やし効果の強さは時々だけど、それでもものすごく羨ましく思えてしまう。
「……運動した後でよく走れるね」
「慣れてますしぃ」
「私には無理だなー」
「それを言ったら、アタシはずっと半紙に向かい続けられる集中力が無いなー」
「そう? テニスだって集中力大事じゃない?」
根っからの文化系なナミと、根っからの体育会系なアタシ。その点で言えばかなり対極な関係かもしれないけれど、だからこそ波長が合うのかもしれない。
「それにしても、よくその距離でわかるよねー」
「そりゃあもう、アタシとナミの仲ですから」
「ありがとっ」
ぎゅっと抱きつかれる。――悪い気はしない、これっぽっちも。
「んじゃー、いっしょに帰りますか」
「だね。何か、二人きりって久々かも?」
「たしかに。っていうか、もしかしたら、高校入ってから初めてくらいかもね」
――久方市。これがアタシたちが住む街。周辺の街よりも少しだけ小高い丘の上のような場所にある、アタシたちが生まれてからずっと住んでいる街。
その久方市でもさらに見晴らしの良い場所に、アタシたちが通う久方煌星高校がある。市内にいくつかある私立高校のうちのひとつで、この界隈でもかなりの規模を誇っている。
体育会系の部活動も文化系の部活動も優秀な成績を修めているところが多く、日頃の練習もかなりのハードさだ。中学校の頃から所属している部活動はアタシもナミもいっしょだけれど、学校が変わればやはり活動方針というか、方向性のようなものも変わってくるらしい。
――さすがに、中学校とこの学校とを比べるのは間違っているのかもしれないけれど。
「そっちの部活ってどんな感じ? やっぱり大変?」
「んー……。まぁ、大変っちゃ大変だけど、そんなもんだよねー、って感じかな。一応部活見学と体験入部は入学前に済ませてあったしね」
「あー……、そっか。フウマくんと行った、って言ってたもんね」
アタシとフウマは春休みの間にそれぞれが入る部活動へ体験入部をさせてもらっていたので、ある程度その雰囲気を知っていた。事前知識があるのと無いのとでは、この辺りで全然違ってくるはずだ。
「そっちは? 先輩優しい?」
「うん、みんな優しいよ」
「それはなによりでございます。……アレだよね、学祭のときにすっごいパフォーマンスするんだよね、たしか」
「……ん? うん、そうそう」
ただ何となく、ナミに対して違和感を覚えた。
どことなくよそよそしいというか、何か違うことを頭の中でぐるぐる巡らせているような。雰囲気的にはおっとりとしている方だけれどしっかりもしている彼女にしては、妙に話に対する反応が鈍い気もする。心ここにあらずとまでは言わないけれど、どこか落ち着きが無いような気がしてしまった。これはきっと日頃から落ち着いた雰囲気のあるナミだから、違和感として表面に出てきてくれたような気もしていた。
「ね。ナミ?」
「うん?」
昔からのクセだ。良いクセなのか悪いクセなのかは、よくわからない。余計なお世話かもしれないけれど、やっぱり親友のことだから。気になってしまったらもうダメだった。
「何かあった?」
「……え?」
「何となくだけどね。何か、言いづらいことでもあるのかなー、悩んでることっていうか考えてることがあるのかなー……って思って」
はっきりとした自信はない。本当に何となく感じたから、口にしてみただけだった。
ナミは目をまん丸にして、だけどそれも一瞬で苦笑い気味な微笑みを向けてくれた。気分を害してしまったわけでは無さそうなので、アタシも少しだけ安心する。
「……やっぱり、セナはセナなんだよね」
「え、何よそれー。どゆこと? 褒めてる?」
「うん、褒めてる。すっごい褒めてる」
「そう? じゃあ素直に受け取っておくね、ナミの言うことだし」
真っ直ぐに受け取るに限る。そうに決まっている。ナミがアタシに対して、冗談を言うことはあっても、ウソを言うことはない。――とくに、悪い冗談なんて、言うことは無い。
「もし相談事なら言ってもらえたら嬉しいな」
「……うん、わかった。心の準備ができたら言うね」
アタシから視線を外して、前を向きながら彼女は言う。
そこまで気を張らないと言えないようなことなのか――。
質問を重ねたくなってしまってナミの顔を見るが、その瞬間に質問はおなかの中に引っ込んでいった。もう一度こちらを向いて微笑んだナミの瞳は、さっきとは比べものにならないくらいに力が入っているように見えた。
「……ナミ」
少しばかりの不安を覚える。けれど、これが何に対しての不安なのか、アタシにはよくわからなかった。
「行こ」
「うん」
だけどきっと、焦る必要は無い。
「え?」
部活終わりの生徒玄関前によく知った人影――と思われるモノを見つけたので、軽くダッシュで接近しながら声をかけてみた。その人影に近付けば近付くほど、自分の勘と視力に間違いが無いことがわかる。
「あ、セナだー。部活おつかれさま」
「ナミもおつかれさま」
ほんのりと墨の匂いがするような、穏やかな笑みで迎えてくれる。ナミの癒やし効果の強さは時々だけど、それでもものすごく羨ましく思えてしまう。
「……運動した後でよく走れるね」
「慣れてますしぃ」
「私には無理だなー」
「それを言ったら、アタシはずっと半紙に向かい続けられる集中力が無いなー」
「そう? テニスだって集中力大事じゃない?」
根っからの文化系なナミと、根っからの体育会系なアタシ。その点で言えばかなり対極な関係かもしれないけれど、だからこそ波長が合うのかもしれない。
「それにしても、よくその距離でわかるよねー」
「そりゃあもう、アタシとナミの仲ですから」
「ありがとっ」
ぎゅっと抱きつかれる。――悪い気はしない、これっぽっちも。
「んじゃー、いっしょに帰りますか」
「だね。何か、二人きりって久々かも?」
「たしかに。っていうか、もしかしたら、高校入ってから初めてくらいかもね」
――久方市。これがアタシたちが住む街。周辺の街よりも少しだけ小高い丘の上のような場所にある、アタシたちが生まれてからずっと住んでいる街。
その久方市でもさらに見晴らしの良い場所に、アタシたちが通う久方煌星高校がある。市内にいくつかある私立高校のうちのひとつで、この界隈でもかなりの規模を誇っている。
体育会系の部活動も文化系の部活動も優秀な成績を修めているところが多く、日頃の練習もかなりのハードさだ。中学校の頃から所属している部活動はアタシもナミもいっしょだけれど、学校が変わればやはり活動方針というか、方向性のようなものも変わってくるらしい。
――さすがに、中学校とこの学校とを比べるのは間違っているのかもしれないけれど。
「そっちの部活ってどんな感じ? やっぱり大変?」
「んー……。まぁ、大変っちゃ大変だけど、そんなもんだよねー、って感じかな。一応部活見学と体験入部は入学前に済ませてあったしね」
「あー……、そっか。フウマくんと行った、って言ってたもんね」
アタシとフウマは春休みの間にそれぞれが入る部活動へ体験入部をさせてもらっていたので、ある程度その雰囲気を知っていた。事前知識があるのと無いのとでは、この辺りで全然違ってくるはずだ。
「そっちは? 先輩優しい?」
「うん、みんな優しいよ」
「それはなによりでございます。……アレだよね、学祭のときにすっごいパフォーマンスするんだよね、たしか」
「……ん? うん、そうそう」
ただ何となく、ナミに対して違和感を覚えた。
どことなくよそよそしいというか、何か違うことを頭の中でぐるぐる巡らせているような。雰囲気的にはおっとりとしている方だけれどしっかりもしている彼女にしては、妙に話に対する反応が鈍い気もする。心ここにあらずとまでは言わないけれど、どこか落ち着きが無いような気がしてしまった。これはきっと日頃から落ち着いた雰囲気のあるナミだから、違和感として表面に出てきてくれたような気もしていた。
「ね。ナミ?」
「うん?」
昔からのクセだ。良いクセなのか悪いクセなのかは、よくわからない。余計なお世話かもしれないけれど、やっぱり親友のことだから。気になってしまったらもうダメだった。
「何かあった?」
「……え?」
「何となくだけどね。何か、言いづらいことでもあるのかなー、悩んでることっていうか考えてることがあるのかなー……って思って」
はっきりとした自信はない。本当に何となく感じたから、口にしてみただけだった。
ナミは目をまん丸にして、だけどそれも一瞬で苦笑い気味な微笑みを向けてくれた。気分を害してしまったわけでは無さそうなので、アタシも少しだけ安心する。
「……やっぱり、セナはセナなんだよね」
「え、何よそれー。どゆこと? 褒めてる?」
「うん、褒めてる。すっごい褒めてる」
「そう? じゃあ素直に受け取っておくね、ナミの言うことだし」
真っ直ぐに受け取るに限る。そうに決まっている。ナミがアタシに対して、冗談を言うことはあっても、ウソを言うことはない。――とくに、悪い冗談なんて、言うことは無い。
「もし相談事なら言ってもらえたら嬉しいな」
「……うん、わかった。心の準備ができたら言うね」
アタシから視線を外して、前を向きながら彼女は言う。
そこまで気を張らないと言えないようなことなのか――。
質問を重ねたくなってしまってナミの顔を見るが、その瞬間に質問はおなかの中に引っ込んでいった。もう一度こちらを向いて微笑んだナミの瞳は、さっきとは比べものにならないくらいに力が入っているように見えた。
「……ナミ」
少しばかりの不安を覚える。けれど、これが何に対しての不安なのか、アタシにはよくわからなかった。
「行こ」
「うん」
だけどきっと、焦る必要は無い。
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