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第5章: アストライアの動揺
5-4. 突然の遭遇と突然の離別
しおりを挟む「ホントにわがままだったり自分勝手だったら、自分の気持ち押し殺したりして苦しそうな顔なんてしないでしょ」
「ぅ……」
力技みたいな言葉を打ち込まれて、そのままエースになってしまったようだ。連休のときの地下街でのことや、その後の昼休みのことなどを指して言っているのはすぐにわかった。そこまで自分を抑え付けていたとは思っていなかったけれど、アストにはそういう風に見えていたのだろう。やっぱりアタシは表情で隠すとかいうことはできない性質らしかった。
「うん、いや、その……ごめんね。こういうこと言ってセナを困らせたかったわけじゃないんだけど」
「だいじょぶ、困ってはいないから」
困ってはいない。ちょっと戸惑っているだけ。何となく今までのアストとは、雰囲気が違っている気がすることに不穏なモノを感じて戸惑っているだけ。
「……ね、アスト」
「ん?」
「今日、この後すぐ帰るでしょ?」
「んー……、うん、まぁ、大丈夫」
どうして、そんなにぼやかすような言い方なの。時々見せる、引っ張ってくれるような様子はどこへ行ったの――。
そんな疑問が湧いてきてしまって、抑えが効かない。
「残るんだったらアタシも」
「ぃよっす!」
「ぅえっ」
いきなりパシンっと衝撃を加えられたアストが変な声を出す。何だろうと思ったら、そこにいたのはフウマだった。後ろから急に近付いてきたフウマが、そのままの勢いでアストの背中を張り抜いたらしい。
「ふたりともおつかれさん」
「フウマかぁ、びっくりした。おつかれさま」
「ハハ、悪い悪い。お前らの姿見えたからさ」
アストがびっくりしたのは、ただ単純に背後から軽く叩かれただけじゃない。この時間、この場所に、フウマがいたことにもびっくりしたはずだ。だって、アタシもびっくりしているから。煌星祭の準備が始まってからも、もちろん普段からも放課後の校舎の中でフウマと会わなければ、そりゃあ驚くよねという話だ。
「それで? セナ、お前今から帰るとこ?」
「え? うん、そうだけど」
「ん。じゃあ、ちょっと一緒に帰ろうぜ」
「……は?」
何を、突然。
「そんな、『お前何言ってんの?』みたいな顔すること無くね?」
「いや、だって……」
そこまで顔に出ていただろうか。実際、何言ってるんだろう、とは思ったけれど。
――いや、そこまで落ち着いていられない。
今朝思っていたことにもつながるようなことをフウマに訊くしかないと思った。
「ナミは? ……いっしょじゃないの?」
「アイツは今日ちょっと遅くなるとか言ってた」
ずいぶんなことを思っているのは解っているつもりだ。だけれど、本当なのだろうか、と疑ってしまう自分がいるのも事実だった。こんなに余裕を持った時間帯に帰れるフウマを見たことなんて、ここ数ヶ月では無かった。たしかに煌星祭の準備はあるかもしれないけれど、こんなタイミングを逃すのはちょっと信じられなかった。
「アスト、お前は?」
アタシが何て言おうか迷っている間に、フウマはさっさとアストに話を向けた。フウマが来る前はアタシが帰ろうと誘っていたけれど、その返事は少し微妙なモノだったけれど――。
「ボクは、ちょっとまだ残ってから帰るから」
「えっ?」
どういうことなの、と言いそうになる。だけど、声になってその言葉がアタシの口からは出てこなかった。さっきは何となくアタシといっしょに来てくれるような雰囲気はあったはずなのに、どうして今になってそんな言い方をするの。どうしてフウマ経由で断るの?
「ふーん、なら丁度いいや」
アタシが混乱に混乱を重ねている間にも男子ふたりの会話は無事に終わってしまったらしい。いくつもの疑問を頭の中をぐるぐると回している隙に、いつの間にかフウマはアタシのすぐ横に立っていた。
「ちょっとコイツに用事があるから」
がしっと横から肩を掴まれる。その瞬間、妙な感じで肩が跳ねた。
「え? ちょ、ちょっと待ってよ。用事って?」
「あれ? お前メッセージ見てねえの?」
「メッセージ……」
思い当たるのは、たしかにひとつだけある。教室を出て間もなく震えたスマホだ。慌ててアプリを開けば、そこにはしっかりとフウマからのメッセージが受信されていた。紛れもなくフウマのアカウントからの、『悪いけど、今日一緒に帰ってくれ』というシンプルな内容だった。
「あ……」
「ってなわけだから、悪いな」
「ちょっ。フウマ、ちょっと待って」
相変わらず強引に話を進め、しかもさらには終わらせようとするフウマ。そのまま流されてしまってはいけないような焦燥感にかられて、思わずフウマに掴まれそうになった腕を自分の身体に引き寄せる。
「アタシは……っ!」
「ん? なに、今日もアストと帰るんだったの?」
やたらと、『今日も』の部分を強調されたような気がしたけれど、今はそんなことに構っている暇は無かった。
「……約束してたじゃん」
「でもコイツ、さっきは『残って帰る』って言ったぞ?」
「ねえ、アストっ」
フウマには訊いてない。今はアストに訊いている。フウマよりも背の高い彼を見上げて訊き直してみる。すがりつくように、自分の聞きたい答えを返してくれるのを期待して訊いてみる。
「それはいつだって大丈夫だから」
願いは届かなかった。目の奥の方がじわりと熱を持ち始める。差し出した手を払いのけられたようだった。
「じゃあ、そういうことならボクはそろそろ行くから」
「おう、またな」
「……」
もうきっと今日の内にもう一度会話を交わすことはないのだろう。それくらい、アタシでもわかる。そういう流れなんだろうなと思ったら最後、アタシが言うべき言葉は無い。
いつもの笑顔を貼り付けて、アストはアタシたちに背を向けようとして――。
「……良かったじゃない、セナ」
ぽつりと言い残したその言葉に、アタシは駆け出した。
「なんでっ。なんでそういう言い方……!」
「今日は」
一気に追いついてそのまま追い越してアストの前に立ち塞がる。そのままの勢いでつい大きな声を出そうとしたところで、アストはアタシの口を人差し指で押しとどめる。思ったよりも顔が近くなって、自然とアタシは黙った。
「今日はフウマの話を聞いてあげて。さっきも言ったけど、ボクはいつだって大丈夫だからさ」
ね? と押し切られてしまって、アタシの足も口ももう動かない。アタシの手は払いのけられたまま、どこに伸ばし直したいいのかもわからないままに空中を彷徨っているようだった。
――『ボクがいるじゃん』って言ったじゃん!
その一言をアストにぶつけることが出来ないまま、彼は音楽室がある方面の階段へと向かっていった。
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