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第1章: 恋することのプロローグ
1-5. 親友の『告白』
しおりを挟む結局その日はナミが『悩み』について口を開くことは無かった。学校でもさすがに他の子がいるところで話を振るわけにも行かず、かと言ってそういう機会も訪れないままに翌週になってしまった。
部活を終えて生徒玄関に向かったところでアタシが見たのは、まるで先週のような光景だった。少し違ったのは、ナミがアタシに声をかけてきたことくらいだった。一緒に帰ろうと言えば、ナミも首を縦に振ってくれた。他に見知った顔はないのは都合が良かった。
学校の敷地を出ると、しばらく続くゆるやかな下り坂。この街でもかなり眺めの良い、市の中心部からは少し外れた場所に位置するこの高校は、自転車や徒歩での登校となるとかなりツラい。そのため、朝夕の登下校時刻にしっかりと最寄り駅までスクールバスを出している。並んでいる生徒の数は、普段よりは少ないくらいだろうか。これはわりとラッキーだった。
やってきたバスの前側の席にふたり並んで座る。何となく選んだ場所だったけれど、他の生徒たちはみんな後ろ側に集まりがちで、アタシたちのそばにはほとんど誰も来なかった。それこそ、バスのエンジン音で、他の人たちにはアタシたちの会話なんて聞こえないだろう。
でも、やっぱり。
この状況でナミの心境に足を踏み入れるのは、ちょっとためらう。ナミには悪けれど、ここはナミの意思が固まってくれるのを待つべきだと思った。
そのままバスは無事に学校最寄り駅に着き、その後は電車に乗り換えて三駅、アタシたちの自宅最寄り駅兼街の中心部にある久方駅だ。ここからは互いに徒歩。駅から北へ歩き、目抜き通りを少し越えたところでお別れになる。
バスを降りてからも、ナミから声をかけてくることは無かった。ここまで来るとアタシから声をかけていた方が良かったのかもしれない、なんて思ってしまう。ナミの表情は依然として何かをぐるぐると考えているようで、それはきっと自分の中に言い出すための勇気が湧いてくるのを待っている状態なのだろう。
「それじゃあ、ナミ。気を付けてね」
「……うん」
とうとうお別れの交差点に来てしまった。さすがにバイバイの挨拶くらいはしておかないといけない。そう思って口を開いたとき――。
「ナミ?」
「……わたしね」
「……うん」
突然、ナミの声のトーンが変わったような気がして、思わずナミの方に視線を向けた。少し下を見て俯きがちだったナミが顔を上げ、くりっとした目をこちらに向けてくる。声で何となくは察したけれど、彼女の顔つきはまさにその答え合わせのようだった。
「ごめんね、足止めさせちゃって」
「全然。気にしないで。いつまでも聞くから」
「ありがとね。……わたしね。セナには言っておかなくちゃいけないかな、って思って」
アタシには言っておくべきこと、って。一体何だろう。他の誰でもなくアタシも指名してくれたのはやっぱり嬉しいけれど、それだけにその中身が気になった。
眼差しがキツくならないように気を付けながら、ナミを見つめる。ナミは少し浅くなっていた呼吸を気にして、一度深呼吸をする。ふんわりと彼女の胸が上がって、下がる。そして、何かを決めたようにアタシを見つめ――――。
「……わたしね、フウマくんのことが好きなの」
――――ハッキリと、そう言い切った。
「……え」
本当は、すぐさま何かしらの反応をしてあげるべきだった。
そのはずだったけれど、アタシの口からは乾いた空気が押し出されてくるだけだった。
「あ……、え? そうなの?」
辛うじて出てきた言葉は、こんなにも中身の無い物だらけで。
「……うん」
アタシは、勇気を振り絞って言ってくれたナミの顔を、すぐには見ることが出来なかった。
「……マジかぁ」
どことなく空虚な言い方になった理由はわからない。だけど一瞬だけ、何となくどこかにチクリとした感触を覚えたような気がする。
いずれにしても、思ってもみなかった告白だった。
「……そっかぁ、知らなかったなー。え、いつから? 昔から? それとも最近だったりする?」
「最近、って言って良いのかはよくわかんないけど、自覚したのは最近かも」
「そうなんだ」
「ほら。この前、梅津さんがウチのクラスに来たときあったでしょ?」
「……ああ」
言われて思い出す。なるほど、あの時か。ユミが『どの組み合わせで付き合ってるの?』とかいう、非常に自分勝手な質問をぶつけていったあの時か。あの子もまた、とんでもない爆弾を投げ捨てていったものだ。
「あの時にね。一瞬、フウマくんと目があったときに、すっごいどきどきしたの」
「ははぁ……、なるほど」
――と、口では言ってみる。
「それで、ね。そう考えると、昔から何となく想っていたのに、答えが出たような気がして」
「イイじゃんイイじゃん。がんばりなよ」
ナミがそう言うんだから、きっとそれが答えなんだろう。それに、勇気を出して私に言ってくれたのに、それをわざわざ否定なんかする必要も理由も無い。
そのはずだ。それが正解なんだ。
「イイの? ホントに?」
「何でそんなことアタシに訊くのよー。全然、イイに決まってるでしょ」
なぜだかナミは、アタシに申し訳なさそうな顔をした。
「でもまー、アイツを操縦するの、結構大変だと思うけどねー。……まぁ、ナミの言うことなら案外聞くかもだし? アタシとしちゃあ、アイツが少しでもナミのパワーで丸くなってくれれば言うことなしだわ」
苦笑い半分で言ってしまったところで気付く。またアタシは余計なことを言ってしまったのではないだろうか――?
「……そっか。うん、わかった」
「うん」
たしかに、余計だった。ただの余計なお世話だった。何かに納得したように、ナミは目を細めて笑う。柔らかな笑顔は妙にアタシを包んでくれるように感じた。
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